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[GTMF 2011]不幸なゲームエンジン導入はなぜ起こる? ゲーム開発の新ステージに向けて開発者に要求されること
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印刷2011/07/01 00:00

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[GTMF 2011]不幸なゲームエンジン導入はなぜ起こる? ゲーム開発の新ステージに向けて開発者に要求されること

大前広樹氏
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 2011年6月30日,東京・大手町のサンケイプラザにて「Game Tools & Middleware Forum 2011 Tokyo」が開催された。これはゲーム関係のツールやミドルウェアを一堂に集めた展示会&講演会である。
 ゲームエンジン関係のセッションも多く行われていたのだが,その一つにUnity Technologiesの大前広樹氏による「Unityで始める不幸にならないためのゲームエンジンとのつきあい方入門」と題する講演があった。氏は,フロムソフトウェアで「アーマード・コア4」や「Demon's Souls」などの開発に携わっていた経歴を持つ。ここでは,そんな大前氏の講演を紹介したい。
 今回の講演は,一応,Unityを題材とはしているが,基本的にはゲームエンジンを導入する際の基本的な考え方や心構えについてまとめたもので,ほとんどの部分はゲームエンジンを問わずに適用できそうな話題であった。日本ではなかなか根付かないといわれるゲームエンジンの利用なのだが,うまくいかない理由はどのあたりにあるのだろうか。

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 大前氏は,最初にUnityの紹介を軽く行ったあと,ゲーム開発の歴史を3段階に分類した。すなわち,

コードの時代
データの時代→(スクリプトの時代)
ゲームエディタの時代


だ。

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 まずステージ1,プログラマがひたすら頑張っていたコードの時代。ゲームの面白さはプログラマに依存しており,小規模のプロジェクトであれば,これでも回せた時代だ。
 続いて,ステージ2ではゲームの規模が大きくなり,ゲームの内容はデータが決める時代がやってくる。プログラマのみに依存することはなくなり,デザイナーやプランナーが加わって分業が行われる。大きなプロジェクトでも動かすことができるが,効率はあまりよくない。
 それを少し効率よくしたのがステージ2.5のスクリプトの時代で,プログラマでなくても処理の記述ができ,実行しながら確認できる部分が出てきている。
 そして,ステージ3,ゲームエディタの時代。ゲームを実行しながら作れるゲームエディタによって,効率よくゲームが開発されるようになっている。

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 さて,伝統的に主流といってよいステージ2のような開発体制では,役割分担は行われているものの,システムを先に作り上げるのでリードプログラマなどの優秀な人材の動きは前半部に集中する。ところが,ゲームの面白さを決める部分というのは,ゲーム内のちょっとしたところに集中しがちで,そういったものはどちらかといえば最後に実装されるものであるという。例えば,打撃感などのゲームの感触に関わるような部分は,末端で処理されることが多いそうだ。氏の経験でも,ゲームで評判がよかった部分は実はアルバイトが実装していたといったこともあったそうだ。
 これがステージ3のような方式だと,まず,末端の部分から作り出して,ゲームシステムの部分の開発を先送りにできるのだという。そうなると,リードプログラマクラスの人材が末端部にまで関わることができる。つまり重要な部分に時間と資源を投入できる。

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 ここで,氏のGlobal Game Jamでの経験が紹介された。これは,全世界の各地でゲーム開発者が同時多発的に行っているもので,48時間でゲームを作るというイベントだ。今年は1月28日から30日にかけて開催されている。大前氏は,このイベントに参加し,当日即席で作ったチーム7人でゲーム開発に挑んでいる。氏のチームでは,「Life in Shadows」というゲームを無事完成させているのだが,48時間という短時間で,どのようにして作業を行ったのかが紹介された。


 メンバーと役割分担は下図のとおりで,全員でのブレインストーミングの直後から全員が並行して作業していることが分かる。なお,最初のプレイアブルデモができるまでにかかった時間は6時間だったそうだ。

システムプログラム1名,グラフィックスデザイン2名,サウンド1名,レベルデザイン3名という構成。48時間を右図のように使っている
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 開発にはもちろんUnityが使用されていたわけだが,そこで大活躍した「Prefab」機能が紹介された。UnityのPrefabとは,特定の機能をまとめたオブジェクトのことで,ゲーム内で使うオブジェクトの役割を大雑把に決めておいて,あとから詳細化するようなことができるもののようだ。プロトタイピングをきわめて簡単にする仕組みと思っておけばいいだろう。こういったものを活用できることが作業の効率化につながっている。

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 さて,続いて氏は「ゲームエンジンとはなにか?」といった命題を投げかける。曰く,ゲームエンジンとは,突き詰めていえば,仕事のやり方であり「仕事を終わらせるための理念」だという。ゲームエンジンを利用する際は,その「理念」を受け入れることが重要であると説く。それができていないと,ゲームエンジンを使っても幸せになれないというのは,なんとなく分かる話ではある。
 さらに,ゲームエンジンはなんの役に立つものなのかというと,一にも二にも「時間短縮」であるという。ゲームエンジンを使わなくてもゲームは作成できる。導入する以上,時間短縮につながらないような使い方は本末転倒となるのも理解しやすい話だ。たいていのゲーム会社は,ゲームエンジン導入前でも独自開発の蓄積があるわけだが,ゲームエンジンによる時間短縮に競合するような自社技術はばっさり捨ててしまったほうがよいと,氏は語る。開発速度以外での,自社の強みを見つめ直し,その部分に注力することが重要だという。
 ゲームエンジンによって,基本的なゲームシステムが提供されるような時代ではゲーム開発者に求められる資質も変わってきているという。大前氏は,現在求められる開発者の価値例を挙げているが,それらは開発手法が今後変わったとしても変化しない価値であるという。

 そういったことを踏まえて,氏は,ゲームエンジンの導入についての重要な注意点をいくつか挙げている。

 最初のプロジェクトは必ず失敗する
   → いきなり本番で使うのはやめよう
 小規模から始めて,作業の並列化を意識すること
 チーム全員で使え
 既存エンジンと混ぜて使うとたいてい不幸になる
   → いっそUnityはレベルエディタとしてだけ使うなどの割り切りを

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 ゲームエンジンはゲームの作り方自体を変えてしまうものなので,前述の「理念」を理解して使わないとうまくいかない。Unityの利点の一つは,そのためのコストがあまりかからないことだという。
 以前にも紹介したように,Unityでは年間10万ドル(約804万円)以上の売り上げがない会社の場合,無償で商用にも利用できる。ロイヤリティもない。失敗してもリスクはきわめて小さいといえる。失敗を恐れず,気軽に試してみてほしいと大前氏は語る。

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 最後に,最近なにかと景気の悪い話が多い日本のゲーム業界についての,大前氏なりの展望を示した。曰く,なんのかんのいっても,日本は世界で最もユニークなゲームをたくさん作っている国である。Unityのみならずゲームエンジンは小チームかつ短期間でのゲーム開発を強力にサポートするツールであり,本来,日本のゲーム業界との相性は非常によいのだという。ゲームエンジンを生かして,面白いゲームがたくさん作られるようになることに期待するとして,氏は講演を締めくくった。

Unity 公式サイト(日本語)

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