業界動向
オンラインゲームの次なる市場は? 経済産業省による米,中,印のオンラインゲーム市場レポート
これは,経済産業省関東経済産業局が主催するPCオンラインゲーム業界向けのイベントで,海外のオンラインゲーム市場の報告や,海外企業とのビジネスマッチングを行うことによって,日本のオンラインゲーム企業の海外進出を支援/促進していこうというものだ。
今回のイベントでは,日本オンラインゲーム協会(以下,JOGA)の川口洋司氏や日本貿易振興機構(以下,JETRO)の中澤義晴氏,そしてインドのソフト開発会社ソフトブリッジソリューションズジャパンのプラシャント・ジェイン氏らが登壇。北米,中国,インドのオンラインゲーム市場についての報告を行った。
なかでも,インドのオンラインゲーム市場についての報告は,なかなかに興味深い話であった。インドといえば,IT関連産業などを中心に,昨今,急速な経済発展を見せているアジアの大国だ。人口の多さなど潜在的なポテンシャルの高さから,その市場は,中国に次いで将来が有望視されているわけだが,裕福になれば娯楽にも目が向くのが人の常。インド市場は,ゲーム産業の次なる開拓地としても,多くの企業が注目している。そんなインドの状況,とくにゲーム関連産業は,現在どういう状況なのだろうか? ともあれ,本イベントの内容を順を追って紹介していこう。
中澤義晴氏は,まずJETROがChinaJoy 2008にて開催したゲーム業界交流会などの経緯を話しながら,「中国のインターネットユーザーは,約2億5300万人。ゲームユーザーは,1億4700万人ほど」と,中国市場の近況を報告。その市場規模は128億元(約1920億円)に達したとして,市場は順調に拡大しているという見解を示した。
ちなみに以前報告されていた2006年のデータ(ソース元は同じ)では,インターネットユーザーが1億3700万人と報告されていたのを記憶している。つまりは,インターネットユーザーそのものの数が,2年も経たないうちに2倍に近い大幅な伸びを示したことになるわけだ。さらにi-Reseach社という調査会社の予測では,中国のゲーム市場は,このまま平均20%程度の成長を続け,2011年には,400億元(約6000億円)の市場に成長する見込みなのだいう。
まぁ,この手の調査会社やシンクタンクの見込みというのは,往々にして大きな数値を出しがちであるし,ある程度の市場規模になったら,流石に成長は鈍化するんじゃないか? など,いろいろと疑問も残るところだが,少なくともここ数年は,ほぼ予想通りに,あるいは予想以上に高い水準で成長していることは確かなようだ。
川口氏がまず示したのは,北米におけるPCオンラインゲームプレイヤーの数を表した資料である。これによると,北米のPCオンラインゲーマーの数は,累計アカウントベースで約7000〜8000万人。これは,先頃JOGAが出した日本市場の調査報告書における約6000万人に近い数値であり,川口氏は,「日本のPCオンラインゲーム市場の規模感と大差がないのではないか」と語る。
北米のオンラインゲーム業界というのは,10年以上前は「Ultima Online」や「EverQuest」,「Diablo」などをはじめとして,世界の最先端を行っている印象が強くあったのだが,コンソール市場の成長(それに伴うPCゲーム市場の縮小)の影に隠れたのか,ここ数年はあまり話題を聞かなくなってしまった感がある。まぁ,北米自体の市場規模はともかく,Blizzard Entertainment社の「World of Warcraft」が世界のオンラインゲーム市場を席巻しているという意味では,なんだかんだで「北米が最先端のまま」と言えなくもないかもしれないが。
川口氏は,ほかにもネクソンの「メイプルストーリー」が米国だけで300万人と大きな人気を収めていること,アジア市場とは異なり「アイテム課金モデル」がほとんど浸透していないこと(メイプルは例外だ)などを挙げながら,「北米の人口は3億人を超えます。そういう意味でも,日本市場より伸びしろが大きいのではないか」と,北米のPCオンラインゲーム市場がまだまだ未開拓の市場であるとの見解を示し,報告を締めくくった。
曰く,「インドは,まったく異なる民族や文化を複数内包する国家であり,体制としてはアメリカよりEUに近い」「携帯電話の利用者は,2.2億人。さらに加入者は,毎月500万人を超える勢いで増えている」「インターネットユーザーの数は3200万人ほどとまだ少ないが,都市部を中心に急激に増えている」などなど。携帯電話の新規加入者数が“毎月500万人以上”というのは,まさに新興市場ならではの勢いを感じさせる話だと思うが,ゲームをはじめとしたコンテンツ市場に関しては,まだまだ小さいのが現状だとジェイン氏は語る。
ジェイン氏は,今後急成長が見込める“コンテンツ”に注目していると自身の見解を披露しつつ,インドのゲーム市場について話を進めた。氏の話によると,インドのゲーム産業はPCオンラインゲームを中心にして立ち上がりつつあり,その発展の流れは,韓国のオンラインゲーム産業のそれに近いのだという。
韓国においては,「PC房」と呼ばれるネットカフェをベースにインターネットが普及,「Starcraft」や「Lineage」といったキラータイトルの登場によって爆発的にオンラインゲーム(とインターネット)が広まっていった……という歴史があるが,インドのオンラインゲームも,同じくネットカフェ(インドではサイバーカフェという)がオンラインゲームの普及に大きく寄与しているらしい。
インドにおけるサイバーカフェの店舗数は,2006年の時点で約14万店。大都市であれば「通りという通りに1店舗ずつはある」とのことで,その人気ぶりはかなりのもののようだ。サイバーカフェの大多数は,PC10台以下の中小規模店舗らしいが,そこもまた,韓国におけるインターネット/オンラインゲームの発展の歴史と酷似している。韓国の歴史から推察すると,近い将来にネットカフェの淘汰の時代が訪れるはず(韓国では,大手資本による大規模ネットカフェ経営に主軸が移っていった)なのだが,聞くところによると,すでにそういう動きも現れており,コンテンツホルダーがサイバーカフェごと建設して,自社のタイトルが遊べる環境を作りつつあるのだという。
ちなみに韓国においては,先ほども述べたとおり,Starcraftなどといったコンテンツが大流行したわけだが,インドでは,「World of Warcraft」や「Counter-Strike」,あるいは「Ragnarok Online」などが人気の模様。ただ現在のインドにおけるゲームのプレイヤー層は,英語が堪能ないわゆる知識階級の人間が中心のようで,好まれるゲームの多くは,北米産のPCゲームなのだという話であった。
ジェイン氏の公開した資料の中には,「Age of Empires II」や「Max Payne」などといったちょっと古めのタイトルの名も記されており,どうも最新のゲーム産業からすると,5〜10年以上は昔のゲームがまだ現役? といった印象だ。インドでは,高性能なPCや高速な回線などといったインフラが整備されておらず,とくに家庭への高性能PCの普及は,まだまだこれからとの話。少なくとも今後数年は,以前の中国がそうであったように,インドで展開するゲームは「むしろ古いタイトルのほうが有利」ということになるのかもしれない。
ともあれ,ジェイン氏の話によれば,現在のインドのオンラインゲーム,およびインターネットコンテンツ産業の市場規模はまだ非常に小さいのが実情で,優秀な若者もあまり注目してなければ,大企業よる資本流入も少なめだとの話であった。しかし,氏は「インドのゲーム産業は,まだ産声をあげたばかりの赤ちゃんのような状態。だが,だからこそ参入する価値があるのではないか」として,日本企業のインド市場参入を期待する旨を語りながら,講演を締めくくった。
会場には,各オンラインゲーム会社のビジネス担当やら社長やらの顔ぶれが目に付いたわけだが,いずれもインド市場に関しては,少なからず興味を惹かれていた様子。ただ筆者の感覚では,以前同じように注目された中国市場が,いろいろな事情により思ったような成果を上げられなかったこともあり,流石にやや慎重に行動する企業が多くなりそうな雰囲気。ただ,新興市場を開拓する可能性それ自体は非常に高いものがあるだろうし,何かしらチャンスを見つけていってほしいとは思う次第である。
いずれにせよ,まずは世界のオンラインゲーム市場の報告がメインとなった,この「オンラインゲーム輸出ワーキンググループ」。主催者によれば,今回のイベントを皮切りに,海外企業を招聘しての企業プレゼンテーションおよび情報交流会を,東京ゲームショウに合わせた10月に,企業マッチングの成果報告会を2009年2月に開催する予定だとのこと。国産オンラインゲームの可能性を広げる意味でも,今後の活動に期待したい。
■関連サイト
経済産業省関東経済産業局
http://www.kanto.meti.go.jp/
日本オンラインゲーム協会
http://www.japanonlinegame.org/
日本貿易振興機構
http://www.jetro.go.jp/indexj.html
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