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印刷2010/01/29 12:25

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第250回:様変わりする欧米ゲームの販売戦略

奥谷海人のAccess Accepted

 ゲームのダウンロード販売やオンライン流通が普及しても,パッケージ版を予約したゲーマーに特典がつくというサービスはなくならない。むしろ,「予約」,つまりゲームを買ってくれる客を事前確保することは,今も昔も重要なファクターなのだ。そんな中,開発しきっていないゲームをプレオーダーにして,その分を開発資金に充てるようなインディーズ系の開発会社も出てきており,今回は,そんな不況の荒波の中で奮闘するアメリカのゲーム事情を追ってみよう。

第250回:様変わりする欧米ゲームの販売戦略

 

妙に流行っている「金色の武器」とは?
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「Dragon Age: Origins」のDragon Armorは,「Mass Effect 2」でも使用可能。そのようなアイテムなら納得できるが,ただテクスチャーを金色にしただけというのはいかがなものか?  写真は,「Call of Duty: Mordern Warfare」に登場した金色武器の一つ。マルチプレイモードの“Challenge”をクリアすることなどで入手できた

 Gamestopなど,大手のゲーム販売チェーンのサイトを覗いていると,以前に比べてその販売方法が多様になっていることに気づく。とくに興味深いのが,「Gamestopエクスクルーシブ」という戦略。北米におけるゲームパッケージの販売は,Gamestopと量販店であるWalmartがそれぞれ3分の1を占め,残りの3分の1をパブリッシャ/デベロッパの直販サイトやAmazon.comなどのオンライン販売,そしてそのほかのゲーム専門店や家電量販店などで分けあっている。つまり,販路をわざわざ3分の1に絞り込むことで,Gamestopに流通面での融通をきかせてもらったり,“プレミア感”を高めたりしているわけだ。

 2009年のクリスマス商戦においてユニークな手法を試みたのが,「Borderlands」をリリースしたGearbox Entertainmentだった。同社は,Borderlandsの予約受付が始まったその日(9月27日)に限り,「お店などでゲームをプレイしている様子を写真に撮って,送ってください。(ゲームが正式に発売されたときには)送ってくれた人と我々が一緒にBorderlandsをプレイし,手に入ったアイテムを全部お渡します」とTwitterで告知するという,開発者とゲーマーのつながりを前面に押し出したサービスに出たのだ。

 Borderlandsもそうだが,Electronic Artsの「Dragon Age: Origins」やValveの「Left 4 Dead 2」のように,予約(プレオーダー)なら価格が10%引きになっていたり,マルチプレイデモにいち早くアクセスできたりと,さまざまなサービスが試みられるようになってきた。
 「Steam」などのデジタル配信システムでは,「Grand Theft Auto IV」を予約すると「Grand Theft Auto: Vice City」が,「Empire: Total War」を予約すると「Rome: Total War」が無料で添付されるといった販売方法も頻繁に行われている。同様に北米の「トイザらス」では,「Halo 3: ODST」を予約することでメインキャラクターであるマスターチーフのフィギュア(12ドル相当)と,トイザらスや同社のサイトで利用できるギフト券20ドル分がついてくるというサービスを行っていた。

 ゲームを予約したり,リミテッドエディションを購入した人に,フィギュアやゲーム内アイテムをプレゼントするという販売方法は以前からあった。
 これはもちろん,コアゲーマー層の購買欲を刺激することで,良いスタートダッシュを切ることが目的だが,このところ,いささか安易ではないかと思える特典も目立つ。「Gears of War 2」の限定版に添付されていたゲーム内アイテム,「金のランサー」がその例だ。
 筆者自身はこうした,「金色の武器」が予約特典アイテムとして,どれほどファンの心をくすぐるのか,ピンとはこないのだが,GoW2以降,北米ではけっこうトレンドになっている。「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」では,金のべレッタや金のAK47が特典アイテムとしてゲーム内で使用できたし,2010年1月にリリースされたばかりの「Dark Void」にも,金色のジェットパックが用意されていた。

 

開発中からゲームを売ってしまうビジネス戦略
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Unknown Worlds Entertainmentの「Natural Selection II」は,Wolfire Gamesの「Overgrowth」とのバンドルでの予約受付を開始し,9日間で1600本を超えるオーダーを得た。不況で資金集めが難しくなるなか,インディーズ系の開発者にとってこれは良いビジネスオプションになっていくのだろうか

 最近,二つのインディーズ系ゲーム開発会社が共同で,「2本まとめて39.99ドル」というセールの予約受付を開始した。これは,「Natural Selection II」を開発するUnknown Worlds Entertainmentと,「Overgrowth」を開発中のWolfire Gamesの二社で,興味深いのは,このNatural Selection IIもOvergrowthも,発売時期さえ決まっていない,開発中のゲームであるということだろう。彼らは,このプレオーダーによって得た資金を使ってゲームの制作を進めようというのだ。

 似た話としては,コナミの「ゲームファンド ときめきメモリアル」(通称,ときメモファンド)が思い出される。とはいえ,ときメモファンドは,投資した額と出荷本数に応じて償還が期待できる投資信託だったが,Natural Selection IIとOvergrowthのプレオーダーは,単に「ファンに予約購入してもらい,開発の完了に必要な資金を得る」というものにすぎない。

 この二つのデベロッパが行なった「プレオーダーバンドル」は,2010年1月5日から1月13日までの9日間で1658本分の予約を獲得した。計算すると,約6万5000ドル(約600万円)の開発資金を得られたわけで,インディーズ系の開発会社にとって,数か月やっていくのに十分な金額だ。両社とも広報やマーケティングを専門の社員はまったくいないそうだが,TwitterやFacebook,YouTubeといったコミュニケーションツールをフルに活用した成果により,現在も平均1分に1オーダー届いているという。

 長引く経済不況の影響が深まりつつある欧米ゲーム業界。自分達のゲームに対する興味を少しでも多くのユーザーに持ってもらい,購買層を広げていくのは,ゲームを作る側にとって,昔から変わらず大きなテーマである。
 とくに,インディーズ系の開発会社のように資本力がない場合,プレオーダーならぬプレセール方式は有効な手段になっていくかも知れない。開発する側にとっては,ゲームが完成してから資金を回収するのではなく,開発中,または企画の段階から資金運用が可能になるわけだ。
 むろん,そのようにして消費者から資金を集めても,販売までこぎつけられずに倒産してしまう可能性もあり,予約者にとって大きなリスクを伴うものでもある。したがって,こういうやり方が無秩序に拡大していけば,いずれは大きな問題になるだろう。
 映画産業においては,「アートハウス」などと呼ばれる小規模なプロジェクトが増えた1970年代から,このようなプレセールが盛んに行われており,映画制作に失敗したときのための保証人制度もある。インディーズゲームが脚光を浴びている昨今,ゲーム業界でもそうした制度やインフラの整備が必要になってくるのかも知れない。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けてきた。業界に知己も多い。本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,連載開始から200回以上を数える,4Gamerの最長寿連載だ。
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