連載
奥谷海人のAccess Accepted / 第215回:新ターゲットは「ゲームをする大人」

ニンテンドーDSのヒットなどにより,一気にカジュアル路線へと走るかと思われたゲーム業界だが,最近は残酷な描写が多いタイトルのヒットが目立っている。未曾有の経済不況の影響を受けて,閉塞感が漂っているゲーム業界ではあるが,光明が見えてきたのかもしれない。


SEGAがリリースした「Madworld」は,モノクロで描かれたユニークなアクションゲームだ。かなり過激な表現があり,Wii専用ゲームとしては珍しく,北米では17歳以上しか購入できないMレーティングとなった
ゲーム内の暴力表現は,ゲーマーだけでなく,ゲームを日常的にプレイしない人達の話題になることが目立つ。ゲームの「暴力表現の否定派」は,専門機関で行われたリサーチなどをもとに,青少年に与えるネガティブな影響を主張することが多い。例えば,特定のゲームで遊ぶと,感情の処理などに不可欠といわれる「小脳扁桃」というニューロン群が活発になることから「ゲームで遊ぶと暴力的になる」と結びつける人達もいる。
しかし,暴力表現を含むゲームが人を暴力的にするかどうかを確定するには,まだまだデータが少ないうえに,暴力の度合い示す指標もない。それでも,残酷な事件が起きるたびにゲームが非難されることが多いのは,まだゲームが文化として根付いていないからかもしれない。ゲームを遊ばない人達にとって,ゲームは未知の存在であり,怪しむべきものなのだろう。
そんな中,任天堂とそのゲームを別格扱いする人達が多いのも事実だ。Wiiの販売台数は,2009年3月に5000万台の大台に乗った。また,ニンテンドーDSの販売台数は,LiteやDSiを含めると1億台を超えており(関連記事),iPhone/iPod touchというライバルが台頭してきてはいるが,携帯ゲーム機の代名詞的な存在になっている。
任天堂は,マリオやピカチュウに代表される可愛いキャラクターを前面に押し出し,暴力性の低いゲームを多く展開し「子供に買い与えても安全」というイメージをアメリカで定着させた。加えて,脳トレ系ソフトなどを積極的にアピールし,いままであまりゲームを遊ばなかった層の取り込みに成功。新たなブームを巻き起こしたのは,記憶に新しいだろう。

「Grand Theft Auto: Chinatown Wars」を発売したRockstar Games は,ゲームボーイアドバンス向けに「Grand Theft Auto」を移植した過去もある。だが,そのときはまったくといっていいほど話題にならなかった
そんな任天堂が作ったWiiやニンテンドーDSのイメージを覆しかねないゲームがリリースされた。一つは,2009年3月10日にSEGAから発売された,「Madworld」である。これは,テロリストに牛耳られた世界で,殺人ゲームへの参加を余儀なくされた主人公の戦いを描くアクションゲームだ。グラフィックスが特徴的で,基本的には白と黒だけで描かれており,血だけが赤く表現されている。元カプコンのスタークリエイターが集まるプラチナゲームズが開発した作品でありながら,日本での発売予定がないということも興味深い。さらに,Wii専用というのも驚きである。
Madworldは,道路標識を引き抜いて相手の頭に突き刺したり,チェーンソーで切り刻んだりと,かなり過激な描写が多く,発売前は,その表現が問題視されていた。アメリカでは17歳以下では購入できないMレーティングでの販売が決定したほか,ドイツでは販売そのものが見送られた。
しかし,ゲームが発売されると,そんな外野席の声は沈静化。Madworldは,暴力そのものをまざまざと見せつけるというよりも,暴力を風刺しているようなところがあり,アニメ「トムとジェリー」のようなあっけらかんとした描写に徹しているのが,その理由かもしれない。
またもう1本は,3月17日にRockstar Gamesから発売された「Grand Theft Auto: Chinatown Wars」だ。あのグランド・セフト・オートシリーズの最新作で,ニンテンドーDSでMレーティングという野心作である。
本作は,リバティー・シティにあるチャイナタウンを舞台に,父親の仇からシマを取り戻すために奮闘する主人公の活躍が描かれ,メンバーを雇うといった新要素も多く取り入れられている。ニンテンドーDS用のゲームとしては異例の作品で,プログラムは90万行を超えているという。
New York Timesは,Grand Theft Auto: Chinatown Warsを芸能欄で取り上げ,「最近発売されたゲームの中で,最も重要な作品の一つかもしれない」と紹介している。これはゲームの中身についての話ではなく,本作が完全に大人を狙ったゲームであり,「ゲーム市場が成熟したことを証明しただけでなく,ゲームが何を表現できるのかが一般消費者に伝わった」ことに意義があるのだという。
Madworldは現在までに16万本,Grand Theft Auto: Chinatown Warsは34万本と,健闘はしているとはいえ,大ヒットはしていない。どちらも「発売するプラットフォームを間違えた」という声が業界内で上がってはいるものの,発売元はその売れ行きに十分満足しているようだ。

アメリカの2008年トップセールスランキングは,任天堂のゲームと,プラットフォームホルダーでないメーカーによる成人向けゲームの2種類に大別できる。THQから発売された「deBlob」(邦題 ブロブ:カラフルなきぼう)のように,ライトな路線でヒットした作品もあるが,この状況はしばらく続きそうである。なお,画像はdeBlobだ
MadworldやGrand Theft Auto: Chinatown Warsのリリースは,非常に冒険的かつ実験的といえるが,このような大人向きゲームの登場は,WiiやDSに限った話ではない。
リサーチ会社NPD Groupの発表によると,2008年のゲーム売り上げランキングは,528万本を売った「Wii Play」を筆頭に,ベスト4までをWii向けの任天堂タイトルが独占した。だが,5位にはXbox 360用のMレーティングゲーム「Grand Theft Auto IV」が329万本で続き,PLAYSTATION 3用の同作が189万本で8位に入っている。つまり,2機種分を合わせれば,Wii Playに迫る518万本で,堂々の第2位となるのだ。
加えて,6位の「Call of Duty: World at War」(275万本)や7位の「Gears of War 2」(217万本),そしてトップ10のリストから漏れているが確実にミリオンセラーを記録したと思われる,「Fallout 3」「Left 4 Dead」「Assassin's Creed」は,どれもMレーティングタイトルである。
ここ数年は,脳トレ系のゲームに代表されるカジュアルゲームがトレンドである,とマスコミにもてはやされたことが影響してか,グローバルな規模でカジュアルゲーム路線への転換を図る会社が急増した。しかし,サードパーティにミリオンヒットをもたらしたのは,大人向けのコアゲームなのである。Mレーティングのゲームでも,100万本以上売れる土壌ができたのは間違いない。Mレーティングのゲームだからといってヒットが望めないというのは,もはや過去の話になったわけだ。規制をまったく気にしないというわけにはいかないが,ゲーム開発者はより自分達のビジョンに近いものを生み出せるようになったのである。今後は,単に暴力的な表現が多いというだけでなく,より成熟したゲームが増えていくだろう。
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