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Access Accepted第372回:受難の相次ぐベテランゲーム開発者
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印刷2013/02/04 12:00

業界動向

Access Accepted第372回:受難の相次ぐベテランゲーム開発者

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 次世代コンシューマ機の足音が確実に近づいている2013年。もちろん,どんなハードが出てこようとゲームがなければお話にならないわけで,次の時代のゲームにも期待しているはずだ。しかし,ゲーム開発費の高騰や市場の変化について行けず,足もとが揺らいできたメーカーも少なくない。THQが倒産して,IPを競売にかけたり,Atariが連邦倒産法の適用を申請したりと,息の上がったメーカーも出てきた。そして,ゲーム黎明期から開発を続けてきたベテラン達にも,受難の時代が訪れているようだ。


スペクター氏とEpic Mickey


 玩具とゲームを融合させた新規プロジェクト,「Disney Infinity」を北米時間の2013年1月15日に発表したDisney Interactive Studiosだが,わずか2週間後となる1月29日,今度は,テキサス州オースティンに本拠を置く同社傘下のデベロッパ,Junction Point Studiosの閉鎖を発表した。
 「Epic Mickey」シリーズを開発したJunction Point Studiosは,ゲーム業界で非常によく知られた名プロデューサー,ウォーレン・スペクター(Warren Spector)氏が率いるスタジオだったが,発表によれば,すでに100人以上のスタッフが解雇されたという。

ディズニーキャラクターに関する該博な知識でも知られた,ウォーレン・スペクター氏。Disney Interactive Studiosの傘下に入る前,非公開という条件付きで,進行中のプロジェクトについて筆者にいろいろと話してくれたことがあるが,元教師だったスペクター氏の博識さに,非常に感銘を受けた記憶がある
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 テーブルトークRPGの制作を経て,「Ultima」シリーズで知られるOrigin Systemsに入社したスペクター氏は,「Ultima」シリーズの番外編である「Ultima Underworld」の制作に携わる。やがて,Origin Systemsと関係の深かったLooking Glass Technologiesの担当となり,そこで「System Shock」(1994年)や「Thief: The Dark Project」(1998年)など,1990年代の名作を開発した。その後,id Softwareを退職したジョン・ロメロ(John Romero)氏が設立したION Stormに移り,ディレクターのハーヴィ・スミス(Harvey Smith)氏と共に名作「Deus Ex」(2000年)を制作したという華麗な経歴の持ち主だ。IGDA(International Game Developers Association)の運営にも深くかかわり,2012年にはその功績を讃えられ,IGDAの「生涯功労賞」を受賞している。

 そんなスペクター氏が自分のゲームスタジオ,Junction Point Studiosを設立したのは2005年のことで,最初は「Junction Point」というコードネームのプロジェクトを進めていたが,2007年にDisney Interactive Studiosに買収された。Junction Point Studiosが制作した「Epic Mickey」は,キャラクターゲームでありながら,以前のディズニー作品,とくにミッキーマウスが登場するゲームには見られなかったダークな世界観を持っている。この大胆な決定をディズニーが許可したのも,スペクター氏の手腕を信じてのことだろう。

「Epic Mickey 2: The Power of Two」
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(C)Disney.

 Wii専用タイトルのEpic Mickeyが発売された2010年は,すでにWii市場が飽和しつつあり,新作のリリースが減り続けていた時期だ。しかし,Wiiリモコンを筆に見たててプレイするシステムと個性的な雰囲気が,欧米のWiiファン,ディズニーファンに響いたのだろう,ロングテールで売れ続け,累計で280万本のヒット作になった。
 そして2012年には,続編となる「Epic Mickey 2: The Power of Two」をリリース。こちらは,すべてのプラットフォームの累計で100万本ほどのセールスを記録している。確かに事前のプロモーションの割には売れていない印象だが,直ちに閉鎖されるような惨状とも思えない。
 もともと,ゲームプロジェクトを多くは抱えていないDisney Interactive Studiosだけに,Epic Mickeyシリーズを終了させ,今後はDisney Infinityに力を入れようという経営判断を下したのだろうか。いずれにしろ,Junction Point Studiosにおけるスペクター氏のキャリアも終わりを告げることになった。


インディーズから再起を図るベテラン達


 スペクター氏に限らず,ベテランゲーム開発者達には最近,あまり良くないことが続いているようだ。本連載の第360回「一時代の終わり。転換期を迎えたBioWare」では,BioWare設立者として数々の名作RPGを世に送り出したレイ・ミュージカ(Ray Muzyka)氏と,グレッグ・ゼスチャック(Greg Zeschuk)氏の辞職を紹介した。また,2009年にZyngaに入社したブライアン・レイノルズ(Brian Reynolds)氏も,チーフデザイナーという役職を辞任したことが明らかになっている。

2005年に「Rise of Nations」のプロモーションで4Gamer編集部にやってきたこともあるブライアン・レイノルズ氏。ストラテジーゲーマーの多くが,彼の作品に触れたことがあるはずだ。今後は,「自分の興味を優先する」とのことで,PCゲーム開発を再開する可能性は十分にある
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 レイノルズ氏は,Microprose時代にシド・マイヤー(Sid Meier)氏の片腕としてゲーム開発に関わり,「Sid Meier's Civilization II」「Sid Meier's Alpha Centauri」,そして「Sid Meier's Colonization」などでリードデザイナーを担当している。その後,Big Huge Gamesを設立して「Rise of Nations」などを開発した。

 Zyngaがレイノルズ氏をヘッドハントしたのは,Facebookゲームという新市場が脚光を浴びる中,欠けている部分を補うためだった。Facebookゲームをプレイするゲーマーは,最初はカジュアルだが,市場が成熟していくにつれてコア化していくという判断があり,それに対応する必要があったのだ。もっとも,レイノルズ氏は,最初に関与したプロジェクト「FrontierVille」について,その開発ペースの速さに,伝えることよりも学ぶことが多かったと語っている。

 ところが,2012年頃からFacebook市場には拡大するどころかブレーキがかかり始め,その影響をZyngaはもろに受けることになった。Facebook向けタイトルにおける類似作品の量産にはかえって拍車がかかり,緻密なゲーム作りで知られるレイノルズ氏の本領が発揮されることは最後までなかった。今後,彼は新しい道を歩むとのことだが,詳しいことは明らかになっていない。

Gas Powered Gamesでのレイオフが発覚した直後の1月20日に公開された開発者ダイアリーで,時おり言葉を詰まらせながら「Wildman」のプロジェクト存続を訴えるクリス・テイラー氏。いつもはジョークばかり言う人だが,今回ばかりは仲間達への切実な思いを感じさせる
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 また最近,「Total Annihilation」「Dungeon Siege」など,コアなゲーマーに人気の高い数々の作品を生み出したクリス・テイラー(Chris Taylor)氏が,Kickstarterで新規プロジェクトとなるアクションRPG「Wildman」企画を発表した。現在は資金を集めている途中だが,この企画の発表直後,Gas Powered Gamesの多くのメンバーが解雇されたことが明らかになった。テイラー氏はそれを受け,このWildmanが,資金難から解雇したメンバーを呼び戻す,起死回生の一手であることを認める,悲壮感漂う開発者ダイアリーを公開したのだ。原稿執筆時点で,14日の募集期間を残して目標額の半分以下という状況であり,プロジェクトの行方はシビアな状況である。

「Godus」
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 Atariの「Pong」の登場が1972年。史上初のサードパーティといわれる,Activisionの設立が1979年。100年以上の歴史を持つ映画産業に比べて,北米のゲーム産業はまだ若く,多くの開発者達が引退するには早すぎる年齢だ。ベテラン開発者の多くが,今後もゲームを作り続けたいと思っているはずだが,ゲーム市場の変化や市場規模の縮小などで,機会は減り続けている。

 テイラー氏を含め,そんな彼らが注目しているのがクラウドファンディングだ。Double Fine Productionsのティム・シェーファー(Tim Schaefer)氏や,22Cansの仲間と共に「Godus」の制作で久々に最前線に立つピーター・モリニュー氏,「Wing Commander」など名作の数々を生み出し,「Star Citizen」で久々のカムバックを計るクリス・ロバーツ(Chris Roberts)氏,さらにはSierra On-Lineのアドベンチャー全盛時代を支え,現在は「Mobius」を開発中のジェーン・ジェンセン(Jane Jensen)氏らは,大手メーカーの傘下をはずれ,いわばインディーズとしてゲームを作っていこうとしている。

 最近,あまり良くない話が聞こえてくるベテランゲーム開発者達だが,クラウドファンディングという新たな仕組みと高い知名度,そしていぶし銀のような経験を元に,これからも多くの作品を生み出していってほしいと願う。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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