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印刷2010/05/24 16:15

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第264回:ゲーム企業が開拓する,ネット時代の新しい販売方法

奥谷海人のAccess Accepted

 欧米のゲーム市場で一般的になった,DLC(ダウンロードコンテンツ)というビジネスモデル。ファンにとっては同じタイトルを長期間遊べ,販売する側も利益を得られるという,「ウィン/ウィン」の関係にあると言える。最近では,このオンラインによるコンテンツビジネスを,ゲーム購買者を刺激しない形で中古対策などへ拡張するなど,新しい動きが広がりつつあるのだ。

第264回:ゲーム企業が開拓する,ネット時代の新しい販売方法

 

一般的になったダウンロードコンテンツ(DLC)とは?
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「Mass Effect 2」のDLC,「Blood Dragon Armor」は,すでにリリースされている「Dragon Age: Origins」のクーポンを利用することで使用可能になった。DLC販売に関するElectronic Artの実験と言えそうだ

 DLC,(ダウンロードコンテンツ)という言葉は,ファンの間でもすっかり定着した。ゲーム発売後,拡張パックとしてパッケージ販売するという従来の手法ではなく,ネットを通してプレイヤー自身にダウンロードしてもらうというもので,コンシューマゲーム機のオンライン環境が飛躍的に改善されたXbox 360/PlayStation 3世代のビジネスモデルとして成長を続けている。製品を持っていないのに,うっかり拡張パックだけを買ってしまうというトラブルも防げるし,何よりも手軽である。

 DLCの先駆けとしては,セガがSega Genesis(メガドライブ)の北米向けネット,「セガチャンネル」において,「Earthworm Jim」のようなゲームをオンライン販売したことが挙げられるだろう。続くXbox時代には,最初から「Halo 2」や「ニンジャガイデン」といったタイトルの追加コンテンツが,オンラインで公開されるようになった。一般的に,こうしたDLCを最初に有料化したのは,Microsoft Game Studiosの「MechAssault」(2002年)だったとされている。

 こうした追加コンテンツ販売は,PCゲームにおいては「The Sims」などですでに成功していたが,コンシューマ機市場においてDLCを一気に浸透させる契機になったのは,2007年4月にリリースされた「Guitar Hero II」だろう。
 Guitar Hero IIのXbox 360版は,それより半年ほど前に発売されたPlayStation 2版よりも収録楽曲数が大幅に増えていたが,そのあとでXbox Liveマーケットプレースで30曲近くがダウンロード販売され,多くのカジュアルゲーマーにDLCの便利さを知らせることになった。

 こうして,コンシューマ機のゲーマーの間でも認知が進んだが,2008年9月にBethesda Softworksがリリースした「Fallout 3」は,まさに企画段階からDLC販売を組み込んだ作品として登場してきたといえるだろう。本編の発売後,2か月程度の間隔で合計5本のDLCをXbox 360/PC向けにリリースし,PlayStation 3向けには,一つのパッケージにまとめて販売することで,こちらも大きな成功を収めている。発売されたDLCは,Fallout 3の製品寿命を延ばすことに寄与し,同作のプラチナヒットを後押しした。

 もっとも,最近では,重要なアイテムやマルチプレイ用マップなど,「なんで製品に入れておかないんだ?」という声が上がってしまうようなDLCも増えており,必ずしも大多数のファンがこのビジネスモデルを受け入れているとは言いがたい。
 ゲームのエンディングを中途半端な形にしておき,その後のストーリーをDLCにつなげていくという方法も,ある意味,製品を半完成で売ることと同じだ。したがって,ゲームファンにとっては同じタイトルを長く遊べ,開発者にとっても追加の収入になり得るDLCだが,やりすぎるとファンを萎えさせる,諸刃の剣になる。

 

Electronic Artsの推し進める「プロジェクト$10」
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すべてのオンラインコンテンツを楽しむには,オンラインパスに登録することが必要だが,二つ目以降のアカウントは有料。そんな新サービスが行なわれるのが,アメリカで6月8日に発売される予定の「Tiger Woods PGA Tour 11」だ。これによって中古販売市場にプレッシャーを与え,同時にオリジナルオーナーのお買い得感を演出しようという新手法だ

 そんなDLCビジネスで,最近注目を浴びているのが,Electronic Artsの「プロジェクト$10 」(Project 10 Dollar)だ。例えば「The Saboteur」や「Mass Effect 2」,もしくは「Battlefield Bad Company 2」といった最近のEAタイトルを北米のオンラインショッピングサイトなどから購入した経験のある人なら,パッケージの封を切ると,マニュアルなどに混じって,DLCのダウンロードに使えるクーポンコードが入っているのを見たことがあるだろう。
 このコードは,要するにパッケージを購入したオリジナルオーナーにとっては有益だが,このコードを使用した後で転売したり,ゲームをクラックしてネットにアップロード(もちろん,違法行為だ)した場合,二人目以降のユーザーは使えない。もし,そのDLCを使って遊びたいのであれば,公式サイトや配信サービスサイトで正規の値段を支払って購入する必要がある。つまり,最初のDLC代を無料にすることで,二人目以降のユーザーよりゲームの価値を高くしようというわけだ。

 もちろん,こうしたことが,企画段階で一部のコンテンツをわざと抜いてDLCにする行為にもつながりかねないし,決して中古品販売や違法コピーを効果的に撲滅できるものでもないだろう。しかし,これまでDRM(デジタルライツマネージメント=不正コピー防止)ソフトウェアの導入で消費者から批判を浴びてきた多くのメーカーにとって,少なくともオリジナル版のオーナーに損をさせないという意味では非常に有効な方法であり,一般ユーザーから見てもデメリットの少ないシステムであると言えそうだ。

 こうしたEAの試みに関しては,同じようにDRMの導入で批判された経験を持つUbisoft Entertainmentが同調する立場を示している。
 UbisoftのCFO(チーフファイナンシャルオフィサー)であるアラン・マルティネス(Alain Martinez)は,先日行なわれた投資家向けの会合において,Electronic Artsのプロジェクト$10を評価し,「我々は,EAが行なっている10ドル分の解決策について,注意深く見守っており,将来的に同じ路線を構築していこうと考えています」と発言している。
 Ubisoftがいつ頃この販売方法を採用するかは明らかにされていないが,マルティネス氏は,「2011年以降の作品の多くがDLCのクーポンを含む」としており,2011年の発売に延期された「Ghost Recon: Future Soldier」も,こうした動きと関係があるのかもしれない。

 

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 Electronic Artsは,2010年6月に発売される予定のゴルフゲーム「Tiger Woods PGA Tour 11」以降のEA SPORTSブランドのタイトルにおいて,プロジェクト$10をさらに推し進めたモデルを適用すると発表している。
 EA SPORTSタイトルでは,日々変化する選手の移籍や選手データ,試合時の天候などといった情報を,ネットを通じてリアルタイムにゲームに反映させるというフィーチャーが当たり前になっているが,その接続を有料にするというのだ。もちろん,オリジナル版のオーナーは無料で接続できるが,二人目以降は10ドルでオンラインパスを購入する必要が出てくるのである。

 EAのほか,北米のパブリッシャのTHQが,リリースを予定している「UFC Undisputed 2010」に同様なシステムを採用すると発表しており,二度目以降のアカウントは5ドルで購入することになるという。今後,ほかのメーカーも次々と採用していくことになるかもしれない。
 個人的には,必ずしも中古ソフトに強く反対しているわけではないが,こうしたオリジナルオーナーに負担をかけない転売防止策には,納得がいく。DLCにせよ,オンラインパスにせよ,ネットワークの一般化と共にゲームソフトの販売形態は多様化している。こういったさまざまなビジネスモデルの中で,消費者に受け入れられたものが,やがてはゲーム産業の日常の風景になるのだろう。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く連載だ。
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