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奥谷海人のAccess Accepted / 第207回:期待の新興デベロッパ

世界同時不況の影響を受け,タイトルの延期やリストラといったニュースがしばしば聞こえてくるゲーム業界。しかし,「自分の好きなゲームを作りたい」という開発者達の夢まで消えてしまったわけではない。逆境にも負けず,次々と新興デベロッパが設立されているのだ。今回はそんな新デベロッパの中から,気になる五つの会社を紹介しよう。


「Halo Wars」を最後に閉鎖されたEnsemble Studiosだが,そのメンバーが集まり新たな会社「Robot Entertainment」を起こした。Ensemble Studiosが抱えていたプロジェクトを引き継ぐ可能性が高い
このところ,新たなデベロッパが欧米で次々と誕生している。もちろん,開拓者精神の旺盛なアメリカでは以前からこうした風潮があったし,大型パブリッシャが少ないヨーロッパの開発者達は,昔から独立気質に富んでいた。
とはいえ,最近発足したデベロッパの中には,パブリッシャから解雇されて独立を余儀なくされたというケースも少なくない。不況の影響がゲーム業界にも及んでいる証拠といえるが,反面,独立と同時に大手パブリッシャとの協業を発表する会社などもあるので,ゲームの開発力だけでなく,巧みなビジネス手腕を持つ開発者も増えているようだ。
また,オンライン流通が発達し,パブリッシャを介すことなくゲームを販売できる状況が整ってきたことから,独立系デベロッパのパブリッシャへの依存度は年を追うごとに低くなってきた。もちろん,Xbox LiveのマーケットプレイスやPlayStation Storeのようなサービスの影響も大きいだろう。
オンライン流通の広がりにより,それほど資金がない新興のデベロッパでも,数か月でカジュアルゲームを開発してすぐに売ることが可能になった。本番といえるプロジェクトに取りかかるまで,“食いつなげる”ようになったのである。オークションサイトの登場によって,地方のアンティークショップが以前よりも商売がしやすくなったらしいが,そんな流通革命が,ゲーム業界にも起きているわけだ。
さて,今回は最近誕生した独立系デベロッパ5社を紹介しよう。リストアップしたデベロッパのどれが生き残り,どんなゲームを生み出すのだろうか。
ちなみに,「第59回」と「第102回」でも同じように新興デベロッパを紹介している。数年前に生まれた会社と,最近発足した会社の事情などを比べてみるのも興味深いだろう。

最近,一番ゲーム業界を賑わせている新興デベロッパといえば,Robot Entertainmentだ。Robot Entertainmentは,エイジ オブ エンパイアシリーズで知られるEnsemble Studiosに所属していたメンバーが設立した会社だ。Ensemble Studiosの創設者の一人であり,エイジ オブ エンパイアシリーズではエグゼクティブプロデューサーを務めたTony Goodman(トニー・グッドマン)氏が,Robot Entertainmentの陣頭指揮を執る。
Ensemble Studiosは,Microsoftの意向で解散されたという経緯があるものの,Robot EntertainmentとMicrosoftとの関係は今のところ良好の様子で,独自の作品を作る傍ら,Ensemble Studiosが開発した「Halo Wars」のアップデートなども同社が担当するという。
Ensemble Studiosは,MMORPGやアクションゲームなど,知られざる六つのプロジェクトを抱えていたので,その中のどれかがRobot Entertainmentに引き継がれる可能性は十分にあるだろう。
ちなみに,Ensemble Studiosに最後まで残っていた業界の重鎮,Bruce Shelly(ブルース・シェリー)氏は,Robot Entertainmentには籍を置いていない。

Runic Gamesは,「Hellgate: London」を開発したFlagship Studiosのシアトル支部に所属していたメンバー14人が,Travis Baldree(トラビス・バルドラー)氏を中心に立ち上げた開発会社だ。また,Flagship Studiosの立ち上げに加わったErich & Max Schaefer(エリックとマックス・シェーファー)兄弟や,Ping0のPeter Hu(ピーター・フー)氏も籍を置いている。何を開発しているのかについては発表されていないが,公式サイトにはファンタジー世界らしさに溢れたアートが掲載されており,開発中のゲームに何か関係がある可能性が高い。
ちなみに,Flagship Studiosでプロデューサーを務めたBill Roper(ビル・ローパー)氏は,「City of Heroes」でお馴染みのCryptic Studiosに,ディレクターのDavid Brevik(デイビッド・ブレビック)氏はTurbine Entertainmentに移籍。また,アートディレクターだったPhil Shenk(フィル・シェンク)氏は開発会社Gravity Bearを設立するなど,Flagship Studiosの中心人物達は別々の道を歩み始めている。

スコットランドといえば,「Grand Theft Auto」を生んだDMA Designs(現Rockstar North)が有名だろう。そして,スコットランド第4の都市,ダンディーに設立されたRuffian Gamesは,今後が期待されるデベロッパの一つである。
Ruffian GamesのCEOを務めるGaz Liddon(ガズ・リッドン)氏は,難産プロジェクトに助っ人的な立場で参加する会社として知られたXen Groupで,「Fable 2」や「Too Human」などの制作に関わった経験の持ち主だ。そのほかのメンバーには,Fable 2の開発元であるLionhead Studios,Too Humanを開発したSilicon Knights,Grand Theft AutoシリーズのRockstar Northなど,ビッグプロジェクトを生み出した会社からの移籍組が多い
新作をリリースするまでには数年を要するだろうが,すでに“世界最大規模のパブリッシャの一つ”と販売契約を結んだという話もあるので,どんなゲームが発表されるのか楽しみだ。

ラスベガスで産声をあげたJet Set Gamesは,設立メンバー三人の業界歴を合計すると,なんと50年を超えるというベテラン揃いの会社である。
その中心人物は,「Command & Conquer」で有名なWestwood Studiosの設立者の一人で,C&Cシリーズのグラフィックスデザインを担当していたBrett Sperry(ブレット・スペリー)氏だ。Jet Set Gamesは,コンシューマー機向けのゲーム開発をメインプロジェクトとし,iPhone向けの「Jet Set Apps」というアプリケーションをシリーズ化させる予定だという。
ちなみに,Westwood Studiosでスペリー氏の相棒だったLouise Castle(ルイス・キャッスル)氏は,現在,Electronic ArtsのLos Angeles支部のゼネラル・マネージャーという重職にある。それ以外のWestwood Studiosのメンバーは,「Star Wars: Empire at War」などを手掛けたPetrograph Gamesに移籍した人が多い。というわけで,Jet Set GamesがWestwood StudiosのDNAを色濃く引き継ぐというわけにはならないようだ。

「Titan Quest」という質の高いRPGを生み出しながら,一年ほど前に閉鎖を余儀なくされたIron Lore Entertainment。Titan Questは開発資金を回収できるほど売れなかったようで,悲しい結果に終わった。
だが,所属していた開発者達は,ゲーム作りを諦めたわけではない。Iron Lore Entertainmentの閉鎖後に,デザイナーのArthur Bruno(アーサー・ブルーノ)氏やリードアーティストのEric Campanella(エリック・カンパネラ)氏が設立したのが,Crate Entertainmentだ。
Crate Entertainmentは,Iron Lore Entertainmentと提携関係にあったTHQから,未公開プロジェクトの版権を買っており,これを同社の処女作としてリリースするという。つまり,Iron Lore Entertainmentの実質的な後継会社なのだ。
「Black Legion」と名付けられたそのプロジェクトは,ダークな世界観のアクションRPGになるらしいということ以外,あまり情報が流れてこない。プロジェクトは動き出したばかりで,Crate Entertainmentはプロトタイプを制作し,新たな発売元を見つけるために,アピールしていくことになるだろう。
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