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印刷2009/10/09 10:50

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第235回:このところ面白くなってきたライセンスゲーム

奥谷海人のAccess Accepted

 ゲームに近いようで意外と遠く,それでいて切っても切れない関係にあるのが「映画」だろう。1980年代から最近まで,映画をライセンスして作られたゲームタイトルには,うーん,いまいち! と思われるものが圧倒的に多かったのは事実。ところが最近,ベタベタのライセンスものでありながら,簡単にセールス100万本を超えてしまうような作品が増えてきた。今回は,いくつかの失敗作や成功作を例として,最近の映画ライセンスゲームの動向を追ってみよう。

第235回:このところ面白くなってきたライセンスゲーム

 

ゲームの黒歴史に名を残す,映画ゲーム失敗作の数々
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初期ポリゴンゲーム失敗作の代表のような「Superman 64」。筆者も遊んだ記憶があるが,方向もちゃんと指定できない非常に歯がゆいゲームだった。開発したのはフランスのTitus Softwareで,「Xena: Warrior Princess」(1999年)や「Robocop」(2003年)など映画やドラマをベースにした数々の駄作ゲームを残した

 欧米のゲーム市場において,映画をライセンスしたゲームといえば――あまりこういう表現は好ましくないのだが――つまりは「クソゲー」の代名詞だった。例えば,NINTENDO 64向けにリリースされた「Superman 64」(1999年)は,「任天堂が発売を許可してしまった史上最悪のゲーム」として知られている。当時の3Dグラフィックスのネックになっていた描画距離の短さを「悪のしわざによって発生した霧」という設定に仕立てたアイデアは悪くなかったものの,その霧のためにスーパーマンが高速で飛べず,しかもパワーも乏しくやたら死にやすいというのは,無敵のスーパーマンに憧れるファンにとってはなんとも救いがたい設定だった。

 良く知られる話としては,ATARIのゲーム機「Atari 2600」向けに制作された「E.T. the Extra-Terrestrial」(1982年)がある。「映画とは無関係のパックマン風アクションゲームにすべきだ」というスティーブン・スピルバーグ監督の意見に耳を貸さなかった制作陣は,その代わり「母船に電話をかけるためにE.T.がさまざまなパーツを集めて回る」というアドベンチャー風の内容に仕上げることにした。だが問題は,その年のクリスマスシーズンに間に合わせるため,わずか5週間という期間で制作し,テストプレイも行わないままリリースされたことだ。スピルバーグ監督の主張もどうかしらという気はするが,結果は惨憺たるものになったのである。

 E.T.にとっての不運の一つは,Atari 2600のライバルゲーム機が相次いで市場に登場してきた時期とゲームの発売が重なったことだ。販売店における棚取り競争が激化したため,家電量販店や玩具店の中には,E.T.の仕入れをキャンセルもしくは縮小するところが出てきたのだ。これに対する制裁として,ATARIは特定の量販店のみでE.T.を販売するという手に打って出るが,わずかな期間で制作されたゲームに,それに応えるだけの実力はなかった。
 その直後,「Video Game Crash」(いわゆる「アタリショック」)がゲーム業界を襲い,1970年代に市場を席巻したAtari 2600そのものが,まったく売れなくなってしまうという事態に陥ってしまう。中には「E.T.がVido Game Crashを引き起こした」という意見もあるようだが,そこまで言うのはちょっとかわいそうだろう。
 結局残ったのは,推定250万個といわれるE.T.のカートリッジ。噂によれば,ATARIは,ニューメキシコ州の砂漠地帯にある産廃処理場にカートリッジを持ち込み,ブルドーザーで埋め,その上から分厚いコンクリートを流して封印してしまったという。事の真偽はともかく,ATARIにとっては思い出したくもないモノだったのだろう。

 このような,映画やテレビドラマを題材にしたデキの悪いゲームを挙げればキリがない。「Waterworld」「Total Recall」「Charlie's Angels」「Knight Rider」,そして「Miami Vice」といったヒット作が取り上げられては,ゲームとして大ゴケしてしまうようなことが長らく続いてきたのだ。

 

そもそも,失敗ばかりではない映画ものゲーム
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「ゲームは遊んで見なきゃ分からない」とはまさにこのこと。E3などのイベントでは,現在スクウェア・エニックス傘下にあるEidos Interactiveが大々的に「Batman: Arkham Asylum」を宣伝していた。内心「まあ,バットマンだから」と,時間のないことを言い訳に見向きもしなかった筆者だが,なんとギネスブックに載りそうな勢いのヒット作になってしまった

 ライセンスゲームが失敗する理由としてよく挙げられるのは,限られた予算におけるライセンス料負担が大きすぎるために,ゲームの開発そのものに使える額が十分でなくなってしまうケースだ。これについては,現ATARI(※現在のATARIは,フランスのInfogramesを母体にする企業が以前のATARIの資産を買い取って設立したメーカー)が2005年にリリースした「The Matrix: Path to Neo」を挙げることができるだろう。一説では,映画の第一作が成功したあと,ATARIはライセンス料として邦貨で400億円近い大金を支払ったという。だが,2作目以降の映画が不発に終わったことに加え,ゲームの開発にも時間がかかり過ぎ,期待した成果は残せなかった。

 その一方で,映画の公開に合わせてリリースを行うため,前述のE.T.のように開発に時間がかけられないというケースもある。納得のいくまで開発を行うデベロッパの多い欧米において,以前からかなり窮屈なスケジュールを強いられてきたジャンルだったといえるだろう。公開された映画が必ずしも成功するとは限らず,場合によっては不人気映画のために高い版権料を支払うことになる。ライセンスゲームはリスキーなジャンルでもあるのだ。

 こうして制作された数多くのライセンスゲームが,ベースになった映画やテレビドラマの知名度の高さから,昔から日本に輸入されてきた。よく言われる「洋ゲーは大味」という意見は,そうしたゲームを遊んだプレイヤーから生まれたのかもしれないが,実のところ,当のアメリカ人だってショボいと思っていたのだ。

 しかし,たとえライセンスゲームでも,じっくりと作りさえすれば,ファンを魅了する作品になり得ることはある。少し古いタイトルだが,NINTENDO 64向けにリリースされた「GoldenEye 007」(1997年。邦題,ゴールデンアイ 007)は,日本のコンシューマー機ゲーマーにもFPSの面白さを広めたゲームとして人々の記憶に残っている。
 ほかにも「Command & Conquer」の開発チームであるWestwood Studios(現EA Los Angeles)が開発したポイント&クリック式のアドベンチャー,「Blade Runner」(1997年)も好例といえるだろう。映画版の主役ハリソン・フォードを起用したり,映画のプロットを追うのではなく,「一人のブレードランナーとなったプレイヤーが,レプリカントの関係する事件を捜査するディテクティブアドベンチャー」という意表をついた展開がファンの話題となった名作ゲームだ。

 

もはや,「大味」などと言わせない!
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「Ultima Underworld」や「Deus Ex」のプロデュースで知られるウォーレン・スペクター氏の新作は,ディズニーアニメの世界を舞台にしたゲームとなる予定。イメージ画はけっこう大人向けに見えるが,どのような冒険が待っているのだろうか? スペクター氏の手腕に期待したい

 最近話題の「Batman: Arkham Asylum」は,2009年8月(PC版は9月)にリリースされて以来,当初の予想をはるかに超える大健闘を見せた。4GamerでもおなじみのMetascoreはPC版でなんと92点という高得点(2009年10月8日現在)。現在までに,PCおよびPlayStation 3,Xbox 360,そしてゲーム性は少々異なるがWii版を含めた4バージョン合計のセールスが,300万本を越えている。ギネスブックに「コミックヒーローを主人公にして最も売れたゲーム」として登録されているカプコンの「Marvel vs. Capcom 2: New Age of Heroes」を超えるヒットとなっており,メーカーは新たにギネスブックに申請を行う方向であるようだ。

 Batman: Arkham Asylumは, DCコミックスとゲームデベロッパであるRocksteady Studiosとの直接契約によって制作されたもので,バットマン映画をベースにしてはいない。ストーリーは,「ジョーカーらヴィラン(悪役)が閉じ込められた収容所で事件が起き,その状況をバットマンが探っていく」というもので,ゲーム性は「天井や物陰など暗がりをつたいながら,敵を効率良く退治するため知恵を絞っていく」というスニークアクションになっている。このあたりも,従来のヒーローものタイトルとは性格を異にする。
 グラフィックス的には,昨年(2008年)公開されて話題を呼んだ,「ダークナイト」に影響を受けたのは確実で,マントを広げて滑空する様子が非常にカッコいい。映画が企画される前から開発が進められていたようで,DCコミックス所属のライターに脚本を書かせるなど,あまり知られていないデベロッパにしては非常に凝った作り方をしており,ここも高評価の理由の一つだ。

 Batman: Arkham Asylumに限らず,最近こうした優秀なライセンスゲームが増えてきたように思える。2004年の「Spider-Man 2」は映画のエッセンスを巧みにゲーム世界に移し替えたオープンワールド型のアクションゲームで,また同年の「The Chronicles of Riddick: Escape from Butcher Bay」は,人気のなかった映画より良くできているとメディアやプレイヤーに評された。
 Rockstar Gamesが2005年に手がけた「The Warriors」は,1979年の名作ギャング映画をゲーム化したものだが,そうした「イマサラ感」にもめげず,非常によくできた作品だ。
 2009年6月にリリースされた「Ghostbusters: The Video Game」は現在,全対応機種を合わせたセールスがかろうじて100万本に達したタイトルだが,物理エンジンという最新技術を利用しつつ,レトロな雰囲気の漂う映画の世界が楽しめる良作だと筆者は思う。

 こうした流れは,ゲーム開発者達が映画の内容に縛られることのない自由な企画を作れるようになってきたこと,そして優秀なミドルウェアやゲームエンジンによって映画の世界をよりリアルで緻密にゲーム化しやすくなったことで実現に至ったものだろう。いずれにしろ,「洋ゲー=大味」という固定観点は捨ててしまったほうがよさそうだ。

 そういえば,アメリカの名ゲームプロデューサーであるウォーレン・スペクター氏がDisney Game Studiosで進めている秘密プロジェクトの内容が次第に明らかになってきた。
 「Epic Mickey」というコードネームで知られる本作は,現在のところミッキーがモノクロの世界に色を塗っていくという設定が伝わっている。コードネームからも分かるように,Epic Gamesの最新ゲームエンジンが使用されているらしく,ファンタジーアニメが緻密なグラフィックスで表現されるのは間違いなさそうだ。今後,ライセンスゲームは欧米ゲーム業界の弱点ではなく,強みとして活かされていくことになるのではないだろうか。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けてきた。業界に知己も多い。本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,連載開始から200回以上を数える,4Gamerの最長寿連載だ。
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