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[GTMF 2015]Steamでゲームタイトルを販売するとはどういうことなのか──DEGICAの展開するSteamパブリッシングの本質と将来性を聞いた
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印刷2015/06/02 00:00

インタビュー

[GTMF 2015]Steamでゲームタイトルを販売するとはどういうことなのか──DEGICAの展開するSteamパブリッシングの本質と将来性を聞いた

 ゲーム・アプリ業界向けツール&ミドルウェア総合イベント「Game Tools & Middleware Forum 2015」(以下,GTMF 2015)が,2015年7月7日に大阪で,7月17日に東京でそれぞれ開催される。
 今回,4GamerではGTMF 2015に出展する企業の中から,Valveが展開するPCゲームダウンロード販売サイトSteamの,日本における関連事業を手がけているDEGICAの事業開発部 バイスプレジデント 岩永朝陽氏に,同社の取り組みについていろいろ聞いてみた。


16言語対応により全世界で急速にユーザー数を増やしているSteam


DEGICA事業開発部 バイスプレジデント 岩永朝陽氏
 あらためて説明すると,DEGICAは2012年からSteamに関連する事業に取り組んでいる企業である。最初はSteam向け国産ゲームのパブリッシング事業からスタートし,2013年にはSteamウォレットコードの販売を開始,そして2014年8月にはSteamの日本対応の一環として,Valveに決済システムを提供している。したがってDEGICAは,日本の企業の中では,Valveとは非常に近しい関係にある存在と言える。

 さて近年,数々の日本企業がSteamでゲームのパブリッシングに取り組んでいるが,岩永氏によると,現在はその結果が見えつつある段階で,評価は「今一つ」と「すごくいい」というものに二分されているという。

 「前者だと『Steamでパブリッシングしてみたけど,安く売って終わり』というようなケースが多いんです。それを聞いたほかの企業は,『だったら止めようか』となってしまいます。
 その一方で,数字こそ公表していませんけれども,大きく打って出てよい感触を得た企業だと,『次はSteam専売で行こう』みたいな話も結構あります」
(岩永氏)


日本時間22:00くらいの時点でアクティブユーザー数や同時接続者数はこれくらい
Steam
 それでは,どういったパブリッシングをすれば,Steamで継続的にゲームを販売できるのだろうか。
 まずはSteamの現状からチェックしていこう。Valveが公開しているデータによると,全世界のSteamユーザー数は2014年1月時点で7500万人,9か月後の同年9月時点で1億人,さらに6か月後の2015年3月には1億2500万人を突破している。つまり,2500万人増加する期間が9か月から6か月に月短縮されており,ユーザー数の増加は加速していることが分かる。

 岩永氏は,こうしたユーザー数の急増を,Steamが2013年に世界16言語に対応したことや,2014年に決済システムを日本円に対応させたように,同様な施策を各国で行ったことにあると分析している。

 「確かにApp StoreやGoogle Playと比較するとまだ小さい数字ですが,現在1億2500万人で,かつその増加が加速傾向にあるとなると,オンラインのPCゲーム販売プラットフォームでは圧倒的なユーザー数です。しかもValveの発表によると,2015年内にSteam MachineやSteam Link,Steam Controllerなどの投入が予定されていますから,今後ユーザー数の増加にさらに拍車が掛かると予想できます」(岩永氏)

 岩永氏は,Steamでパブリッシングされている約4500のゲームタイトルのうち,Steam OS対応タイトルが1000本を超えたことも指摘する。いかにSteam Machineなどハードが市場に投入されたとしても,肝心のゲームが少なければ普及させるのは難しい,という事実は,歴代のコンシューマゲーム機の動向を知っていれば理解できるところだろう。

 「また,一部には,Steamでリリースするときに掛かる手数料が割高だという話もありますが,実はApp Storeなどほかのプラットフォームと比較しても,ほとんど変わらないんですよ。
 そういったこともあって,スマートフォン向けにゲームを作ってきたデベロッパが,今後,Steamに参入してくるようなことも増えるんじゃないかと予想しています,実際,もともとPCゲームの開発者で,現在,スマートフォンゲームを手がけている人から,Steamについての相談を受けえうこともあります」
(岩永氏)


 そうした豊富なSteamのタイトルラインナップのうち,とくに岩永氏が注目しているのが2500タイトルにも上るインディーズゲームである。オンラインのゲーム販売プラットフォームでこれだけの数を扱うところがほかにないこともそうだが,岩永氏によるとジャンルの多彩さも大きな特徴であるという。コアゲーマー向けのハイクオリティなタイトルもそうだが,シミュレーションゲームやビジュアルノベルなどのジャンルも盛り上がっており,必ずしも巨額の開発費を投じたゲームだけが支持されているというわけでもないそうだ。

 「インディーズゲームの世界的な盛り上がりといえば,2014年にMicrosoftが『Minecraft』の開発元を高額で買収したことは,ゲーム業界に詳しくない人でも興味を持ったのではないでしょうか。また,Game Developers Conference(GDC)で受賞したインディーズゲームデベロッパが,翌年のGDCまでにミリオネアになっているというサクセスストーリーも生まれていますし,実際にGDC 2015でも多数のインディーズゲームが紹介されました。
 とくにGDCで私個人が興味深く見ているのは,大学のゲームサークルによる出展です。学生が作ったゲームを,各大学がサポートしているんですね。またアメリカのある州では,小学校のカリキュラムにゲームを作るクラスを導入することを検討しているというニュースもありました。こうした流れを見ていると,アメリカでは民間企業だけではなく,行政から国までもが参画してインディーズゲームを盛り上げようとしているようにも見えますよね」
(岩永氏)


パブリッシングのポイントは「ユーザー評価」と「価格に対する感覚」


 それでは,上記のような現状を踏まえ,あらためてSteamでどういったパブリッシングを行うべきか見ていこう。岩永氏によると,「Steamはユーザー数が多いから売れる,儲かる」という認識は決して間違いではないが,従来のパッケージ販売と同じ感覚を持ったままでは中長期的なビジネスにつなげていくのは厳しいという。

 岩永氏がSteamにおけるパブリッシングで重視するポイントは,まず「ユーザー評価」である。現在では,ゲームに対する評価がネット上にあふれているが,Steamのユーザー評価では各ユーザーがどのゲームでどれぐらいの時間遊んだのかを計測し表示している。例えば,30分しか遊ばなかった人の評価と,100時間遊んだ人の評価では,後者のほうが信頼性が高いといえるだろう。
 その一方で,ユーザー評価をしている10人が10人,0.1時間しか遊んでおらず,しかも「よく分からない」というコメントをしていたとしたら,そのゲームに何か問題があると捉えたほうがいいかもしれない。

 「実際,私達がパブリッシャの立場でユーザー評価を確認しても,プレイ時間が長い人ほどまっとうなことを書いているという傾向が見て取れます。その内容が肯定であっても否定であっても,まっとうという意味では変わりません。そうした評価に『いいね!』というコメントが200,300と付き,それを見たほかのユーザーがそのゲームを買う/買わないを判断するわけです」(岩永氏)


 そうした状況を受けて,DEGICAでは海外スタッフを含め20名前後の人員を用いて,パブリッシングしたタイトルのユーザー評価を常にチェックし,フィルタリング/分析しているとのこと。必要があれば,フォーラムにてコンタクトを取るなど,ユーザーとのコミュニケーションを図ることもあるという。
 その中でとくに力を入れているのが,ユーザーの誤解を解くことである。例えば,ユーザーが気に入らないとしている点の中には,ゲームの世界観やストーリーの設定に沿って,あえて不便にされている部分もあったりする。そこをパブリッシャの立場できちんとユーザーに説明することで,「なるほど,そうだったのか」と理解を得られることも少なくないそうだ。

 「これは非常に大変な作業ですが,放っておくと『そうだ,そうだ』というコメントが増えていきます。そうなると,そのタイトルの評価がどんどん下がってしまいますから,一つ一つ丁寧に対応していくほかありません。いわば,コミュニティのマネージメントというつもりで取り組まなければならないんです」(岩永氏)


 岩永氏は,Steamにおけるパブリッシングについて,パッケージのようにゲームをリリースしたらゴールなのではなく,「ゲームのリリースがスタート」と表現する。具体的には,リリースしてから約1か月でそのタイトルのポテンシャルとユーザー評価が出そろうとのことで,そこからユーザーを増やしファンにしていくために何をすべきか年間計画を立てて実行していくとのことである。

 岩永氏によると,Steamではリリース1か月を経過すると,売上本数は右肩下がりとなり,セール期間になると一時的に伸びるというサイクルを繰り返すことになるという。
 しかしDEGICAでは,上記の手法を採用し,アップデートによる改善を含めてユーザー評価を高めていくことで,1年後にリリース直後1か月分の10倍の売上を記録した事例もいくつかあるとのことだ。

 また,岩永氏は,ユーザー評価と並ぶ,もう一つの重要なポイントして「ユーザーの価格に対する感覚」を挙げる。100本単位でタイトルを所持しているユーザーも少なくないSteamの状況では,コストパフォーマンスの尺度が生じ,「あのゲームと同じような内容なのに価格が高い」「このクオリティで,この価格は安い」という評価がなされる。また,Steamでは頻繁にセールが行われるため,リリースされたからといって,すぐに購入するわけではないユーザーも少なからず存在する。
 そうした価値に対する評価基準は,ゲームそのものに対して構築されているため,開発者やデベロッパのポリシーや事情,思いとはギャップが生じることも少なくない。

 「Steamでゲームを購入する人達というのは,従来のパッケージを買っている人達とは性質や動向が異なるんです。したがって,パブリッシングのアプローチも変えなければなりません。これは,私達が2012年からSteamのパブリッシャを続けてきた中で学んだことです。
 DEGICAでは,ユーザーが増えるということを,そのゲームのファンやエバンジェリスト,あるいはクラウドファンディングを通じた投資家が増えることだと捉えています。つまりユーザーは,ゲームを消費するだけの存在ではなく,マーケティングから投資までをも担う存在になっているんです。
 とはいっても,これはユーザーの意見をすべて開発者やデベロッパがゲームに反映すべきだ,いう意味ではありません。私達はパブリッシャとして,ユーザーとデベロッパのギャップを埋め,とくにデベロッパには次回作をリリースするときの糧となるようなアプローチに努めています」
(岩永氏)


現在のSteamでは日本語のみのゲームタイトルを流通することができる


 さらに岩永氏は,Steamを介してゲームをリリースするメリットの一つとして,Steamキーをほかのストアでも販売することが許されているという点を挙げる。これにより,各デベロッパはSteamのシステムを利用できるので,DRM(Digital Rights Management,デジタル著作権管理)などを自前で用意する必要がなくなり,2次販売マーケットへの展開が容易になるのだ。DEGICAでは,この2次販売マーケットにも着目しており,さまざまな取り組みを行っている。

 「ゲームを安売りするケースも多く見られるため,2次販売マーケットをよく思わないデベロッパも見受けられますが,マーケティングの観点からすると,そうやってユーザーが増加することにより,次回作をリリースしたときに注目する人が増える──結果として,売上が増え,デベロッパの利益になるとも考えられます。
 そこで私達は,次から次へと出てくる各国の2次販売マーケット新会社と契約をして,販売プランを拡大しています。また大手決済会社と組んで,全世界約700万人を対象としたキャンペーンを行った実績もあります。例えば自社でこのような取り組みを行うとなると,支払などに関する経理の問題や,外貨から日本円に換算するときの問題,英語でのコミュニケーションといった課題が多数あり,契約にたどり着くまでが非常に大変ですが,DEGICAでは各国の販売会社との関係を構築し,かつ常にアップデートしていますから,スピーディな対応が可能です」
(岩永氏)

 ちなみに海外展開するにあたり,ゲームのローカライズに必要な言語は,英語/フランス語/ドイツ語を含めた6か国語程度だという。残りの3か国語には,日本企業がリリースするタイトルの場合は日本語が加わったり,またRPGだとブラジルで売上が伸びているのでポルトガル語を加えたりといった,タイトルごとの選択がなされるとのことだ。

 また岩永氏は,ここ最近,日本のSteamユーザーが増加しているのではないかと強く感じているという。残念ながらValveから公式な数字では公表されていないのだが,さまざまなメディアの情報を総合すると,日本の潜在ユーザー数は500万〜600万人に上るとDEGICAでは推測しているそうである。また日本のSteamユーザーの購買活動は,かなり活発であると言われている。日本ではSteamユーザーというと,まだまだマイノリティとかマニアックとかいったイメージがあるかもしれないが,実は結構な数がいるのである。

 「以前,日本語にしか対応していないタイトルを,DEGICAが試験的にSteamにてリリースしてみたところ,予想以上の反響がありました。そうした背景から,現在のSteamでは必ずしも英語版は必要ではなく,日本語版のみのタイトルを普通にリリースできるようになっています。そういった意味では,日本のパブリッシャやデベロッパが参入してくださることで,日本のSteamもどんどん活性化していくのではないかと期待していますし,もちろんDEGICAでもそうした取り組みをサポートしていきます」(岩永氏)

Steamでは興味深いユーザーデータが多数公開されている
Steam

 ユーザーとして気になるのは,同じタイトルをパッケージで購入したときとSteamで購入したときの価格の差がどうなるのかという問題である。
 一例を挙げると,ゲームではないが,DEGICAがSteamでパブリッシングしているウェブテクノロジの3Dマンガ作成ツール「コミPo!」も,リリース当初は,パッケージと同様の内容と価格設定にしていたという。ところがSteamユーザーから「違和感を覚える」というコメントが増え,売上が停滞してしまったそうだ。

 そこでDEGICAとウェブテクノロジとで販売方式を検討し,ユーザーのフィードバックや売れ行きなどを細かく分析して,Steamにおける価格引き下げを含む新たな販売戦略を打ち出したところ,評価が良いものに変わり,結果として売上本数も売上金額も増えるという結果となった。この結果を踏まえ,DEGICAでは,ほかのデベロッパとの取り組みでもさまざまな展開を検討していくとのことである。

 「繰り返しですが,これはユーザーからの意見をすべて汲めば成果につながるという意味ではありません。そもそも,多岐に及ぶ意見のすべてを汲むのは不可能ですから。重要なのは,フィルタリングをし,いかに重要な部分をピックアップし,活かせるかということです。この部分に関して,DEGICAには2012年以来,3年間にわたって蓄積してきたノウハウがあります」(岩永氏)

 記事冒頭で示したとおり,DEGICAはGTMF 2015に出展し,Steamのパブリッシングに関するセッションを行うほか,ブースにてパブリッシングについての相談会を実施する予定もあるという。興味のある人は,ぜひ会場に足を運んで,DEGICAが手がけた事例について耳を傾けてみるといいだろう。
 それでは最後に,岩永氏からのメッセージを掲載して本稿の締めとしよう。

 「Steamにおけるパブリッシングは,音楽や映画のマーケットがデジタル市場に移行したケースと同様に,従来のパッケージ販売とはまったく異なった考え方が必要となります。
 DEGICAは,その本質を理解してパブリッシングを行っており,海外市場における販売においても,ユーザーのフィードバックも含めてすべて日本語での対応が可能です。もし,Steamでの展開を考えていらっしゃるデベロッパさんやインディーズゲーム開発者の皆さんがおられましたら,ぜひGTMF 2015に足を運んでいただければと思います」
(岩永氏)

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