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印刷2010/11/01 15:36

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第281回:デジタル販売システム「Steam」に強力なライバル出現

奥谷海人のAccess Accepted

 ゲームソフトのダウンロード販売を行うValveのSteamは,今や3000万人のユーザーを抱える巨大なサービスへと成長した。競合の挑戦をものともせず,破竹の進撃を続けるSteamだが,先頃,この分野の進出にMicrosoftが名乗りをあげたのだ。同社の「Games for Windows Marketplace」という新たなサービスは,11月15日から北米で開始される予定。ゲームのダウンロード販売はまだ若い分野であるだけに,さまざまな波乱が起こりそうだ。

第281回:デジタル販売システム「Steam」に強力なライバル出現

 

その先見性でデジタル販売業を牽引するSteam
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今や,販売本数でパッケージを上回るほどに成長したデジタルダウンロードだが,それがまだニッチだった頃にいち早く市場を開拓したValveの先見性は素晴らしい。なにはともあれ,多くのゲーマーが怒濤の年末セールスが楽しみにしているはずだ。写真は,6月に開催されたElectronic Entertainment Expoで,PlayStation 3対応の「Portal 2」を発表するValveのGabe Newell氏

 現在,Valveがサービスを行っているデジタル配信システム「Steam」の初登場は,2002年3月に開催されたGame Developers Conferenceでのことだった。開発者を勧誘する目的でセミナーを行っていたValveのディレクター,ゲイブ・ニューウェル(Gabe Newell)氏は,聴衆に向かい「いずれ,多くの人がインターネットを介してゲームをダウンロードするようになる。パッケージは必要なくなるだろう」と熱弁をふるったのだ。
 当時のアメリカでブロードバンドにアクセスしていたのは3900万人ほどで,ネット人口の13%程度に過ぎなかったので,Valveの先見性は高いと言える。

 長いβテスト期間を経て,実際にサービスが始まったのは2003年9月のことだ。早い段階で参加を申し出たパブリッシャはほとんどなかったらしく,当時は「Counter-Strike:Condition Zero」のβテスト版など,自社タイトルがいくつかあっただけ。
 ローンチの目玉になる予定だった「Half-Life 2」は,ハッキングによるソースコード流出のため発売が延期。そのため,2004年11月にHalf-Life 2がようやく発売されるまで,Steamは独立系デベロッパのゲームを中心にした,あまり注目されない静かな存在だったのだ。

 Half-Life 2によってプレイヤーに認知されたSteamは,自社タイトルを中心にタイトルのライブラリを増やし,大手ゲームメーカーも次々に参入。クライアントの細かいバージョンアップでサービスのクオリティを向上させてきた。
 そして,サービス開始から約6年が経過した2010年10月18日,Steamは登録アカウント数がついに3000万人の大台に乗ったと発表した(関連記事)のだ。現在では,Electronic Arts,Activision,Bethesda Softworks,2K Games,Ubisoft Entertainment,THQ,LucasArts,また日本からはセガ,カプコン,スクウェア・エニックスといった大手メーカーのゲームが名を連ね,その数は現在までに1200タイトルを数える。強固なセキュリティを備えたSteamに違法ダウンロードの問題などほとんど聞かれないうえ,ユーザーの認証や自動で行われるアップデート,そしてプレイ情報の収集/管理など,利用するパブリッシャにとっても利便性は計り知れない。Electronic ArtsやUbisoftは,独自に使っていた認証ソフトを諦めてしまったほどだ。

 もちろん,使用する側にとってもSteamはいろいろと便利であり,北米のPCゲーマーでSteamを使ったことがないという人は,むしろ珍しい存在になりつつある。リージョン規制によって,日本から購入できないタイトルがあるのは残念だが,年末セールやサマーセールを楽しみにしている人も多いはずだ。

 かくして,デジタルコンテンツ販売市場を早くから開拓し成功したSteamだが,いったいValveがどれだけの利益を得ているのかについては,明らかにされていない。Direct2Drive,Impulse,GOG.com,GamersGate,さらにEA StoreやBattle.netなど,北米で利用できるゲーム配信サービスは少なくないが,どれもSteamと争えるほどのスケールではなく,この分野の70%ほどをSteamが掌握しているのではないかと見るアナリストもいる。
 2010年にMac版が登場しただけでなく,2011年の「Portal 2」ローンチに際してはPlayStation 3版Steamが登場する可能性もあるなど,今後もますます飛躍していくだろう。

 

MicrosoftがSteamに刺客を送り込む
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新たなサービスである「Games for Windows Marketplace」は,クライアントソフトやプラグインを必要とせず,ブラウザから簡単にゲームをダウンロード購入できるところがウリ。とはいえ,現在のところSteamの牙城を突き崩すほどの魅力は感じられないのも事実。本当の勝負は,Windows 8がリリースされてからになるのかもしれない

 Steamが独走を続ける市場に,新たに名乗りを上げたのがMicrosoftだ。同社は北米時間の10月22日,PCゲームタイトルのダウンロード販売を専門に行う「Games for Windows Marketplace」を発表し,11月15日からサービスを始めることを明らかにしたのだ (関連記事)。

 Games for Windows Marketplaceは,SteamやDirect2Driveのようにゲームをダウンロードするためにクライアントソフトをインストールする必要がなく,認証からダウンロードまで,すべてブラウザで行えることが大きな特徴となる。Microsoft側は,クライアントソフトを使う必要がないぶん,ソフトを気軽に買いやすくなり,よりスピーディで洗練されたサービスが可能になると説明している。
 Games for Windowsで培ったノウハウやシステムも利用する予定で,Games for Windows LIVEのユーザーであれば新たに登録する必要はなく,またXbox LIVEのゲーマータグも使用できるという。また,ゲームの購入にはMicrosoftポイントも使用できるようだ。

 2006年に公開された「Games for Windows」は,DirectX 10対応ソフトを中心に,Microsoftの定める「互換性」「安全性」「品質」,そして「簡単な操作性」という4つの基準を満たしたタイトルを扱うことでブランド力を高め,ゲームプラットフォームとしてのPCを活性化させようという意図があったが,成功したとは言い難い。バグが多いと指摘されたゲームに“Games for Windows”のロゴが付いていたり,メガヒットタイトルがGames for Windowsに興味を示さなかったりと,現在ではあまり意味のないものになってしまった。
 アチーブメント(実績)のサポートなどでは後発にあたる「Steamworks」に対応したタイトルがすでに200を超えているのに対して,Games for Windows Liveに対応したソフトは,いまだ50タイトルほどしかない。

 すでに1200以上のラインナップを誇るSteamに対し,Games for Windows Marketplaceは「品質の高いものを厳選する」というポリシーを掲げており,サービス開始時点で用意されるのは100タイトル程度になる見込みだ。ただ,これらのゲームの多くはSteamなどからも入手できるので,Microsoftのキラータイトルはやはり自社製品になるだろう。
 しかし,「Fable III」や「Age of Empires Online」といった訴求力のあるタイトルはサービス開始に間に合いそうもなく,定番の「Microsoft Flight Simulator」シリーズもパンチ力に欠ける。したがって,まずは使い勝手のよさや,セキュリティなどの面で,どれだけゲーマーの信頼を勝ち取れるのかがカギになりそうだ。

 もっとも,Games for Windows Marketplaceはまださわりであるという話も聞こえてくる。2012年にリリースされると言われる新たなOS,「Windows 8」では,これがコンテンツダウンロードシステムとして標準化されるのではないかというのだ。
 ちなみに,あくまでウワサにすぎないが,Windows 8はアップルのiOS(iPhone,iPod touch,iPadに搭載されているOS)を意識したもので,ワードプロセッサから表計算ソフト,そしてゲームなど有料/無料のアプリケーションを,自分の好みに合わせてダウンロードして自由にシステムを組み立てていくといったものが考案されているという。したがって,ソフトウェアのブラウジングなどを含めた簡便かつ容易なコンテンツダウンロードシステムは,Windows 8の中核機能に位置づけられることになるのだ。

 突如として名乗り上げたMicrosoftのGames for Windows Marketplaceを受けて立つことになるValveだが,破竹の勢いであることは間違いないものの,不安材料がまったくないわけではない。「Left 4 Dead」の翌年に「Left 4 Dead 2」をリリースしたことで,まだLeft 4 Deadのサポートも不十分なのに,続編を出すのはおかしいとするファン離れを招いていしまったし,最近でも,発売予定の「Defense of the Ancients 2」の商標登録を行ったことに対し,Blizzard Entertainmentから「他社製品(World of Warcraft)向けのMODをベースにしたタイトルを,独占するのはいかがなものか」と発言されたりしている。
 もし,Steamで何かトラブルが起これば,勢力地図が簡単に塗り変わる可能性もある。まだ若い分野であるだけに,これからもさまざまな波乱が起きるだろう。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く連載だ。
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