業界動向
Access Accepted第346回:E3 2012を終えて。欧米ゲーム業界とE3はどこへ向かうのか
今週は取材の都合により,本日掲載いたします。
欧米ゲーム業界で最も重要なイベント,E3 2012が閉幕した。開催前日のプレスカンファレンス以降,4GamerにもE3関連の記事を多数掲載したが,それでも足りなかったと感じるのはいつものこと。とはいえ,2001年から毎年,E3の取材を続けてきた筆者にとって,今年のE3には例年にも増して考えされられることが多かった。イベントホールの喧騒がまだ耳に残る今,E3についての個人的な感想をまとめてみたい。
E3の中心に立って,E3について考えた
2012年6月5日から7日にかけて,北米最大のゲームイベント「E3 2012」が開催された。世界103か国から200社あまりが参加した今年のE3 2012だが,一時間以上も待たされる長い列を作っていたのは「Wii U」の試遊コーナーと「Call of Duty: Black Ops 2」のシアター,そして来場者に帽子を配っていた「Epic Mickey 2: The Power of Two」ブースくらいで,多くのブースが「暇そうだった」とまでは言えないものの,前年に比べて空いていたという印象だ。それでもイベントを主催するEntertainment Software Association(ESA)の速報によれば,来場者数は前年に比べて1100人少ない,4万5700人だったという。
「E3 2012」4Gamer特設ページ
開催前日にあたる6月4日にはMicrosoft,Electronic Arts,Ubisoft Entertainment,そしてSony Computer Entertainmentがプレスカンファレンスを開催,開催当日の午前には任天堂がプレスカンファレンスを行ったが,これだけでE3 2012のほとんどを消化したような気になった。
なにしろWii Uそのものや,Wii Uの新作タイトル,そしてそのほかのプラットフォーム向けの気になる大作ソフトのほとんどが以上のカンファレンスで発表され,E3はまるで,プレスカンファレンスの補足のようになっていたからだ。
今年のプレスカンファレンスで最も良かったメーカーを一つ選ぶとしたら,筆者はUbisoftを挙げたい。唯一の新型ハードを発表した任天堂の話題性は高かったものの,Wii Uは昨年(2011年)のE3でも発表されており,新味にはやや乏しい。それに対してUbisoftは,Wii U向けのタイトルで最も注目を浴びた「ZombieU」に加え「Assassin's Creed III」,さらに,Microsoftのカンファレンスでは「Tom Clancy's Splinter Cell Blacklist」を発表して存在感を発揮したのだ。
しかも自らが行ったカンファレンスでは,メディアの注目を集めた「Watch Dogs」を初公開する余裕ぶりで,発表が噂された「Tom Clancy's Rainbow Six: Patriots」を出さなかったにも関わらず,話題に事欠かなかった。
新鮮さが欠如したE3 2012
E3会場に入って筆者がまず感じたのは,おなじみのショッピングモールにまたやってきたという,新鮮さの欠如だった。アメリカのショッピングモールは,どの町でもだいたい同じ店が軒を連ねており,売っているものもそんなに変わらない。E3も例年と同じメーカーが,同じレイアウトのブースで出展しており,巨大スクリーンやズラリと並んだ試遊台に映し出されるのは,シリーズものの最新作であったり,見慣れたキャラクターばかりだ。
北米のモバイルゲーム市場でも存在感を示しつつあるGREEが出展するなど,新たな血も少なからず入っているが,例えばAppleやFacebookが参加しないなど,欧米ゲーム業界が注目するイベントであるにも関わらず,ゲーム業界の現状には合っていないようにも思える。
PC/コンシューマタイトルのメーカーでも,Blizzard EntertainmentやValve,Rockstar Gamesなどは,E3への参加をまったく重要視しておらず,また,E3のレギュラー陣にしても,無数のニュースやレポートに新作情報が埋もれてしまうことを懸念してか,春頃に独自のイベントを開催して一足早くプレス関係者にゲームのデモをプレイさせたり,リリースやムービーをあらかじめ公開するなどの戦略を取るようになっている。
上場廃止の期限が迫っているパブリッシャのTHQだが,同社の展示方法もまた,E3の意義を少なからず考えさせられた。例年のようにショーフロアに大きなブースを用意することはなかったTHQだが,コンベンションセンターに用意された小さなビジネスルームで新作タイトルを見せており,「South Park:The Stick of Truth」「Darksiders II」,そして「Metro: Last Light」などの新作は各メディアによってちゃんとフォローされていた。メディア以外の,例えばバイヤーなどにどれくらいアピールできていたのかは分からないものの,莫大な予算を使ってフロアにブースを持たなくても,話題を呼べる作品があるなら,メディアはそこに向かうことが,THQの例からも分かる。
E3は,いわゆる「AAAタイトル」と呼ばれるビックバジェットのタイトルを宣伝するためのイベントだ。出展者が,わざわざデモ版を作ったり,大きな資金を費やしてブースを設置したりして,ゲームメディアや関係者にタイトルを公開し,メディアを通じて消費者の関心を買おうとするものであり,もともとすべてのメーカー/ゲームを網羅するものではなく,「専門的でニッチなイベント」だった。AAAタイトルがゲームの中心であるうちは,E3にも大きな意味があったが,プラットフォームが多様化し,インターネットの普及によってメーカーや個人の情報発信能力が高まった今,E3の存在価値が問われるのは仕方ないことだろう。
E3 2013はどうなるのか?
来年(2013年)のE3には,さらに大きな転換が迫られている。例年であれば,イベント初日に翌年のスケジュールが発表されるのだが,今年に限っては現在のところ何の発表もない。理由は,ロサンゼルス市が会場であるコンベンションセンターを取り壊し,新たに「Farmers Field」というアメリカンフットボール専用スタジアムを建設しようという動きがあるからだ。
ロサンゼルス市の意向次第では,年内にもコンベンションセンターの取り壊しが始まり,2016年に新たなスタジアムが完成する予定になっており,すでにスタジアムの名前にもなっている保険会社,Farmers Insurance Groupのほか,コーヒー店チェーンのStarbucksなどの大企業がバックアップを表明している。
1994年を最後にアメフトのプロチームを持っていないロサンゼルスだが,近代的なスタジアムの建設によってチームを誘致し,経済効果と雇用の創出を狙っているようだ。
1971年に完成したコンベンションセンターは老朽化が顕著で,E3を含めてわずか7つのイベントしかホストしていない。年間の赤字は3000万ドルになるという報告もあり,施設としての限界にも達している。
ESAは,「2012年は4000万ドルの経済効果を,ロサンゼルス市に及ぼす」と,昨年より1500万ドルも多い見積もりを大々的に発表したが,ESAのロビー活動は完全に劣勢に立たされており,来年以降のスケジュールが立てられない状況にあるということだ。
ロサンゼルスは,Sony Computer EntertainmentやActivision,Square Enixなどがスタジオを置くゲーム開発の一大拠点であり,映画や音楽といったエンターテイメント産業の本拠地でもあることから,メディアや投資家の注目を浴びやすい土地だ。アジアや南米からの乗り入れは容易であり,宿泊施設やレストランなどのインフラも十分に整っている。
E3の規模にふさわしい場所を探すとなると,ニューヨークやサンフランシスコ,あるいはラスベガスなどに限られてしまうが,数年前,サンタモニカの多数のホテルに分散させる形でイベントを行ったときのように,E3の規模を縮小することでロサンゼルスに留まるというオプションもあるだろう。
E3は,イベントの存在意義だけでなく,物理的な居場所さえ失いつつある。大きな変革が必要なことは明らかであり,2013年がE3にとって非常に重要な年になることは間違いなさそうだ。
著者紹介:奥谷海人
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,北米ゲーム業界に知り合いも多い。この「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年に連載が開始された,4Gamerで最も長く続く連載だ。バックナンバーを読むと,移り変わりの激しい欧米ゲーム業界の現状が良く理解できるはず。
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