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印刷2008/09/05 16:19

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第186回:ゲーム業界における“次世代の鍵”

奥谷海人のAccess Accepted

 当連載でも取り上げることがある違法コピーや,開発コストの肥大化など,ゲーム業界はさまざまな問題を抱えている。そんな中,いまのビジネスモデルは終焉を迎え,コンシューマゲーム機とPCの違いが,現在よりもさらに曖昧になっていくと予測するアメリカのゲーム業界関係者がいる。なかなか大胆な予想にも思えるが,業界を取り巻く現状を振り返ると,まったくあり得ない話でもないようだ。

ゲーム業界における“次世代の鍵”
コンシューマ機の死を予測するDirect Xの伝道師

 Alex St. John(アレックス・セントジョン)氏といえば,一昔前は「Direct Xの伝道師」としてゲーム業界に貢献した人物だ。Direct X 3が開発者達に不人気だったことから,セントジョン氏は各社をまわって話し合いの場を持ち,当時“高圧的”とされていたマイクロソフトの社風とはかけ離れた地道な活動を続けたのである。セントジョン氏は同社を退社したのち,「Wild Tangent」というゲームポータルを設立。Game Developers Conferenceなどの開発者向け会合では,多彩な内容のレクチャーやパネルディスカッションを行うなど,アメリカのゲーム業界では,かなり名が知られているのである。

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現行のゲーム機のグラフィックス性能は,人間の目が区別できる解像度の最大値に達しているといわれる。そうなると,リアリティの追求やテクスチャーの細かさ以上に必要になってくるのがビジュアルやアートワーク面でのユニークさだろう。最新グラフィックスでないにもかかわらず,ヒットし続けている「World of Warcraft」は,そういう意味で一歩抜きん出た作品かもしれない

 そのセントジョン氏が,7月に行われたCasual Connectというイベントで,「2020年までにコンシューマ機は死滅する」という予想を立てて話題になった。Seattle Post-Intelligencer誌によると,セントジョン氏は「今日は少し大袈裟な話をします。ご自由にご反論ください」という前置きをしながら,今のコンシューマ機ビジネスは,現行世代がピークであると語ったという。そして,「それらは成功した,といえる最後のプラットフォームになるだろう」と続け,アーケード(ゲームセンター)ビジネスと同じ道を辿るだろうという,近未来を描いたのだ。

 セントジョン氏の発言の根拠は,自身が関わっているオンラインゲームの勃興にある。例えば,氏が例に出した「Club Penguin」は,2005年10月の正式サービス開始後に大きな人気を博し,2年も経たないうちに1200万アカウントを獲得。2007年8月には,ディズニーが3億5000万ドル(約400億円)で買収したことで大きな話題となった。2007年度は広告や7万人程度のプレミアムアカウントの売り上げにより,4000万ドル(約43億円)ほどの利益があったとされている。

 Club Penguinよりもなじみ深い「World of Warcraft」は,ローンチから4年以上経った現在でも1000万アカウントを誇り,Activision Blizzardに他社が羨望の眼差しを送る,莫大なキャッシュフローを生み出している。もちろん,すべてのゲームがClub PenguinやWorld of Warcraftのようなスタイルになるというのではなく,オンラインゲームのビジネスモデルはさらに成長していくであろうということである。

 また,次世代ハードウェアの開発に必要となる多額の費用を,プラットフォームホルダーの株主達が許可しないだろうというのも,セントジョンズ氏の指摘である。実際,ソニー・コンピュータエンタテインメントやマイクロソフトが,現行ハードウェアの開発にかかった費用の元を取るために,懸命になっているというのは良く聞く話だ。さらに,既存のパッケージ売り中心のビジネスでは違法コピーも減らず,次世代ゲーム機用の大作ゲームを作るリスクが高過ぎるとくれば,なんらかの変化が訪れるかもしれない。

 

オンライン配信は,次世代につながる革命か?

 2012年ごろに登場すると噂される次世代ゲーム機が,どのようなものになるのかはともかく,ゲームのオンライン配信がいま以上に増えるのは間違いないだろう。オンライン流通ビジネスに関しては,世界的にさまざまなビジネスが勃興しており(関連記事),マイクロソフトは「Xbox Live」,ソニー・コンピュータエンタテインメントは「PLAYSTATION Store」,そして任天堂も「Wiiウェア」というサービスを展開。それぞれオンライン配信の未来を模索している状態だ。そんな中,マイクロソフトはXbox Liveで映画/テレビ番組を配信するサービスを北米で軌道に乗せ,さらに開発者育成プログラムを推進するなど,他社より一歩先に進んでいる。

 オンライン配信の利点として,コピーされにくいということが挙げられる。任天堂は,著作権侵害による2007年度の損害額は,9億7500万ドル(約1050億円)と報告しているように,その被害は莫大だ。もちろん,オンライン配信の普及によって著作権侵害による損害がゼロになるわけではないが,現状より減ることは確かだ。

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Futuremark Game Studiosの「Shattered Horizon」は,ベンチマークの開発で培われた技術がいかされ,Direct X 10専用のオンラインFPSとなる。パッケージ販売は依然として大きな収益が見込めるが,Futuremarkは現在のところ,オンライン販売だけを念頭においている

 350タイトルのライブラリー,1500万アカウントという実績を上げているValveのオンライン配信システム「Steam」では,ゲームソフトのロングテール効果も現われている。つまり,数か月も経つと目立たない棚に押しやられてしまう小売店とは異なり,長期にわたって販売が可能になったのだ。しかも,パッケージやマニュアルの製作コストを削減できるほか,販売経験のない開発会社でも直接ユーザーにアプローチできるなど利点が多い。まさに,「流通革命」といえる状況が生まれているのである。

 もちろん,オンライン配信だけになってしまえば,フラッと立ち寄ったゲームショップで衝動買いをするといったことはなくなるだろう。そうなれば,プロモーションに力が入れられていないゲームは,その存在すら認知されなくなる可能性もある。

 セントジョン氏がコンシューマ機に終焉が訪れると予想する2020年までには,BRICs(ブラジル,ロシア,インド,中国)の4か国で8億人の中産階級層が誕生するという,投資銀行であるGoldman Sachsの試算がある。8億人といえば,現在の3大ゲーム市場である北米,EU,そして日本の総人口に匹敵する数だ。ただし,これらの国々では,海賊版や違法ダウンロードが蔓延しており,パッケージビジネスは成り立っていない。12年も先の話なのでかなり状況は変わるが,売る側がより安全で損害額の少ない販売手段にシフトしていくのは必然だろう。

 ブロードバンド回線の普及によって,違法ダウンロードの問題などがなにかとクローズアップされるようになってきた。アメリカでは違法ダウンロードへの決定的な対策が施されずに衰退した,音楽業界の二の舞にならないためにも,ゲーム業界は,成長が続いているうちに手を打っておいてもらいたい。セントジョン氏の言う「コンシューマ機の死滅」が正しいか誤りかは,次世代機の輪郭が見えてくるにつれ明らかになるだろう。そしてそこには,急速に進んだオンライン配信に対応する機能が,かなり高い確率で加わっているはずだ。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。ドイツで行われたGames Conventionの取材後,時差ぼけ影響で,生活習慣が変わってしまった奥谷氏。なんでも,夜10時には寝て朝の5時には起きているという。だが,健康的な生活を送っていると思いきや,風邪をこじらせてしまったようで,原稿を落としかける始末。どうも慣れないことはするものじゃないですね。これからは,深夜まで仕事ができるように大量に仕事をお願いしておきます。

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