連載
J.R.R.トールキンによって著され,彼の死後も多くの人々に親しまれる「指輪物語」。本作にはホビットやバルログをはじめ,さまざまなオリジナル種族/モンスターが登場する。今回紹介するエント(Ent)は「森の守護者」ともいうべき木の精で,人間とオークが激しい火花を散らしたアイゼンガルドの戦いで,圧倒的な力と存在感を見せつけている。
「動く巨木」であるエントは,普段は木々に混じって森の中で暮らしている。眠っていることが多いので,普通の木と見分けがつかず,滅多に遭遇することはない(遭遇しても,それがエントだと気づかないだろう)。
エントは賢く,独自の言語を持つほか,人間やエルフなどの言葉を理解する。性格は温厚だ。会話に時間がかかるという難点があるが,エントはさまざまな知識に精通しており,その会話から有益な情報が得られることも多い。ちなみにトールキンの設定では,エントに言葉を教えたのは,エルフということになっている。
普段は温厚なエントであるが,森に危機が訪れたりすれば,その悪に対して手加減はしない。「指輪物語」のアイゼンガルドの戦いで,主人公のフロド一行に味方したエント達は,森の精霊フオルンを従え,アイゼンガルドの攻略に手を貸した。
彼らの力はすさまじく,巨石を放り投げ,オーク達を踏みつぶし,アイゼンガルドの城壁を引きはがした。エントとフオルンの侵攻の様子は,まさに「押し寄せる森」である。彼らの支援があったからこそ,アイゼンガルドを陥落させられたといってもいいだろう。
ゲームなどでは,エントはプレイヤーに助言を与えたり,拠点の防衛に力を貸してくれたりする良き友であることが多い。ただし,彼らは樹木を傷つける火や斧を激しく嫌っているので,もしもエントと会うのであれば,そうしたモノはしまっておくのがエチケットだろう。
J.R.R.トールキンの描いた指輪物語では,エントは滅び行く種族として登場する。エントの長は「木の髭」ファンゴルン(Fangorn)で,ほかにも「木の葉髪」フィングラス(Finglas),「木の皮肌」フラドリヴ(Fladrif)といったエントが代表的な存在だ。
トールキンの著作物を見る限り,彼らについて寿命で死ぬような記述は見られないので,事実上は不死といえるのだが,あやまってドワーフに伐採されてしまったり,オークによって燃やされてしまった者も多いようだ。またエントにも男女があるが,女エントが絶滅(?)してしまったらしく,子孫を増やせないでいるという話もある。
中つ国の歴史でいうと「指輪物語」のはるか昔,太陽の第二期のころ,エント達は森の世話をしていたのだが,やがて女エント達は花や穀物など,より開けた土地の植物に興味を持ち,それらの面倒を見るようになったという。
だが,度重なる戦いなどによって女エント達の守る植物は枯れてしまい,共に女エント達も姿を消していったのである。こうしたことから男エントは,姿を消してしまった女エントを探しているという。ちなみに代表的な女エントとしては,「木の葉髪」フィングラスが愛した「たおやかなぶな娘」,フィンブレシル(Fimbrethil)がまず思い浮かぶ。
さて,こうして女エント達は姿を消してしまい,さらに指輪戦争の中で多くのエントが倒れた。そして,エント達は森へと帰還したものの,次第に姿を消していったという。トールキンの設定では,第四期にはエントの姿はほとんど見られなくなったという。とはいえ,寝ているエントは大木と見分けがつかないので,ひょっとしたら森の奥深くに,ひっそりと生き残っているかもしれない。
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