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「数年後のゲーム開発はこうなる」CESAがゲーム開発技術ロードマップを発表
ロードマップは,プログラミング,ビジュアルアーツ,ゲームデザイン,サウンド,ネットワークという5種類の分野に分けて記述されているのだが,細目も多く,興味深い内容も記載されている。
プログラミング系では,従来の一般的なCPU向けの処理系以外に,並列処理用の言語やシステム(CUDAやOpenCLなど)が入ってくるとの予想。まあ,現状のグラフィックスハードウェアの傾向から見ると,次世代のハードウェアでは当然のように利用されるのは間違いない。
主力言語は,C++からC#やJavaに移行すると予測されている。デザインパターンなどの近代的なプログラム手法をそのまま取り入れるには,より近代的な言語への移行は必須と思われる。両者ともオブジェクト指向的にはC++よりも高度な言語だが,ともに中間コード系のコンパイラなので,リソースの限られているコンシューマゲーム機では微妙といえば微妙。さらにいえば,C#ではクロスプラットフォームは望めそうにない。LLVM(低レベル仮想マシン)といったキーワードも出ているとはいえ,新しい処理系にそれらの言語を持っていけるのかという問題もある。AndroidのようにJava言語仕様だけを使ってSun MicrosystemsのVMは使わないという選択は問題ないのだろうか。かなり魅力的なのだが,疑問は残る。
個人的には,ゲームロジックはスクリプティングが主流になると踏んでいるのだが。
グラフィックス関係では,プログラミング関係とビジュアルアーツ関係で多少温度差が見られるのは面白い。プログラミング的に,次世代の目標であるグローバルイルミネーションなどはビジュアルアーツではすでに使われているという認識。プログラミング系だと,現状のアーキテクチャを中心にしているようだが,ビジュアルアーツの人はもう少し先を見ているようだ。ようやっと普及が進みつつあるHDテレビに代わる,新たな出力デバイスなども示唆されているのだが,民生用としてはちょっと道が遠いかもしれない。
そのほか,AIやアニメーション関係がかなりチャレンジングな内容なのに対し,物理関係や品質管理あたりは控えめな感じか。
ネットワーク関係については,現状が未発達なだけに漠然とした記述も見えるが,ネットワークゲームでのデータの所有権がプレイヤーのものとみなされるようになるだろうという予測は,かなりの爆弾である。思わず「CESAでこんなの出していいんですか和田さん?」と聞いてみたくなる。
最後に,ロードマップ中で説明なく用いられている略語についてちょっとだけまとめておこう。ロードマップを眺めるときの参考になれば幸いである。
LLVM Low Level Virtual Machine
PGO Profile-Guided Optimization(実動したうえでの最適化)
HDR High-Definition Dynamic-range Randering
AO Ambient Occlusion(環境遮蔽)
SH Spherical Harmonics(球面調和関数)
PRT Pre-computed Radiance Transfer(事前計算済み放射輝度伝播)
「CEDEC」公式ウェブサイト
http://cedec.cesa.or.jp/
「CESA ゲーム開発技術ロードマップ」を公開
最新および将来の技術動向をゲーム開発者に向けて提供
社団法人コンピュータエンターテインメント協会(略称:CESA、会長:和田洋一)は、本日、「CESA ゲーム開発技術ロードマップ」(以下、技術開発ロードマップ)を公開いたしました。
技術開発ロードマップは、ゲーム開発にかかわる様々な技術における最新の動向と、近い将来に活用される可能性のある内容をロードマップとして公開するもので、ゲーム開発者、関連する業界関係者、研究者や学生の活動指針として役立てていただくことを目的としています。
日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC(CESA デベロッパーズカンファレンス)」を主催するCESA の技術委員会およびCEDEC アドバイザリーボードでの協議により作成したもので、今回が初めての公開となります。本技術開発ロードマップの特徴として、ゲーム開発において重要と思われる技術テーマを選び出し、簡潔かつ判りやすく表現することで、概要をいち早く理解し、調査、研究、議論に活用できる内容となっています。
CESA では、CEDEC の開催に併せて、毎年1 回、本ロードマップを更新し公開していく予定です。今回は、プログラミング、ビジュアルアーツ、ゲームデザイン、サウンド、ネットワークの5 分野について、ロードマップを作成し公開いたしました。今後、分野は必要に応じて見直しを行う予定です。
【ロードマップの内容】 詳細は添付資料をご覧ください
プログラミング
プログラミング一般、コンピューターグラフィックス、AI、物理、アニメーション
ビジュアルアーツ
レンダリング、アニメーション、グラフィックデザイン、オーサリング・プロダクション
ゲームデザイン
ゲームシステム、生産性と品質の向上、気にしなければならない周辺技術
サウンド
DSP (Digital Signal Processing)、シンセサイズ・波形生成・音声合成・音声解析、オーサリング環境・圧縮フォーマット
ネットワーク
個人所有データの概念の拡大、P2P 利用とリソース共有、WEB 技術を取り入れたネットワーク環境の構築、ゲーム・コミュニティ統合
以上
CESA ゲーム開発ロードマップ(プログラミング分野)
プログラミング一般
<最新>
- C/C++で作成。マルチコアCPU でAPIベースのスレッド制御
<数年後>
- メモリの共有・排他レベルの宣言とスレッド生成・同期の簡略化等をサポートする新言語もしくは言語拡張の登場。参考例としてCUDA/Axum/ATIstream/TBB/ OpenCL/OpenMP 等と、関数言語からのアプローチ
- LLVM/PGO 等にみられる実行時最適化技術の向上
- ゲーム本体部分は、徐々にC#やJava 等の言語に移行
コンピューターグラフィックス
<最新> - ポリゴンベースのモデル+ マッピングのバリエーション、Deferred
Rendering 等
<数年後>
- Voxel/Micro polygon/NURBS/Displacement Map/Tessellation/Fractal 等を使用した、スケーラブルなジオメトリの実現
- Global Illumination/Radiosity等のリアルタイム化、もしくはポリゴンベ
ースの手法とのハイブリッド化
- ABuffer/Alias-Free Shadow Maps 等のZ-buffer の諸問題の解決
AI
<最新>
- FSMのスクリプトベースの実装
<数年後>
- グラフベース、セッティングベースのビジュアルスクリプト
- コード上の条件分岐によらない得点計算、条件判定等による行動選択。参考例としてGOAP/ Hierarchical Behavior Tree / Probability Based Search 等
- 動画、画像、音声、構文解析による自動・半自動コンテント生成
物理
<最新>
- 剛体シミュレーション + Constraint Solver、Ragdoll 物理等
<数年後>
- セットアップに頼らない、マテリアルごとの破断面や壊れ、変形の表現
- ばねモデル/FEM を使用した破壊シミュレーション
- 流体シミュレーション/クロスシミュレーション等で粒子法の一部適用
アニメーション
<最新>
- スケルトンベースのキーフレームアニメーション、IK+自動補完。
<数年後>
- 外力応答
- 筋肉シミュレーション
- モーションキャプチャーデータの動的解析と組み合わせによる生成/学習的手法によるアニメーションデータの作成等のプロシージャルなアニメーション
CESA ゲーム開発ロードマップ(ビジュアルアーツ分野)
レンダリング
<最新>
- プログラマブルシェーダの活用、HDR・AO・SH・PRT など
- 精細で表現力の高い、ロバストなシャドウイング
<数年後>
- 高スケーラビリティの実現 ジオメトリシェーダ、ジオメトリックイメージなど
- インタラクティブレイトレーシング
- AR・立体視・高フレームレートなど、出力段の進化
- ベクタ表現、点群表現など形状表現の多様化
アニメーション
<最新>
- ハイレベルモーションキャプチャ アニメーション パフォーマンスキャプチャ、フェーシャルキャプチャ
- 剛体物理シミュレーション、物理ベースモーション生成
<数年後>
- 高度DB 検索をベースにした、インタラクティブモーション
- AI ベースのモーション生成
- 高度な物理シミュレーション(破壊、流体、筋肉、軟体など)
グラフィックデザイン
<最新>
- FLASH の浸透
- モーショングラフィックスを活用したダイナミックな演出
<数年後> - ビヘイビアベースのインタフェース演出
- 素朴なリストやアバター以外のネットワーク表現
- 解像度フリーなデザイン
オーサリング・プロダクション
<最新>
- プログラマブルシェーダの要求に応じた抽象データ生成
- 3D スキャン、3D ブラシツールなどの高効率手法の導入
- 大規模データの効率編集、分散環境
- 高効率なコンテントパイプライン
- アセット管理システムの浸透
<数年後> - 多様な色空間・HDRI テクスチャのハンドリング
- ファインアート・実在物からのデータ構築 インバースレンダリング シンタクス・ルール抽出からのプロシージャル化
- ファイル操作やバージョン管理を超えた、コンカレントオーサリング
- DCC ツールとゲームランタイムとの相互乗り入れ
- オープンコンテンツの積極的な利用
CESA ゲーム開発ロードマップ(ゲームデザイン分野)
ゲームシステム
アイデアの出し方、元になる要素、操作しやすいインターフェースの生かし方
<最新>
- カジュアルゲームとコアユーザーの2 極化
- ダウンロード販売の普及
- UGC の増加と共存
- 専門者が監修するゲームの増加
- 据え置き機+携帯機のようなプレイ環境を意識したゲームデザイン
- 特定コミュニティーの顧客層に専用カスタマイズされたゲームデザイン
<数年後>
- 教育機関、リハビリや社員研修等へのゲームデザインの導入
- ユーザー層の年齢上昇を意識したゲームの増加
- 心理学に基づいたゲームデザイン
- ユーザーのプレイ情報を基に進化し続けるゲーム
- 常時ネット接続可能な携帯型情報端末を活用したクラウド型ゲーム
- UGC ゲームを適正に審査しパブリッシングを補助する流れの一般化 アイデアを生かすために生産性をあげる技術 生産性と品質の向上
生産性と品質の向上
<最新>
- 事前に行われるテスト及び市場に出てからの購入ユーザーによる評価
- Flash 等による短期間でのアイデア実現
- プロトタイピング、ホワイトボックス開発手法
- 手書きやツールによるスクリプト生成
- ローカライズが必要な国の増加
<数年後>
- データマイニングを利用したマーケティング
- 自動テスト(ゲームシステム、整合性)
- 難易度を自動調整するAI の搭載
- ゲーム開発に即した工程管理システムによる適切な進捗予測
- 高度なローカライズの必要性と自動化(翻訳と文字数調節、桁区切りや単位
の自動変換、カルチャライズ)の発展
気にしなければならない周辺技術
<最新>
- 深度を考慮した立体的な画像認識技術
- マルチタッチデバイスの増加
- カメラ及びGPS と電子コンパス等によるAR 技術
- 加速度センサー
<数年後>
- 立体映像の普及
- 表情を読み取る技術の一般化
- 個人認識技術を使ったゲームデザイン
- 脳や皮膚からの微弱な信号を元に操作
- 環境を制御できるフォースフィードバック
CESA ゲーム開発ロードマップ(サウンド分野)
DSP (Digital Signal Processing)
<最新>
- サウンド処理が完全ソフトフェア駆動の時代へ突入
- DSP がプログラマブルになり、独自制御が可能になった
- 周波数ドメイン型音声処理の開始
<数年後> -独自DSP 開発が一般化。信号処理を扱える専門知識が必要になる。
- DSP など信号処理を簡単に行えるツールが普及し、ワークフローの一部となる
- VST のようなオーディオ入出力標準規格が、ゲームプラットフォーム上でも採用され、より一般化される
シンセサイズ・波形生成・音声合成・音声解析
<最新>
- 基礎的物理現象(遮蔽,回折,透過,ドップラーなど)の実装が始まる
- 事前準備された複数波形の音量制御/音質制御がより高度化
- 物体質量、形状、速度に応じた発音波形選択(フィジックスとの連携開始)
- 音声合成エンジンによる発声利用や、音声解析による自然語入力の実験段階
<数年後> -従来の波形合成技術の更なる進化(周波数ドメイン信号処理、波形モーフィング)
- 波形記憶型から、波形生成型へのアプローチ
- より高度な物理演算エンジンとの統合、AI エンジンの発音制御への応用
- 音響工学や建築音響など、空間音響の研究を元にしたシミュレートへの挑戦
オーサリング環境・圧縮フォーマット
<最新>
- ゲームエンジンと同化した音源配置等のオーサライズ環境を提供
- 楽器音サンプリング+楽譜データ(MIDI 等)による楽曲作成から、生音取り込
みへと移行が進行
- サラウンド対応コーデックが一般化
- 楽曲自動生成の試み(シーケンシャル技術の音楽分野への応用)
<数年後>
- CG オーサリングツールとの連動構築による作業効率化が加速
- DAW ソフトとの完全連携による作業の効率化、新規ワークフローの確立・DAW データをインポート、またはプラットフォーム上で動作する環境
- スクリプト言語による、インタラクティブ作曲/制御技術が実用化
- メタデータを含んだ音声フォーマットの普及と有効活用
- 音声伝達用のコーデック開発が加速(ボイスチャットがより普及)
CESA ゲーム開発ロードマップ(ネットワーク分野)
個人所有データの概念の拡大
<最新>
- サーバ上「個人情報」と「個人に関係の深いゲームデータ、アバター、個人が記録した日記・ブログ文章」が存在している
- サーバ運営者は法的な責任もあって「個人情報」を保護し、対象者の意思に基づいて取り扱いを行う
<数年後>
- 個人情報を超えて、個人が所有するとみなされるデータ範囲が拡大する。ゲームデータ等も個人が所有しているものとして、サーバ運営者が保護責任を負う。
- 拡大された個人データでの所有権を実現するセキュリティ機構、プロトコルが実現される
P2P利用とリソース共有
<最新>
- 対戦ゲーム等のためにP2P 技術を利用している。
- データ転送効率の向上やサーバ負荷軽減のためにP2P によるデータ配信を行っ
ている
- サーバ群をクラウドとして仮想化し、大規模コンピューティングリソースを提供している
<数年後>
- P2P を積極的に利用してゲームプレイ環境側からもゲーム世界構築のためのリソースを提供する。クライアントもサーバの一部となることで、サーバとクライアントの境界が曖昧となる
- 構成の変わるリソース群をゲーム空間提供リソースとして仮想化する技術が確立される
WEB技術を取り入れたネットワーク環境の構築
<最新>
- ステートレス特性をもつWEB 技術による大規模サイトの構築と運用が行われている
- ステートフルなサーバ=クライアントに基づくゲームプレイ環境を提供している
<数年後>
- WEB 上培われた多数接続・負荷分散技術を応用したゲームサーバ構築が進む-接続技術が標準・オープンであるものを使うためアクセス端末を選ばないゲームプレイ環境が実現される
ゲーム・コミュニティ統合
<最新>
- ゲームプレイ環境とそれを補完するWEB ベースのコミュニティが存在している
- WEB ベースのゲームと従来型ネットワークゲームとのゲーム企画的連動、一部データの連動を進めている
- ブラウザplugin を含むWEB 技術をベースとするカジュアルゲーム環境の提供している
<数年後>
- コミュニティ、WEB ベースゲーム、サーバ=クライアント型ゲーム、が同一のデータソースを共有する
- 端末によらない等価的なアクセス手段とプロトコルが確立される
- 端末の表現力に応じた複数ビューをもつゲーム環境が提供される
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