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今,オンラインゲーム/ソーシャルゲームを取り巻く状況はどうなっているのか? Japan Creator's Networkがゲーム開発者向けにセミナーを開催
会場ではまず,関東経済産業局 地域経済部 情報政策課の小澤元樹氏が登壇し,最初の挨拶をした。小澤氏は,ゲーム産業が国内の成長産業の一つであり,また今後も伸びる分野であると述べた。
関東経済産業局 地域経済部 情報政策課 小澤元樹氏 |
国際ゲーム開発者協会(IGDA) 日本代表 新 清士氏 |
続いて登場した国際ゲーム開発者協会(IGDA) 日本代表 新 清士氏は,先日シアトルで行われたソーシャルゲームの国際商談会「Casual Game Connect」で自ら行った取材をもとに,「ソーシャルゲームは甘くない」と断言した。ソーシャルゲームは参入こそしやすいものの,まさにそれゆえ,ライバルも非常に多くなる。また日本が海外に進出する一方で,中国,韓国,ロシア,東欧といった世界各国のコンテンツが日本に流入してくる。そういった状況に立ち向かう手段として,新氏は「ゲームに限らず,ほぼすべての産業に当てはまることだが」と付け加えつつ,以下の三つのポイントを挙げた。
・市場拡大,避けられない海外への進出
・コスト削減
・イノベーションの発生に合わせた的確な参入
そして新氏は,このセミナーを通じて業界を取り巻く状況を理解し,的確な判断をするための一助にしてほしいと参加者に呼びかけた。
今やアイテム課金モデルがオンラインゲームの標準的なビジネスモデルに。平均課金額は月5000円を超えた
そのうち,PCオンラインゲームタイトルは308タイトル。こちらの数字も2007年頃に停滞を見せているが,実はこの時期というのは,市場から多くの企業が撤退した時期である。川口氏は,市場の二極化が大きくなり,運営力があって売上を伸ばす企業と,そうでない企業の差が明確になった時期であると指摘した。
2009年,ビジネスモデルにアイテム課金を採用したタイトルは,実に全体の68%に上った。逆に,2004年に40%以上を占めていた月額課金制は極めて少なくなっている。これらの事実に加え,アイテム課金がほかのビジネスに波及している現状を踏まえて,川口氏は「アイテム課金モデルが,オンラインゲームのビジネスモデルといえるまでになった」と表現した。
アイテム課金モデルにおけるプレイヤー一人あたりの毎月の利用額(ARPU)の平均は,5033円と,2004年の調査開始以来初めて5000円を超えた。このうち,ボリュームゾーンとなるのは30〜39歳の層となっており,毎月一人あたり平均約5800円使っているという。メインターゲット層が20〜30代という部分こそ変わらないが,少しずつ上の年齢層へシフトしている傾向が見られるそうだ。
逆に月額課金モデルの平均利用額は,採用タイトル数が増えていないこともあり,2008年からほぼ推移していない。
また,2009年のオンラインゲーム市場全体の売上は約1300億円。このうち,パッケージの売上は約300億円だが,前年比97%と縮小した。
その一方で,運営サービスの売上はほぼ1000億円で前年比108%の増を見せた。その結果,トータルでは前年比107%となり,2004年以来,毎年成長していることになる。
最後に川口氏は,再びブラウザゲームに言及。調査を始めた2004年からの傾向によると,Flashを利用したゲームのライフサイクルはおよそ2年程度で,2008〜2009年にかけて導入されたタイトルは,そろそろ終盤に入ってもおかしくないという。また,中には5年以上続いているタイトルもあるが,それを実現するためには運営サービスへの注力が重要であると述べた。
さらに昨今,ソーシャルゲームも含めてオンラインゲーム企業のサービスのバリエーションが増えてきたが,まだそれらの相関関係は把握できていないとのこと。今後もワンソースマルチユースといった形でサービスが拡大していくだろうとして,セッションを締め括った。
モバイルは3.9世代ネットワークの登場で配信コンテンツにさらなる変化が訪れる
コンテンツ市場の大きな特徴は,通信事業者による回収代行の仕組みがある点だ。このメリットとしては,まずゲームなどの少額課金が容易になっていることが挙げられる。そして2009年に設けられたガイドラインによって,一般サイトであってもキャリアを介した課金が可能になった──いわゆるオープン化されたことから,PCやスマートフォン,ゲーム機などの課金にも応用しようという動きが進んでいるとのこと。
その一方で急成長しているのがSNSなどで販売されるアバターアイテムで,2008年,2009年と,2倍以上の高い伸びを見せている。加えて電子書籍や動画配信市場も成長を見せている。
具体的には,3.9世代では10曲入りのCD1枚分のデータが1〜3分でダウンロードできるようになるとのこと。もちろんアップロードの速度も上がるので,動画の配信も容易になる。すなわち,これまで困難だったサイズの大きな動画をゲームに組み込むことも可能となるわけだ
さらに,携帯端末向けのマルチメディア放送もゲームと無関係ではない。というのも,この放送形式には“蓄積型放送”が認められるからだ。その仕組みを応用すれば,ゲームのパッケージや書籍のデータをまとめて圧縮をかけ蓄積しておき,発売日に放送波を使って一斉にダウンロード配信するようなことも可能になるという。現在は,2011年の実現に向けて試みがなされている最中だ。
そのほか岸原氏により,ゲーム関連の試みとして,位置情報ゲームと都道府県各地域との連携や,交通機関を利用した履歴をもとにゲーム内ポイントを配布するシステムなどが紹介された。
アットゲームズの海外展開に成功したジークレストの戦略は,最初からニッチ狙い
一つめは,プラットフォームの特徴を押さえること。例えばmixiなら,ソーシャルグラフが崩れるような対戦を中心とするゲームは避けたほうがいい。逆にモバゲータウンであれば今はバトル系の人気が高いといったように,それぞれに特徴がある。ジークレストではPC向け6タイトルはすべてmixiに,モバイル向け3タイトルは,プラットフォームの特徴に合ったものをそれぞれに提供している。
あまりにもサーバが落ちる回数が多いようだと,プラットフォーム側からJoin停止などの措置を取られてしまい,サービス再開が大きく遅れ,多大な機会損失に繋がるため,負荷対策は極めて重要であると,末光氏は強調した。
三つめはクラウドの利用に関して。クラウドは,上記のとおり,スピードの面ではメリットがあるが,その分コストがかさんでしまう。末光氏曰く,まさに一長一短だそうで,サービス初期と安定期の見極めを誤ると,いつまで経っても儲けが出ないということになってしまうそうだ。
モバイルは,ライバルが多いが,PCよりも市場規模が広く,その成長が望めることを指摘。また開発コストを抑えられるので,最初に参入するならモバイルのほうがやりやすいかもしれないと述べていた。
海外展開については,ジークレストはかなり以前から北米への進出を考えていたそうだ。だが数年前に北米進出を画策したときには,まだ北米市場にアイテム課金が浸透していなかったため断念したとのこと。しかしその状況にも変化が訪れ,最近ではアメリカでもアイテム課金がポピュラーになりつつあり,現在ジークレストは北米に事業所を構えている。
北米進出にあたり,最初のコンテンツには同社のアットゲームズのローカライズ版「TinierMe」を選択。その理由は,アニメ調のキャラクター,運営ノウハウの応用,リスク回避の三点である。また会員獲得にあたっては,Facebookのコミュニティを利用。“インフルエンサ”──すなわち,自発的にコンテンツを広めてくれるユーザーの発掘にも成功し,コストを最小限に抑えることができた。ただし,北米では会員獲得よりも,いかに継続させるかが大きな課題になるとのこと。
今でこそサンフランシスコに事業所を構えているが,北米進出時の担当者は最小構成の4人だったそうだ。末光氏は必要な人材に言及し,責任者はとにかく「事業を成功させる!」という熱意の持ち主でないと難しいと述べた。またWebデザイナーは,日本語ができるネイティブが望ましい。これは日本と北米では,好まれるセンスが異なるからだろう。残りの運営経験者とエンジニアは,アットゲームズにおけるそれぞれの役割を経験・理解し,実行できれば,英語ができなくとも大丈夫だったそうだ。
そうして見事に北米進出を果たし,さらなる事業展開を試みるジークレストだが,Facebookについては大成功ではなく,ニッチを狙った少ヒットを目指すという。すなわち,Facebookは集客エンジンと割り切り,集めたユーザーをジークレストに還流して収益を上げるというわけだ。末光氏によると,Facebook上ではサービス展開に少なからず制約が加えられてしまうことも理由の一つであるとのこと。
成功するにはプラットフォームの特徴に沿った質の高いソーシャルゲームの提供を
もはやレッドオーシャン型になりつつあるソーシャルゲーム市場では,極端に期間を短くしたり,予算を少なくしたりするのは難しくなっている。500万〜1000万円程度の低予算で開発してもヒットには結びつかず,得るものもないので,資金をドブに捨てているようなものと城口氏は述べる。
また,もともとミログが手がけていた企業プロモーション系ソーシャルゲームは,プラットフォームのレギュレーション変更により,現在ではほとんど作ることができなくなってしまったとのことだ。
上記の末光氏と同じく,城口氏もソーシャルゲームを提供する場合は,プラットフォームごとの特徴を掴むことが重要だと述べる。なので,コスト削減やリスク回避を目的に,同じタイトルを各プラットフォームに転用することは必ずしも得策ではないという。
mixiに関しては,ソーシャルグラフの形成に特化しないと極端に扱いが小さくなってしまい,集客効果はほぼ見込めない。具体的には,ユーザー間の対戦を中心とするものではなく,作ったものを“見せあう”ような内容が望ましい。
逆に,モバゲータウンはゲーム性を重視し,ゲーム色が薄いタイトルは企画段階でハネられる可能性もあるとのこと。ただし,一時期流行った“ロワイヤル”タイプのバトルものに関しては,現在,企画が通らなくなっており,何かしら捻りを加える必要がある。したがって,ミログではリスクが高いことを理由に,ロワイヤル要素のあるタイトルの仕事は現在引き受けていないという。
また集客は,mixiと異なり,広告が中心。今やSAP(Social Application Provider,ソーシャルゲームのデベロッパおよび提供者)は,いかに自社タイトルでモバゲータウンの広告枠を占有するかについて注力しているそうだ。
二つめは,本気でいいものを作る覚悟。上記のとおり,もはや安く手早くで通用するような市場ではないというわけである。
三つめは,プラットフォームの特徴を理解すること。今や,各プラットフォームともソーシャルゲームに携わるスタッフの数を増員しているので,交流を深めておくのも重要であると,城口氏は述べる。
新氏は,かつて一つのイノベーションが発生し市場が形成されると,その付加価値は3〜5年持続したが,今や半年程度にまで短くなっていると指摘。すなわち,資本力を持たないベンチャー企業や中小企業は,イノベーションが発生してから半年以内に市場に参入できなければ高い付加価値を得ることはできず,その先の展開も見込めないというわけだ。そして,それは日本でも同じと新氏は述べる。
その状況を打破するために,新氏は冒頭で掲げた三つの要素──市場拡大,コスト削減,イノベーションのタイミングに合わせた行動が重要だとあらためて述べ,セミナーを締め括った。
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