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海外ゲーム四天王 / 第52回:「Moonbase Alpha」


NASA(アメリカ航空宇宙局)が制作した完全無料のゲーム,「Moonbase Alpha」。月面に設営された基地に隕石が落ち,重要な機械が壊れた! 仲間と協力して修理し,大惨事を防げ! というミッションに挑む本作。ゲームっぽさのあまりないシリアスゲームだが,現実に即していそうな展開が面白い。Valveのデジタル配信システム「Steam」から無料でダウンロードできるこのNASA製タイトルを,アポロ11号の月面着陸をリアルタイムで見たという,編集部のアストロノーツ松本が紹介する。

2020年,人類は再び月に降り立った。アポロ計画のように,米ソ宇宙競争の一部として,ただ単に人間を月に送り込むことを目的とするのではなく,このたびは「植民地化」という野心的な計画に基づくものだ。2025年,NASA(アメリカ航空宇宙局)は,月の南極近傍にあるシャクルトンクレーター(Shackleton crater)に“アルファ”基地を設営し,太陽電池と月面の岩石から得た水や酸素を使った独立運用をついに開始した。やがて,ここをベースに月から火星へ,そしてさらに遠くの星へと人類は手を伸ばしていくのである……。
おや,いきなりなんだ? と思った人も多いと思うが,これは「おや,いきなりなんだ」と思わせておいて続きを読んでもらうという筆者の高度なテクニックによるものなので安心してほしい。つまり,今週の「海外ゲーム四天王」で紹介するゲームが,NASAが制作したシミュレーション「Moonbase Alpha」というわけだ。なにが「つまり」なんだと思った人もいるかもしれないが,これは筆者の高度な……もういいですね。
最初に書いておくと,Moonbase Alphaは完全無料のゲームだ。Valveのデジタル配信システム「Steam」限定で無料配信されており,誰でもダウンロードしてプレイできる。さすがNASA,太っ腹。クライアントのサイズはあまり大きくないが,ゲームエンジンとしてEpic Gamesの「UnrealEngine 3」を採用しているので,グラフィックスはかなりキレイめだ。
このような,政府機関が制作した無料ゲームとしては,アメリカ陸軍のFPS「America's Army」が有名だが,America's Armyが新兵のリクルートを目的としているのに対し,こちらはいわゆるシリアスゲームで,娯楽性より学習/広報的な側面が強い。開発は,America's Armyの制作にも関わったノースカロライナのVirtual Heroesで,ここは本作のほか,医療訓練シミュレータなどを手がけているシリアスゲームの専業メーカーだ。
ちなみに,2009年2月に掲載したニュースでもお知らせしたとおり,NASAは大人数参加型のオンラインゲームとして,Virtual Heroesも開発に参加する「Astronaut: Moon, Mars and Beyond」を制作中であり,2009年後半にはリリースされるといわれていたが遅れている。今回のMoonbase Alphaは,そのAstronaut; Moon Mars and BeyondというMMOGがどんな感じになるのか,その雰囲気をあらかじめ知ってもらうという意図もあるようだ。
というわけで,さっそく我々も月面に立ってみよう。すげぇリアル……なのかどうかは行ったことがないのでよく分からないものの,科学雑誌のイラストのようで雰囲気最高だ。
歳がバレちゃうけど,筆者は1968年公開の金字塔的SF映画「2001年宇宙の旅」をリアルタイムで見ちゃっているクチだ。その年,(映画公開のあとだと思うが)アポロ7号の有人飛行が開始され,翌年には月面着陸に成功するので,物事を信用しやすい筆者が「2001年には,普通に月に行ったり来たりしているに違いない」と思い込んでしまったのも無理のないことだ。2010年の今,ちくしょう,だまされたという気持ちでいっぱいだが,月基地だけでなくエアカーも原子力宇宙船も,一日一回丸薬を食べるだけで大丈夫な食生活も実現していないので,まあ勘弁しよう。ええと,なんの話だっけ? そうそう,この風景って,子供の頃に少年向け漫画雑誌の巻頭カラーで見たイラストを思い出すなあ,いいなあ,ということが言いたかったのだ。今やマンガ雑誌のグラビアは水着の美少女ばっかりだが,40年前は「未来の宇宙基地」とか「戦艦武蔵の断面図」とか「インドで発見された巨大微生物」とか,そんな少年の胸をときめかせるものばっかりだったのだ……って,また脱線したようだ。
さて,一見のどかな月面基地だが,実は大事件が起きている。隕石が落ちて(落ちるから隕石なのだが),重要なナントカカントカやナントカカントカなど,難しい名前のユニットが壊れてしまったのだ。というわけで,プレイヤーの仕事はその破損箇所を修理すること。急がなければ,エネルギーと酸素がなくなって大惨事になってしまう。くわばらくわばら。
修理用の道具としては,真空中でもハンダをつけ直せるトーチと,ネジをぎゅっと締めるレンチがあり,妙に普通でリアル。これでパイプをつないでいるユニットやソーラーパネルを地味に直していくわけだが,修理の途中,「電流イライラ棒」みたいなミニゲームが出てきて,これをうまくクリアすると修理時間が短縮できるが,できなくても修理は終わる。
何かの危険な気体が激しく漏れだして,人間が近づけなくいところも修理しなくてはならないのだが,これにはリモコンで操作するロボットが使える。ロボットには,ハンダをつけ直せるタイプと,アームを使って物を持ち上げたり下ろしたりできるタイプの2種類があるので,適宜使い分けよう。ハンダづけをしていると,また電流イライラ棒チックなミニゲームが出てきて,クリアすると修理時間が短縮されるが,できなくても修理は終わる。また,ロボットがあまり遠くへ行くと無線が届かなくなるので注意が必要だ。
すべて終わると,ミッションクリア。感動だ。あとは月面探査車に乗って,あまり広くないマップを走り回ったり,アポロ月着陸船の名残を見物したり,これがホントのムーンウォークという感じで歩き回ったりしよう。ゲームとしては,それだけなのであるから。
マルチプレイにも対応しており,というか,基本はマルチプレイで,危機に陥った基地を仲間と一緒に修理することで,協力することの重要さを学べるわけだ。ミッションをクリアすると作業にかかった時間が表示されるので,それを競うモードもある。全員で息を合わせれば短時間で作業が終了し,よいスコアが得られるのだ。
シリアスゲームだけに,電流イライラ棒を除いてゲームらしいところは少ない。あまり月面基地へ行く機会もなさそうなので,修理の方法を覚えても役に立つかどうか微妙だが,世の中はそういう理屈ばかりではないはずだ。そもそも,有人宇宙探検そのものが,それだけの予算と人命をかけるに値するのかという問いに対して,万人を納得させるだけの解答を用意できていない現状。それでも人類は宇宙を目指すはずだ。フロンティアがある限り,人間はそこに進まなければいられないのだ! 自分でも強引なまとめだと思うが,そんな気になれるのがこのMoonbase Alphaである。まあ,ロボット探査だけでもいいような気もするんだけど。
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