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奥谷海人のAccess Accepted / 第188回:Microsoft Game Studiosの行方

Ensemble Studiosといえば,日本のゲーマーの間でも知られる超有名デベロッパだ。そんな会社が突如閉鎖されることになり,驚いている人も多いのではないだろうか。今回は,Ensemble Studiosの閉鎖に代表される,Microsoft Game Studiosの動きをお伝えしよう。

エイジ オブ エンパイアのEnsemble Studiosが閉鎖
9月8日(現地時間),Ensemble Studiosのダラスオフィスでは大きな混乱が起きていた。なんと,開発者やビジネス担当者の一部が突然解雇されたのだ(関連記事)。解雇を言い渡されたメンバーの中には,コミュニティマネージャーとして10年以上もEnsemble Studiosに在籍し,ファンの間でも評判の良かったGraham “Thunder” Somers(グラハム“サンダー”ソマーズ)氏といった古株も含まれていた。

Ensemble Studiosの顔ともいえるブルース・シェリー氏。元々ボードゲームのデザイナーだったが,シド・マイヤー(Sid Meier)氏の「Pirates!」に感激してMicroproseに入社。その後はマイヤー氏の右腕として「Railroad Tycoon」(1990年)や「Civilization」(1991年)などもデザインした。最近は開発の第一線から退き,スポークスマンやアドバイザー的な立場であった
9月9日になるとMicrosoftは正式声明を発表し,Xbox 360専用のRTS「Halo Wars」の開発が終了し次第,Ensemble Studiosを閉鎖することを公にした。これをMicrosoftは「Microsoft Game Studios(以下,MGS)が成長していくための会計的な選択」としており,Ensemble Studios社員全員に配信されたMGSのジェネラルマネージャー,Phil Spencer(フィル・スペンサー)氏のEメールでは,「ビジネスとしては正しい選択だというのを理解して欲しい」と記されていたという。
もっとも,閉鎖はEnsemble Studiosの社員には寝耳に水だったようで,同社顧問のBruce Shelly(ブルース・シェリー)氏は,公式サイトのブログで「これまで名門の開発会社が解散するたびに,その無念を聞いてきましたが,まさかEnsemble Studiosもそのリストに載るとは考えてもいませんでした」と,9月22日になってようやく重い口を開いている。以下,その内容を一部翻訳して紹介しよう。
「(このことについて)スタジオの全員がショックを受けており,私自身もこんなことになったのを非常に残念に思っています。スタジオの閉鎖という話題は,Ensemble Studiosには無関係だと信じていました。なぜなら,我々の開発したゲームはいつも成功し,非常に高い利益をあげていたからです。我々は長年にわたって,良い才能の集まる,仕事熱心でクリエイティブなスタジオを作り上げてきたつもりですし,世界でもトップクラスのスタジオだったと思います。しかし,MGSの未来像にはEnsemble Studiosは含まれておらず,今回の事態になってしまったのです」
シェリー氏のブログはさらに続くが,Ensemble Studios閉鎖の理由としてスペンサー氏から説明されたのは,
- 1)人員が多過ぎて,削減する必要があった
- 2)MGSが管理する開発会社で,社員一人あたりの人件費がもっとも高い
- 3)Halo Wars以降,企画段階のタイトルしかなかった
以上の3点だったとある。
Halo Warsのあとは,「Halo MMORPG」という同社初のMMOGも企画されていたというが,このプロジェクトは中止された。なお,Ensemble Studiosを立ち上げたメンバーの一人である,Tony Goodman(トニー・グッドマン)氏や,元id Softwareのデザイナー Graeme Devine(グレーム・デヴァイン)氏達が中心となって設立する会社に,シェリー氏は参加する予定はないという。
より合理的なサードパーティへの移行
Ensemble Studiosといえば,シリーズ総計で2000万本の売り上げを記録したRTSの名作,エイジ オブ エンパイアシリーズで有名な開発元だ。
1995年に設立され,「Windows 98」のリリースを前に,ゲームソフトの拡充に力を入れていたMicrosoftが立ち上げたMicrosoft Game Studioに協力して,人気RTSシリーズの第1作「マイクロソフト エイジ オブ エンパイア」を発売した。エイジ オブ エンパイアシリーズは,ファンタジー系のWarcraftシリーズ,SF系のCommand & Conquerシリーズなどと並び称され,“歴史系”のRTSとしてその名を轟かせた。日本語版も発売されたので,ほかの2作以上に日本での知名度は高いだろう。

Ensemble Studiosは,「Age of Empires III」のリリース以前からMMORPGの開発者を集めており,「ヘイロー」の世界をMMORPG化した作品を企画しているといわれていた。欧米ではいくつかの画面写真が流出しているが,Ensemble Studiosの閉鎖に伴い,開発はキャンセルされたようだ
Microsoftのインタラクティブ・エンターテイメントビジネス部門は,Ensemble Studiosのような開発会社を加えても,1000人程度の規模に過ぎない。だが,2005年にShane Kim(シェーン・キム)氏が副社長に就任して以降,スリムアップが断行されている。
Ensemble Studios以外にも,2006年1月に「Starlancer」などのDigital Anvil,2007年3月に「ヘイロー 2」のPC版を開発したHired Gun,2007年9月に「MechWarrior 4: Vengeance」や「Shadowrun」のFASA Interactiveが閉鎖された。また,Xbox Live Arcade向けのパズルゲームを開発していたCarbonated Gamesも閉鎖され,Microsoftが所有する開発会社の数は,半分以下になったのだ。Xbox 360がコンシューマ機として定着してきたため,赤字体質のゲーム部門を少しでも好転させるための施策だろう。
これらの開発会社の多くは,Xboxの立ち上げ前後にラインナップの強化を狙って買収された。とくにBungie Studiosは2000年,Rareは2002年にMGSの傘下に加わったのだが,買収には3億7500万ドル(約390億円)という巨費が投じられた。ランニングコストも相当かかっているはずなので,「自社で開発会社を抱えずに,サードパーティにIP(知的財産)を委託してゲームを制作してもらう」ほうが経済的だと判断し,数多くの開発会社を閉鎖しているのだろう。
Ensemble Studiosのすでに解雇された人達には,ある程度の補償が行われる。また,残ったメンバーが立ち上げる予定の新スタジオは,独立したBungie Studiosと同じように,MGSから新会社を設立するための助成金を得られるようだ(関連記事)。
とはいえ,Ensemble Studiosのような優良とされていたチームが解散させられたということはショックである。今後は,RareやLionhead Studiosといった有名どころも,その可能性を否定できないわけだ。
なお,エイジ オブ エンパイアやヘイローのIPはMGSに帰属しており,別のスタジオによって続編や関連作品が開発される模様だ。シリーズが続くのは嬉しいが,ファンとしてはやはり寂しさを感じずにはいられない。
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