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Access Accepted第435回:Xboxと香水。独占的マーケティングについて考える
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印刷2014/09/22 12:00

業界動向

Access Accepted第435回:Xboxと香水。独占的マーケティングについて考える

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第435回:Xboxと香水。独占的マーケティングについて考える

 欧米のゲーム業界では最近,一つのプラットフォームホルダーがサードパーティーの新作タイトルに対して独占的な権利を獲得するというマーケティング手法がよく使われるようになってきた。例えばXboxプラットフォーム向けの「Call of Duty」シリーズのDLCが,他のプラットフォームより数週間早くリリースされるといったものだが,今回は,そんなマーケティング手法にまつわる動きを紹介したい。


ゲームではなく香水のプロモーション?


 ActivisionとBungieの新作FPS「Destiny」が欧米でリリースされる直前の2014年9月5日,Microsoft UKの公式Twitterに,「Destiny」と名づけられた,どこか見覚えがある深みがかった水色の香水の写真が掲載された。記されたリンクをたどってみると,「Destiny Fragrance」というWebページが表示され,以下のようなメッセージが写真と共に掲載されていた。

 「Xboxから新しい香水が発売されました……。つまりこういうことです。実際は,Destinyと呼ばれる,Xboxでもリリースされる最高のFPSの話なんですが,このゲームについて広告を出す権利を我々は持っていません。だから,我々は広告を出したりはしません。匂いを嗅ぎつけてくれてありがとうございます。ゲームをオーダーして,レジェンドになってください

このアートがMicrosoft UKの公式ツイッターにリリースされた直後から,「アカウントがハッキングされたのか?」といぶかしむ人が出てくるなど,大企業にしてはあまりにゲリラ的なマーケティングだった“Destiny Fragrance”。画像はその日のうちに削除され,現在はメッセージが表示されるだけだ
画像集#002のサムネイル/Access Accepted第435回:Xboxと香水。独占的マーケティングについて考える

 現在,この「Destiny Fragrance」のページは削除されているが,これは,ActivisionとSony Computer Entertainmentが「Destiny」の独占的なマーケティング権(Exclusive Marketing rights)について契約しているため,直接広告を打てないMicrosoftによる,ひとひねりした対抗策だったのだ。
 これが独占契約を侵害するかどうかは,ActivisionとSony Computer Entertainmentの判断に委ねるしかないが,フォーラムなどを見る限り,“掟破り”のやり方とする向きも少なくないようで,また,ユーモラスに書こうと思ったはずの文章からは,どこか必死さが感じられたりもする。

 こうした独占権を活用したマーケティング手法の先鞭として筆者が記憶しているのは,2009年にMicrosoftがE3 2009のメディアブリーフィングで大々的に発表した,「Call of Duty: Modern Warfare 2」のDLCについての時限独占だ。その後Microsoftは,この手法を最大限に活用し,さまざまなサードパーティタイトルのDLCを他に先駆けてリリースしてきた。

 Xboxプラットフォーム向けの「Fable」シリーズや,PlayStationの「The Last of Us」,さらに任天堂の「マリオブラザーズ」といったタイトルは,企画から開発,販売,広報までを一つのプラットフォームホルダーが主導して行うことになり,当然,他のプラットフォームではリリースされないため,思う存分に活用できる。
 これに対して独占権を使ったマーケティングは,他のプラットフォームホルダーが販売促進のための広報活動を行えなくするという規制を課することになり,プラットフォームホルダーはこの独占権を獲得するために相当な権利料を払う。パブリッシャやデベロッパにとっては開発費やマーケティング予算を削減できるという点で魅力的であり,欧米ゲーム業界では,キラーアプリになり得る大作ほど,こうした独占的なマーケティングの契約が交わされるケースが増えてきた。


「僕らは間違いなくHunterでプレイしますよ」


 例えば「Call of Duty」シリーズなら,「このDLCは,Xbox向けのリリースから2週間後に,PlayStationやPCでも配信されます」とActivisionが発表することはあるかもしれないが,Sony Computer Entertainmentがその事実をマーケティング活動に使うことは基本的にできない。それだけに,今回の「Destiny Fragrance」には“やってしまった感”が強く感じられる。ActivisionとMicrosoftは今回の件で何らかの協議を行ったという未確認情報もあるようだが,どういう形であれ,この“広告”によってゲーマーがXbox版「Destiny」の存在を強く意識したのであれば,それなりの成果を収めたといえるのかもしれない。

画像集#003のサムネイル/Access Accepted第435回:Xboxと香水。独占的マーケティングについて考える
 こうした他人の広告に便乗するような手法は,英語圏では「おんぶ商法」(Piggyback-Ride Marketing)とも呼ばれるが,必ずしも卑怯なやり方とは考えられていないようだ。例えば「Destiny」が発売された9月9日には,2K Gamesが2015年に発売する予定の「Evolve」のロゴと共に,「Bungieさん,発売おめでとう。僕らは間違いなくHunterでプレイしますよ」というメッセージを公開している。
 「Destiny」でプレイできるHunterクラスにちなんだコピーのようにも見えるが,「Evolve」は巨大モンスターをHunter達が狩るというCo-opモードをメインにしたゲームであり,つまり,自分達のゲームの宣伝のようにも読めるわけだ。

 また,「Destiny」関連ではないが,Electronic Artsの人気FPS「Battlefield」シリーズに便乗したのが「PAYDAY 2」を開発したOverkill Softwareだ。「PAYDAY 2」の最新DLC「Gage Assault Pack」は現在4.99ドルで発売されているが,そのキーアートは,掲載した画像からも分かるように,Battlefieldシリーズの公式プロモーション画像そっくりのスタイルで作られている。「Gage Assault Pack」のテーマミュージックも「Battlefield 4」を思わせるバスサウンドが鳴り響くという念の入れようだ。

「Battlefield 3」や「Battlefield 4」でおなじみのスタイルそっくりな「Gage Assault Pack」のキーアート。Electronic Artsの新作「Battlefield: Hardline」のコンセプトが「PAYDAY」シリーズに似ているという話題に便乗したものだが,EA DICEとOverkill Softwareの開発者同士が楽しんでいるようにも感じられる
画像集#004のサムネイル/Access Accepted第435回:Xboxと香水。独占的マーケティングについて考える

 ちなみにOverkill SoftwareとEA DICEは,同じスウェーデンのストックホルムに本拠を置くゲームメーカーであり,開発者の間にはそれなりの交流があるのかもしれない。
 Overkill Softwareは,人気シリーズ最新作である「Battlefield: Hardline」が,「PAYDAY 2」と同じ警官vs.泥棒というコンセプトになったことに危機を感じたわけではないようで,Steamのコミュニティページには,「これ(画像)は,同じ街の同業者に対する敬愛の印です」と記されている。

 Microsoftの「Destiny Fragrance」の場合,エンドユーザーにもルール違反ではないかと感じられる内容だったうえ,2K GamesやOverkill Softwareにあったユーモアも不十分だったように思われる。
 日本では発売すらされないXboxプラットフォーム向けの「Destiny」。こうした独占マーケティングは自由な競争を阻害するという指摘もあるものの,今のところライバルに差を付けるために有効な手段であることは間違いなく,今後もこうしたやり方は続けられていくだろう。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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