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Access Accepted第537回:欧米e-Sports界を取り巻く環境の激変
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印刷2017/05/22 12:00

業界動向

Access Accepted第537回:欧米e-Sports界を取り巻く環境の激変

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第537回:欧米e-Sports界を取り巻く環境の激変

 世界規模で2000億円の市場に成長したという,e-Sports。現状ではTwitchが独占状態にある試合のライブ中継のシェアを獲得すべく,YouTubeが立ち上がった。異業種からの協賛企業は増え続け,それに伴って欧米やアジア地域での人気は高まるばかり。プロスポーツ界がスポーツマネジメントのノウハウを武器にe-Sportsチームの運営を始めるなど,このところさまざまな動きが見られる欧米e-Sportsの現状を紹介したい。


市場を独占するTwitchと,その攻略に乗り出したYouTube


 2014年8月,サービス開始からわずか3年しか経っていなかった映像配信サイト「Twitch」をAmazon.comが買収して世界を驚かせた。Googleとの激しい買収合戦の末,約1000億円を支払ったというニュースは,本連載の第433回「Amazon.comがTwitchを買収したのはなぜか」でも詳しく紹介したとおりだ。
 それ以降Twitchは,e-Sportsの配信で独走態勢に入った。リサーチ企業のJuniper Researchは,2017年にTwitchは18億ドル(約2000億円)を超える利益をe-Sports関連で挙げ,2年後の2019年にはそれが2倍の35億ドルに達すると予測している。

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 2017年2月の時点でのTwitchの視聴状況を見ると,1日あたりのアクティブユーザーは970万人に達しており,プレイ動画を制作するブロードキャスターの数は200万人。買収が行われた2014年にはブロードキャスター数が100万人とTwichが発表していたので,この3年でコンテンツクリエイターの数が2倍に増えたことになる。
 ストリーミングのコンテンツを専門に調査するQwilt Mediaの発表によれば,全米のライブストリーミングの43.6%はTwitchによるもので,MLBやNBAなどプロスポーツ運営組織の配信する動画の総計を凌駕しており,インターネットのトラフィック全体でも,Google,Netflix,そしてAppleに続いて4位となる1.8%を占めている。上記のJuniper Researchはまた,2017年中にゲーム関連のストリーミングの80%以上がTwitchで配信されると予想する。

Twitchで36万人のフォロワーを抱えるDinglederper氏。“ストリーマー”と呼ばれるプレイ動画配信者のうち,19.5%は女性だという
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 一方,Google傘下のYouTubeは,多くのコンテンツクリエイターにとって「2つめのオプション」として機能しているようだ。ライブ配信後に録画した動画を編集してアップロードするというのが主な目的で,それゆえ,YouTubeのe-Sports動画配信がTwitchを超えることはあり得ない。
 しかしYouTubeは,そうした状況にいつまでも甘んじているつもりはないようだ。2015年6月に立ち上げたゲーム専用のストリーミングサービス「YouTube Gaming」に対するテコ入れを図っており,今年に入って,「Counter-Strike」シリーズのプロトーナメントとして双璧をなす,「ESL Pro League」(ESL)と「Esports Championship Series」(ECS)との独占契約を次々に結んだ。

 Valveの「Counter-Strike: Global Offense」は,依然としてシュータージャンルの中で高い人気を保持しており,ストリーミング視聴率ではRiot Gamesの「League of Legends」に続くタイトルになっているほどだ。

 そんな「Counter-Strike」のマッチを毎日配信しているESLやECSにとって,すでに多くの固定ファンがいるTwitchからわざわざYouTubeに移行する旨味はないと思われるが,独占契約の締結するからには,それなりに大きなメリットを感じたのだろう。
 筆者が試した限り,YouTubeのほうがサーバーのキャパシティが大きく,視聴やチャットもスムーズだと感じられた。そのYouTubeが人気の高いゲームの大会運営者と独占契約を結んだことから,ストリーミング配信の勢力図が一気に変わる可能性も出てくる。

動画配信者にとってはTwitchほど収益が見込めず,改めてフォロワーを獲得する必要のあるYouTube Gaming。しかし,HTML5によるサイトの安定性は抜群で,4K解像度でのストリーミングもできるなど,プラットフォームとしての魅力は高い
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e-Sportsを使った「町おこし」まで始まる


 こうしたライブストリーミングの活況からも分かるとおり,e-Sportsはかつての「ゲームギークの祭典」からメインストリームへと加速度的に進歩しつつある。今年2月には,世界最大のスポーツネットワークであるESPNが初めてゲーム大会のライブ放送を行い,同時にe-Sports専用の情報サイトを立ち上げた。
 また,「家族で行けるスポーツバー」として全米展開するBuffalo Wild Wingsも2016年,「ストリートファイターV」のトーナメントで知られるELEAGUEと提携し,都市部の一部店舗でメジャーリーグやアメフトと一緒にゲーム大会の中継を実験的に開始した。

 さらに,NBA傘下のプロバスケットボールチームであるフィラデルフィア・セブンティシクサーズは「Counter-Strike」や「Overwatch」で有名なプロチーム団体,Team DignitasとAPEXを買収して運営に乗り出しているし,現役時代「バスケ界随一の美男子」と謳われたリック・フォックスさんは,e-Sports団体Echo Foxのマネージャーを務めている。

2015年にイギリスで開催された「League Of Legends Winter UK Tournament」の様子。これだけの集客力があるのだから,スポーツ運営会社の参加もうなづける
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 ワシントンDCではなんと,地域住民が結成したチームNRG ESportsのメインスポンサーを自治体が務め,町おこしに利用するという。運営側には元バスケット選手のシャキール・オニールさんや,元メジャーリーガーのアレックス・ロドリゲスさんが名を連ねている。
 一方ヨーロッパでは,フランスのプロサッカーチームのパリ・サンジェルマンFC(PSG)やドイツのFCシャルケ,そしてイギリス・プレミアリーグのマンチェスター・シティFCやウェストハム・ユナイテッドFCなどが,スポーツマネジメントの経験とノウハウを活かしてe-Sportsチームを運営している。

 既存のスポーツ界がe-Sportsに熱いラブコールを送っているのは明らかで,これまで周辺機器メーカーなどが主導していたプロチームのオーナーシップにも以上のような変化が起きている。その最大の理由は,Twitchのライブストリーミングなどに見られる集客力とファンの熱中度の高さに将来性を見たということだろう。

アメリカのリサーチ会社Newzooが公開したライブ配信における人気タイトルトップ5。データ集計地域には欧米だけでなく,中国や韓国といったアジア地域が含まれているが,ゲームソフトを持っていないNon-Player率の高さは,「ゲームは見て楽しむ!」という層の厚さを意味している
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 言うまでもなく,欧米の大手パブリッシャもトーナメントの運営に乗り出しており,実績あるBlizzard Entertainmentの「Hearthstone World Championship」「StarCraft II World Championship Series」,Valveの「DOTA 2 The International」,Activisionの「Call of Duty World League」,そしてElectronic Artsの「EA Major」などが開催されている。
 もちろんプラットフォームホルダーも黙ってはおらず,Microsoftはライブ配信のノウハウを持つBeam Interactiveを買収し,Sony Interactive Entertainmentも「PlayStation Vue」でe-Sports専用チャンネルを開設するなど,多くのゲーム関連企業がe-Sports市場の急成長にうまく絡んでいこうと試行錯誤しているようだ。

 こうした動きはプレイヤーに恩恵を与えており,プロ化によって生活を気にすることなく練習に打ち込め,安定した環境が得られるようにもなってきた。この先,e-Sportsの選手が一定の成績を残せれば,プロスポーツ選手のように引退後に生涯年金が与えられることがあるのかもしれない。
 これまで,学生を中心に,ある種の使い捨ての駒のように選手が現れては消えていった欧米のe-Sports世界も良い方向に変わっていきそうだ。

2016年にプロゲームチーム,Echo Foxに参加した“「League of Legends」の刺客,Froggen”こと,ヘンリック・ハンセン選手
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 日本には「ストリートファイター」や「スマッシュブラザーズ」シリーズなど,世界的なトーナメントに使われるようなコンテンツが数多くある一方で,欧米に比べてプロゲーマーの数や賞金が多いとはいえず,スポンサーになってくれそうな各企業の理解度も高くないように見える。また,大会の開催についても,法的な制約が少なからずあると聞く。
 とはいえ,2016年の初めに,e-Sports選手に対してアスリート用のビザが認められたり,オリンピックの参考種目にゲームを! という声が聞こえてきたりなど,欧米と同様に日本のe-Sportsを取り巻く状況にも変化が見られる。日本と欧米のe-Sportsシーンについては,今後も注目していきたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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