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日本におけるクリスマスの一般的なイメージは,前日の12月24日にはパーティを開催して大いに騒いだり,プレゼント交換をしたりするというものだろう(若い男女にとっては,また違った意味合いもあるのかもしれない)。靴下を枕元に下げて眠ると,翌朝,その靴下の中にサンタクロースからのプレゼントが入っているという設定も,子供達にはお馴染みのものだ。
サンタクロース(Santa Claus)は小太りの老人で,白い髭,赤と白の衣装,子供達へのプレゼントが詰まった白い袋がトレードマークだ。トナカイに引かれたソリで空を駆け,煙突や窓からこっそりとプレゼントを贈る。ところがドイツなどでは,サンタクロースだけではなく,ブラック・サンタクロースともいえる存在が信じられている。それがクネヒト・ルプレヒト(Knecht Ruprecht)である。
彼(?)は一見サンタクロースのようだが,黒や茶色の衣装をまとい,枝や鞭を手に持ち,背中には灰の詰まった袋を担いでいるという。そして悪い子には鞭打ちをしたり,動物の内臓やジャガイモの皮をプレゼントしたり,背負った袋に入れて連れ去ってしまったりするというのだ。ドイツなどの子供達にとっては,恐るべき存在といえよう。
サンタクロース同様,クネヒト・ルプレヒトもゲームや小説に登場することはまれである。一部,ブラックサンタとして登場するものもあるようだが,戦闘が発生するような状況になることは少ないため,弱点などもよく分かっていない。また正体についても定かではなく,一説には悪魔や妖精ではないかとされている。
ここでサンタクロースについても触れておきたい。サンタクロースの原型について,最も有名なのは聖ニコラウス(St.Nicolaus)だといわれている。ニコラウスは西暦271年(280年説もある)に,ギリシア南部の港湾都市パトラスに生まれ,のちに司教となった人物だ。彼にはいくつものエピソードが残されているが,隣人の没落貴族の三人娘のために,夜中に煙突から金貨を投げ入れ,それが暖炉のそばにあった靴下に入ったというものが有名だろう。ちなみにニコラウスは342年12月6日に没していることから,以後12月6日は聖ニコラウスの日となり,祝されることとなった。
ちなみにドイツなどでは,良い子には聖ニコラウスがお菓子をプレゼントし,悪い子には聖ニコラウスの従者であるクネヒト・ルプレヒトが罰を与えるとされている。
本来正教会系では,12月25日はミサ(聖体礼儀)が行われるだけでプレゼントは行われない(現在では,6日にはお菓子を,25日は本命のプレゼントがもらえるとしている家庭も多い)。聖ニコラウスとサンタクロースは,別物として扱われることも多いようだ。
なおサンタクロースという名は,聖ニコラウスのオランダ語読みであるシンタ・クラースやドイツ語のサンクト・ニコラウスが,アメリカに渡ってサンタクロースになったらしい。
またクレメント・C・ムーアの「クリスマスの前の晩」という詩では,サンタクロースのソリを引くトナカイ達には名があるとされ,左前から後列に向かって,Dasher(走る者),Dancer(踊る者),Prancer(跳ね回る者),Vixen(口やかましい者),右前から後列に向かって,Comet(彗星),Cupid(恋愛神),Donder(雷:ドイツ語),Blitsen(稲光:ドイツ語)という名前が定められている。
聖ニコラウス/サンタクロースとともに子供達のもとを回り,場合によっては罰を与えるクネヒト・ルプレヒトだが,その原点は謎に包まれており,はっきりしていない。その名前に「従者ルパート」という意味があることは分かっているが,それに特別な意味はないようだ。
また,よくよく調べるとドイツだけではなく,オーストリアではクリスマスのシーズンに,クランプス(kramps)という悪魔が悪い子に罰を与えるという伝承もある。冬という季節を考えると,日本のなまはげも,それよく似た存在だと考えることができる。もっともなまはげは,サンタクロースと一緒に活動していないのだが,同じ季節に現れる「不思議な存在達」の共通点を考えてみるのも,なかなか楽しいものだろう。
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