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Access Accepted第517回:ウォーキングシミュレータ「Virginia」が生んだ論争
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印刷2016/11/14 12:00

業界動向

Access Accepted第517回:ウォーキングシミュレータ「Virginia」が生んだ論争

画像集 No.007のサムネイル画像 / Access Accepted第517回:ウォーキングシミュレータ「Virginia」が生んだ論争

 「ウォーキングシミュレータ」(Walking Simulator)という言葉は,筆者も過去,何度か記事の中で使ったことがあるが,アドベンチャーゲームのサブジャンルとして欧米ではすっかり定着したようだ。メディアから高い評価を得る一方,ファンの反応は冷ややか,というウォーキングシミュレータが最近,いくつか登場している。今週は,そうした温度差が顕著な作品として2016年秋にリリースされた「Virginia」と,本作によって起きた論争を紹介してみたい。


インタラクティブ性のほとんどないゲーム


 「ゲームとは何か?」という議論は,ゲーマーはもちろん,メディアや専門家の間で昔から続いてきたことだ。最近,「ウォーキングシミュレータ」というサブジャンルで呼ばれる,新たなアドベンチャーゲームがいくつかリリースされたことから,ウォーキングシミュレータは果たしてゲームなのか? という議論が北米で再燃している。

 現在,その渦中にあるのが,2016年9月22日に505 Gamesからリリースされた「Virginia」だ。開発したのはイギリスのVariable Stateで,Rearで「Kinect Sports」などを制作したジョナサン・ブロウズ(Jonathan Burroughs)氏と,Rockstar Gamesで「Grand Theft Auto: San Andreas」「Grand Theft Auto IV」の開発に携わった経験を持つテリー・ケニー(Terry Kenny)氏を中心としたデベロッパだ。「Virginia」は,彼らの処女作になるが,2014年頃には早くもスクリーンショットが公開されており,時間をかけたプロジェクトだった。

「ウォーキングシミュレータ」と呼ばれるタイプのアドベンチャーゲームは,アクションよりも物語を重視するゲーマーに好まれているようだ
画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第517回:ウォーキングシミュレータ「Virginia」が生んだ論争

 プレイヤーは,新たにバージニアに赴任してきたFBI捜査官アン・ターヴァーとなり,いくつかの事件に挑む一方,パートナーでもあるベテラン捜査官マリア・ハルペリンの内部調査を行っていくという,テレビドラマ「X‐ファイル」を思わせるSF要素が入った,ヒューマンドラマだ。BGMや効果音はあるものの,セリフが一切ないことが大きな特徴で,アドベンチャーゲームでありながら会話による説明を削り取った独特の作風になっている。

 9月28日に掲載された連載記事「インディーズゲームの小部屋:Room#449」では,本作について「“ゲーム”と呼んでいいかは正直悩ましいところでもある」と書かれているが,筆者もそのとおりだと思う。特定のシーンではプレイヤーキャラクターを移動させることができ,いくつかのアイテムとのインタラクションは用意されているものの,基本的にプレイヤーは,与えられたストーリーをひたすらたどっていくだけだ。

 しかも,各シーンのつなぎはまるで映画のようで,例えば事件現場の次の場面が車の助手席だったり,写真の現像室から取調室に飛んだりなど,映画的なストーリーの叙述法をゲームに持ち込もうという意図が感じられる。いきなり過去に戻ったり,夢が始まったりして,物語を追えなくなることさえあるが,セリフによる説明がないため,すべてがプレイヤーの解釈に委ねられている。


批評家達の間で巻き起こる「Virginia」論争


 この「Virginia」についての論争を起こしたのが,ダウ・ジョーンズ傘下のニューメディア系ブログサイト「HeatStreet」だ。9月28日に,ライターのイアン・マイルズ・チェオン(Ian Miles Cheong)氏が,「Virginiaというインディーズゲームに対する批判は,あなたを女嫌いの差別主義者にする」という記事を掲載し,同じ日にウィリアム・ヒックス(William Hicks)氏が,「なぜウォーキングシミュレータというゲームジャンルは,より政治的になったのか?」という記事を続けて掲載した。

 記事の中でヒックス氏は,「このようなウォーキングシミュレータは,Feminist Frequency(女性活動家の運営するゲームブログ)のファンによって,一般の,暴力性の高いゲームの持つ“男性的パワーのファンタジー”に対抗する存在として賞賛されることが多い。(中略)ゲームメディアのジャーナリストはゲームをアートのように扱い,ゲーム表現の芸術性を誉め称えるが,問題なのは,ゲームは単なるアートではないということだ」と述べている。
 チェオン氏も,「もし,ゲームジャーナリズムがこれ見よがしにVirginiaを推さなければ,多くのゲーマーが買うこともなく,問題にならなかっただろう」とする。

主人公のアン(右)とパートナーであり調査対象でもあるマリア(左)
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 筆者が「Virginia」をプレイして感じられたのは,黒人女性の主人公が新人捜査官のように装いつつ,上司(彼女も黒人女性)の素行を調査するという任務に揺れ動くアンの心情であり,また,夢やフラッシュバックからは,“過去に内偵した相手がすべてマイノリティ”であることが分かる。
 こうしたことから,北米社会に存在する差別などのシリアスな問題を女性の視点から描いたことを評価するメディアが多いのだが,それに対してヒックス氏とチェオン氏は,社会正義(ソーシャルジャスティス)をテーマにしたゲームコンテンツとゲームの面白さを混同していると批判しているわけだ。

 こうした意見に対して,New York Magazineのジェシー・シンガル(Jesse Singal)氏は,「なぜビデオゲームの文化戦争は終わらないのか」と題した記事で反論を試みている。シンガル氏は「こうした芸術的なゲームを,我々レビュワーが高く評価することは確かにある。我々には(ありふれた)ゾンビ(のゲーム)ではなく,新たなジャンルの作品を見たいという欲求があるからだ」としており,「VGCW」という略称が広まっているらしい「ビデオゲームの文化戦争」(Video-Game Culture Wars)にからめて,ヒックス氏とチェオン氏の意見を批判している。

アンとマリア,どちらもFBIという白人男性社会で働く黒人女性だ。この点が本作の重要な背景だと思われるが,「Virginia」にはキャラクターのセリフがまったくないため,それさえハッキリとは分からない
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「Unity」エンジンを使ったインタラクティブなCG映画


 ウォーキングシミュレータである「Virginia」に対するSteamのファンレビューは「賛否両論」となっており,ゲーマーは北米のメディアほど高く評価していない。「黒人女性が主人公であること」には肯定も否定もほとんどなく,「おすすめしません」の理由としては,インタラクティビティの少なさと,2時間ほどで終わってしまうゲームの短さに対する不満が中心のようだ。

 Variable Stateは,「1990年代のテレビドラマにインスパイアされた」と公式サイトに書いており,それで間違いはないのだろう。確かにプレイしてみれば,「ゲーム」というより「映画」に近いノリで,アドベンチャーゲームというよりも,「Unity」を使った多少インタラクティブなCG映画,と言ったほうが,しっくりと来る。だからといって,筆者は「ウォーキングシミュレータはゲームではない」と言っているわけではない。
 「Everybody's Gone to the Rapture」など,The Chinese Roomの一連の作品や,「Kentucky Route Zero」「Life is Strange」などには強い印象を受けており,もし誰かに点数を聞かれれば,かなり高いスコアを付けるだろう。

「Virginia」は「Unity」を使って2014年初期から開発が進められていた
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 とはいえ,ウォーキングシミュレータが,例えば「コール・オブ・デューティ」や「バトルフィールド」,あるいは「ファイナルファンタジー」や「ダークソウルズ」と同列の存在かと言われると悩ましい。
 GameIndustry.bizによれば,「DOOM」のデザイナーであるジョン・ロメロ(John Romero)氏は,最近スウェーデンで開催された開発者会議で「ゲームの境界線が広がっていくのは,我々クリエイターがゲームから何か新しいものを引き出そうとするからです。同時に,新しく生み出されたものがゲームの範疇にあるのかどうか,疑問に思う人が必ず出てきます。彼らは境界線が広がったことに気づいてないのです」と語ったという(関連記事)。

2016年2月にリリースされたウォーキングシミュレータ「Firewatch」も,4時間程度の短いゲームだったが,最近,世界を自由に散策できる「Free Roam」モードが追加された
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 ウォーキングシミュレータは,大手メーカーの外にいる作家性の高いクリエイター達が,より安価にゲームを作り,そして売ることができるようになった4〜5年前に出現し,数を増やしてきた。Steamのユーザーレビューの中に,「Virginiaのインタラクティブ性は,小説のページをめくる程度のものでしかない」という書き込みがあったが,確かにそのとおりで,表現方法としては小説や映画など,別のメディアからの借り物が多い。「実験」の範疇から,わずかに外に出た程度の成熟度なのだろう。そして,我々ゲーマーも,その実験が理解できるほど慣れていないのかもしれない。
 このジャンルがどのように発展していくのか,今後も注目していくべきだろう。


著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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