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印刷2009/06/19 11:54

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第222回:成功のカギを握るのは「Mレーティング」ソフト?

奥谷海人のAccess Accepted

 一昔前,17歳以上しか購入できない「Mレーティング」のタイトルは「購買対象者を制限する」とか「株主に受けが悪い」といった理由で敬遠される傾向にあった。ところが,現世代ゲーム機が市場に浸透した現在,ファミリー向けやカジュアル系タイトルに対抗するかのようにMレーティングのゲームが次々にリリースされ,しかも大ヒットを連発している。今回は,そんな大人向けタイトルが大勢を占めつつあるコアゲーマー市場の現状をお伝えしたい。

第222回:成功のカギを握るのは「Mレーティング」ソフト?

 

コアゲーマーへのアピールで火花を散らすMSとSCE
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Sony Computer EntertainmentとMicrosoftのエクスクルーシブタイトル争奪戦のようになっていた両社のプレスカンファレンス。画像は,Rockstar Gamesの新作「Agent」が発表されたときのもの。PLAYSTATION 3でリリースされると思われる本作の詳細は公表されていないが,同社らしい過激な内容になるのは間違いなさそうだ

 北米の調査会社であるDFC Intelligenceによると,ハードウェアやソフトウェア,オンラインゲームやモバイル向けゲームなど,すべてを含めたゲーム産業の規模は,2009年に6兆円に達するという。その基盤を形作っているのは,ゲームを愛し,暇さえあれば――あるいは寝る暇さえ惜しんで――ゲームをプレイするコアゲーマー層だ。MMORPGにお金をつぎ込んだり,好みのシリーズの最新作なら必ず買うという猛者は,ゲーム会社にとって安定的な収入を約束してくれるだけでなく,あちこちで自社ソフトの宣伝を行ってくれる,とても大切なお客様なのである。

 6月上旬に開催されたE3 2009の直前,恒例となったプラットフォームホルダー三社のプレスカンファレンスが行われ,各社ともモーションコントローラやモーションセンサーなど,どちらかといえばカジュアルゲーム向けの新デバイスで,成熟しつつある現世代ゲーム機の後押しをしていた。
 三社の中で異色だったのは,やはり任天堂だろう。「まだゲーム利用者層の50%は開拓できていない」と任天堂代表取締役社長の岩田聡氏は語るが,カンファレンスの内容は,参加した多くの欧米ジャーナリストにとってあまり評判の良いものではなかった。
 ここ数年,任天堂はカジュアル路線を突っ走っており,その分野では確実に他社を引き離している。その反動として,そろそろコアゲーマー向きタイトルの発表も少なからず期待されていたのだが,サードパーティのタイトル発表の少なさには,やや肩透かしを食らったようだ。

 カジュアル市場で“我が道を行く”任天堂に対し,自社プラットフォーム専用,もしくはエクスクルーシブタイトルを次々に繰り出し,火花を散らしていたのがMicrosoftとSony Computer Entertainmentだ。
 面白いのは,そのようにカンファレンスで発表されたエクスクルーシブタイトルの多くがコアゲーマー向けだったことだ。アメリカのゲームレーティング評価機構ESRB(Entertainment Software Rating Board)が規定する「Mレーティング」(17歳以上でなければ購入できない)のゲームは,以前なら「潜在購買者の足切りを行い,投資家に煙たがられる」と敬遠されており,Electronic Artsなどは2006年に「Black」をリリースするまで,長らく「Tレーティング」(13歳以上で購入できる)に的を絞っていた。
 それが今や,Electronic Artsを含む北米の大手各社が,「大人のためにゲームを作っているのだ」といわんばかりの勢いで,何のためらいものなくMレーティングゲームを増産している。

 

「Mレーティング」ゲーム隆盛の理由とは?
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先週の当連載「大規模ゲームショウに回帰したE3 2009」でも少し触れたが,「ラブシーン」の挿入も今の欧米ゲームのトレンドの一つになっているようだ。ゲーム中に仲間となる女性キャラクターとの濃厚なラブシーンがあるBioWareの新作アクションRPG「Dragon Age: Origins」は,激しいバイオレンス描写や流血,さらには差別問題にも取り組んだ,まさに大人による大人のための大人向けゲームだ

 ESRBの格付けでは「バイオレントな行為をしているか」「流血などのゴア描写があるか」「性的表現があるか」,そして「卑語の使用があるか」といったことが評価基準となる。さらに細かくいえば,アルコールやドラッグ,ギャンブル,差別的表現など,未成年に悪影響を及ぼす可能性のあるものもレーティング審査の対象になる。

 ESRBの評価プロセスは予想外に単純で,ミッション内容やカットシーンといった要素をムービーに撮影し,一枚のDVDにして提出するのだという。開発が進むにつれて,α版やβ版の提出が求められることもあるらしいが,例えば2時間ほどで内容が把握できる映画と違い,北米でリリースされるすべてのタイトルを詳しくテストすることは不可能に近い。今後ESRBは,iPhone向けゲームなどにも乗り出すようで,ESRBが審査すべきタイトル量は半端なものではなくなっていくはずだ。
 仮に「T」レーティングの審査を受けても,そのあとで「血の量が多過ぎる」などの指摘が入ってレーティングが変更される場合もある。途中でアートワークやシステムを変更するのも大変なので,メーカーとしてはかなり正直な内容のムービーを作っているようだ。隠されていた性的なミニゲームが,ファンの制作したMODによって明るみに出てしまった「Grand Theft Auto: San Andreas」(2005年)の例に見られるように,レーティングの変更や回収騒ぎは大きな損害をもたらすのだ。
 こうした背景があるので,たとえDVD一枚の審査とはいえ,現在のところ十分に機能しているように思える。

 皮肉なことに,「Mレーティング」タイトルが十分に売れることを証明したのは,Grand Theft Auto: San Andreasの前々作にあたる「Grand Theft Auto III」(2001年)だった。Grand Theft Auto IIIで1160万本という大ヒットになり,さらに翌年の「Grand Theft Auto: Vice City」で1420万本,そしてSan Andreasでは1780万本と,ワールドワイドのセールスは右肩上がりで上昇してきた。2008年にリリースされた「Grand Theft Auto IV」のセールスは2009年3月の時点で1300万本を超えており,最終的にはSan Andreasをしのぐ本数になると予想されている。

 ヒットしたMレーティングゲームは,何もGrand Theft Autoシリーズだけではない。ここ2年ほどの間に発売されたMレーティングのソフトを考えても,「Call of Duty: World at War」(1100万本)や「Assassin's Creed」(800万本)などを筆頭に,「Fallout 3」(380万本)や「Bioshock」(260万本),「Mass Effect」(206万本)などマルチミリオンタイトルの名前が簡単に浮かんでくる。エクスクルーシブなタイトルでも,「Gears of War 2」(492万本),「Fable II」(276万本),「God of War 2」(247万本)などが高いセールスを記録している。ここから明らかになったのは,,少なくとも現世代のゲーム市場においてゲームを購買するメインストリームは,レーティングに気をつかってゲームを子供に買い与える親ではなく,大人向けのコンテンツに反応する大人達だったということだ。

 2008年度のゲーム販売実績は,その流れを如実に示していた。北米リサーチ会社NPD Groupが発表した同年のヒット作TOP10のうち,5作の任天堂作品とElectronic Artsのスポーツゲーム「Madden NHL 09」を除く4作は,どれも上に挙げたMレーティングのゲームだった。E3 2009のプレスカンファレンス同様,「任天堂のカジュアルタイトルvs.コアゲーマー向けソフト」という二極分化の構図が見られるのである。
 つまり,プラットフォームホルダーではない大手ゲーム企業にとっては「マルチミリオンヒットを飛ばすには,コアゲーマー向けのMレーティングゲームという路線を打ち出すしかない」という状況になっているわけだ。そう考えると,暴力/性描写や重厚な世界設定を持ったMレーティングのゲームは,今後も増えていくだろうし,その内容も過激さを増していくだろう。大人なコアゲーマーには,嬉しい話かもしれないが,いきすぎた表現は必ずといっていいほど規制を招くことも忘れてはいけないだろう。

 

2009年度に発売予定の「Mレーティング」ゲームソフト
タイトル 発売予定日 対応プラットフォーム
Infernal: Hell's Vengeance 6月 Xbox 360
Resident Evil Archives 6月 Wii
ArmA II 6月 PC,Xbox 360
Call of Juarez: Bound in Blood 6月 PC, PS3, Xbox 360
Watchmen: The End is Nigh 7月 PS3, XBox 360
Wolfenstein 8月 PC, PS3, Xbox 360
Red Faction: Guerilla 8月 PC, PS3, Xbox 360
Bayonetta 9月 PS3, Xbox 360
Heist 9月 PC, PS3, Xbox 360
Operation Flashpoint: Dragon Rising 9月 PC, PS3, Xbox 360
WET 9月 PS3, Xbox 360
Halo 3: ODST 9月 Xbox 360
Rogue Warrior 10月 PC, PS3, Xbox 360
Alpha Protocol 10月 PC, PS3, Xbox 360
Bioshock 2 10月 PC, PS3, Xbox 360
Borderlands 10月 PC, PS3, Xbox 360
Dead Space: Extraction 10月 Wii
Dragon Age: Origins 10月 PC, PS3, Xbox 360
Modern Warfare 2 11月 PC, PS3, Xbox 360
Left 4 Dead 2 11月 PC, Xbox 360
This is Vegas 11月 PC, PS3, Xbox 360
The Saboteur 12月 PC,PS3, Xbox 360
Assassin's Creed II Q4 PC, PS3, Xbox 360
Heavy Rain Q4 PS3
Mafia II Q4 PC, PS3,Xbox 360
Painkiller: Resurrection Q4 PC, Xbox 360
Singularity Q4 PC, PS3, Xbox 360
Tom Clancy's Splinter Cell: Conviction Q4 PC, Xbox 360

 

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けてきた。業界に知己も多い。本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,連載開始から200回以上を数える,4Gamerの最長寿連載だ。
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