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Access Accepted第227回:マーベリックなインディーズ魂
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印刷2009/07/24 12:00

連載

奥谷海人のAccess Accepted / 第227回:マーベリックなインディーズ魂

奥谷海人のAccess Accepted

 今回は,本連載の224回「id Software買収劇に見る,独立系デベロッパの現状」の続きという感じで,インディーズゲームの話をしたい。テーマは,6月末に経営破綻し倒産したManifesto Gamesという独立系ゲーム企業と,その経営者であった著名な業界人についてだ。結果としてManifesto Gamesが大きく羽ばたくことはなかったが,そのマーベリック(異端者/一匹狼)なインディーズ魂は,欧米ゲーム業界における一つの潮流の基礎を築いたといえるだろう。

第227回:マーベリックなインディーズ魂

 

欧米ゲーム業界の現状に対するマニフェストを掲げた著名デザイナー
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アメリカのゲーム業界の中では,その名を知らない人はいないであろう論客グレッグ・コスティキャン氏。ゲーム開発者会議からブログまで,彼の行動範囲は非常に広く,RPGやアドベンチャーゲームの現役制作者にコスティキャン氏の賛同者は多い。彼が設立したManifesto Gamesは,彼が目指した「企業とクリエイターの分化」というマニフェストを果たせないまま消えていくことになった

 6月末,Manifesto Gamesというニューヨークの小さな会社が,約4年という歴史の幕を閉じた。ゲーム業界の現状を変革するという目的を掲げたManifesto Gamesは,自主制作ソフトの広報や販売を可能とするオンライン環境を無償で提供するなど,自由な発想でゲーム制作が行える環境をインディーズゲーム開発者に与えてきたことで知られる会社だ。まさに北米ゲーム業界における“インディーズゲーム運動”の旗頭のような存在だったが,ここ数年の状況,つまりデジタル流通による独立系ゲーム会社の台頭やインディーズゲーム専用ポータルの成功といった時流にはうまく乗れず,経営破綻に陥った。

 Manifesto Gamesを創設したのはグレッグ・コスティキャン(Greg Costikyan)という人物だ。彼の名前を知っている人はかなりのゲーム通のはず。コスティキャン氏は1980年からボードゲームのデザイナーとして活躍し,「Paranoia」や「Pax Britannia」,そして「Star Wars: The Role Playing Game」など数々の作品を手掛けてきた。彼の作品は,OriginsアワードやCharles S. Robertsアワードなど,数多くの賞を受賞しており,また彼の活躍するフィールドもボードゲームだけでなくカードゲーム,小説など幅広かった。

 コスティキャン氏をPCゲーム業界で有名にしたのは1994年,イギリスのテーブルトークRPG(またはテーブルトップRPG)専門誌に掲載された「I Have No Words & I Must Design」というゲームデザインの方法論だ。「ゲームは言葉ではなく,デザインによって作られる」という表題のこの論文は,日本でも「コスティキャンのゲーム論」などと呼ばれ,翻訳文がネットに出回っている。
 簡単に内容を説明すると,「いかにして普通のゲームを良いゲームに,そして良いゲームを素晴らしいゲームにしていくか」についてを綴ったエッセイで,そんな彼の方法論はテーブルトークRPGだけでなく,デジタルゲームの開発者達の間でも応用されるようになっていった。
 結果として,その後10年ほどの間,コスティキャン氏はPCゲームにも関わるようになり,ゲームデザインのコンサルタントを行うだけでなく,ゲーム開発者会議で講義を受け持つなど,業界のご意見番としての地位も確立してきた。
 そして1999年,同氏は記念碑的な「The Scratchware Manifesto」(スクラッチウェア・マニフェスト)を発表することになる。

 「ゲームの機械化は手がつけられないほど進んでいる。創造的なビジョンを支えるべきなのに,ゲーム開発の機械化がそれを圧迫する。発明を奨励すべきなのに,それを拒否する。想像力からアイデアを導き出すべきところを,先月の売り上げリストを参考にする。そして成功した人達に報酬を渡さず,開発費やロイヤリティの支払いに注ぎ込み,開発者達には何も回ってこない。成功作を作った開発者を持ち上げず,その人達を企業の歯車のように扱い,名声を奪ってしまうのだ……」

 もともとスクラッチウェア・マニフェストとは,大規模化するゲーム業界を批判し改革を求める上記のような文章が,Web上に無記名でアップされたものだったが,自身がそれに深く関係していたことをコスティキャン氏は,翌年夏に明らかにした。膨大な開発費や企業のリスクヘッジのために新しいアイデアが企画段階で潰されること。その結果としてヒット作のデッドコピーや続編ばかりが流通する状況を否定した内容は,現在でも古さを感じさせない。
 ちなみに,「はした金で作れる,あるいは買えるソフト」という意味を持つScratchware(もしくはItch-Scratchware)という言葉は,今でも英語圏のゲーム開発者達の間で広く使われている。

 

望んだとおりにはいかなかったビジネス
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Manifesto Gamesが掘り起こしたインディーズ作品で,話題になったものの中に「The Shivah」というアドベンチャーがある。古くさいグラフィックスとオーソドックスなポイント&クリック型のゲームだったが,政治や宗教などのタブーに果敢に挑戦したストーリーは業界で賞賛された

 この辛辣で過激なマニフェストは,多くのゲーム開発者達の共感や賛同を呼ぶことになった。 2005年3月のGDC(Game Developers Conference)で行われたコスティキャン氏の講義は,講演会場に入りきれない人が出るほどの人気となり,そこでも同氏はグラフィックスの進化と反比例するかのように面白いアイデアの作品が減っていることや,リスクフリーを望む企業体質を批判している。「革命を起こすべきときだ!」と訴えるコスティキャン氏へは,満場の開発者達から惜しみない拍手が送られた。

 ここで忘れてはならないのは,これが「Steam」や「Xbox Live」などによるデジタル流通タイトルが大々的に登場する直前の2005年前半の主張であり,インディーズゲームが大きく注目されるような土壌はそのときにはなかったことだろう。このため,コスティキャン氏のマニフェストや一連の講義,エッセイが現在のインディーズブームの発端だと考える人も,欧米では少なくないようだ。事実,2007年のGDCでコスティキャン氏は,「一人で業界を動かした」としてマーベリック賞を受賞しているのである。

 Manifesto Gamesは,このマニフェストを実現する目的で2005年9月に設立されたわけだが,サイトの運営は必ずしもうまくいかなかった。皮肉なことに,Manifesto Gamesにはアイデアが詰まった革新的なゲームがほとんどなく,ポイント&クリック型のアドベンチャーや,グラフィックスをアピールできないターンベースのストラテジーなどしか集まらず,ハードコアなゲーマーを魅了するには至らなかった。

 その一方,Steamでは「Darwinia」や「Rag Doll Kung Fu」のような個性的なソフトがリリースされるようになり,同時にXbox 360やPLAYSTATION 3でもダウンロード販売されるインディーズゲームが次々に脚光を浴びていった。革命を主張したManifesto Gamesは,実現された革命の潮流に乗り切れず,とくに不況の影が世界を覆い始めたここ一年,もはやライブラリを拡充するための資金もなかったという。

 どんなゲームであれ,消費者に知ってもらうための広告は不可欠だが,Manifesto Gamesはファンによる口コミに期待し過ぎていた感があり,コミュニティの育成にも失敗していた。
 また,インディーズゲームの開発者といっても,全員が異端者/一匹狼であることを望んでいるわけでもないだろう。自分の作品がインディーズゲームというレッテルを貼られてリリースされようが,商業パッケージとして販売されようが,ゲーム開発者は本質的により多くの人に遊んでもらい,より良い評価を求めるという欲求に動かされるだけだ。彼らにとってのインディーズゲームは,いずれより大きな作品を作るための踏み台という感覚に近いものでもあったのだ。

 コスティキャン氏のManifesto Gamesは,彼のマニフェストどおりにはならずに消えていったが,多くの独立系開発者達に希望と指針を与え,欧米インディーズゲームの基礎を作ったことは間違いないだろう。マニフェストが発表されてから約10年が経った今,ゲーム開発にかかる費用や時間はますます肥大化を続けるが,それに反比例するように多くのインディーズゲームが人々に楽しまれ,ゲーム業界に新しい風が吹き込んでいる。
 今後,コスティキャン氏がどのような活動を行っていくのかは知る由もないが,彼が注ぎ込んだマーベリックなインディーズ魂は今後しばらく,ゲーム産業を活性化させ続けていくのではないだろうか。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けてきた。業界に知己も多い。本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,連載開始から200回以上を数える,4Gamerの最長寿連載だ。
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