業界動向
奥谷海人のAccess Accepted / 第270回:ビッグビジネスに成長したオンラインサービス,「Xbox Live」
マイクロソフトの「Xbox Live」が,ついに10億ドルを超えるビジネスに到達する見通しだ。2002年のサービス開始(日本は2003年)以来,紆余曲折を経てついに花開いたオンラインサービス事業だが,この流れを他社が黙って指をくわえて見ているはずはない。ゲーム業界のメジャー達も“ポストXbox LIVE”を虎視眈々と狙っているようだ。
発表されているアカウント登録者数は,Xbox Live,PlayStation Networkともに全世界で5000万人とされている。それだけに,ゴールド会員の年会費だけで580億円も稼ぎ出したXbox Liveの成功に,他社は心中穏やかではないだろう。大局的に見れば,プラットフォームホルダーがハードウェアを売るだけでなく,オンラインサービスで利益を得るという新たなビジネスモデルに成功したのだ
北米のビジネス情報サービス会社,Bloombergの情報サイトであるBusinessWeekが現時時間の7月7日報じたところによると,マイクロソフトのオンラインサービス「Xbox Live」の2010会計年度のセールスが,ついに10億ドルを超える見通しだという。
これは,マイクロソフトのInteractive Entertainment Business部門のCOO(チーフオペレーティングオフィサー)であるDennis Durkin(デニス・ダーキン)氏がBusinessWeekの質問にメールで答えたもので,Xbox Liveへアクセスする2500万人のうち,その半分程度が50ドル(約4300円)を支払ってゴールド会員になっており,会員料だけで6億ドル(約530億円)。さらに,映画のダウンロードやアバターのアクセサリー購入費がこれを上回る規模で,それらを合わせると少なくとも12億ドルと見られ,7月12日現在のレート(1ドル=89円)に直して邦貨で1千億円を超える規模になる。
このことについて,同社のアナリストであるMatt Rosoff(マット・ロソフ)氏は,「これまでマイクロソフトが発明能力に欠けたメーカーだと言われてきたが,Xbox Liveはその反証になるだろう。マイクロソフトは,見事なタイミングでよいプロダクトを世に送り出した」と自賛している。
無料でのサービスを行なうとしていた任天堂のWiiやソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のPlayStation 3に対し,マイクロソフトは当初からプレミアムアカウントの存在を発表しており,「オンラインで他人と遊ぶために50ドルも払えるか」と一部のゲームコミュニティから批判されていた。
だが,蓋を開けてみれば,それが優れたビジネスモデルであることが明らかになったわけで,1000万人を超えるゲーマーが50ドルという金額をちゃんと支払い,さまざまなオンラインゲームを楽しんでいるのだ。
SCEは,2010年6月29日にようやくPlayStation Networkにプレミアムアカウントを取り入れたものの,逆に言えばかなりの期間,収益機会を逃していたことになる。決して安くないサーバー維持費などを,自腹でまかなっていたのだ。
当然ながら, 無料でオンライン対戦ができるという理由から,多くのファンがPlayStation 3を選んだという考え方もできるのだが,やはり「プレミアム会員の年会費だけで6億ドル」と聞くと,無料の方針が正しかったと言えるのかどうか分からない。
ただ,こうしたマイクロソフトの稼ぎっぷりを,あまり快く思っていない業界人も多いようだ。奇しくも,上記のニュースがBloombergに発表される前日, Activision BlizzardのCEO,Robert Kotick(ロバート・コティック)氏がFinancial Times誌のインタビュー(閲覧には無料登録が必要)に答えており,「Xbox Liveのゴールド会員の約60%がCall of Dutyシリーズを遊ぶために年会費を払っているようなものなのに,我々はその分け前にまったくありつけない」と,苦労して作ったマルチプレイモードが,Xbox Liveの「客寄せ」になっている点を問題としたのである。
2000万本に届こうかというメガヒット作となった「Call of Duty: Modern Warfare 2」。マルチプレイモードの人気は高いが,Activisionは必ずしも満足していない。2010年11月に発売される「Call of Duty: Black Ops」のPC版がデディケイテッド・サーバーをサポートするという判断も,Xbox Liveと距離を置く方策なのかもしれない
世界累計で1930万本のセールス実績を挙げたCall of Duty: Modern Warfare 2だが,そのうちXbox 360版は約1140万本。Xbox 360版がリリースされた2009年11月から2010年4月の期間を見ると,約750万人のプレイヤーが,のべ1700億時間もの時間をマルチプレイに費やしたと発表されている。多少割り引いて考える必要はあるとしても,Kotick氏の主張は,まったく裏付けのないことではない。
ちなみに,2010年の上半期は,「Mass Effect 2」や「Splinter Cell: Conviction」,さらには「BioShock 2」「Just Cause 2」など,毎週のように各社の大作がリリースされた稀有な時期だった。だが,販売総額を前年比で見れば落ち込んでいるとリサーチ会社によって報告されており,2009年のModern Warfare 2がいかに大ヒットだったかがうかがえる。
約1100万人が毎月プレイ料金を支払う「World of Warcraft」をサービスするActivision Blizzardにとって,1700億時間という膨大なプレイ時間からまったく恩恵を受けていないというのは我慢のならないことだろう。自らを「業界のダース・ベイダー」とするコティック氏だけに,このインタビュー記事が掲載された翌日「Xbox Liveのセールスが1千億円」などと報じられたことに,怒りを覚えてさえいたはずだ。
Financial Timesの記事でコティック氏は,自社開発のゲームを思うままに利用できるPCゲーム市場を,「壁に覆われた庭園」に例え,今後は再開拓に乗り出していくとしている。そのため,PCゲームを家庭用テレビでプレイできるテクノロジーへの投資を進め,これらの技術を開発しているDellやHewlett-Packard との連携を模索している様子だ。
さて,上記のように,プレミアム会員制を導入したSCEだが,今年のElectronic Entertainment Expoでオンライン配信サービスの「Steam」と組むことを発表していたのも,“打倒Xbox Live”への動きと捉えられるかもしれない。
ValveのCEOであるGabe Newell(ゲイブ・ニューウェル)氏が,「PlayStation 3が,現世代のコンシューマー機の中では,もっともオープンなプラットフォームだと思っている」と話していたのも,Activisionのコティック氏の言葉と呼応する。
いまだ詳細のはっきりしない「Steam for PS3」だが,Steamのやり方はSCEとValveだけでなく,開発/販売元にも収益が発生する仕組みなので,多くの中小ゲームメーカーにとって魅力的に映るはずだ。オンラインゲーマーの囲い込みを早急に行ないたいSCEにとっても,悪い話ではない。ソニーは,映画やテレビ番組,そして音楽といった分野でマイクロソフトをしのぐノウハウを持っており,この点からXbox Live追撃に乗り出すことも可能だろう。
10億ドルの大台に乗ったマイクロソフトのXbox LIVEだが,ようやく目鼻がはっきりしてきた生まれたての市場である。今後もプラットフォームホルダー同士の戦いや,新たなビジネスモデルの模索は続いていくはずだ。有料化の傾向は気にならないでもないが,それによってサービスの質が向上するなら,ゲーマーにとってことに悪いことではないだろう。
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