連載
インディーズゲームの小部屋:Room#414「That Dragon, Cancer」
久しぶりの雪かきですっかり筋肉痛の筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第414回は,Numinous Gamesが開発した「That Dragon, Cancer」を紹介する。本作は,末期の小児がんに冒されて5歳で亡くなった男の子と,その家族の物語を描いたアドベンチャーゲームだ。うう,背中と腰が痛くて原稿が書けないので,もう帰ってもいいですか……(言い訳)。
「こちら」の記事でもお伝えしているとおり,本作はプログラマーのライアン・グリーン氏と,その妻であり本作のシナリオを手がけたエイミー・グリーン氏が,わずか1歳のときに悪性の脳腫瘍が発病し,つらい闘病生活の末に2014年3月に5歳で亡くなった息子のジョエル君の短い人生を祝福するために作り上げた作品だ。
2014年11月にKickstarterで開始されたキャンペーンでは,8万5000ドルの目標に対して,3687人の出資者から約10万ドルの支援を受けて資金集めに成功。その後も開発が続けられてきたのだが,この1月についに完成版がリリースされた。ゲームはいわゆるポイント&クリック型のアドベンチャーゲームとなっており,ジョエル君の闘病生活にまつわる家族の物語を,巧みな心象風景を交えて描き出している。
ゲームは,明るい森の中で家族そろって仲良くピクニックを楽しんでいるところから始まる。ジョエル君は,小さな池を泳いでいる鴨にパンをちぎって投げてあげたりと大はしゃぎで,一家はまさに幸せの絶頂といったところ。しかし,その後,ジョエル君の病気が判明し,医師から完治する見込みがないことを知らされると,明るい雰囲気は一転する。
キャラクターの目鼻を描かない,ざっくりとしたモデリングと,どことなく幻想的な淡い色使いのグラフィックスが特徴で,それがかえってプレイヤーの想像力をかき立ててくれる。基本的には,カーソルの形が変わる場所をクリックするだけで物語が進行していき,重いテーマながらゲーム全体は優しい雰囲気に包まれている。
その一方で,ライアン氏とエイミー氏はゲーム内でもそのままジョエル君の両親を演じており,セリフからにじみ出る苦悩や嘆きには心をえぐられるようだ。
ゲームとはいえ,実話を基にしているために結末は始めから分かっているのだが,それでも画面から目が離せなくなってしまう演出は素晴らしく,ジョエル君に対する深い愛情が伝わってくる。普通にプレイしても1時間半ほどで終わる小さな作品で,クリア後には悲しみだけが残るのではなく,ほんのちょっぴり優しい気持ちにさせてくれる。ジョエル君の大好物だったというパンケーキを使ったラストの演出には,思わず目頭が熱くなってしまった。
全編英語で,リスニングにかなり自信のある人でないとストーリーを十分に把握するのが難しいという点でややハードルは高いが,ぜひ多くの人に触れてほしい作品だ。そんな本作は,Steamにて1480円で発売中なので,興味を持った人はぜひどうぞ。
■「That Dragon, Cancer」公式サイト
http://www.thatdragoncancer.com/- 関連タイトル:
That Dragon, Cancer
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