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Access Accepted第363回:学術的に見たゲーム研究最前線
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印刷2012/11/05 12:00

業界動向

Access Accepted第363回:学術的に見たゲーム研究最前線

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第363回:学術的に見たゲーム研究最前線

 ソーシャル/カジュアルタイトルやモバイル機の普及で,プレイヤー人口が増加し,さらにコミュニケーションやビジネス分野で「ゲーミフィケーション」がもてはやされるなど,ゲームの社会的な地位が向上しつつある。それにつれて,そもそもゲームとはなんなのか,娯楽以外に,どう利用できるのか,といった本質を調べようとする研究者も増えてきた。今回は,アカデミックな視点でどのような研究が行われているのか,いくつかの実例とその成果を紹介したい。


真面目な研究の対象になりつつある「ゲーム」


最近ではあまり聞かれなくなった「暴力ゲーム論争」だが,論争そのものが“ピントはずれだった”とする研究も出ている
画像集#002のサムネイル/Access Accepted第363回:学術的に見たゲーム研究最前線
 コンピューターゲームとはくだらない遊びであり,それをすることに価値がないとされたのは,もう昔の話。昨今では,ゲーム業界が過去40年にわたって培ってきたノウハウが,例えば「ゲーミフィケーション」などの成果として,社会に貢献したりといったことが怒っている。モバイル向けのカジュアルゲームやソーシャルゲームの普及により,「ゲーム=バイオレンス」という偏見も薄れてきた。

 本連載では,第296回の「ハンデキャップを軽やかに乗り越えるゲーマーの物語」や第335回「科学の進歩に貢献するゲーム」などで,重度の障害にも関わらずゲームを楽しむ人や,問題をゲーム化することで難問を数日間で解き明かしてしまった例など,ゲームのポジティブな側面を紹介してきた。単なる娯楽にすぎなかったゲームが,我々の生活向上に貢献できることが,広く一般にも認知されつつあるわけだ。

 こうした流れを反映してか,大学などの専門家がゲームを利用して研究を進めたり,ゲームそのものを研究するといった事例が増え,その結果を一般メディアが取り上げることも多くなっている。もちろん,ゲームにとってポジティブなものばかりではないが,そこには「ああ,またゲームを知らない人が何か言ってるよ」という雰囲気はなく,個人的には,ゲームが映画や音楽と同様の市民権を得つつあるように感じられる。

 というわけで今回は,欧米の大学や研究機関から発表されている,ゲーム研究の成果をいくつかピックアップして紹介したい。中には,「果たしてこの研究に何か意味があるのか」と思えるようなものもあるかもしれないが,ゲーム研究の多くが端緒に付いたばかり。今後の発展にも期待しつつ,軽い気持ちで目をとおしてほしい。


・ゲームで児童の成績が向上する


 ミシガン大学の心理学者であるSusanne Jaeggi博士らの報告によると,パズルゲームなどを日常的に行うことによって記憶力が向上し,学校の成績も良くなるという調査結果が出た(関連記事)。
 これは,小中学生62人を二つのグループに分け,1日15分,1か月にわたって知識やボキャブラリーの記憶練習をするという実験で,1つのグループは通常の問題用紙を使い,もう1つのグループは,ゲーム化された質問に答えるという形式で行われた。その結果,ゲームを使ったグループのほうが,実験後に行われたテストの成績が良かったという。

 「問題用紙に比べて,ディスプレイを見ているほうが集中できる」というのが博士の見解。
 ちなみに,効果が見られるのは,ゲームの操作に慣れていることが前提になっている。ゲームに不慣れな児童の場合は,質問に答える前にフラストレーションが溜まってしまうようだ。


・就寝前の暴力的ゲームは浅い眠りの原因に


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 仕事や学校が終わって自宅に帰り,就寝前のちょっとした時間でゲームを楽しむという人も少なくないはずだが,ゲームは睡眠の質に大きな影響を与えるという調査結果が発表されている。
 これは,オーストラリアのフリンダース大学の大学院生,Daniel Kingさんが,10代の青年17人に対して行った調査によるもので,就寝前の150分間,暴力的なゲームを遊ばせたところ,平均で39分の入眠遅延が発生し,また,REM睡眠(身体は休息状態だが,脳が活発に活動している睡眠状態のこと)の時間は12分減少したという。

 ゲームを150分間プレイするというのは長すぎるような気がするが,それはともかく,Kingさんの指導を行ったMichael Gradisar教授によると,REM睡眠はその日の出来事や考えなどをレビューする貴重な時間であり,就眠前のゲームをやり過ぎは,次の日にも悪影響を与える可能性があるという。もっとも,「非暴力的なゲーム」を使った対照実験が行われておらず,さらに「就寝前に50分間,暴力的なゲームをしても,睡眠には影響がなかった」という結果も同時に出ているとのことで,結論は簡単に出せないようだ。


・PTSDに苦しむ兵士を,ゲームでセラピー


 アメリカ心理学会所属のKelli Dunlap氏が,ゲームコミュニティであるTwitchやハードウェアメーカーのAlienwareなどの協力を得て行っているのが「Leveling Up」という実験だ(関連記事)。実験によれば,PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ兵士達にゲームをプレイしてもらうことで,ある程度の回復が見込めるという。

 2003年から始まったイラク侵攻では,従軍した兵士の実に35%に,なんらかのトラウマ,また,うつ病の徴候が見られたと言われる。そうした人々の社会復帰は,アメリカ社会において大きな問題になっているが,Dunlap氏は,ボランティアとして参加したPTSD患者にゲームをしてもらい,レベルやミッションを段階的に複雑にしていった。そして,1つステップを上がるごとに報酬を与えたという。

 ゲームはもともと,何度もトライすることで上達し,できなかったことができるようになる。そういう「レベルアップ」の達成感を,セラピーに利用しようという試みなのだ。


・ゲーマーにも見られる「マクベス効果」


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 スコットランド王ダンカンがマクベスによって殺されたあと,夫をそそのかしたマクベス夫人は,自分の手についた目に見えない血を必死に洗い落とそうとする。このような,罪を洗い流そうとする心理的な動きを「マクベス効果」と呼ぶのだが,暴力的なゲームで遊んだゲーマーにもこれが見られるという。

 これは,ルクセンブルグ大学のAndre Melzer博士76人のボランティアに対して行ったリサーチで,まず暴力的なゲームを遊ばせ,その報酬として用意されたさまざまなアイテムから自分の好きなものを選ばせたところ,多くの人がシャンプーや石鹸などを手に取ったという。
 Melzer博士は,「反道徳的な行為をしたあと,洗浄を求めようとするマクベス効果は,ゲームにもあてはまる」と述べている。マクベス効果は,暴力的なゲームになじみのない人ほど顕著であり,「バイオレントな描写に慣れた人は,罪の意識と向き合うそれぞれのテクニックを開拓しているようだ」と博士は分析している。激しく戦ったあと,ふと手を洗いたくなったら,それはマクベス効果のせいなのかもしれない。


・暴力ゲーム論争は意味がない


 スウェーデンのヨーテボリ大学の研究チームは「ゲームはプレイヤーに対して協調することを学習させるだけでなく,複雑な文脈やコンセプトを理解しやすくさせる」という趣旨の調査結果を,「International Journal of Computer-Supported Collaborative Learning」という論文にまとめて公開した。

 数百時間かけてオンラインゲーマーのプレイの様子や,その後の経緯を観察した研究チームは,たとえ暴力性の高いゲームでも,プレイヤー達はチームを組んだり協力したりすることで,さまざまな問題に立ち向かうための協調の原理を学ぶという。さらに,ゲームをうまく進めるため,内容を深く理解しようという向上心が養えるとのことだ。

 研究によると,良いゲーマーとは戦略的に考えることができ,技術的なスキルを持っている人のことであり,イライラしたり攻撃的になるプレイヤーは,ゲームがうまくない人が多いという。良いプレイヤーになるためには落ち着いてプレイする必要があり,それが人間性に良い影響を与えるというわけだ。
 また,この論文には「ゲームの暴力的内容が性格形成に影響することを証明するのは,難しい」とあり,暴力ゲーム論争に疑問を投げかけている。


著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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