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CEDECで講演する意義とは? 「CEDEC 2009」で講演した二人の対談から見える日本に必要なカンファレンスの形
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印刷2010/03/27 16:02

インタビュー

CEDECで講演する意義とは? 「CEDEC 2009」で講演した二人の対談から見える日本に必要なカンファレンスの形

 2010年8月31日〜9月2日の期間に開催されることが決まった「CEDEC 2010」は,第一線で活躍するゲーム開発者や技術者,研究者によって行われるカンファレンスだ。4Gamerでも,例年セッションを取材してお届けしているので,毎年読んでくれている読者も多いだろう。

画像集#001のサムネイル/CEDECで講演する意義とは? 「CEDEC 2009」で講演した二人の対談から見える日本に必要なカンファレンスの形

 さて,存在こそ著名ではあるものの,実は現在CEDECで講演者を公募中であることは,あまり知られていない。
 「いきなり大舞台で講演って言われても……」と思うのは普通だが,そもそもそれ以前に,CEDECで講演する意義とはどういったものなのだろうか。また,日本では影響力のあるCEDECだが,海外からの注目度はあまり高いものではない。海外の開発者からも注目されるカンファレンスにするためには何が必要なのだろうか。

 今回,CEDEC 2009で講演した,スクウェア・エニックスでユーザーインタフェース(UI)のデザインに携わっているデザイナーの栗城桂子氏と,フロムソフトウェアでAIプログラマとして活躍する技術部研究課の三宅陽一郎氏にお越し頂いて,CEDECについていろいろな話を聞かせてもらった。
 お二人には対談形式で自由に話してもらったのだが,相当に濃い話が聞けたので,ぜひ一読してほしい。

スクウェア・エニックス デザイナー 栗城桂子氏(左)と,フロムソフトウェア 技術部研究課 三宅陽一郎氏(右)
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「CEDEC 2010」公式サイト



4Gamer:
 今回は,CEDECでの講演経験があるお二人から,CEDECで講演することの意味,意義といったことをテーマに,お聞きしたいと思っています。まずは,お二人がCEDECで行った講演についてお聞かせください。


画像集#003のサムネイル/CEDECで講演する意義とは? 「CEDEC 2009」で講演した二人の対談から見える日本に必要なカンファレンスの形
栗城桂子氏(以下,栗城氏):
 私は,UIとローカライズに関するノウハウについて,セッションというかラウンドテーブルという形で講演しました。

三宅陽一氏(以下,三宅氏):
 そのラウンドテーブルでは,どのぐらいの人が集まったんですか?

栗城氏:
 結局何人くらいだったかな。あそこの席は全部埋まって,立ち見がいました。


4Gamer:
 ということは,およそ120人くらいになるかと。……かなりの注目度ですね。

栗城氏:
 人の多さにびっくりしました。ただ,ラウンドテーブルの席で,中心の円卓のほうに座って話し手をしてくれる人はごく限られています。
 しかし,数人でもいればという思いで,ネタをこちら側から発信して,各社さんにお声掛けしつつ,簡単なプレゼンテーションを行いました。

三宅氏:
 しっかりと準備はされていたわけですね。

栗城氏:
 こちら側から発信することは,話題を作るためのネタ出しの一環みたいな感じで捉えてました。これをきっかけにして,聴講者としてその場に参加してくださった方々から,うちではこんなので困ってるんだけど――というグチ的内容でも良いので,情報を引き出すことも,目論見としてはありました。

4Gamer:
 三宅さんはどうでしょうか。

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三宅氏:
 僕は,AIの分野ですが,最初の講演は4年前です。AIラウンドテーブルは3〜40人くらい,AIの講演は200〜300人くらいの規模ですが,ラウンドテーブルはなかなか話してくれる人が少なくて難しいですね。みなさんも,いろいろと会社の看板を背負ってきているので,なかなか話しづらいというのがあると思います。

栗城氏:
 たしかに,どうやって話を引き出そうかというのは,当日になってその場に行ってみて,“空気”を見てみないと分からないので,すごくドキドキしていました。

三宅氏:
 そうですよね。ドキドキと言えば,初めての講演のときは,ドキドキしながら公募の結果を待ってましたね(笑)。

4Gamer:
 それまでCEDEC以外で講演された経験はなかったんですか?

三宅氏:
 ええ,ありませんでした。もともと研究をやっていたので,学会とかはよくありましたけど,ゲーム業界に入ってからはないですね。CEDECも2005年に初参加でしたから。

4Gamer:
 2005年の参加は,聴講者としてですか。

三宅氏:
 ええ,そうです。その時期はちょうど新作タイトルを開発中で,2006年の6月に発売予定だったので,その年の9月くらいは,タイミングとしてもちょうど良かったんです。
 ちなみに,聴講者として初めて参加したときは,懇親会に行っても誰も話す人がいなくて,なんとなくグラス持ってぐるぐると会場を回ってみたり(笑)。ですが,講演者として参加してからは,少しずつ,周囲で話しかけてくれる人が増えましたね。そこで,専門分野に関して議論できたり,自分の専門外の方とも話せたり,研究者の方と話せたりと,ゲーム業界全体というものが実感できました。

栗城氏:
 あー,そうですよね(笑)。たしかに普通に聴講者として参加する場合と,講演者として参加する場合って,懇親会ですごく差が出る気がします。

三宅氏:
 これは,講演者として参加するメリットの一つかもしれないですね。それと,講演者としてCEDECに参加すると,なにか日本のゲーム産業の流れの中で,流れを作り出している責任というか重みを,自然に感じられます。やはり,開発者のみなさんの前で講演やラウンドテーブルを行うわけですから,それぞれの開発者の持つベクトルを,見渡せるからなんでしょう。みんなそのベクトルを確認したり補正したりするためにCEDECに来るわけですし。


自分の持つ知識は,世間で当たり前のもの? 情報の共有で全体のレベルが見えてくる


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栗城氏:
 私の場合,CEDECへの公募は自分の成長のためだな,と思い切って飛び込んでみた感じだったんです。私はデザイナーですので,デザイナーならではの,何かしらの発信ができないかなというのがベースにはありました。
 でも,周りの人がすごい大御所といいますか,経験も豊富で,専門的な知識もいっぱいある方々なので,その中で自分みたいな若輩者がどういう形で物事を発信できるんだろうというのが悩みとしてありました。


三宅氏:
 公募する前はやっぱり不安ですよね。僕の場合だと,周りのほかの会社,とくに日本では人工知能の発表っていうのが,過去のCEDECを見てもあまりなかったので,ほかの会社がどのレベルにあるのか,分からない状態で講演に臨むことになるわけです。
 講演前は,こんなこと発表しても「どこでもやってるよ」と言われるかもしれないみたいな思いがありました。社内でもそういう声があって,不安でしたね。

4Gamer:
 たしかに,「それは当たり前」と言われるのは,怖いですね……。

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三宅氏:
 ただ,結果的には実は誰もやってなかった,あんまりやってなかったという感じでした。それで,こういった講演を繰り返しているうちに,質問や感想,アンケートなどで,大体周りのレベルが分かったんです。それは本当に大きな収穫でした。
 僕はずっと海外のAIの論文を読み進めて実装にフィードバックしていたんですが,実はそういった実装例などが,日本にはあまりないということが分かりました。

4Gamer:
 つまり,それが周りのレベルだったわけですね。

三宅氏:
 はい。これはなんとかしなきゃいけないと,次年のCEDECやIGDA日本,日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)を通して,日本のAIのレベルを上げていこうという,最初の動機になりました。
 そういった面でも,すごくCEDECはありがたいです。やはり日本においてはCEDECで話すことが,ゲーム開発者に向けて一番影響力が大きいんですよね。あとから,CEDECで聞きましたとか,あのとき聞いてこう思いました,という反応が返ってくることは,とても大きいです。
 栗城さんは,やっぱり発表されてそういう変化みたいなものや,状況が見えたりしましたか?

栗城氏:
 ありましたね。UIだったりローカライズとかは,ゲーム開発においては縁の下の力持ち的な部分があって,プレイヤーに注目される部分ではありません。なので,文句を言われなかったら成功みたいな形なんですよね。それはAIも同じですか?

三宅氏:
 ええ,AIも一緒ですね。ちょっと賢くなくてドジなことやるとダメだなって言われるんですけど,すごくちゃんと作ると誰も何も言わない。

栗城氏:
 そうですよね(笑)。

三宅氏:
 できて当たり前みたいな感じがあるんですよ。

栗城氏:
 だから公の場で語られることもなかったのですが……,CEDECに出てみると,どこの会社も規模の大小に関わらず,抱えていることとか,直面しているものは同じなんだというのが分かったのが,一番大きなところでした。

三宅氏:
 そうですね。問題意識を共有できるのがCEDECの良いところなんですよ。とくに,UIとかAIっていうのは,どっちかっていうと開発者同士が議論して,できるだけ自然になじませて,プレイヤーには自然に受け取ってもらうというものです。なので,専門家同士が意見を出し合ってこそ,初めて共有するべき課題や問題意識が浮かび上がってきます。
  そういう契機が,CEDECで今以上に創れるといいなと思います。そのためには,ただ一年間だけやっても駄目で,継続していかないといけないと思うんですよね。それで僕は4年間,毎年CEDECでの講演をやってきたんですが,やはり一人でやるのは大変なので,今回の公募でAIの分野で話してくれる人が,多く出てきてくれたらいいなと思ってます。AIはまだまだ講演が少ないので,ひとりでも多くの人に加わってもらって,いろいろな違うゲームのAI,いろいろな成果を出し合って,お互いの仕事をリスペクトしながら階段を上がっていく,というのが理想的ですね。
 海外のGDC(Game Developers Conference)講演を聞いていると,公開された他者からの情報を参考に,自分達のシステムを発展させたということが,次の情報として発表され,学会のように,お互いの仕事を参照し合いながら,一つずつステップを登って,その分野全体が業界で成長しているのが分かります。欧米では,AI分野もこの10年でそうやって発展してきました。

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栗城氏:
 私の場合,継続という意味では,ラウンドテーブルという体裁にしたことが,すごく有効だったなっていうのがあります。先ほどお話ししたように,事前準備を兼ねて,講演の当日にうまい具合にネタが広がって回るように,各社のいろいろな人にお声掛けして協力をお願いしたんですけど,具体的に一緒に何かをやったり,その場で議論を交わしたりすることによって,すごくつながりが深くなります。
 実は去年のCEDEC以降,私達のGUIについてのメーリングリスト,懇親会みたいなものを立ち上げまして,いまだに交流が続いているんですよ。数か月に一回くらいのペースで行っていまして,いろんなメニューに関わる濃い人が集まるんですよね。

三宅氏:
 それは良いですね。

栗城氏:
 話すこともメニューとかUIに関わることなので,あそこの減色数がどうのこうのとか,すごくマニアックな話で盛り上がるような会になりました(笑)。

4Gamer:
 どんな会話が展開されているのか,一度聞いてみたい気がします(笑)。

三宅氏:
 AIのメーリングリストって大体120名くらいいるんですけど,こっちは僕以外はあんまりしゃべらないんです。いろんな人が発言できる雰囲気を作って行きたいです……。

4Gamer:
 やっぱり会社の機密情報にも関わることもあるでしょうし,話しづらいのでは。

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三宅氏:
 うーん,社外のメーリングリストで,もちろん社内情報ではなく,一般的なゲームAIの議論をする場なのですが,それでも発言は少ないです。一方で,海外のゲームAIメーリングリストはとても活発ですね。日本では,CEDECなどの講演の公募に関しても,統計的にAI分野はとくに少ないと思います。
 これからはゲーム産業全体で「知識マネージメント」について真剣に考える必要があるはずですし。

4Gamer:
 と言いますと?

三宅氏:
 ちょっと前だと,社内の秘匿情報や情報漏洩に対するリスクといったことが問題としてありましたけど,今はもうひとつ大きなところで考えていかないと,そういったところで閉じてる時代じゃなくなっている気がするんです。国内同士で競争を頑張るのではなく,もっと海外との競争力を付けるために,国内で刺激しあわないと。
 もちろん情報は,機密にしなきゃいけないという部分があります。つまり,全部出すか,全部隠すかみたいな単純なレベルの議論をしている場合ではなくて,情報をある程度みんなで共有する部分,例えば10あるなら5の部分までを共有することで,日本のゲーム業界全体のレベルが底上げされて,個々の会社はその共有部分でレベルアップする。そして,各企業がその恩恵に預かりつつ,自社の技術を積み上げて,次の10分の5を開くといったムーブメントが作れれば良いと思います。個と全体の知識循環のなかで,個と全体が同時に成熟して行く,盛り上がって行く。それが今,日本のゲーム産業に必要な知識マネージメントだと考えています。

4Gamer:
 なるほど。

三宅氏:
 アメリカのGDC(Game Developers Conference)はそこがうまいんですよ。ここまで踏み込んで話してたけど,あとでよく考えると,“ここ”は話してくれていなかった,みたいな感じがあります。そうやって技術基盤が底上げされて行く中で,その上に立って各企業が新しい高みに登って行く。さらに,その一部が基盤の一部になり,また底が上がる。そして,さらにその上に――という感じです。そして,そういった基盤に学術研究者が入ってきて基礎付けを行い,産学の連携によって,学生の流入が促されるという仕組みです。
 日本にはそこの部分もありませんよね,だから外からは何をやっているのか分からない。結果として学術という方面からの参入も障壁が高くなってしまう。学生からも,よく僕のところに,現在のデジタルゲームのAIに関する質問メールがきます。
 実は知識と情報の流れこそが,産業全体と学術全体,そして学生全体と,さまざまな人を巻き込み,繋げて行く力があります。CEDECは,そういった流れを作っていく起点にもならなければいけません。

栗城氏:
 GDCの良いところって,失敗論や失敗例をガンガン出したりするじゃないですか。CEDECって,あまりそういうのがなくて,成功例だったり,こういういろいろな技術を頑張って開発しましたという内容だったので,私としては,こんな失敗をしちゃいましたくらいの例もあってもいいのかなと思います。

三宅氏:
 多くの開発者からそういう声があります。そういう失敗例と,そこからどううまくやったかのかという過程が,実は大切だったりするんですよね。

栗城氏:
 こうしたことで成功しましたという例を聞くよりも,これをやってしまったために失敗しましたというほうが,聴講者にはダイレクトに心に響いて,なるほどと受け止められやすい気がします。
 成功例を聞くと本当にそれでいけるのかな?って,懐疑的になってしまう人もいると思うんですが,失敗例はある意味分かりやすいじゃないですか。

三宅氏:
 実は,産業全体に大切なのは領域全体がどうなのか,ということなんですよ。
 例えばAI分野の成功例があったとして,その成功例のなかにも落とし穴が潜んでいます。多くの人が成功例と失敗例を出しておけば,ゲームAIという分野の全体像が見えてきます。そうすれば,遠い向こうの成功例を目指す場合に,事前にどういう落とし穴があるのかが自ずと見える。失敗例と成功例を知っておいて,どういった開発経路を辿ればどんな危険と報酬のトレードオフがあるのかが分かるわけです。成功例と失敗例の蓄積は,そうやって技術に挑戦しようとする者の良き地図になります。成功例だけを知って,それを目指して進んでいると,ズブズブと落とし穴にはまる可能性がある。

栗城氏:
 うまくいかないときにどうするか……ですよね。

三宅氏:
 だから成功例ばかりじゃなくて失敗例も多いほうが良いでしょう。そういった意味では,僕もきちんと失敗例を伝えてはいなかったですね。それとCEDECでは,必ずしもレベルというものを気にしないほうが良いと思います。

4Gamer:
 それはどうしてですか?

三宅氏:
 CEDECでの情報は,そのゲームをどのように開発して,何が問題となって,どう解決したか,ということ自体に価値があると思います。開発の規模に応じてできることは違いますし,また聴講者の方もさまざまな開発環境にある方々なので,どんな開発事例でも,共感を産む「種」があると思います。
 あるいは,こういう課題/問題点がある,という指針を示すだけでも価値があります。カンファレンスですから,そこから議論などで蓄積を積み上げて行くことは大事です。実はそういった課題や問題は,ゲーム業界に関わろうとする研究者の方にも重要な情報となります。

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栗城氏:
 ラウンドテーブルをやったときに,反響が一番大きかったのは,ラウンドテーブルのなかでグチのように出てきた,“メニューのデザイナーとしてのキャリアプランをどう考えますか?”だったんですよ。
 みんなが不安に思っていることに関して共感されたみたいで,ポロっと話した今後の個々の展望や,次につなげる部分,失敗例,ちょっと出たグチ,本音といったものが何かしらスッとみんなの中に入っていくんだなと思いましたね。


三宅氏:
 キャリアプランの話とかは,結論は出ないですよね。

栗城氏:
 ええ,出ないですね。ただ,考えていくことで,モチベーションにつながる部分はあるかなという気はします。

三宅氏:
 そこは,課題ですよね。ベテランから若手まで協力して作らなければいけないところです。

栗城氏:
 UIデザイナーって,新人さんが回されることが多いし,縁の下の力持ちだから目立ちません。その中でやっていく意義というのはなんなの,という話になるんです。

三宅氏:
 やっていくというのは?

栗城氏:
 UIを突き詰めるのは,どれくらいのメリットがあるのか? といったところですね。なんとなくやらされていると感じているデザイナーさんが,意外といるんじゃないかな,と思います

三宅氏:
 なるほど。UIのデザイナーってほかと兼任ですか? それとも専門?

栗城氏:
 どちらも混ざっていますね。未発達な部分があるジャンルだと思います。専門の人に関しては,一番プレイヤーが触る部分なので重要だと,ほとんどのデザイナーさんが思っていて,追求していますが,流れで兼任として振られることもありますから。
 これって,ファミコンやドット絵の時代にあった,デザイナーやドッターがついでにメニューも作るという歴史からきてるんだと思います。
 ですが,HD世代機の時代においては,突き詰めて考えねばならないと思います。家電のUIやWebのインタフェースよりも,ゲームのUIは遅れていると感じます。感じてはいるのですが,それを内に溜めている人が多いんですよ。語られてもいないし,社内の中でも数人しか専任がいないので,切磋琢磨できないんです。

三宅氏:
 そうですね。社内で話すのと,社外で話すのではどういう違いがあります?

栗城氏:
 実は,違いってほとんどないんですね。それぞれの社内の問題はあるかもしれませんが,本質は変わらなかったという感じがします。

三宅氏:
 他社の人と話すことで業界全体の問題という意識が生まれますね。

栗城氏:
 ええ。なので,CEDECといった公の場で,ニッチな話題をもってくるというのは自分の専門分野を世の中に認知してもらえるチャンスだと思います。

三宅氏:
 世の中に認知してもらえるのはチャンスですよね。CEDECはいろいろな人が来るし,メディアも来るので情報発信として専門外の人にもアピールできる。そうするとUIも専門分野なんだという認識を世の中やゲーム業界に発信できる良さがある。

栗城氏:
 ありますね。それと,ぜひ学生さんに見てほしいです。学生さんはメニュー分野なんて存在は,知らない思うんですよ。結局,UIって何してるのって思ってる。Webとかは認知されているし,なんとなく将来の方向や職業があると分かるでしょうけど,学生さんでゲームでキャラデザインがしたいです,とかいう人がいたとしてもメニューをやりたいという人はゼロに近いと思うんですよね。なので認知度を上げて新人発掘というところも,CEDECを通じてやっていきたいのが野望としてあります。

画像集#010のサムネイル/CEDECで講演する意義とは? 「CEDEC 2009」で講演した二人の対談から見える日本に必要なカンファレンスの形
三宅氏:
 そのためにも,どういう人が作っているんだというアピールをして,こういう思いなんだ,責任感なんだということを,ぜひ伝えたいですね。そうすれば,これを専門職にしよう,専門職と認めようという動きも出てきます。
  実は,日本にAIプログラマーという職種はありません。アメリカにも最初はなかったんです。しかし,ずっとGDCや人工知能の学会を通して,10年くらい,AI技術分野の会議が積み重ねられていました。その後,IGDAのAI専門部会やAIプログラマーズ・ギルドというものが作られました。その中で,プログラマーから大学の先生になった人や,専門職のAIプログラマとして活躍する人が出てきて,ゲームAIもCGやサウンドのように,一つの独立した専門分野であることを成果と内容をもって示してきました。こうした積み重ねの結果で,海外ではAIプログラマという職種ができて,求人も生まれています。

4Gamer:
 そういうニーズがちゃんとあるんですね。

三宅氏:
 そうです。AIって話さないと分からない分野なので,CEDECなどで話すことで,開発者とユーザーに,このゲームが良いのは,このAIが良いからだとアピールできます。例えば障害物のあるマップで,端から端までAIが自由に移動できる,これってわりと当たり前だと思われるかもしれないことですけれど,ゲームAIでは実はこれが一番難しいことだったりするんです。そういったことをAIの専門外の人や技術以外の人に認知してもらって,AIが持つ可能性をアピールするのが,CEDECで話す意味だと思うんですよね。

4Gamer:
 「ゲームのAI」と言うときに,すでに何かの偏見は入っているんですね。

三宅氏:
 今は,AIはここまでだと思われることに縛られているんです。だから,そういった制限の中のAIでしかゲームを作らないわけです。その結果,やっぱりAIはここまでだと思われる。その繰り返しですね。そういったデッドロックからゲームを解き放つために,AIの可能性を多くの人に示さないといけません。そういった可能性を示すことは,ゲームデザイナーと技術者,双方にとって,そしてデジタルゲームの発展のために決して欠かすことのできない重要なことです。

栗城氏:
 いまだとレベルデザインが注目されているじゃないですか。それだけではなく,AIなりUIなり,見えない部分でどうゲームを構築していくのかにも注目してほしいですね。

三宅氏:
 そういったことの積み重ねは大切です。すばらしい成果があったから発表するのではなく,自分では当たり前だと思っていても,とりあえずここまでできました,という話が相手にとって大切だったりするんですよ。
 業界全体の問題としての認識,共有,議論,こういうものの積み重ねで,AIもUIも,欧米と日本のレベル,その中での自分のレベルが分かるし,日本のレベルの全体像が分かります。そうすれば,次はここを目指そうとなる。できあがったゲームだけ見ていると,制作工程といった玄人的な部分はわからない。だからこそCEDECでは,そういう部分を開いてみせないといけません。そのためにあるのがCEDECと言ってもいいかも。

栗城氏:
 私自身はCEDECで,大して情報を発信できていませんが,自分の分野を出してみると広がりやすいと感じていて,ラウンドテーブルをやったことに意義はあったと思います。個人的にデザイナー寄りのセッションがもっと増えて欲しいですね。来られる人も,発信される人も技術よりの人が多いので,そういう要素がほしいですね。

三宅氏:
 ちなみに,デザインは普段どういう勉強をしているんですか? 勉強会を開いたり?

栗城氏:
 セクションによりけりですが,勉強会という感じではないですね。社内での情報共有が重要だと思うので,UIセクションでは専用の交流会を立ち上げてます。例えばそれぞれのツールの情報交換だとか,CEDECの簡易版みたいなものを社内で行って,交流することを積極的にやっていますね。ただ,ほかでそこまでやっているところはないかもしれません。あとは他社さんのゲームだとかをいろいろ見て研究というのが多い気がします。

三宅氏:
 なるほど。僕も社内で毎週一回,ゲームAIのセミナーをやっていて,合わせるとこの4年間で170回以上セミナーをやっています。
 ゲームを作るために必要な情報は,増えていると思います。そのため,個人で抱えるのはもう限界で,組織や部署単位で整理していかなければなりません。CEDECは,そういう業界内の情報整理の場としても機能すると思うんです。
 そして,社内で情報を集めて外に出してみると,それらの情報が本当に新しいのかが見えてきます。そうして周囲に影響を与えて業界全体が活性化する。そういった意味で,ある程度の情報開示は必要かなと感じています。

栗城氏:
 意外と,そういった情報共有は社内でも出来ていないパターンが多いですよね。CEDEC向けに準備するに当たって,シミュレートをするために社内で同じ尺のラウンドテーブルを開催したんですよ。そうすると,むしろ社内でも解決すべき問題が出てきました。「CEDECはちょっと……」と思ったら,試しに社内でシミュレートしてみればと思います。
 
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