連載


剣と魔法の世界には,ゴーレム,ケルベロス,カロン,ガーゴイルなど,番人や守護者としての任を担うモンスターが数多く存在している。これらが守護する対象は地域だったり,出入り口だったり,建物だったりとさまざまだが,中には一風変わったものを対象とするモンスターもいる。ここでは,「美女」を監視する役目を持ったアルゴス(Argus)について紹介してみよう。
アルゴスはギリシャ神話に登場する巨人である。一般的には全身に100の目を持つとされるが,中には双頭としていたり,四つ目によって四方を同時に見回せたなどとしている文献もあるようだ。ちなみに100の目は,二つずつ交代で休息をとるため,監視能力は常に発揮される。そのことから,アルゴスは別名「不眠の巨人」と呼ばれることもある。
ギリシャ神話によれば,アルゴスは主神ゼウスが愛した人間,ニオベーとの間に生まれた存在とされ,後にゼウスの妻であるヘラの従者として,さまざまな活躍をした。その功績は大したもので,神々の命に従って,怪物牛やヒドラ,スフィンクスを生んだとされる怪物たちの母,エキドナをも倒している。アルゴスは,よく神話に登場するような,知性の低い粗暴な巨人族ではないのである。だが残念なことに,全身に目があるという異様な容姿が災いしてか,英雄として語り継がれることはなかったようだ。
ゲームでの話になるが,アルゴスがモンスターとして襲いかかってくるシチュエーションはめったにない。もしもあるとしたら,それはあなたが,神々の不興を買っているからかもしれない。なにか心当たりがないか,思い返してみるといいだろう。
ギリシャ神話で,アルゴスが登場するエピソードとして真っ先に思い出されるのは,ゼウスとイオの話だろう。ある時,ゼウスがイオという人間の女性を見初めて交わってしまった。ところが,これはたちまちヘラの知るところとなり,嫉妬に狂ったヘラはゼウスの浮気現場を暴こうとしたのだ。だがゼウスも大したもので,魔法の力でイオを白い牝牛に変化させて,浮気の現場をごまかそうとした。
しかし,それを見抜いていたヘラは,何食わぬ顔をしながらゼウスに向かって,その牛が気に入ったので譲ってほしいと詰め寄ったのである。理由を話せば浮気がばれてしまうことから,ゼウスは泣く泣く牛となったイオをヘラに与えてしまった(ヘラが牛にして連れ去ったという説もあるようだ)。
ヘラは牛となったイオを,ミュケーナイの森のオリーブの木につなぐと,番人として百目の巨人であるアルゴスを起用した。アルゴスの監視能力と怪力は神々の間でも知られており,イオの救出は非常に困難なものと,誰もが考えた。
それでも,イオをなんとか救出したいと考えていたゼウスは,旅人の守り神であり,盗みに長けた自由気ままな神であるヘルメスを呼び寄せ,アルゴスから白い牝牛を奪ってほしいと依頼したのである。
ヘルメスは羊飼いに化けるとアルゴスに忍び寄り,持っていた魔法の笛を吹いてアルゴスを眠りに誘った。普段は眠らないアルゴスだったが,魔法の力の前には抗えず,あっさりと眠りに落ちた。ヘルメスは眠ったアルゴスの首を切り,殺害したのである。
それを知ったヘラはアルゴスの死を悲しみ,その100の目を鳥の羽に移したといわれている。今日,その鳥はクジャクと呼ばれている。
一方アルゴスの監視から解放されたイオだったが,話はそこで終わらない。ヘラは牛となったイオを苦しめるために,虻(あぶ)を送り込んだのである。虻に攻撃されたイオは,ポスポロス海峡を渡り,イオニア海を越え,小アジアをさまよい,最終的にはエジプトまで放浪し,そこでようやくゼウスの援助を得て,元の姿に戻れたという。

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