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Access Accepted第283回:北米ゲーム業界に吹き荒れる資産売却の嵐
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印刷2010/11/15 17:19

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第283回:北米ゲーム業界に吹き荒れる資産売却の嵐

奥谷海人のAccess Accepted

 「Halo: Reach」の初日セールスが300万本,「Call of Duty: Black Ops」が560万本と,景気のいいニュースが続く北米市場だが,必ずしも順風満帆とはいえないようだ。あっと驚くような資産の売却劇や倒産なども,いくつか聞こえてくる。今週は,ええ,あの会社がそんなことに,と思えるような話をいくつかお届けしよう。

第283回:北米ゲーム業界に吹き荒れる資産売却の嵐

 

ミリオンセラーの裏では,名のあるメーカーも四苦八苦
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 年末が近づき,各社の業績報告が明らかになるにつれ,倒産やリストラ,レイオフや資産売却の発表,あるいはそうしたウワサが欧米ゲーム業界に流れ出すのは例年のことでもある。
 「Halo: Reach」の発売初日のセールスが300万本,「Call of Duty: Black Ops」が驚きの570万本,さらに,「FIFA 11」が現在までの累計で800万本,「Red Dead Redemption」が同じく550万本,「Fallout: New Vegas」が同じく500万本などと,景気のいい話も多く聞こえるが,Red Dead Redemptionを除けば,いずれも定評あるシリーズ物の最新作。投資分だけの楽しみを確実に得ようと,定番ソフトに人気が集まるのは,なにも日本に限った話ではない。

 アメリカのリサーチ会社NPD Groupが発表した資料によれば,2010年9月末までのソフトウェアとハードウェアを合わせたセールスは12億2000万ドル(約1007億円)と,前年比で8%ほど落ちている。「PlayStation Move」などの登場により,周辺機器のセールスは前年比で約13%向上しているので,ゲームソフトの売り上げ縮小は顕著だ。

 もともと人材の流動性が高く,日本に比べて活発な新陳代謝が繰り返される欧米ゲーム業界だが,それでも例年に比べて倒産やレイオフなどのニュースが多いような気がする。興味深いのは,確固たる技術を持ち,そのジャンルでは盤石と思われたメーカーでさえ,廃業に追い込まれてしまうケースが少なくないということだ。今回は,そうした状況に陥ってしまった欧米のゲーム会社をいくつか紹介したい。

 

Emergent Technologies

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「The Elder Scrolls IV: Oblivion」から写真の「Fallout: New Vegas」まで,Bethesda Softworksは,Gamebryoの最大のお得意様。グラフィックス面で最高クラスとは言えないが,ストラテジーからRPGまで汎用性が高く,使い勝手の良いエンジンだと言われている。買い手が見つかるのにそう時間はかからないだろう

 ゲームエンジンやミドルウェアのライセンスビジネスは欧米ゲーム業界における急成長分野だが,その1つ「Gamebryo Lightspeed Engine」(以下 Gamebyro)の開発元であるEmergent TechnologiesがGamebryoの売却を発表して業界を驚かせている。
 2001年の「Dark Age of Camelot」で初めて本格的に使用されたGamebryoは,その後,「Sid Meier’s Civilization IV」(2005年)や「Fallout 3」(2008年)といった人気作での採用が続き,2010年発売のタイトルでは「Fallout: New Vegas」などで使われている,息の長いゲームエンジンだ。ジャンルを問わない凡用性が魅力で,採用実績は350作品以上。また,使用を予定しているタイトルも現段階で100作以上という人気ぶりだ。
 Gamebryoを開発したのは,Numerical Design Limited (NDL)というメーカーだが,Emergent Technologiesが投資会社から出資を受けて2005年に買収した。ところが,返済期限の2009年になっても出資を受けた3000万ドルを回収できず,10月に大規模なリストラを行ったものの,結局Gamebryoを手放さざるを得なくなったようだ。
 今後,Gamebryoは投資会社が行う競売にかけられ,落札したメーカーに権利が委譲されることになる。

 もっとも,この売却劇は当のEmergent Technologiesにとっても寝耳に水だったようで,発表の数日前まで,同社はリストラを進めるかたわら,オーストラリアのデベロッパであるKrome Studiosの買収/統合を計画していたのだ。Gamebryoの買い手がどこになるのについては,ゲーム業界でも大きく注目を集めている。

 

Garage Games

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欧米のゲーム業界にインディーズゲーム開発の嵐が吹き荒れる前からサポートを続けていたGarage Games。InstantActionもうまくいかなかったようだ

 ゲームエンジン関連でもう1つ話題になっているのが,Garage Gamesだ。
 Garage Gamesのゲームエンジン「Torque」は,「インディーズゲームの開発に使うのであれば,プログラマー1人につき,ライセンス料75ドル」という格安路線を打ち出して,話題を集めていたが,2010年11月初め,Torqueエンジンの開発者向けコミュニティにおいて,同社が運営するポータルサイト「InstantAction」を閉鎖すると共に,Torqueの売却を希望していることを明らかにした。

 Garage Gamesは,Sierra傘下で「Tribes」シリーズを開発していたメンバーらによって2001年に設立された開発会社で,「Marble Blast」(2002年)や「Fallen Empire: Legions」(2008年)といったタイトルを自社のサイトでダウンロード販売していた。
 2007年には,自社のゲーム開発に使用していたTorqueエンジンのライセンス業務にも乗り出し,TorqueをPCだけでなく,XNAやMac OSに対応させるなど,活発に事業を進めてきた。ライセンスを受けた作品の中にあまり有名なゲームはないが,ニッチ市場では十分な成功を収めていたと考えられる。閉鎖の理由は明らかにされていないが,おそらく売れ行き不振による経営難が原因だろう。

 2008年には,手軽にブラウザゲームを楽しめるポータルサイト,Instant Actionを立ち上げたが,現在,すでにサービスは終了しているようだ。
 このところ,欧米のインディーズゲーム開発は非常に活発な状況。市場規模の急速な拡大に伴って,大手メーカーの参入や実績あるゲームエンジンの低価格化などが進んでおり,もはやGarage GamesおよびTorqueの歴史的役割は終わったのかもしれない。インディーズゲーム開発の火付け役であり,古くから開発者達を支え続けたGarage Gamesの終焉を残念に思っている業界関係者は少なくなさそうだ。

 

Realtime Worlds

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Realtime Worldsの「APB」は,レベル上げの概念を取り払ったゲームシステムが興味深かったが,それ以上にプレイヤーキャラクターの髪型からタトゥー,車体のステッカーまで細かくカスタマイズできるのが魅力的だった

 「Lemmings」や「Grand Theft Auto」などの開発に携わったDavid Jones氏が,スコットランドに設立したデベロッパが,Realtime Worldsだ。同社の初めての作品となるMMOG(大人数参加型オンラインゲーム)「APB: All Points Bulletin」(以下 APB)は,5年の歳月をかけて開発され,2010年6月にようやくリリースされたが,同年9月には早々とサーバーが停止し,オフィスも閉鎖されてしまった。これはおそらく,欧米産MMOGタイトルとしては最速のシャットダウンであり,多くの業界関係者やゲーマーに衝撃を与えた。
 開発資金が底をつき,中途半端な形でリリースせざるを得なかったのが,サービス終了の原因だとも言われている。

 そんなAPBだが,アメリカの情報サイト,GameIndustry.Bizは11月11日,北米で「GamersFirst」というゲームポータルサイトを運営する韓国のK2 Networkが,APBの権利を買うのではないかというニュースを報じている。購入金額が150万ポンド(約2億円)であるなど具体的な数字も挙がっており,信憑性もそれなりに高そうだが,それが本当なら,一時は邦貨で約85億円の資産価値を持つとされたタイトルを,破格の値段で手に入れることになる。

 もしK2 NetworkがAPBを手に入れれば,APBがプレイヤー獲得に苦しんだ理由の1つである月額課金を,同社お得意のアイテム課金制に変更してくるだろう。「HELLGATE」のように,いずれ基本料金無料のゲームとなって再びプレイできるようになるかもしれない。

 ちなみに,Realtime Worldsが開発中だったタイトルとして「Project: MyWorld」というソーシャルゲームがあったが,これはRealtime Worldsのディレクターだった人物がアメリカで設立したKimble Operationsという会社が300万ポンド(約4億円)で買い取っており,制作に関わっていた多くの開発者もそちらに移籍しているという。

 

Harmonix Music Systems

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ついにキーボードまで登場し,行き着くところまで行ってしまった感のある「Rock Band 3」。Harmonixは,2006年に1億7500万ドルという巨額でViacomに買収され,2008年には3億ドルのボーナスも支給されていた

 アメリカにリズムゲームの大旋風を巻き起こしたHarmonix Music Systems(以下 Harmonix)が売却されるという記事が2010年11月11日,アメリカのビジネス紙,ウォール・ストリート・ジャーナルに掲載され,ゲーム業界に戦慄が走った。Harmonixは,アメリカの巨大メディア企業Viacomの傘下にあり,10月に「Rock Band 3」を発売したばかり。

 Harmonixは,2000年代にアーケードで人気だったコナミの「GuitarFreaks」の影響を受けて開発した「Guitar Hero」(2005年)で知られるメーカーで,RedOctaneという無名のパブリッシャからリリースされたにも関わらず,220万本という大ヒットを記録し,一気にトップメーカーに躍り出た。
 その成功を見たActivisionがRedOctaneを買収し「Guitar Hero II」をリリースしたものの,同じく市場参入を決めたViacomが,開発元のHarmonixを単独買収してしまうという荒業に出た。そのため,「Guitar Hero III」以降のシリーズ作品は,Activision傘下のNeversoftが制作を行っている。
 HarmonixはElectronic Artsを販売元として新たな「Rock Band」シリーズの制作を開始し,かくしてアメリカの音楽ゲームジャンルでは,Guter HeroシリーズとRock Bandシリーズの2つが激しい戦いを繰り返してきた。

 もっとも,2009年の「The Beatles: Rock Band」あたりから,楽器を使うリズムゲームの人気は急激に下降線を辿っている。2010年の9月末にリリースされたシリーズ第6弾,「Guitar Hero: Warriors of Rock」 は現時点で販売本数は約20万本,「Rock Band 3」は初週の売り上げが7万5000本ほどで,かつての勢いは完全になくなった。
 Harmonix売却の理由としては,テレビコマーシャルの減少などにより,Viacomの収益が60%近くも落ち込んだという親会社の懐事情があり,Harmonixに大きな問題があったわけではないが,急激に立ち上がり,そして急激に縮小した欧米のリズムゲームジャンルの変化が感じられる話だ。

 

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く連載だ。
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