連載
インディーズゲームの小部屋:Room#326「Spate」
近々,入籍することになった友人から“子供貯金”なる未知の単語が飛び出して思わず動揺している筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第326回は,Ayyo Gamesの「Spate」を紹介する。本作は,不可解な失踪事件が数多く起こっている奇妙な島を舞台に,行方不明者の捜索を依頼された探偵が調査を進めていくという横スクロールアクションだ。昔はよく一緒に,秋葉原でゲームを買い漁っていたじゃないですかちくしょおおおおおおめでとう!
本作の主人公である探偵のBluthは,かつて幼い娘を亡くしてしまったことから酒に溺れるようになり,アルコール依存症を患っている。そんなBluthが,とある人物に関する失踪事件の調査依頼を受けて,常に雨が降っている奇妙な島にやって来るところから物語が始まる。この島では,以前にも多くの人が行方不明になっており,今回の失踪者も最後にこの島へ向かう姿が目撃されているのだ……。
というわけで,プレイヤーはBluthを操作してこの島の調査を行うことに。本作は,強いてジャンル分けすれば“横スクロールアクション”ということになるだろう。実際,ジャンプや2段ジャンプを駆使して障害を突破していく場面もそれなりにある。しかし本作では,そうしたアクションシーンではなく,Bluthの独白によるストーリーテリングに,より重点が置かれている。
本作でまず目を引くのは,Sony Pictures AnimationやWalt Disney Animation Studiosなどに在籍していたというアーティストのEric Provan氏による,見る者を思わず不安にさせるシュルレアリスム的な風景。フィルムを使った映像制作に長く携わっていたProvan氏は,そこで培ったさまざまな技法を本作に取り込んでいるが,中でもとくに多く用いられ,強く印象に刻まれるのが,いわゆる“長回し”のシーンだ。
ここでは,敵やトラップなどは一切登場せず(そもそも本作には“敵”が存在しない),ただひたすら雨が降り続ける奇妙な風景の中を走りながら,Bluthの独白を聞くことになる。そこから汲み取れるのは,彼が今でも娘の死から立ち直っておらず,自分がアルコールに依存していることを自覚しつつも,すでに何も失うものがないために,酒をやめる理由もまた無くしているということ。そして,この“酒を飲む”という行為自体もゲームに取り入れられているのが,本作のもう1つの特徴となっている。
ゲーム中では,酒を飲むことでBluthのジャンプ力がアップし,走るスピードも速くなるが,副作用として景色が歪んで幻覚が見えるようになる。島は奥へと進むほど危険度が増していくが,Bluthは次第に現実と幻覚の区別がつかなくなり,物語はやがて行方不明者の捜索から離れ,島の謎を解き明かす過程を通じて,Bluthがいかにして娘の死と向き合うかというテーマに帰結していく。
本作ではマルチエンディングが採用されており,Bluthが最後にどんな決断を下すのかは,プレイヤー自身の手に委ねられている。アクションゲームとしての難度は低めで,アクションよりもストーリーを重視した作りは,本連載の第221回で紹介した「Dear Esther」に通じるものがある。全編英語のため,ちょっとハードルが高いかもしれないが,興味を持った人はぜひ本作の,何とも言えない雰囲気を味わってほしい。そんな本作はSteamにて,9.99ドルで発売中だ。
■「Spate」公式サイト
http://spategame.com/- この記事のURL:
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