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印刷2015/08/31 12:00

業界動向

Access Accepted第471回:最近のヨーロッパにおけるゲーム開発事情

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 パブリッシャが開発本数を減らしつつある最近の欧米ゲーム業界においては,デベロッパにとって,「どうやって開発資金を捻出するか」が、これまで以上に大きな課題になっており,一般からの投資を募るクラウドファンディングが注目されているのはご存じのとおり。今週は,勢いのよいヨーロッパのゲーム開発事情を,資金という面に注目して紹介してみたい。


ベンチャーキャピタルから投資を受けた
VR対応ゲーム専用メーカー


 KickstarterIndiegogoといったクラウドファンディングサイトを利用してゲームプロジェクトを立ち上げようという動きが,インディーズ系スタジオを中心として一般化しつつあるのは,この連載をお読みの皆さんならすでにご存じだろう。大手ゲームパブリッシャがリリースタイトルを減らし,その代わりに1本にかける予算を増やす傾向があり,小さなデベロッパにとって開発資金の捻出は,ますます大きな課題になってきた。そこで,企画を公開することで,それに期待してくれるゲーマーに投資してもらおうというわけだ。
 当然ながら、クラウドファンディングは一つの賭けであり,華々しい成功を収めるプロジェクトの影で,それなりに話題にはなりながら消えてしまったプロジェクトも少なくない。

トミー・パルム(Tommy Palm)氏は,モバイル向けに2012年にリリースされ,爆発的なヒットを記録した「Candy Crash Saga」の開発者であり,King Digital Entertainmentのスポークスマン的な役割も担っていた人物だ
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 そんなクラウドファンディングとは別に,ベンチャーキャピタルとも呼ばれる投資会社から,直接資金を調達するケースも最近,よく耳にするようになってきた。Intel,Apple,Sun Microsystemsなどのハードウェアメーカーが設立時にベンチャーキャピタルから資金提供を受けたことはよく知られるが,ゲームについては,これまでほぼ「投資の対象外」という扱いだった。しかし,ゲームの市場規模が大きくなり,成功すれば十分な利益が見込めるようになってきたことから,ベンチャーキャピタルも方向転換を図ってきたのだろう。
 成功したIT企業やその経営者などが,資産運用を目的に投資会社を設立し,ゲーム会社やゲームビジネスへの投資を盛んに行っているが,こうした会社はパブリッシャと異なり,ゲームそのものへの口出しはしないものの,利益を出せないと見るや経営者の首をすげ変えたり,IPをほかへ売り飛ばしてしまうようなことも少なくない。

 さて,こうしたベンチャーキャピタルを巧みに活用しているのが,ヨーロッパのゲームメーカーであり,投資会社の資金を得て,モバイルやコンシューマー機向けタイトルで成功するメーカーが次々と生まれている。2015年8月には,スウェーデンのResolution Gamesというデベロッパが,600万ドル(約7億2000万円)の資金調達に成功した。彼らに資金を提供したのは,Google Venturesを中心とする北米の投資グループで,彼らはヨーロッパにおけるビジネスの開拓を目的として設立されており,Resolution Gamesは,その初の投資案件となった。

 2015年5月に立ち上がったResolution Gamesは,当然ながらまだ何のゲームもリリースしていないゲームメーカーだ。アピールできるのは,創設者であるトミー・パルム(Tommy Palm)氏が,2012年にリリースされて大ヒットした「Candy Crush Saga」の制作に関わっていたことと,Resolution GamesがVR(仮想現実)に対応したゲームの開発を意図しているという2点のみとなる。
 にもかかわらず600万ドルという投資の対象になったのは,Google Venturesが「今後5年間は,VR対応ゲームのラッシュになる」と見込んでいるからであり,Resolution Gamesの「VR対応ゲーム革命は,ハードウェアだけではなくソフトウェアからも行われるべき」というパルム氏の言葉に説得力を感じたからだという。

パルム氏により2015年5月に設立されたResolution Gamesは,VR対応ゲームを専門に開発することを目的に設立された新しいゲーム会社だ。ただ,表立っては現在のところ,「Fishing」と呼ばれるプロジェクトのスクリーンショットが公開されているのみ
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EUレベルでゲーム開発をサポートする
「Creative Europe」


 ヨーロッパ各国は,ゲーム産業を含む新しいビジネスの誘致や活性化を目指した施策を盛んに行っている。その一つが,ヨーロッパ連合の下部組織である欧州委員会が主導し,メディア文化を育成するなどの目的で設立された「Creative Europe」だ。イギリスに本部を置く「Creative Europe」には,14.6億ユーロという予算が計上されており,2015年に入ってからは,すでに31のゲームプロジェクトに合計340万ユーロが提供されているという。

「Creative Europe」が発表した資金提供リストの一部。上限15万ユーロで,さまざまな国のメーカーのプロジェクトが支援されていることが分かる。無名のメーカーが多いものの,ここからどのようなプロジェクトが生み出されてくるのか,楽しみだ
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 提供先として目立つのは,ポーランドのCD Projektが制作したアクションRPG「The Witcher 3: Wild Hunt」の拡張パック「The Witcher 3: Blood and Wine」で,これを購入すると,新しい地域がアンロックされて,20時間ものキャンペーンが楽しめるとのこと。ちなみに同作の場合,「Creative Europe」から提供された15万ユーロは,開発費全体の7%ほどになるという。
 また,スロベニアのMedia ATLASというスタジオが開発する「Maenas Down」には,2万4000ユーロが提供されたが,こちらは開発予算の44%と、半分近くを占めるそうだ。
 このように「Creative Europe」は,メーカーやプロジェクトの規模,対応プラットフォームなどにはあまりこだわっていない。ただ,資金提供の条件の一つに「ストーリー性のあるもの」というものがあり,そのためアドベンチャーやRPGタイトルが多く選ばれているとのことだ。

 この他に気になるところでは,PlayStation 4向けにリリースされた「Everybody's Gone to the Rapture」を開発したイギリスのThe Chinese Roomによる「Total Dark」という新作や,Paradox Interactiveの開発部門であるParadox Development Studioが申請した「Project Dallas」といった,割と知られたメーカーの未発表タイトルが「Creative Europe」によってアナウンスされている。我々のようなメディアとしては,一つの情報源としても扱っていくことになるかもしれない。

日本でもリリースされた「Everybody’s Gone to the Rapture」を開発したThe Chinese Roomの新作は,「Creative Europe」の資料によると「Total Dark」というコードネームらしい
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 モバイルやインディーズゲームを中心に,ヨーロッパにおけるゲーム産業は最近,勢いがあるように筆者の目に映るが,それは,「Creative Europe」などのプログラムにより,さまざまな規模のゲーム企業を官民でサポートする体制が整っているからこそだろう。イギリスや北欧では,ゲーム開発は「成長産業」と位置づけられており,一人当たりのゲーム購入数も日本を上回る規模になったという。開発側に安定した環境を与えることで,さらに成長しそうなヨーロッパのゲーム産業は,「Creative Europe」ともども,今後も注目する必要がありそうだ。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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