業界動向
奥谷海人のAccess Accepted / 第228回:アメコミとゲームの熱い関係 その2

アメリカのコミックス店を覗くと,例のあのムキムキな画風で描かれた「Star Wars: Knights of the Old Republic」や「World of Warcraft」など,ゲームをベースにしたタイトルが増えていることに気がつく。先週,カリフォルニア州サンディエゴで開催されたイベント,Comic-Conでも顕著だったように,最近,アメコミとゲーム産業の接近が以前にも増して加速しているようだ。今回は,そんな“トランスメディア化”する欧米ゲーム事情を調べてみよう。

今年で40回目というComic-Con San Diegoが,2009年7月23日〜26日に開催された。コミックスが主体ではあるが,それ以外にもスター・ウォーズやディズニーアニメ,さらには日本のアニメやマンガなども扱うという総合イベントだ。アメリカの若者の間で市民権を得つつある,“ギーク・カルチャー”の代表的なイベントといえる
筆者が「アメコミとゲームの熱い関係」という記事を書いたのは,この連載が始まってからまだ数か月,2005年3月のことだ。アメリカ製コミックを映画化した「X-メン」(2000年)や「スパイダーマン」(2002年)など“新世代コミックス映画”の大成功以来,ハリウッドではマーベルコミックやDCコミックなどの作品に手を伸ばし,毎年何本かの大ヒット映画が作られ続けている。これは,マンガが映画やテレビ番組となってヒットする,日本の状況ともよく似ている。
ハリウッドでは「トランスフォーマー」や「G.I.ジョー」などオモチャから始まるコンテンツをリメイクするようなケースも目立つが,これもアメコミと映画の関係と軌を一にする流れといえるだろう。
こうした流れの背景には,脚本家や製作者のアイデアが枯渇したとか,すでに固定客のついているコミックスを題材にすることで,一定の売り上げが見込めるとか,さまざまな理由が考えられる。コミックスにしろオモチャにしろ,多くは1970年代から80年代に人気だったものであり,すでに父親になった当時のファンが,家族を連れて劇場に足を向けるという効果も期待できるのだろう。
7月の23日から26日までの4日間,カリフォルニア州のサンディエゴ市において,Comic-Con International 2009(以下,Comic-Con)というイベントが開催された。今年でなんと40年目という,この手のイベントとしては非常に長い歴史を持つComic-Conだが,例年どおりアメコミの最新刊が発表されたり,関連するアートやグッズの販売が行われたり,カンファレンスが開催されたりして大盛況だった。
入場者数は13万人ほどだが,アメコミファンだけではなくディズニーアニメやスター・ウォーズなどのファンも混じっており,さらに日本製アニメ専門の展示スペースや上映ホールがあったりと,守備範囲はかなり広い。著名なコミックアーティストやライターによるセミナーやワークショップもあり,今年のゲストスピーカーとしてなんと日本の宮崎駿監督が招かれ,アメリカ人を熱狂させたという。
息の長いComic-Conだが,最近は全国ネットで開催の模様が報じられたり,ハリウッドのプロデューサーや俳優が,公式もしくは私的に参加したりと,異常なほどの盛り上がりを見せるようになってきた。
理由はもちろん,数々のアメコミ映画が大成功を収めているからであり,日本で「オタクは金になる」といわれているのと同様,アメリカでも「ギークは金になる」という事実が認識され始めているのである。実際,来場者の多くはグッズが目当てであり,景気が良かった昨年などは,数百万円もするプレミア付きの古書が売れていたとのこと。
ハリウッドばかりでなくゲーム業界もまた,ギークカルチャーの先頭に躍り出たComic-Conに熱い視線を投げているようだ。Comic-Conに参加したゲーム企業は,ActivisionやCapcom,Electronic Arts,KONAMI,Namco Bandai Games,NCsoft,Rockstar Games,SEGA,Sony Computer Entertainment,Square-Enix,そしてUbisoft Entertainmentなど錚々たる顔ぶれ。それぞれが試遊台を設け,メディアイベントであるE3では見られない,ファンとの直接対話を図っている。Comic-Conは,時期的にE3終了後のことで,東京ゲームショーという国際的なゲームイベントに至る“狭間の時期”にあたるわけだが,中にはE3への参加を見合わせ,わざわざComic-Conで新作ゲームを発表するというケースも出てくるようになった。
Comic-Conで発表された「Halo: Legends」は,2010年中にDVDやBlue-Rayで発売される予定のショートアニメ集だ。日本のカシオエンターテインメント,Production I.G.,Studio 4℃,そして東映アニメーションなどが制作を担当しており,アメリカ生まれのヘイローワールドを日本のクリエイターがアレンジするというユニークな試みだ
Comic-Conで一般公開されたゲームとしては,スパイダーマンや超人ハルクなど24人のキャラクターがドリームチームを編成するアクションRPG,「Marvel: Ultimate Alliance 2」(Activision)や,ダークな世界観が売りのコミック「Four Horsemen of Apocalypse」のキャラクターを使った「Darksiders: Wrath of War」(THQ)など,当然ながらアメコミをベースにしたものが多い。
「G.I.Joe: The Rise of Cobra」(Electronic Arts)や「Teenage Mutant Ninja Turtles:Smash-Up」(Ubisoft Entertainment),そして「鉄腕アトム」のハリウッド版をベースにした「Astro Boy: The Video Game」(D3 Publisher)などは,E3よりはるかに力を入れて紹介されており,Comic-Conの存在価値の高さを示している。
コミックがらみで,このところ戦国時代の様相を呈し始めているのが,スーパーヒーローをテーマとしたMMORPGだ。2004年4月からNCsoftがサービスを続けている「City of Heroes」が最も有名だが,同社の発表では,2008年末の時点で12万5000人ほどのプレイヤーを数えている。最盛期には20万人ほどだったことから,非常にコアなファンが根付いたことは間違いない。
City of Heroesを開発したのは,カリフォルニア州サンディエゴに本拠を置くCryptic Studiosで,2005年10月には,ヴィラン(悪役)側でもプレイできる「City of Villains」をリリースしている。MMORPGの運営能力が非常に高いことでも知られ,これまでも公式サイトでのコスプレ写真やミッションのストーリーの募集などをこまめに行い,ファンコミュニティを築き上げてきた。
一時,「コミックと似たスーパーヒーローが作れてしまう」という理由でマーベルコミックから訴えられたCrypticだったが,2006年にMicrosoftが両社の間に入り,なんと「Marvel Universe Online」という作品の制作発表を行うことになった。
これには,さすがにNCsoftも驚いたようで,これまでCrypticを実質的な子会社とみなしていたNCsoftとCrypticの関係は悪化し,2007年11月にはCity of Heroesのすべての権利を買い取る形で,両社は袂を分かつ。
その後,(理由は発表されていないが)Microsoftは手を引き,Marvel Universe Onlineの開発は中止されてしまうのだが,その代わりCrypticは,日本ではあまり聞きなれない「Champions」というコミックシリーズの版権を獲得し,「Champions Online」の開発に着手することになった。
2008年12月にAtari傘下となったCrypticは,その後も急速に開発チームを増やしているが,これはあの「スタートレック」を題材にした「Star Trek Online」も並行して制作しているからだとされている。ちなみに現在,Blizzard Entertainmentにいたビル・ローパー(Bill Roper)氏が籍をおくのも,このCrypticだ。
そんなスーパーヒーローMMORPG人気を見て重い腰を上げたのが,MMORPGの大御所Sony Online Entertainmentだ。同社は,スーパーマンやバットマンなどで知られるDCコミックと契約を交わして「DC Universe Online」の開発を開始しており,同作がCity of HeroesやChampions Onlineのライバルになるのは間違いない。さらにElectronic Arts傘下のBioWareは「Star Wars: The Old Republic」を制作中であり,Comic-Conの人気コンテンツが次々にMMORPGとして出てきた感がある。
コミックと並行してゲームを開発するなど,本連載の第211回「ゲームとハリウッド映画に起きる新現象」で書いたトランスメディア化も進んでいるようだ。Star Wars: The Old Republicの世界観のベースになっているのは,BioWareが以前制作したシングルプレイRPG,「Star Wars: Knights of the Old Republic」シリーズであることは読者の皆さんもよくご存知だろう。
これをコミック化した作品が,現在スター・ウォーズファンを中心に驚くほどの人気を集めているのだ。今回のComic-Conでは,Mass Effectのコミック版が発表されていたことに加え,「Halo: Legends」というヘイローの世界をアニメ化したものまで登場している。北米のギーク・カルチャーの台頭に加え「ゲームから他メディアへのスピンオフ」が強く確認できるイベントとなったのではないだろうか。
※次回8月7日のAccess Acceptedは,著者取材のため休載いたします。ご了承ください。次回の更新は8月14日を予定しております。
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