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印刷2009/09/04 11:02

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第231回:Gamescomで見た,世界に広がるゲーム産業

奥谷海人のAccess Accepted

 ゲーム産業といえば,ハリウッド的な制作システムを武器に世界市場の半分を握るまでになったアメリカ合衆国,個性的なタイトルを数多く生み出す西ヨーロッパ,そして多彩なコンテンツとアイデアを武器にした日本にほぼ三分されてきたが,ここ数年,東ヨーロッパやカナダ,さらにはオーストラリアを含めたアジア圏も無視できない存在になりつつある。今回は,そんなグローバル化の波に乗ったある国の業界進出と市場獲得に向けた努力をテーマにしてみよう。

第231回:Gamescomで見た,世界に広がるゲーム産業の姿

 

ゲームイベントで見るゲーム産業を助成する国々
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イランがついにヨーロッパのゲーム市場に参入? 最近,政府の助成によって国内のゲーム産業を育てていこうという国々が多いが,中東地域のゲーム産業はまだ産声を上げたばかりだ。不正コピー問題や国内インフラの問題などを乗り超えて成長していくことになるのだろうか?

 Electronic Entertainment ExpoやGame Developers Conference,そして,2009年8月19日から23日までドイツのケルンで開催されていたGamescomのように,業界関係者による商談が一つの柱となったゲームイベントには,「パビリオン」という形式のブースがいくつか用意されている。これは,ゲーム開発のサポートを行う各国の政府機関が出資し,規模や費用の面で,本来ならアメリカやヨーロッパのゲームイベントに出展できないような中小メーカーに,国家集合体として展示の機会を与えているものだ。

 4Gamerが特集を組む規模のイベントであれば,ノルディック(北欧諸国の共同パビリオン)やフランス,ドイツ,台湾,そしてシンガポールやスコットランドといったところが,パビリオンを出展する常連といったところだろう。

 要は,「いかにその国がゲーム産業をサポートしようとしているか」ということであり,事実,ひところの韓国パビリオンが非常に大規模だったことを記憶している。やがて,NCSoftやNEXONといったメーカーが成長して一人立ちしたため,パビリオンはその役目を終え,最近はあまり見かけなくなった。

 コンセプトはパビリオンであるものの,ゲームイベントのそれは商談が中心なだけに,多くのパビリオンは,細かく分けられたスペースに机と椅子が並べられているだけ。たまにボールペンやビール(?)などを配っていたりするのだが,その作りがあまりにそっけないため,ジャーナリストの多くはパビリオンを横目で見ながら素通りすることが多い。もちろん,向こうとしてもメディア関係者にはほとんど興味なしといった感じで,ブースに座ったビジネスマン達がノートPCを囲みながら何やら話しているのが常である。

 さて,ここからが本題。先日のGamescomでビジネスセンターを“散策”していたとき,非常に興味深い国のパビリオンを発見した。ブースのコンセプトカラーが水色に黄色だったので,「スウェーデンあたりかな?」と思ったのだが,よく見るとゲーム業界ではあまりなじみのないアラビア文字……。なんと,イランのパビリオンブースだったのである。

 読者の中で,どれだけの人がイランのゲーム産業についてご存知だろうか? OPEC第2位の産油量を誇る大国イランは,中東屈指の工業国であるとされている。IT産業やインフラも十分に整備されているのは,数か月前に行われた大統領選挙をめぐる抗議運動の情勢が,政府の統制にも関わらずTwitterやYouTubeをとおして次々に流れてきたことからも分かる。

 

イラン人開発者が真のペルシャを描いた3Dゲーム
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中東にはさまざまな民族,人種が住んでいる。ペルシャ的視点で描かれたという「Quest of Persia: The End of Innocence」のホームページを見ると,なぜか英語と日本語に翻訳されたムービーも用意されている。イラン国内では大ヒットとなったPC向けタイトルだが,日本へ輸出する気も十分のようだ。機械翻訳らしき,ちょっとおかしな日本語はご愛嬌

 パビリオンの前で筆者は頭をひねったが,イランでどのようなゲームが作られているのか,どのようなタイトルが遊ばれているのかの情報に触れた記憶はなかった。
 イラン以外のアラビア語圏では,シリアのAkfar Mediaがイスラエル軍の戦車に対して投石で立ち向かうパレスチナの英雄を描いたFPS,「Under Ash」をリリースしており,シリーズで10万本を超えるヒットになっているという。また,同社は7世紀のイスラム国家成立の過程を体験するRTS「Al-Quraysh」も制作している。

 では,イランの場合はどうなのか? Gamescomのパビリオンを興味津々で覗き込んでいた筆者だが,そんな怪しい東洋人の姿に気づいた政府関係の人が,イラン国内でも最も有望株といわれるメーカーの人物と引き合わせてくれた。メーカー名はPuya Arts Software。話をさせてもらったのは,マネージング・ディレクターのBahram Agah(バフラム・アガフ)氏だ。

 2002年に設立されたPuya Arts Softwareは,もともとテレビ向けの3Dアニメーションなどを制作していた人達がゲーム開発を目的に設立した会社で,2005年の「Quest of Persia: The End of Innocence」でデビューした。独自開発のゲームエンジンを使用したゲームはイラン国内で初めてだったという。同年,イラン国内で行われた国際的なゲームトーナメント,WCG(World Cyber Games)で行われたデジタルメディア祭では,ゲーム部門に出展された80作品中,大賞ほか5部門での受賞をしているそうだ。

 アガフ氏によると,その続編である「Quest of Persia: Lotfali Khan Zand」(2008年)は,イラン国内だけで5万本を売った。「お恥ずかしい話ですが,イランは不正コピーやダウンロードが盛んです。そこで5万本が販売できたのは,本当にすごいことだったのです」と語る。
 確かに,コンシューマー機の正規販売が行われていないお国柄であり,まだまだPCゲームが市場の中核にあるマーケットとはいえ,PCタイトルを5万本も売るのは日本や欧米以上に楽なことではないだろう。ゲームのグラフィックスはそれほどハイレベルとはいえないものの,それもアガフ氏によれば「国内で利用されているPCスペックに合わせる必要があった」からだ。彼の口調から察するに,イラン国内で普及しているPCのスペックは,やはりそれほど高くないと思われる。

 さらに第3弾となる「Quest of Persia: Nader's Blade」は,グラフィックスエンジンをパワーアップして2009年7月にリリースされたが,こちらはイラン国内の週間セールス記録を塗り替えたとアガフ氏は語る。剣を振るうアクションも多いことから,ひょっとしたら「プリンス・オブ・ペルシャ」シリーズから影響を受けているのかと思ったが,アガフ氏はそれを否定した。
 「プリンス・オブ・ペルシャは,西洋的な視点で捉えたファンタジーです。アラブの文化もあれば,インドの文化も混じっています。ゲームはつまるところゲームでしかありませんが,我々にミッションがあるとすれば,我々ペルシャ人が描いたペルシャを,ゲームとして面白く表現することです」と,その開発理念を話してくれた。

 

真の意味での「ゲーム産業グローバル化」の始まり
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イランパビリオンのブースで展示されていたゲームの一つ。誰も説明してくれる人がいなくて,内容どころか,どんな名前なのかさえ分からなかったが,女性(女の子?)をターゲットにしたゲームが開発されているという事実そのものに驚く。モニターに映し出されたイメージ画を見たところ,イラン版シムズとでもいったところだろうか?

 コンピュータ産業への参入は,他の産業と比較して容易だといわれている。大きな投資を必要とせず,プログラムやアニメーション,グラフィックスなどの基礎知識があれば,ある程度のものは開発できるからだ。Puya Arts Softwareがやったように3Dグラフィックスエンジンを自前で開発しなくても,安価にライセンスできるエンジンも数多く,最近ではJavaやXNA のように,誰でもゲーム開発ができるような環境が整いつつある。

 上述のQuest of PersiaやUnder Ashだけでなく,イスラエルやインドにも国内ゲーム市場を狙ったタイトルが生まれつつある。グローバルな観点からはニッチかもしれないが,「特定の民族や文化をターゲットにしたゲーム作り」は,欧米や日本で開発されるビッグバジェットの作品と競争するうえで,あり得る選択だろう。
 Quest of Persiaは,すでに英語化もされている。彼らがGamescomのようなゲームイベントに参加するのは,欧米に住むイラン系の人々という市場を見込んでのことだ。ゲーム産業は,市場も開発現場も,我々が思っている以上に急速な多角化が進んでいるのである。

 例を挙げれば,現在インドでは国内初の3Dアクションアドベンチャーとなる,「Ghajini」が開発されている。記憶を失ったビジネスマンを主人公にしたというこの作品,インド国内で制作されている同名映画とのタイアップだが,開発元のFX Labsは世界的に売り込みたいとしている。

 また,FPSプレイヤーならすでに知っているであろう「Zeno Crash」は,チリのサンティアゴをベースにするACE Teamによる作品だ。「DOOM 2」を使ったMOD「Batman DOOM」以来,10年にわたってMODを制作してきたデベロッパが満を持して送り出す本作は,SteamやDirect2Driveを使ったデジタル販売によってクローズアップされ,欧米のメディアの評価も非常に高い。

 イランのPuya Arts Softwareはもちろん,こうした国々のゲーム産業は,まだまだ産声をあげたばかりだ。しかし,規模や資本力だけではなく,デザインやセンスといった“ソフトパワー”が決め手となることが多いゲーム業界だけに,彼らがいつか大成功する可能性は大いにあり得ることだ。
 実際,ロシアや韓国,ポーランド,ノルウェーなどのゲームメーカーが,ここ20年でかなりの力をつけてきたのは事実だ。いつしか,彼らのゲームが世界的に大ヒットし,我々が新作のリリースを心待ちにするということになるかも知れず,ゲームの裾野が広がるという意味で,それは歓迎すべきことだろう。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けてきた。業界に知己も多い。本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,連載開始から200回以上を数える,4Gamerの最長寿連載だ。
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