業界動向
Access Accepted第368回:Aクラスのタイトルが消えつつある2012年の欧米ゲーム業界
2012年も終わろうとしているが,今年の欧米ゲーム業界のトレンドを一つあげろと言われれば,筆者は「Aクラスタイトルの減少」を指摘したい。何千万本ものセールスを記録する,いわゆる「AAA」タイトルは例年にないほど登場したが,そういうブロックバスター作品しか売れない現状は,欧米ゲーム市場の衰退を意味するものとも言われる。ゲーム業界関係者にとって先読みの難しいこの時期,なぜAクラスタイトルが姿を消しつつあるのかを考えてみたい。
超大作だけがコンシューマーゲーム市場を占有
「Wii U」のリリースによって,ハードウェア的には,ゲームが新たな世代に突入したことになる。では「次世代のゲーム」とはどのようなものだろうか。少なくとも,パブリッシャが資金を使ってパッケージを制作し,それを店舗で販売するという現在まだ主流であるスタイルのままではあるまい。メーカーに頼ることなくゲームの開発資金を調達する「クラウドファンディング」や,無料でゲームを遊ばせる「Free to Play」,そして「モバイル/ソーシャルゲーム」など,これからのゲームがどうなっていくのか,その兆しはあちこちで見られる。
単にゲームを遊んでもらうだけでなく,ネットワークを使った大きなサービスの一部と捉える方向性も顕著であり,プラットフォームホルダーを含めて,今後のゲーム業界のあり方は大きく変わっていきそうだ。
このような流れを背景にして,欧米ゲーム業界では1つのトレンドがハッキリしてきた。それは,いわゆる「AAA(トリプルA)タイトル」に続くべきAクラスのタイトルがほとんど発売されなくなったということだ。2012年の欧米ゲーム市場では,従来を上回る大ヒット作が次々に登場し,一見すると非常に好調である。
・「Halo 4」は,発売後24時間で2億2000万ドルのセールスを記録し,2007年にリリースされた前作「Halo 3」の1億7000万ドルを大きく上回った。現在までの推定販売本数は約600万本。
・「Call of Duty: Black Ops 2」は,発売後24時間で欧米のエンターテイメント史上最高となる5億ドルの売り上げを記録し,さらに,史上最速となる15日で10億ドルのセールスを達成した。
・「Assassin's Creed 3」は,1か月で700万本の販売を達成し,シリーズ最高のみならず,Ubisoft Entertainment史上でも最高の売り上げを達成した。
・「FIFA 13」は,販売から5日で400万本,1か月で740万本のシリーズ最高の販売本数を記録。サッカーゲームに関心が薄いといわれる北米でも,シリーズ史上最高の146万本を販売している。
・「Diablo III」は,PC/Mac向けのゲームでありながら,発売初日に350万本,初週で630万本のセールスを記録。6週間の販売本数は1000万本に到達した。
厳密な定義は存在しないが,欧米メディアが「AAAタイトル」と呼ぶのは,300万本を超えるくらいのヒットを飛ばしたタイトルを指すことが多い。詳しい数字は,いずれ各リサーチ会社から発表されるはずだが,上記のタイトル以外では「Mass Effect 3」「BIOHAZARD 6」,そして「Borderlands 2」などが圏内に入ってきそうだ。
AAAタイトルは,「ブロックバスター」と呼ばれることもあるが,もともとこれは第二次世界大戦中,イギリス空軍が空襲に使った大型爆弾の異名で,それが街の一つのブロックをすべて吹き飛ばしてしまうほどの威力を持つことに由来する。上記の「Halo 4」「Call of Duty: Black Ops 2」「Assassin’s Creed 3」などはまさに,ライバルを一発で吹き飛ばしてしまうほどの威力を持っているタイトルだと言えよう。
ブロックバスターの対極として台頭する
モバイルやインディーズ
こうした大ヒット作が生まれる現状は喜ぶべきことだが,ここで問題になるのは,上にも書いたように,AAAの次にあるべき「A」クラスのタイトルがほとんど話題にならないことだ。
ショッピングシーズンにはブロックバスター作品が市場を席巻してしまうため,同時期に新作を出しても小売店やオンラインショップで十分なプロモーションをしてもらえないこともある。そうしたリスクを避けて,発売を翌年2月〜5月にずらすメーカーも少なくないようだ。
また,現世代のコンシューマー機向けタイトルでは,ハードウェアがフレッシュで新作が次々に発売されていた時期には,「ちょっと遊んでみよう」という感覚でさまざまな作品が売れていたが,そうした時期が終わり,確実に楽しめる(つまり,確実に売れる)作品としてシリーズものが選ばれているわけだ。言い換えれば,初期のタイトルはそのハードウェアの市場を広げる役目を持っていたが,それが出来上がってしまった今,少数のヒット作による寡占が進んでいるということだ。
PlayStation 3/Xbox 360世代では,それ以前に比べて開発費がはるかに高騰しているため,メーカーとしてもリスクの低い,確実なヒットが望めるシリーズ作品に資金を注ぐことになる。それゆえ,完全新規IPの制作はますます減少することになるのだ。一方,その反動として多くの開発者がモバイルゲームやインディーズゲームに流れ,結果として,欧米では新しいビジネスモデルであるFree to Playのオンラインゲームが数を増やし,クラウドファンディングという新しい開発費の調達方法が注目され始めてきた。
より少ない資金で開発できるモバイルゲームに多くの人材が集まることで,市場は活況を呈しており,玉石混淆という雰囲気もあるものの,評価の高い作品も生まれている。インディーズゲーム市場においては,例えばXbox 360版だけで450万本,PC/Mac版では830万本というヒットになった「Minecraft」のような作品が生まれており,志のあるベテラン開発者が独立して新作を開発すると事例も増えてきた。
確かにAクラスのタイトル数は減少しており,確実に売れる少数のタイトルが市場を独占している状態であることは間違いない。だが,その代わりに新たな市場が急速に台頭しており,やがてコンシューマ機の市場を脅かすかもしれない。そう考えると,開発者達にとっても我々ゲーマーにとっても,欧米ゲーム市場はかつてないほど面白い時期にさしかかっているのではないだろうか。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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