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印刷2008/05/02 13:04

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted

 ActivisionとBlizzard Entertainmentの合併が行われ,Electronic ArtsによるTake-Two Interactiveの買収話が業界を賑わすなど,アメリカのゲーム業界は再編が進んでおり,その波はイギリスにも押し寄せている。これまで,数々の名作を生み出しながらも,ゲーム業界に大きな影響を与えるパブリッシャがなかったイギリスではあるが,今後はどのようになっていくだろうか。今回は英国ゲーム業界の歴史を紹介しよう。

変化が現れ始めたイギリスゲーム業界
イギリスゲーム業界小史

 強大な資本を武器に,世界でのゲーム年間売り上げの半分近くを握っている北米,プラットフォームホルダーとしての優位性と,アニメなどの独自文化を基盤に主導権を発揮している日本,そして人口が多く購買力が高いEUが,ゲーム産業の三大市場といわれている。

 EU諸国の中でもイギリスは,日本やアメリカに劣らないほどゲーム開発に関する歴史を持ち,「Populous」「Theme Park」「Tomb Raider」「Grand Theft Auto」など,アイデアに溢れ技術力を生かした,さまざまな名作を生み出してきた。

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イギリス産のゲームソフトで最もホットなのが,欧米で4月29日に発売されたばかりの「Grand Theft Auto IV」だろう。PLAYSTATION 3とXbox 360で,今年一番の大作ともいわれている。PC版が10月にもリリースされるという噂も流れているが……。Hot Coffee事件で大打撃を受けただけに,PCでの発売は難しいのではないだろうか

 しかし,イギリスのゲーム産業は1980年代後半から世界の潮流に乗り遅れ始め,1990年代以降から現在までは,個々のイギリス産ゲームが成功を収めることはあっても,日本やアメリカのように,世界市場をリードするような会社は現われなかった。それは,任天堂のファミリーコンピュータがゲーム機として世界の主流となる中で,AmigaやZX Spectrumといった“マイナー”なハードウェアへの投資を続けたことが,その要因の一つといわれている。

 1990年代,Windows 95やプレイステーションが登場した頃になると,イギリスのゲーム業界は大きく動いた。Electronic Artsが,イギリスゲーム業界でカリスマ的な存在だったピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏率いるBullfrog Productionsを,1995年に買収。また,ビデオ編集ツールのメーカーだったEidosが,同じく1995年に,イギリスのSimisとBig Red Software,そしてデンマークのDomarkを一斉に合併し,Eidos Interactiveを発足させたのだ。

 さらに翌年の1996年には,Eidos InteractiveがCentreGoldというゲーム販売会社の経営権を掌握。このCentreGoldのアセットの一つに,当時はまだ小さな開発チームだったCore Designが制作中の「Tomb Raider」があった。Tomb Raiderは,ヨーロッパを中心にPC,ドリームキャスト,プレイステーションなどに向けて発売されて大成功を収め,1993年から1999年までにEidos Interactiveの株価は,400倍に上昇した。世界一,急速に成長した企業として,イギリスはもとより世界中で知られるようになったのだ(関連記事)

 一方で,BMG Interactiveというパブリッシャから「Grand Theft Auto」を発売したDMA Designsが,のちにTake-Two Interactiveの傘下に入るGremlin Interactiveに譲渡された。また,Psygnosisも,「Destruction Derby」や「Wipeout」など名作を開発しつつも,1999年には看板を下ろし,Sony Studio Liverpoolと社名を変更するなど,イギリスの名門開発会社のほとんどは,1990年代に大きな変革を向かえたのである。

 

出資によって生まれ変わりつつあるイギリスの2社

 現在,イギリスのゲーム業界を実質的に引っ張っているのは,Sony Computer Entertainment EuropeとElectronic Arts UK,そしてRockstar North(元DMA Designs)といったグローバル企業だ。だが,それに加えてCodemasters,そしてSCi Entertainmentという二つの国内企業が,徐々に大型化しつつあり注目されている。

 Codemastersは,1985年にワーウィック城で有名なワーウィックシャーで設立された開発メーカーで,日本でも「TOCA Touring Car」や「Colin McRae Rally」といったレースゲームシリーズでお馴染みだ。380人ほどが働いており,最近では他社ゲームの販売やオンラインゲームの運営も手がけている。

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2008年6月にリリースされる予定の「Race Driver: GRiD」は,Codemastersが社運を賭けて開発したEGOゲームエンジンがベースになった初めてのタイトルだ。画像のように,湾岸沿いでドリフトを決めまくるようなレースが,非常に綺麗なグラフィックスで再現されている。本作はPC版もリリースされる予定なので,“PCレーサー”にとっては気になる一本だろう

 Codemastersが,大きく変化し始めたのは2007年のことだ。6月に,投資会社Balderton Capitalが70%のCodemasters株を買収して子会社化し,5000万英ポンド(約100億円)もの出資をゴールドマンサックスから受けるなど,資金の流れが一気に潤った。これだけの投資を受けられるのには相応の理由があるはずで,3年越しで開発したゲームエンジン「EGO Engine」の性能が一役買っているのかも知れない。6月に欧米での発売されるTOCAシリーズの進化版「Race Driver: GRiD」が,EGO Engineの第1弾となり,横浜などを含めた公道で,ドリフトを駆使しながらのハイテンションなレースが,これまで以上に緻密な描写で描かれる。

 このほかEGOエンジンを使った作品は,スチームパンク風のFPS「Damnation」,ミリタリーFPSとして名高いオペフラシリーズ最新作「Operation Flashpoint 2: Dragon Rising」などの発売が控えており,豊富なラインナップで市場を賑わせてくれそうだ。

 ところで,最近Codemastersは,経営再建のために閉鎖が決定していたSEGA Racing StudioをSega Europeから買収している(関連記事)。 SEGA Racing Studioといえば,「SEGA RALLY REVO」の開発元だ。同じラリーゲームであるColin McRaeシリーズの後継版である「DiRT」シリーズを持つCodemastersがSEGA Racing Studioを買ったというのは,かなり面白い動きといえるだろう。

 もう一つのSCi Entertainmentは,1988年にロンドンで設立されたパブリッシャである。日本ではあまり聞きなじみはないものの,古くは残虐性が問題作となった「Carmageddon」などを発売した会社だ。2005年にEidos Interactiveを買収しているが,Eidosで要職についてたJane Cavanagh(ジェーン・カヴァナー)氏などがSCi Entertainmentの社長になるなど,旧Eidosのメンバーが重要なポストをまかされているので,合併というほうが近いかも知れない。

 もっとも,買収額は7400万英ポンド(約150億円)と高額だったものの,両社には目立ったヒット作があったわけでもないので,すぐさま新たな買収の噂がゲーム業界を駆け巡った。その噂は本当であり,SCi Entertaimentは買収のオファーを受け,それを却下したことを2007年9月に発表した。だが,この発表内容は投資家達に嫌われてしまい,株価は50%も急落。その非を問われて,カヴァナー氏ら幹部は辞職に追い込まれたのだ。

 さらに2008年2月には,SCi Entertainmentは会社の存続に5000万英ポンド(約100億円)が必要であることを公表した。もはや進退窮まったかと思われたときに,その救済にあたったのが,SCi Entertainmentの大口株主でもあるハリウッドのメディア企業Warner Bros.だった。Warner Bros.は,不動産の個人投資家と組んで合計6000万英ポンド(約120億円)の資金援助を発表し,SCi Entertainmentを事実上の傘下企業に加えた。Warner Bros.といえば,すでに「Project Origin」や「Speed Racer」などの発売を控えた,Warner Bros. Interactive Entertainmentを持っており,今後の躍進に期待がもてる。また,映画の配給元として映画「トゥームレイダー」を劇場公開した企業であり,今後は相互の資産活用が考えられるだろう。

 Sony Computer Entertainment Europeを長らく率いていたPhil Harrison(フィル・ハリソン)氏が退職しており,Electronic Arts UKの設立者であるDavid Gardener(デイビッド・ガーデナー)氏と共にAtariの再建に加わるなど,イギリスのゲーム業界は新たな変革の時を迎えている。とくに財政的にも安定しつつあるCodemastersとSCi Entertainmentの両社が,今後のイギリスゲーム業界に,どのような影響を及ぼしていくのか注目したい。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。スーパーマーケットで購入した米袋に穴があり,3キロ分ほどの米粒が,購入してから一年も経っていない新車のトランク内に飛び散ってしまったという奥谷氏。米粒はカーペットの下にも潜り込んでおり,貴重な週末の相当な時間を車内掃除に費やしたそうだ。ただ掃除中に,ちょっとやそっとでは物が挟まりそうにない場所にシンガポールの1ドルコインを見つけたという。奥谷氏はシンガポールに行ったこともなく,新車にシンガポールのコインが落ちていた理由がまったく分からないらしい。実は,新車じゃなかったっていうのは,シャレになってないですかね。

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