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印刷2009/11/13 12:23

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第240回:欧米ゲーム考 〜 世界を変えた音楽ゲーム

奥谷海人のAccess Accepted

 このところ,プレイしなければならない新作タイトルが次々とリリースされ,仕事が溜まる一方の筆者だが,仕事とはあまり関係ないのに,発売されるや否や購入してしまったのがElectronic Artsの「The Beatles: Rock Band」。楽器風コントローラーを使った音楽ゲームの登場から約5年が経つが,実際に自分で購入したのは初めてのことだ。というわけで,ここで改めて欧米の音楽ゲームブームの一端を紹介し,その流れや意義について考えてみよう。

第240回:欧米ゲーム考 〜 世界を変えた音楽ゲーム

 

無視できないジャンルとなったアメリカ産音楽ゲーム
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映像も非常に作り込まれており,目,耳,体のすべてを使ってビートルズを体験できる「The Beatles: Rock Band」。初期に用意された45曲の中に,「イエスタデイ」や「ヘイジュード」といった楽曲が含まれていないのは,なんとなくビジネス的思惑が見え隠れするし,場所を取る周辺機器の電源コードがいつも絡み合って困るが,ビートルズを家庭で体験できるのは見逃せない。音楽ゲームは,欧米のゲーム業界と音楽産業を,たった5年ほどで急変させてしまったのだ

 9月にElectronic Artsからリリースされた,「The Beatles: Rock Band」のXbox 360版を購入した。買ったのはギター,ドラム,マイクがセットになったスペシャル版で,筆者がギターとサブボーカルを務め,娘がボーカルとドラム,息子がギターもしくはベースという家族バンドを結成したのだ。
 だが上達は難しく,Easyモードでギターをそれなりに弾ける程度。複雑な曲のMediumモードともなればミスを連発し,ドラムがサマになりはじめた娘のおかげで最後までどうにかプレイできるという状態である。
 そういうこともあって,音楽ゲームについていろいろと考える機会が増えた。最近,いくらか落ち着いてきたとはいえ,欧米で大人気の音楽ゲームに関して,筆者はこれまでほとんど興味を持たなかった。しかも,「Borderlands」や「Dragon Age: Origins」といった期待の新作が続々と登場しており,実をいうとゲームを余暇で楽んでいる場合ではなかったりもする。とはいえ,音楽ゲームが無視できないジャンルに育ったのは間違いないところでもあるので,今回は欧米の状況について考察してみることにしよう。いや,けしてハマっているからとか,そういうことではないのである。

 ご存知のように,音楽ゲームの火点け役は2005年にActivisionからリリースされた「Guitar Hero」である。ギターのネック部分についた四つのボタンとストリングを模したバーを,ゲーム画面に合わせてタイミング良く押したり上下させたりするという内容で,タイミングがうまく合うと,ポイントがどんどん加算され,ゲーム内の観客達の歓声もどんどん大きくなっていく。さらに高得点を得ると新しい楽曲がアンロックされるシステムになっている。

 Guitar Heroは,アメリカの周辺機器メーカーであるRed Octaneが,KONAMIのアーケードゲーム,「ギターフリークス」にインスパイアされたことがきっかけで誕生したとされている。Red Octaneは,自社の周辺機器を使った新しいゲームの可能性を探るため,デベロッパのHarmonix Music Systemsに連絡を取り,PlayStation 2向けタイトルの共同開発を開始した。予算は,楽曲のライセンス料を含めても1億円ほどと,こぢんまりしたプロジェクトだった。また,この時点では音楽業界も懐疑的だったらしく,リリースされたゲームに収録されていた楽曲にはインディーズレーベルの曲も少なくなかった。

 しかし,発売されるや否や,ギターコントローラーを同梱するため価格が高いというハンデをモノともせず,Guitar Heroは大ヒットする。以来,毎年のように新作や拡張パックがリリースされ,2007年の「Guitar Hero 3」が単体で約1000万本のプラチナセールスを達成するなど,現在発売中の「Guitar Hero 5」を含めて約2500万本のセールスを記録している。
 オンライン配信を除く売り上げは,邦貨で2000億円を超えており,ActivisionはGuitar Heroをして任天堂のマリオシリーズ,Electronic ArtsのMadden NFLシリーズに続く,世界で三番目に利益の出るゲームシリーズになったとしている。

 欧米の音楽ゲーム市場を二分する,もう一方の雄である「Rock Band」は,2007年に初登場した。Guitar Heroに音楽ゲームの将来性を感じたMTV Gamesが,Harmonixを1億7500万ドル(当時約160億円)で買収して開発させ,Electronic Artsをパブリッシャとしてリリースしたのだ(対抗策としてActivisionはRed Octaneを買収した)。
 Rock Bandは,Guitar Heroを一歩先に進め,ドラム型コントローラーも付属したパーティゲームに進化した。Activision/Red Octane側もこれにならい,Guitar Hero 5ではドラム型コントローラーに対応させている。
 そのため,ゲームの内容については二つのシリーズにあまり違いはなくなってきたが,後発であることもあって,Rock Bandシリーズは「Rock Band 2」(2008年)を合わせても1300万本ほどのセールスとのこと。
 そこで,Guitar Heroを追い抜く決め手の一本としてリリースしたのが,The Beatles: Rock Bandになるわけだ。しかし,発売から2か月経った現在,PlayStation 3およびXbox 360を合わせたセールスは120万本程度であり,Guitar Hero 5をやや上回る程度になっている。クリスマスシーズンはまだ序盤だが,売り上げのスピードはやや期待外れといったところだ。それでも,同時期に発売されたGuitar Heroシリーズ最新作を上回るのは初めてのことである。

 

音楽ゲームがすごいと思う理由
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こちらは,10月末にリリースされたばかりの「DJ Hero」の卓上型のターンテーブル・コントローラー。クラブのDJとなったプレイヤーが二つの曲をミックスし,バーチャルな観客をノリノリにさせるというシリーズのスピンオフ作品だ。このほか,バンドモードに特化した「Band Hero」がリリースされたり,Rock Bandシリーズをサブライセンスした,子供向けの「LEGO: Rock Band」がWarner Bros. Interactiveから発売されるなど,欧米の音楽ゲームは多様化し始めている

 Guitar HeroシリーズであれRock Bandシリーズであれ,これらの音楽ゲームは,瀕死のアメリカ音楽産業の力強い支えになっている。これまでの当連載でも何度か書いてきたことだが,音楽ファイルは1曲分が3〜7MB程度とサイズが小さく,しかも一般的な形式であるためにコピーやダウンロードが容易であることから,以前から違法ダウンロードの対象になってきた。
 日本のように,レンタルCDやカラオケといったオプションが発達しなかったアメリカでは,P2P技術を使うファイル共有プログラムが登場したあたりで,音楽業界が一気に斜陽化してしまい,iPodの普及によるダウンロードの収益でかろうじて救われているという,壊滅に近い状態に陥っていたのである。
 そのため,音楽ゲームから徴収できるライセンス料は音楽産業にとって馬鹿にできないものとなっている。
 また,The Beatles: Rock Bandが発売されてから1か月ほどで,ビートルズの11番目のアルバム「Abbey Road」(1969年。メンバーが一列に並んで道を渡るジャケットが有名)のダウンロード販売が開始され人気を獲得するなど,ビジネス面でのシナジー効果も期待できるようだ。

 ここまで音楽ゲームが浸透した理由の一つとして,人の「ミュージシャンになりたい願望」を見事にかなえたということが挙げられるだろう。ミュージシャンとして大舞台の上に立つのは,誰でも一度や二度は抱く夢 (少なくとも,筆者はそうだった)だ。
 しかし,シャワーを浴びながら鼻歌を歌うならまだしも,その夢をかなえるために楽器を購入して練習する人は一部に過ぎず,さらに成功してステージに立てるのはごくわずかである。
 しかも,アメリカは音楽の世界的な中心地であっても,音楽教育は日本と比べて貧困で,高校でマーチングバンド部にでも属していない限り,楽器に触れる機会さえ与えられなかった人も少なくない。

 しばらく前,アメリカのある大学教授が,中学高校の授業で実験的にこれらの音楽ゲームを使ったというニュースを読んだ。その教授は「どんなに音楽に才能のない人でも,リズムを肌で感じ,音楽を演奏することの楽しさを理解することができる。これは,音楽にとっては革命的なことである」とコメントしていた。

 Guitar HeroやRock Bandがそういった,楽器に触れる機会のなかった人々に広くアピールしたのは疑いがない。筆者も,自分の子供がRock Bandに慣れていく過程で,次第に頭や体を揺らしながら音を感じ取り,音楽への接し方が変わる瞬間を目撃している。

 もう一つ,筆者がThe Beatles: Rock Bandを購入することにした理由は,いうまでもなくビートルズにあった。ビートルズに特化した本作は,リバプールの小さなライブハウスから,やがて旧ソ連や日本でコンサートを開くようになるまでのプロセスを疑似体験できるのだ。1960〜1970年代という時代の雰囲気も,ゲーム画面から感じられるように作られており,The Beatles: Rock Bandはまさしく素晴らしい「現代音楽史の教材」といえる。

 すでにアイデアが出尽くしたと思われていたところに,このような形でジャンルを一歩進めた開発者達の努力は素直に賞賛したい。ギター1本からでもプレイできるので,読者の皆さんも機会があれば試してほしいと思う。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けてきた。業界に知己も多い。本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,連載開始から200回以上を数える,4Gamerの最長寿連載だ。
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