連載
奥谷海人のAccess Accepted / 第300回:ゲーム業界,6年半の振り返りと今後の展望

300回という節目を迎えた連載「奥谷海人のAccess Accepted」。そんな節目の回ということなので,今回は連載が始まった2004年から現在までのゲーム業界を振り返り,今後を占ってみたい。果たしてゲーム業界はどこへ向かうのだろうか。


Steamは,2004年10月に掲載した第6回「Half-Life歴史探訪」で取り扱って以来,何度となくその機能やゲーム業界へ与えた影響についてお伝えしてきた。この分野では出遅れた感があるMicrosoftも巻き返しを狙っているようなので,デジタル流通システムをネタにすることは多くなるだろう
当連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,300回という節目を迎えた。1回目を書いたのは2004年9月なので,約6年半にわたって欧米のゲーム業界の動向を書き綴ってきたことになる。
連載が始まった2004年といえば,自衛隊がイラクに派兵されたり,アテネオリンピックで北島康介選手が金メダルを獲得して「チョー気持ちいい」とコメントしたり,紙幣のデザインが変更されたりした年でだ。ゲーム業界では,「Half-Life 2」と「Counter-Strike: Source」を筆頭に,「DOOM3」「Battlefield: Vietnam」「FarCry」「Unreal Tournament 2004」「Killzone」「Halo 2」などが発売された,FPSの全盛期だった。そのほかにも「World of Warcraft」や「The Sims 2」「Rome: Total War」「Fable」,さらに「Grand Theft Auto: San Andreas」などが発売されており,現在栄華を誇る北米ゲーム業界の基点になった年だったといえるかもしれない。
この6年半でゲーム業界に大きなインパクトをもたらしたものといえば,やはりデジタル流通システムの躍進だろう。とくに,その先駆け的な存在となったValveの「Steam」は,この連載で何度も取り上げている。
Steamは2003年にサービスが始まった。そして,2004年に発売された「Counter-Strike: Source」の購入者は,Steamアカウントを取得しないと遊べないようにしたことが,Steamの知名度上げることになる。
現在のSteamは3000万のアクティブアカウントと,1350本に及ぶライブラリを保有する“ゲームプラットフォーム”と呼べるまでに成長している。
Steamに代表されるデジタル流通システムは,PCだけのものではない。PlayStaion 3,Xbox 360など家庭用ゲーム機にも同じような仕組みがあり,DLC(ダウンロードコンテンツ)なども生まれ,うまくビジネスにつなげているメーカーもある。
また,こういった“無限の棚”を持つストアフロントの登場は,ゲームの流通にも新しい風を吹き込んだ。いままでは地道に自分のサイトで販売するぐらいしかなかった個人開発者達の作品にもスポットがあたりやすくなった。そしてここ数年は,独創的なゲームが,パブリッシャを通さずに発売されるということが珍しくなくってきたのだ。
デジタル流通システムの台頭は,ゲーム業界を語るうえで外せない話であり,当連載でも取り上げた回数の多いテーマなのだ。

ここ数年,ハードウェアの停滞もあってゲームのグラフィックス技術はあまり進化していなように思える。だが,久々に感動させてくれたのが,Epic Gamesの制作した「Samaritan」だ。この連載が400回めを迎えるころには,これくらいのグラフィックスレベルを持つゲームがリリースされ始めているかもしれない
では,今後のゲーム業界はどのような方向に進んでいるのだろうか。デジタル流通システムが今後も整備されていくのは間違いなさそうだが,機能的には現状とあまり差はでないだろう。
やはりもっとも分かりやすい進化といえば,グラフィックスであることは疑いようもない。そしてこれまでは最新グラフィックス技術が駆使されたゲームはもっぱらPCに登場していたが,ここ最近は事情が変わってきた。現在はDirectX 11がリリースされているが,Xbox 360やPlayStation 3とのマルチプラットフォーム戦略が取られることが多いため,DirectX 9世代のグラフィックスが主流になっている。もちろん進化はしているが,PCゲーマーにはゆっくりなものに見えているだろう。
2011年2月28日から3月4日に開催されたGame Developers Conferenceで,Epic Gamesが公開した「Samaritan」というUnreal Technologyの最新機能を用いたデモは,確かに“次世代ゲームグラフィックス”と呼ぶにふさわしいものだった(関連記事)。
そのテクノロジーデモが行われたとき,同社副社長のMark Rein(マーク・レイン)氏は,「これはハードウェアメーカーへのラブレターだ」と語っていた。ラブレターとはいうものの。実際のところ,「これくらいのゲームをプレイできるくらいのパワーは実現させてください」という,ソフト開発者側からの要望といった意味合いが強い。
Samaritanは,世代でいえば「Unreal Engine 3.0」系になり,DirectX 11ベースになるので,NVIDIAの「Kepler」など,次世代のGPU用だと考えて間違いないだろう。
Samaritanには,NVIDIAの「APEX Technology」の一部と思われる衣服や毛髪のシミュレーション技術も採用,もしくはそれに同等の機能が実装される可能性が高い。APEX Technologyのβ版が公開されるのは2011年9月の予定なので,DirectX 11.1世代のゲーム開発が本格化するのは,2011年の年末から2012年にかけてになるかもしれない。
その後の話となるとかなり怪しげになってしまうが,NVIDIAは22nmプロセスのコアを持つ「Maxwell」を2013年にリリースする予定だ。DirectX 12に関しては現時点で何の情報もないが,2012年にリリースして語呂合わせを狙うか,2013年に登場予定のGPUに合わせてくる可能性は高いだろう。
つまりこの連載が400回を迎える頃に,ようやく本格的な「次世代ゲームグラフィックス」の時代が幕を開けるわけだ。そんな情報もしっかりとお伝えできるよう,この先も連載が続くように努力していきたい。また,4Gamer最長の歴史を誇る当連載をここまで支えてくれている読者の皆様,そしてネタを提供し続けてくれているゲーム業界へ,この場を借りて心から感謝を伝えたい。今後とも当連載をよろしくお願いします。
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