連載
奥谷海人のAccess Accepted / 第289回:Access Accepted大賞 2010

1月にリリースされたPC版「Mass Effect 2」から,先日12月20日にお目見えした「Battlefield: Bad Company 2 Vietnam」まで,欧米では大作感の強いゲームが次々に発売された2010年。とくに9月の「Halo:Reach」から11月の「Call of Duty:Black Ops」までの3か月間に怒濤のように登場した作品群は圧倒的で,稀に見る豊作の年といえるのではないだろうか。本連載の一年を締めくくる「Access Accepted大賞」は,そうしたタイトルの中から優れた作品を選出するものだ。チョイスは例年のごとくゲームジャーナリストにして本連載の執筆者である私,奥谷海人が1人で行っており,とりたてて権威を持ったモノというわけでもないが,選ばれて不名誉ではないだろうということで,例年のごとく独断で勝手に選んでいる。果たして2010年はどのタイトルが大賞を獲得するだろうか?

2010年Access Accepted大賞を選ぶうえで痛切に感じたのは,もはやこれまでのように,PC中心の視点では,欧米ゲーム市場にリリースされるさまざまな新作タイトルから,そのトレンドを抽出するのは無理だということだ。「今さら何を」と読者の皆さんに言われてしまいそうだが,筋金入りのPCゲーマーだったはずの筆者が,コンシューマ機向けのタイトルを例年になくプレイするようになったのは事実。
このゲーム賞は,筆者が独断で決めるものであって,その基準は自分でも非常に曖昧なのだが,要するに,せっかく遊んでいるコンシューマー機向けのタイトルを,わざわざ外す必要はないという意味だ。
さて,欧米の「PCゲーム市場」に限定して簡単に今年を振り返ると,今年はダウンロード販売の優位さが顕著になったという印象が強い。これは,海賊版や中古販売を防ぐという企業側のメリットだけでなく,居ながらにして簡単にダウンロードでき,最新パッチが自動的に当たるなど,プレイヤー側の利便性も高く,パッケージ販売を超えるのは時間の問題だった。
Blizzard EntertainmentやValve,Paradox Interactiveなど,PCゲームに活気を与えてくれているメーカーも少なくはないものの,市場の中心はElectronic ArtsやActivision,Ubisoft Entertainmentのマルチプラットフォームタイトルなどに完全シフトしてしまった。
PCゲームが強いジャンルのうち,ストラテジーは「StarCraft」シリーズの一強独占,MMORPGでは「World of Warcraft」の牙城が揺るがず,アドベンチャーゲームはジャンルそのものが衰退しているという感じだ。予算の少ないインディーズゲームの開発者達はアイデア勝負のパズルゲームや携帯向けタイトル,ブラウザゲームなどに,さらに力を入れつつある。
そんな2010年を代表するゲームはなんだろうか? 「欧米ゲーム事情」ということで“海外で制作されたゲーム”がチョイスの対象となっている。繰り返すが,個人的に選んでいるゲーム賞なので,とりたてて権威はない。「そういえば,今年はこんなゲームが出たなあ」とか「異議あり! あっちのほうが面白かった」といった感じでお読みいただくと,嬉しい。
開発元:Bungie Software
発売元:Microsoft Game Studios
Halo: Reach
2010年のFPSタイトルのラインナップは,先にも述べたとおり本当に充実しており,そのうえ,どの作品も甲乙つけ難い。現在,販売本数で他を圧倒する「Call of Duty:Black Ops」は,個人的にシングルプレイモードのストーリーが陰謀モノに傾きすぎて,少し苦手に感じた反面,「Halo:Reach」は練り込まれた世界観に立脚する重厚なストーリーが圧巻で,まさにシリーズ集大作にふさわしいデキだったと思う。
Halo:Reachはマルチプレイモードも充実しており,とくに前作「Halo 3」のものに手を入れた「Firefightモード」が素晴らしい。マップ,インタフェース,そしてゲームモードが見事に噛み合っており,常に皆が動き回って戦っている。キャンパーの姿など,ほとんど見かけないのだ。
ミリタリー系のマルチプレイでは,罵詈雑言が飛び交うようなマッチも少なくないが,Haloコミュニティは割と上品な雰囲気があり,不快な気分にならずにすむのも好印象だ。
最初からマップエディタが同梱されるなど,マルチプレイに対する開発者の妥協のなさもまた見事な作品だった。
- Battlefield: Bad Company 2
- BioShock 2
- Call of Duty: Black Ops
- Medal of Honor
開発元:Rockstar San Diego
発売元:Rockstar Games
Red Dead Redemption
このジャンルの候補作のほとんどがコンシューマー機専用ゲームになってしまったが,時代の流れというものだろう。候補作のすべてが,多くのファンの記憶に長く留まる名作だが,やはりRockstar Gamesのオープンワールドアクション「Red Dead Redemption」はゲーム史に残るほどの作品だと思う。
ゲームの舞台となるのは,アメリカの西部開拓時代も終わりを告げようとする1911年。プレイヤーは乗馬やガンファイトを要求されるさまざまなミッションをこなしつつ,サボテンの生える荒野やセコイア杉の茂る山岳地域を旅する。オープンワールドのゲームといえば,Rockstar Gamesの「Grand Theft Auto」シリーズに代表される,都市部を舞台にした作品が多かったが,本作では「どんな手段を使ってでも家族との再会を果たす」ことを目標に,アメリカ西部らしさが巧みに表現された広大なマップを動き回るのが,とても楽しかった。
2010年5月に発売され,その時期に発売された有力なライバル作品が少なかったことも手伝って大ヒットを飛ばしたことも記憶に新しい。個人的にも,ストーリーがまったく変わらないシングルプレイキャンペーンを,2度も繰り返し遊んでしまったほどだ。
- Alan Wake
- Assassin's Creed:Brotherhood
- God of War III
- Heavy Rain
開発元:Blizzard Entertainment
発売元:Blizzard Entertainment
Starcraft II:Wings of Liberty
タイトル数の減り続けるストラテジージャンルだが,全体的に,登場するゲームの内容は悪くなく,むしろ向上している。とはいえ,「Napoleon:Total War」や「Sid Meier's Civilization V」は,上記の「Red Dead Redemption」以上の時間を費やして遊んだものの,シリーズのファンとしては気になる点も多く見えてしまった。それだけに,Blizzard Entertainmentの「Starcraft II:Wings of Liberty」の相変わらずの秀逸さが,結果的に強く印象に残った。
当初,「StarCraft II」を3つのパッケージに分割して発売するというニュースを聞いたときには,やや反感に近いものを覚えたが,実際にリリースされたゲームをプレイしてみると,Blizzard Entertainmentの作品の中でも群を抜いて魅力あるストーリーになっていることが分かった。また,ある程度ミッションのチョイスができるという変更点も,プラスの要素といえるだろう。
本作は,グラフィックスに凝らなくても面白いゲームができるという見本のような作品であり,操作が複雑なリアルタイムのストラテジーはちょっと……という人でも楽しめる。チュートリアルも,自然であり充実している。
Battle.netでBronzeステータスから抜け出せない筆者がいうのもなんだが,AIで練習してから対人戦を楽しむというプレイの幅の広さと,ハードルの低さが魅力的だ。MODからトーナメントまで,今後数年間,さまざまな形で遊べるだろう。
- Conquest of the Americas
- Napoleon:Total War
- Sid Meier's Civilization V
- Victoria II
開発元:Criterion Games
発売元:Electronic Arts
Need for Speed:Hot Pursuit
ここで選んだ「Need for Speed:Hot Pursuit」は,普通ならレースゲームジャンルに入るかもしれないが,ジャンルがあまりに多岐にわたると記事が長くなりすぎてしまうので,今回はシミュレーションゲームに入れている。
そんなレースゲームの最近のトレンドとしては,レースにどのような要素をプラスαするかというのがある。これは,セッティングから挙動まで,リアルさを徹底的に追求したレースゲームがコンシューマゲーム市場では(特定のシリーズを除いて)必ずしも好まれていない現状がゲーム自体に反映されたものだ。
このNeed for Speed:Hot Pursuitのプラスアルファの要素としては,不法なドライバーとして公道を暴走できると同時に,警察としてそれを追い詰めるという「追う者と追われる者」のどちら側でもプレイできるという点が挙げられる。
マセラッティやランボルギーニを改造したパトカーを操作できるのに,マニュアルシフトのモードがないという問題点もあるが,道路封鎖からレーダージャマーまでの“武器”を駆使してのレースは,さすが公道レースに経験豊富なNeed for Speedシリーズの最新作といったところ。「Burnout」シリーズで知られるCriterion Gamesらしい,緻密なグラフィックスやクラッシュ時の派手な演出も,ゲームを盛り上げている。
本作の特徴となっているのが「Auto Log」と名づけられたオンライン機能で,これは,友人とのレースの記録やレース中に撮影した画像などを介した,コミュニティサポートの要素だ。これにより,友人が出した記録を抜きたいなど,プレイを続けるモチベーションを高めてくれるのだ。
- FIFA 2011
- Ship Simulator Extreme
- Split/Second
- Toy Soldiers
開発元:BioWare
発売元:Electronic Arts
Mass Effect 2
RPGジャンルが非常に豊作だった2010年だが,中でも「Mass Effect 2」は多くのファンを唸らせる作品だった。最近の大規模な海外RPGで,しばしば見られる大きなバグもほとんどなく,キャラクターの表情アニメーションや,ダイヤル型の会話システムなど,前作でBioWareが生み出したテクノロジーはさらに洗練され,さらにクラスシステムや資源関係など,改良や廃棄が必要だと判断した部分は,ファンからの批判を覚悟で大きく手を加えた。こうした決断と変更が,見事に功を奏した作品といえるだろう。
Mass Effect 2のキモとなるのが,総勢10名のクルー達とのインタラクションだ。それぞれのキャラクターに,すれ違いの親子関係や,拭い去れない過去といった物語が用意され,そうした彼らとの関係は,プレイヤーの選んだ会話や行動によって変化していく。
そして,そのことがプレイヤーに「何を選択すべきか」について深く考えさせるのだ。
また,本作では前作のセーブデータをインポート可能になっており,プレイヤーが長い視点で主人公シェパードを育てていける。これも良いアイデアだ。RPGジャンルの老舗,BioWareらしい“スペースオペラ”を満喫できるのは間違いないだろう。
- Arcania:Gothic IV
- Fable III
- Fallout:New Vegas
開発元:Playdead Studios
発売元:Microsoft Game Studios
Limbo
モノクロで統一された画面。環境音を重視した静けさ。そして「妹を探しにいく」という単純なストーリー。そしてジャンプとホールドだけのコントロール……。ミニマリズムというか,ドイツ表現主義というか,この「Limbo」はシンプルな横スクロールのパズルアクションでありながら,そのアートの完成度は,大金をかけて制作されたトリプルAタイトルと比べてもひけを取らない。パズル要素もバラエティに富んでおり,飽きずに楽しめる点も評価できる。
デンマークの独立系デベロッパPlaydead Studiosの開発した本作をプレイしているときの,ぞわっとするような独特な感覚はどこに由来するのだろうか?
本作には,巨大なクモや丘を転げ落ちてくる岩石といったトラップがいくつも用意されており,プレイヤーは何度も試行錯誤を繰り返しながらゲームを進めていく必要がある。そして,そのチャレンジに失敗したときには,主人公の体がバラバラになったり,何かに突き刺さって血が吹き出す。しかし,影絵のような絵柄なので,何が起こっているか細かくは分からず,プレイヤーは想像力を使ってその様子を頭に描くことになる。
高度なグラフィックスを駆使して「何でも目に映す」という最近のゲームとは異なり,そうした想像力に訴える部分が特殊なプレイ感覚を生み出しているのだろう。
- Angry Birds
- Joe Danger
- Minecraft
- Super Meat Boy

鼻しか写っていない衝撃のパッケージアートを思い浮かべる人も多いであろう,「Heavy Rain」だが,開発者が何をやりたいかがよく分かる良作だったのは間違いない。
2006年にテクノロジーデモがリリースされて以来,かなりの話題になっていた本作だが,それほど大きなデベロッパではないだけに,いろいろなプレッシャーもあったはず。過剰な期待と,必要以上の注目に負けることなく,プロジェクトをまとめた力量は見事だ。
Quantic Dreamは,現社長のディビッド・ケイジ(David Cage)氏らによって,1997年に設立された。ケイジ氏がミュージシャン出身だったこともあってか,同社の処女作となった3Dアドベンチャー,「Omikron:The Nomad Soul」には,あのデイビッド・ボウイさんがモデルと音楽を提供している。
さらに2004年にリリースされた「Fahrenheit」(欧州でのタイトルは「Indigo Prophecy」)では,会話や探索時などでもアクションを重視する「クイックタイムイベント」を採用して高い評価を得た。その経験がHeavy Rainへつながったのだ。
現在の同社は,コードネーム「Horizon」として知られる新作と,「Omikron 2」の開発を行っているという。4〜5年に1作という長めのスパンで作品リリースしてくるアーティスト集団だが,彼らの次に仕掛けにも注目したい。
- Blizzard Entertainment
- Rockstar San Diego
- Rovio
- Sony Computer Entertainment Santa Monica
開発元:Rockstar San Diego 発売元:Rockstar Fames
Red Dead Redemption

ベスト オブ ザ イヤーには,Rockstar Gamesの「Red Dead Redemption」を選んだ。
Red Dead Redemptionは大人のゲームだ。ゲームで使われる下品なスラングの量も半端ないし,暴力表現も容赦ない。何より,ストーリーの理解には,それなりの長さの人生を送ってきた人だけが想像しうる,社会の不条理や過酷な環境下で生きる人々の命の軽さ,そして自分ではあらがえない運命などが必要となるのだ。
このゲームの中で主人公ジョン・マーストンが出会う人物は,必ずしも幸福な人生を歩めない。ゲーム序盤の汽車の中で牧師の話を聞いていたジェニー,カリフォルニアまでの旅を夢見るサム・オデッサ,売春婦の身分から一瞬だけ自由を獲得するエヴァ,ネイティブアメリカンのナスタスや,メキシコ政府の打倒に奔走するルイサ……。
ジョン本人も,息子のジャックに父親らしいことを何もしてやれないことを苦にする,不完全なヒーローだ。そういった心に残る登場人物達が,プレイしていると,ときどきやりきれない気持ちになるような運命に遭遇し,ときに打ち砕かれる。
Red Dead Redemptionは,このようなストーリーを,さまざまなアイデアや技術で具現化し,エンターテイメントに高めた申し分のない傑作だ。もちろん,ランダムに発生するイベントの単調さやバグの多さなどを指摘する声もあるが,現在までに800万本という人気はやはりダテではない。ゲーマーなら,ぜひ遊んで欲しい。
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