連載
奥谷海人のAccess Accepted / 第192回:新興ゲームエンジンの挑戦 その弐

ゲームエンジンビジネスといえば,Epic Gamesの開発したUnreal Engine 3.0が有名だ。だがUnreal Engine 3.0以外にも,id Tech 5やCryENGINE 2,GameBryo,そしてBigWorldやHero Engineなど,さまざまなエンジンが存在する。ビジネスとして盛り上がり始めているだけに,その波に乗ろうとして,新たなゲームエンジンが続々と登場しているのだ。

ゲームエンジンビジネスの幕開け
ゲームエンジンのライセンスビジネスが始まったのは,1997年頃のことである。発端となったのが「Quake II」のヒットで,そのゲームエンジンであるid Tech 2に注目が集まったのだ。その前身であるid Tech 1も「DOOM」「Quake」「Hexen」「Heretic」など,複数のゲームに使われていたが,それらは,師弟関係ともいえる“身内”への提供という形式に留まっていた。それがid Tech 2の時代になり,「SiN」(Ritual Entertainment)や「Kingpin: Life of Crime」(Xatrix Entertainment)など,ライセンス契約によって,他社へも提供されるようになったのである。
とはいえ,ゲームエンジンのライセンスビジネスに積極的に取り組んでいたのは,Epic Gamesだろう。同社が「Unreal」用に開発したUnreal Engine 1は,「Rune」(Human Head Studios)や「Deus Ex」(Ion Storm)など,27タイトルにライセンスされた。これは実に,同世代にあたるid Tech 2の4倍という数字だ。

Emergentが,2008年9月のAustin Game Developers Conferenceで公開した「Forbidden Terror on Station Z!」は,4人の開発者が2週間で作り上げたという,Wii向けFPSエンジンの技術デモだ。各プラットフォーム向けに発売する計画もあるらしい
Unreal Engine 3.0へ進化を遂げてからは,物理エンジン,表情アニメーション,ビデオ再生ツールなどのメーカーと,IPP(Integrated Partner Program)という契約を結び,さらにその機能を拡張した。日本の開発会社でもUnreal Engine 3.0を採用するところが増えており,当分の間,Unreal Engine 3.0優位の状況は変わらないだろう。
そんなUnreal Engine 3.0の独り勝ちと思われる状況の中,意外と健闘しているのが,1999年にNDL(現Emergent)が開発したゲームエンジンGamebryoだ。NetImmerseという名称で「Prince of Persia 3D」へライセンスされたのを皮切りに,2001年には「Dark Age of Camelot」(Mythic),翌2002年には,「The Elder Scrolls III: Morrowind」(Bethesda Softworks)と,ヒット作に採用された。
2004年に大規模アップデートされたGamebryoは,2005年に発売された「Sid Meier's Civilization IV」(2K Games),2006年の「The Elder Scrolls IV: Oblivion」(Bethesda Softworks),そして,2008年には「Warhammer Online: Age of Reckoning」(EA Mythic),「Fallout 3」(Bethesda Softworks)に採用されている。リピーターのライセンシーが多いのが,ミドルウェアとしてかなりの成果を上げている証拠だろう。
このほか,ドイツのCryTekが開発するCryENGINE 2も,2007年3月にライセンス化が発表されて以来,序々にプレゼンスを増し,すでに7社ほどと提携している。CryENGINE 2といえば,FPSのエンジンというイメージが強いが,「Blue Mars」(Avatar Reality)にも採用されており,MMOGにも強そうだ。
とはいえ,MMOGには専用ミドルウェアが多いので,CryENGINE 2の独壇場というわけにはいかない。例えば,オーストラリア産のBigWorldは,Cheyenne Entertainment,Slipgate Ironworks,38 Studiosなどが開発中のMMORPG(情報は未公開)に採用されているという。また,MultiverseやHero Engineなど,売出し中のMMOG専用エンジンの存在も忘れてはならない。
ゲームエンジンのライセンスビジネスは,急成長のジャンルであり,今後さらに需要が見込まれることから,新たな成功を求めて参入してくるメーカーが少なくない。というわけで,ここに4Gamerでは一度も取りあげていない,三つのゲームエンジンを紹介する。約2年半前に掲載した「第71回: 新興ゲームエンジンの挑戦」以来,どのようなエンジンが登場したのかにも注目しつつ,読んでもらいたい。
2008年9月末に発表されたばかりの新型ゲームエンジンが,Abyssal Technologiesが開発する「Abyssal Engine」である。レンダリングエンジンを含むツールキットの集合体としてパッケージされており,アニメーションやジオメトリのエディタから,3DS Maxのようなサードパーティソフトへのエクスポーターまでを揃えている。NVIDIAやATIのグラフィックスチップに最適化しやすいのが特徴だという。
Abyssal Technologiesは,Abyssal Engineのテスト利用を14日間に限り無料で認めており,かなりダウンロードされているようだ。また,すでにシングルプレイ用RPG開発のために提携したメーカーが存在する。Abyssal Engineは,PC専用ながらRPGやストラテジーゲーム,シミュレーションゲームにも応用でき,今後はMMORPGも開発が可能なようにアップデートされる予定だ。
Vicious Cycle Softwareが2005年に発表した「Vicious Engine」は,ヒット作に恵まれてはいないものの,すでに七つのゲームに採用された実績がある。
Vicious Engineは,Xbox 360やPLAYSTATION 3ばかりでなく,WiiやPSPまでサポートしているのが特徴だ。2008年10月に「Vicious Engine 2」にバージョンアップされると,各プラットフォーム向けの機能をさらに増やし,付加価値を上げている。
Vicious Engine 2の発表時には,同エンジンを採用した「Eat Lead: The Return of Matt Hazard」が,D3 Publisherから発売されることも明かされた。Eat Lead: The Return of Matt Hazardは,Xbox 360とPLAYSTATION 3向けのアクションゲームで,AI,物理効果,パスファインディングなどに力が入れられるようだ。Vicious Engine 2の性能を,うまくアピールできる作品になるかもしれない。
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