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Access Accepted第371回:アメリカで再燃する銃規制
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印刷2013/01/28 12:00

業界動向

Access Accepted第371回:アメリカで再燃する銃規制

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第371回:アメリカで再燃する銃規制

 毎年,約3万3000人が銃で命を落とすというアメリカだが,小学生の児童20人を含む26人もの犠牲者を出したコネチカット州の殺人事件から1か月ほどが経過し,銃規制に向けた法案作りが議会を中心に進められている。アメリカでは,なぜこうも銃の規制や所持で意見が分かれるのか? 今回は,そうした銃社会の問題にスポットをあてつつ,いつもどおりに火の粉が降りかかってきた暴力的なゲームに対する批判なども紹介したい。


銃規制の前に立ちはだかる「修正第2条」とは?


 クリスマスを控えた2012年12月14日,コネチカット州ニュータウンのサンディフック小学校に,アサルトライフルを手にした20歳の青年が突然押し入り,21人の児童と,阻止しようとした校長ら計26人を殺害し,容疑者自身も死ぬという事件が発生した。犯人は犯行直前,自宅で就寝中の母親も殺害しており,遺書や犯行声明のようなものが見つからないため,今のところ犯人の動機は明らかになっていない。

事前に殺害された母親を含めると,27人もの人命が失われたコネチカット州ニュータウン。2万7000人ほどの小さな町だが,ニューヨークの中心,マンハッタンまでは100kmほどだ。惨事を目の当たりにした児童の心の傷が癒されるには,長い時間がかかるだろう (画像: Newtown公式サイトより)
画像集#002のサムネイル/Access Accepted第371回:アメリカで再燃する銃規制
 今回の事件は,2007年に32人の死者を出した,バージニア工科大学に続く死者を出す惨事となったが,今回は犠牲者のほとんどが小学生だったこともあって,社会に波紋を広げている。犯人の母親は銃のコレクターであり,離婚していた。身を守るために銃器を所持していたとも考えられるが,高い殺傷能力を持つアサルトライフル,ブッシュマスター XM‐15などをあえて持つ必要性はない。さらに,アメリカでも比較的銃器の規制が強いと言われるコネチカット州でありながら,彼女は合法的これらの銃器を所持しており,そのため銃規制の議論が再燃しているのだ。

 バラク・オバマ大統領はただちに「我々の力の及ぶ限り,なんでもする」と発言しているが,大統領の前に立ちはだかっているのが,「修正第2条」(Second Amendment)と呼ばれる,基本的人権を保障するアメリカ合衆国憲法の「権利章典」の一条項だ。この修正第2条には,「規律ある民兵は,自由な国家の安全にとって必要となるものであり,人民が武器を保有したり携帯したりする権利は,これを侵してはならない」※とあり,多くの国民がこれを支持している。

※原文:A well regulated Militia, being necessary to the security of a free State, the right of the people to keep and bear Arms, shall not be infringed.

 「民兵」という言葉からも分かるように,この法律はアメリカ独立戦争直後の1789年に提案されたもの。実施は1791年で,その際に改訂が加えられたので,「修正第2条」という名称になった。それから200年以上が経過し,アメリカ社会だけでなく世界のあり方も大きく変わったが,今のところ権利章典を書き換えるという動きはない。


アサルトライフルを合法的に所持できるアメリカ


 独立戦争によって自由を勝ち取ったという自負を持つアメリカ人にとって,修正第2条の改正しがたい人権であり,その意識は外国人にとって分かりづらいものだ。日本人なら,豊臣秀吉の刀狩りのように,政府が銃器所持を全面的に禁止をしてしまえばいいのではないかと考えるだろうし,コロンビアの首都ボゴタを一例に挙げると,実際に銃器所持を禁止することで,銃器による犯罪が68%も減ったという。

銃規制の大きな障害となっているのが全米ライフル協会だ。今回の事件でも,安全な銃器所持がアメリカ国民の特権であることを説き,批判を映画やゲームなどに向けさせようという意図が見える
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 銃規制反対の急先鋒となっているのが, National Rifle Association(全米ライフル協会。以下NRA)だ。豊富な資金や人材をバックに,政府へのロビー活動を盛んに行っており,憲法改定による銃規制の実現性は低い。

 現在のアメリカでは,国民意識からも銃所持を完全に禁止することはできないし,「銃を持っているかもしれない」と思わせることで,ある種の犯罪抑止効果を発揮しているという意見もある。
 そんな状況下で,北米時間の2013年1月24日に議会に提出された銃器規制法案は,ブッシュマスター XM-15を始め,AR-15,AK-47,M-16,そしてUZIといった「アサルト兵器」150種について,使用,製造,販売,出荷,輸出を規制するという,これまでになく踏み込んだ内容のものになっている。

犯行に使われたのと同じシリーズのブッシュマスター XM-15。アメリカ在住の筆者にも,こんなものが合法的に入手できるアメリカという国が不思議でならない。サンディフック事件という不幸な出来事を契機に,銃社会アメリカにメスが入るのだろうか (画像: Bushmaster Firearms Internationaホームページより)
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 提出された法案では,アサルト兵器の定義について「10発以上の弾倉を含むもの」「フォワードバレルのあるもの」などといった表現になっており,同等の機能を持つピストルやショットガンなども,いずれは規制の対象に含められるのかもしれない。実際,それを懸念するNRAや政治家達の中には,この法案を批判する動きもある。


やはりわき上がってきたゲーム批判


 このように,銃規制問題はアメリカ社会において非常に根深い問題なのだが,サンディフックの事件に関連して,予想通り再燃してきたのが,「暴力ゲーム論争」だ。こうした事件が起こるたびにゲームがやり玉に挙げられるのは,皮肉な言い方をすれば“お約束”だが,今回も,サンディフック事件の犯人が「Call of Duty」シリーズの熱狂的なファンだったという話が,事件発生の数日後から言われ始めている。

 犯人が実際にどの程度のゲームマニアだったのかは,彼が犯行前にPCやゲーム機を破壊しているらしく,現在のところ判明していないし,犯人が「Call of Duty」のプレイヤーだったという話についても,自宅に出入りしていた配管工の証言以外になく,実際に“熱狂的な”プレイヤーだったのかどうかは,今のところ推測の域を出ていない。
 そもそも,世界には2600万人もの「Call of Duty」プレイヤーがおり,そのうちの一人が事件を起こしたことを,だからゲームは人々を犯罪に走らせる存在であるとする考え方には,無理があるだろう。

犯人がプレイしていたとされることから,政治家やメディアのやり玉に挙げられている「Call of Duty」シリーズの最新作「Call of Duty: Black Ops 2」。ゲームがなぜ「銃器で母親や児童を殺したい」という衝動につながるのか筆者にとっては謎だが,次世代コンシューマ機の登場を前に,ゲーム業界の暴力表現に対する規制が加速することも予想される
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 ところが,民主党議員を中心にゲームを批判する声はアメリカ議会に多く,ジェイ・ロックフェラー議員ジョー・リーバーマン議員らは,事件発生直後から,「ビデオゲームがどれだけ暴力行為と因果関係があるのか,政府が調査するべきだ」という声明を出している。また,事件のあったコネチカット州選出のクリストファー・マーフィ民主党議員は「ビデオゲームが犯人に間違った形の勇気を与えた」と,1月24日の銃規制法案提出の際のプレス向けカンファレンスで発言しているほか,本連載にも反ゲーム論者として何度か登場しているカリフォルニア州選出のリーランド・イー民主党議員は,地元紙のSan Francisco Chroniclesの取材に,「ここまで来たら,もうゲーマーは黙っていたほうが良い」などと答えている。

 こうした意見にはNRAも同調しており,スポークスマンとしてメディアによく登場するNRA副会長,ウェイン・ラピエール氏は,「アサルトライフルが人々を凶暴にするわけではない。今回の犯人のようなモンスターは,メディアによって助長されるのであり,暴力的なゲームがその急先鋒だ」と,矛先をゲーム業界に向けている。

 これに対して北米ゲーム業界は,いつものように沈黙を続けているが,テキサスM&A大学のクリストファー・ファーガソン氏による「ゲームと現実の暴力との間に,関連性はない」とする調査報告など,アカデミック分野からの反論はいくつか見られる。

 こうした事件が起きるたびに必ず批判されるゲームだが,今回はやや雰囲気が異なるように感じられる。20人もの幼い命が奪われた事件を前に,「ゲームのせいだ」というNRAの主張には何の説得力も見えず,銃規制法案の審議が進んでいるのが現状だ。アメリカが一つの岐路にさしかかっているのは間違いないだろう。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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