業界動向
奥谷海人のAccess Accepted / 第257回:マイクロトランザクションのスタンダードを目指すLive Gamer

読者の皆さんもよくご存じのように,韓国や中国で作られるオンラインゲームのほとんどが,「プレイ料金無料のアイテム課金」という形態をとっており,こうした,月額制の一括徴収ではなく,アイテム,マップ,サービスなどを小分けに販売していくビジネスモデルのことを欧米では「マイクロトランザクション」と呼んでいる。北米ではなかなか成功しなかったこのビジネスモデルが,最近,注目されるようになっており,とある会社がスポットライトを浴びつつあるのだ。今回は,そんな欧米オンラインゲーム業界の姿をレポートしよう。


VCONに登場したLive GamerのCEO,ミッチ・デイビス(Mitch Davis)氏。潜在的な需要が大きいアジア圏でのビジネスの必要性を主張しながら,「2010年は,欧米のメジャーなゲームパブリッシャーもマイクロトランザクションビジネスに参入する一年になるだろう」と話す
オンラインゲームで使用するアイテムなどを販売する,バーチャル商品(Virtual Goods)市場が,北米で注目を集めつつある。バーチャル商品市場は,世界全体では5700億円の市場規模に達しており,これからも毎年40%という驚異的な速度で成長していくと考えられている。
現在のところ,その80%近くを占めるのは中国だが,例えば,バーチャル商品の販売を中心にしたSony Online Entertainmentの「Free Realms」が,ローンチから一年足らずで会員数を400万人に伸ばすなど,「オンラインゲームへの課金に対して非常に保守的」といわれる北米ユーザーの受け止め方も次第に変化しつつあることを感じる。
この流れを加速しているのが,ソーシャルゲームやモバイルゲーム市場の登場だ。わずか5年ほどで世界中に4億人のユーザーを持つに至ったFacebookの収益のうち,20%ほどがマイクロトランザクション型ゲームからのものだという。
また,iPodやiPhoneなどでは,音楽ファイルやゲーム,映画などを一曲/一本ずつ1〜10ドル程度で購入することになり,収益形態の基本はマイクロトランザクションと変わらない。こうしたことから,以前北米ユーザーが見せていたマイクロトランザクションへの拒否反応も,ここへきて薄らいできたと見ていいだろう。
3月10日,サンフランシスコで開催されていたGame Developers Conference 2010において,GDCでは初となるバーチャル商品ビジネスのミニカンファレンス「VCON」が開催された。このVCONを主催したのが,Live Gamerという会社である。
Live Gamerといえば,過去にBOTやファーマーを使ったゲーム内通貨/アイテムの取り引きをビジネスとして成功させ,多くのゲームメーカーやゲーマーから批判の対象になった会社だった。同社は最近,プレイヤー同士が安全に取り引きしたり,ゲームの運営元に課金ノウハウを与えるといったビジネスに方向転換しており,バーチャルアイテムに関するマーケットソリューションを開発する企業として知られるようになっている。
Sony Online Entertainmentが,Live Gamerの開発したP2P売買に関する技術をゲームに取り入れたことを始めとして,AcclaimやFuncomなどのゲームメーカーも,Live Gamerのサービスを使用している。アジア圏では,「RF online」のCCRや,「Ragnarok Online」のGravity,「d.o. Online」のCR-SPACEなどが顧客リストに名を連ね,現在までに世界の85社以上のゲーム会社に125種ほどのサービスを提供するほどになっている。

Sony Online Entertainmentの「PoxNora」は,魔法やファンタジークリーチャーの描かれたルーン(カードのようなもの)でデッキを作り,ほかのプレイヤーとの対戦を楽しむものだ。3ドルでランダムに選ばれた8種類のルーン,25ドルで100種類のルーンを購入できるが,一度のゲームに利用できるのは30種類までとなっている
Live Gamerが,最近新しく商品化したのが「Live Gamer Elements」だ。これは,従来の「Live Gamer Exchange」を,さらにクロスプラットフォーム化させたもので,ユーザーは複数のMMOGやブラウザゲーム,そしてソーシャルゲームなどで使える“デジタルウォレット”を一つのアカウントで利用できるようになる。
すでにLive Gamer Exchangeを利用し,「Sony Station Exchange」というサービスを行っていたSony Online Entertainmentが同サービスへの移行を表明しており,6月までには既存のインフラにLive Gamer Elementsが加わる予定だ。Free Realmsを手始めに,「EverQuest」や「EverQuest II」,そしてSony Online EntertainmentがFacebookへ初参入を果たしたストラテジーゲーム,「PoxNora」などで使われることになるようだ。
Live Gamer Elementsを使用することで,クレジットカードやウェブマネーによる支払い,プレイヤー同士でのアイテムの取り引きなどはもちろん,詐欺行為の発見やその対処,膨大なアイテムカタログのマネジメント,さらにはユーザーの購買分析までが容易に行えるようになるという。
プラットフォームが異ってもインタフェースが統一されているため,ユーザーは混乱することなく,そのため利用頻度も上がるだろうというのが,Live Gamer側の予測だ。Sony Online EntertainmentのFree Realmsの場合,利用者である子供達が親のアカウントやクレジットカードを勝手に使用してアイテムを購入するケースが少なくなく,クレームによって払い戻される額もバカにならないそうだが,Live Gamer Elementsにはペアレントコントロール機能もあり,そうした問題が減少することへの期待もかかる。
Facebookで利用できるFacebook Creditsが,2010年4月に正式発表されるという情報があり,またAppleも,App Storeで利用できるバーチャルマネーを年内中にも発表すると噂されている。ここにPayPalやMySpaceなども加わり,まさしく欧米のバーチャルマネーは戦国時代の様相を呈しているのだ。
アメリカ政府がバーチャル商品に関する課税に向けた法整備を始めているという情報もあるが,いずれにせよ,マイクロトランザクションに関する技術を保有するLive Gamerにとって,こうした状況はかなりの追い風となるのではないだろうか。
マイクロトランザクションは,2001年ごろに韓国で普及し始め,この10年ほどの間に中国や日本,ヨーロッパなどへ拡散した。不況の影響もあってか,月額制のオンラインゲームで成功するタイトルが少ない中,マイクロトランザクションがビジネスモデルのファーストチョイスになるのはよく理解できることだ。
ただし,基本的にマイクロトランザクションを含むマネタイジングとは,いかにユーザーからより多く徴収するかということであり,月額課金に慣れた欧米のプレイヤーの中には,気がついたら以前より多くゲームに支払っていたと言い出す人が多く出てくるかもしれない。一人のプレイヤーとしては,「コレならいくら払ってもプレイしたい」というゲームをメーカーが作ってくれればいいと思うが,これはもちろん理想論に過ぎないだろう。
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