連載
ファンタジーテーマのRPGをアレコレ遊んでいると,「定番」と呼べるモンスターを多々見かける。その中でも,日本人にとって最も親しみ深いモンスターといえば,スライム(Slime)が思い浮かぶ。
スライムは粘液状のモンスターで,酸性の体液などを利用して冒険者を攻撃する。知性と呼べるものはないに等しいので,魔法による攻撃や,戦術的な動きなどを恐れる必要はない。原生動物のアメーバが巨大化したようなものと考えればいいだろう。
今では「ザコモンスター」として有名なスライムだが,その特徴を考慮してみるに,もしもそれなりに知性を持ち合わせていると,なかなか手強いモンスターだということが分かる。
体がゲル状なので,扉の隙間や排水溝などの狭い場所でも,自由に通過/進入できる。障害物や死角の多い屋内/ダンジョンで,冒険者に音もなく襲いかかることなど,造作もないはずだ。ひっそりと天井などに張り付いていて,冒険者が下を通過したところへ落下したスライムは,鎧を溶かし,さらには鎧の隙間から進入してダメージを与えるのだ。
ゲル状であることから,剣や弓矢による物理的な攻撃があまり効かないところも,スライムの強みといえよう。
そんなスライムが,なぜザコモンスターの代名詞になってしまったのだろう。これはナムコの「ドルアーガの塔」や,エニックス(現スクウェア・エニックス)の「ドラゴンクエスト」などで,最弱のモンスターとして描かれたことに起因していると思われる。
これについては賛否両論かもしれないが,一方で汚らしい粘液でしかなかったスライムが(とくにドラゴンクエストシリーズにおいて)可愛らしいモンスターとして描かれ,その人気/知名度が大きく高まったことを考えると,スライムにとっては喜ぶべきことなのかもしれない。
英語でスライムというと,ヘドロや悪臭のする粘液物を想像させる言葉だが,モンスターとしてのスライムの原点は,どこにあるのだろうか。
明確な原点を求めるのは難しいが,おそらく科学の発達により,菌類や原生動物などの生態が確認されたあとに創造されたのではないだろうか。そういう意味では,スライムは比較的新しいモンスターと言えるかもしれない。
メジャーな著作物で粘液質のモンスターを登場させたという意味では,ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説「狂気の山脈にて」(1931)が挙げられる。ここに登場するショゴス(Shoggoth)は,宇宙より飛来した「古のもの」達によって創造された粘液状の生物であり,漆黒の巨大なアメーバといった容姿はスライムを髣髴させるに充分だ。
また「スライム」という言葉がモンスターを指すものとして使われた例としては,ジョセフ・ペイン・ブレナンの短編「Slime」(1958)が有名である。ここに登場するスライムは腐敗臭を放つ粘液状のモンスターで,普段は海底に棲息している。あらゆる生物を同化/吸収できるとされている。まさに(古くからの)ファンタジーファンが思い描くスライムそのものといえる。
ちなみに,RPGではスライムに似たモンスターとして,ブロッブ(Blob),ウーズ(Ooze),プディング(Pudding),ゼラチンキューブ(Gelatinous Cube)などもよく登場する。これらも,スライムの眷属と考えていいだろう。
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