業界動向
Access Accepted第318回:ブラウザ技術の革新でやってくるPCゲームの新時代
ダウンロード販売によるユニークなインディーズタイトルの増加や,DirectX 11を使用した美しいグラフィックスを誇るゲームなど,再び活気を帯びてきたように思える欧米のPCゲーム市場。その中で,技術の進歩による恩恵を最も受けているのがブラウザゲームだ。かつては2Dのゲームが主流だったブラウザゲーム市場に,パッケージソフト顔負けの本格的タイトルが登場する日が近いかもしれない。今回は,そんなフロンティアの状況をレポートする。
PCプラットフォームで光るブラウザゲーム
「WebGL」や「Unity」エンジン,クラウドコンピューティングなどの新技術により,この数年のうちに「QUAKE LIVE」や「Lord of Ultima」「Civilization World」,そして「Heroes of Might and Magic: Kingdoms」など,ネームバリューを持ったゲームの“ブラウザ版”が次々とリリースされてきた欧米ゲーム市場。ブラウザゲームは花盛り,という印象を受ける。
ブラウザゲームと聞くと,2Dグラフィックスをイメージする人も多いと思うが,技術の進歩はかなり急激であり,最近では,3Dグラフィックスはもちろん,リアルタイム対戦やMMORPGもブラウザでプレイ可能になるなど,従来作とは次元の異なるものに進化しているようだ。
2011年8月にドイツのケルンで開催されたゲーム開発者会議,GDC Europe 2011で,ヨーロッパにおいて注目度の高いソーシャル/モバイルゲームのメーカー,WoogaのCEO,Jens Begemann(ヘンス・ベゲマン)氏が基調講演を行った。その中で同氏は,ドイツ国内では,ブラウザゲームが中心になりつつあると語った。
もともとドイツは,PCプラットフォームの市場が依然として大きく,MMORPGの需要も高かったが,2011年現在,Bigpoint GamesやGameForgeを始めとするドイツのメーカーの多くがブラウザゲームにシフトチェンジしており,ドイツのブラウザゲーム人口は約1500万人に成長したという。ドイツ以外の国々を含めると,Bigpoint Gamesは約1億8500万アカウント,GameForgeは約2億アカウントという膨大な数字を誇っているという。
メーカーにとってのブラウザゲームの利点は,ブラウザさえストレスなく動けば,PCを選ばないことにある。そのため,開発費が抑えられ,開発期間の短縮も図れる。ユーザー側からすれば,ごく一部のハイスペックを要求するタイトル以外,古いPCやノートPC,タブレットPCなどでも手軽に楽しめるところがメリットだ。
タイトルの多くがFree-to-Playタイプのビジネスモデルを採用しており,せいぜいプラグインやダウンロードソフトなど,小さなプログラムをダウンロードするだけでプレイを始められる。新規プレイヤーに対するハードルが,非常に低いのだ。
メーカーにとってのデメリットは,従来より容易に開発でき,プレイヤーも遊びやすいためタイトル数が爆発的に増え,プロモーション活動をうまくやらないと,誰にも知ってもらえないということも起きる。このあたりは,モバイル向けタイトルとよく似ているが,だからこそ,ポータルサイトを運営して自社タイトルをサービスするBigpoint GamesやGameForgeといった企業が急成長していると考えられる。
ブラウザゲームで続く技術革新
2010年にローンチしたQUAKE LIVEは,(意図的にそうした部分もあるが)1999年に発売された「Quake III Arena」と同程度のグラフィックスだった。
こうしたグラフィックス周りは,各社がしのぎを削って新技術を投入しつつある部分だ。Adobe Systemsは,「Flash 11」を2011年10月初旬にローンチすると発表しているが,それによれば,Flash 11に搭載されたAPI「Stage 3D」の2D/3Dグラフィックス処理能力は従来より1000倍も高速だという。これまで,「Melehill」などのコードネームで呼ばれてきたStage 3Dは,レンダリング処理をGPUに任せるもので対応するGPUの搭載が前提になるが,ソフトウェアレンダリングの場合でも,現行のバージョンに比べて2倍から10倍の高速性能を発揮すると発表されている。
Adobeは2011年内に現在のFlashコンテンツの半分以上が新バージョンへ移行すると見積もっており,Stage 3Dを利用したハイレベルなFPSが,ブラウザゲームとして次々に登場してくる可能性がある。
また,現在3Dブラウザ/モバイルゲーム開発者向けに急成長中のゲームエンジン「Unity」を開発/販売するUnity Technologiesはこうした動きに反応し,次のアップデートで,UnityからFlash 11にゲームをエクスポートできるようにすると発表。作ったゲームが,多くのPCで動くようになるわけで,同社はFlash 11を,ブラウザゲーム浸透のための良いチャンスであるととらえているようだ。
このほか,Googleの「Chrome 14」では,ブラウザ上でCとC++のコードを走らせることができる「NativeClient」(または「Nacl」)が正式にサポートされる予定。こちらには,特定の領域へのアクセスを遮断することでマルウェアがブラウザ内に進入することを防ぐ機能も期待されており,また,読み書きが頻繁に繰り返される高度な3Dゲームにもうまく対応できると思われている。
欧米ゲーム業界では,これまで何度も「PCゲームは終わった」というフレーズが使われてきたが,最近はほとんど目にすることがない。DirectX 11世代のグラフィックスはDirectX 9世代が中心であったコンシューマ機をしのいでおり,デジタル配信はゲームを気軽に購入すること(開発者にとっては,気軽に配信すること)を可能にした。さらに,Free-to-Playタイプのビジネスモデルが欧米で受け入れられ,加えて以上のようなブラウザの技術革新が,新しい可能性を広げている。ショップでパッケージを買ってきて遊ぶというスタイルは過去のものになりつつあるが,こうしたさまざまな要因が重って,今後しばらく欧米PCゲーム業界の活性化が続いていくことになりそうだ。
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