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テクノロジの未来を担う日本代表の学生チームが決定。マイクロソフト主催のITコンテスト「Imagine Cup 2013」日本大会の模様をレポート
このImagine Cupは,テクノロジを使って未来を創造する世界の学生達を支援するために行われるMicrosoft主催の大会で,180以上の国と地域から35万人以上の学生たちが参加する世界最大級のITコンテストだ。
今年の日本大会では,「ゲーム」「イノベーション」「ワールド シチズンシップ」の3つのカテゴリを選んで出場する競技部門と,日本独自のコンテスト「Windows 8 チャレンジ部門」が実施。全国の専門学校などから参加したチームが,Microsoftの技術を使った作品のプレゼンを行い,IT業界で著名な5名の審査員によって,その優勝者が決定されるというルールだ。そのうち,競技部門で最優秀賞を獲得したチームには,賞金30万円が贈られるほか,今年7月にロシアのサンクトペテルブルグで開催される世界大会への出場権が与えられる。
まずはImagine Cup競技部門のファイナリストによるプレゼンテーションが行われた。今回ファイナリストに残った6チームのうち,4チームがゲームカテゴリ,2チームがイノベーションカテゴリからのエントリーとなっている。各チームが20分のプレゼンと5分のQ&Aを行い,ゲームでは娯楽性・革新性・品質・ビジネス実現性・プレゼンテーションの5項目を,イノベーションでは革新性・影響力・品質・プレゼンテーションの4項目を審査基準とし,その中で総合評価が高かったチームが最優秀賞の栄誉に輝くことになる。
最初のエントリー,HAL東京のチームNFKeyの作品は,チーム名と同じ「NFKey(ナビゲーション・フォロー・キー)」。これは,2年前の東日本大震災のような大きな災害や事故などが起きたあとの被災車両を処理するためのソリューションで,NFC(近距離無線通信技術)端末とWindows8タブレットを使ったICカードキーの提案となっている。車にNFCリーダーを設置し,車の持ち主が持つユーザーキーと,事故処理を行う災害救助団体などが使用するマスターキーを用意することで,災害時の車の移動と持ち主への連絡が速やかに行えるというものだ。また,このNFKeyを次世代カーシェアリングシステムと連動し,利用者がスマートフォンでのドアキーの管理などを可能とするビジネスモデルも提案されていた。
続いてはトライデントコンピュータ専門学校より,チームClear Voiceがゲーム「Pafffy(パッフィー)」を発表。Windows 8/RTで利用できるWindows Storeアプリで,シルエットのような2Dグラフィックスで表現されたキャラクターのパッフィーを,はぐれてしまった母親のもとに帰れるように,声とタッチで導いてあげるというアクションゲームだ。プレイヤーが大声を出して遊ぶことによりスカっとできるというのがポイントで,とくに小学生以下の子供達にワイワイと楽しんでもらえるよう,キャラクターを可愛くデザインしたり,操作も声,タッチ,フリックのみのシンプルで分かりやすいものにしてあるのだという。今後は,ソーシャル機能の実装や,音声認識による言葉での操作などを目標としているとのことだった。
次の太田情報商科専門学校のチームKRADの作品は,Kinectを使用したレースゲーム「トイチェッカー」だ。おもちゃが並べられた部屋の中のコースを,性能が異なる4種類のおもちゃの車が走るという内容で,カーブを曲がる時に体を傾けたり,左右に広げた手をバタバタさせる“ジタバタアクション”で,ふとんの上などの走りにくい場所を抜け出したりといった具合に操作する。またプレイヤーの頭の上にある風船の空気を噴射しての加速や,逆に膨らませた状態でジャンプ台で大ジャンプをするなどの駆け引き要素も用意されていた。ちなみにトイチェッカーは,レースゲームをプレイ中についつい体を動かして操作してしまう現象を生かすべく,体感型の操作が採用されたのだという。
4番目のエントリーである,学校法人・専門学校HAL大阪のチームでやんぞの作品は,こちらもKinectを使ったゲーム「ぬけがみ」だ。一風変わったタイトルの本作は,内容もシンプルながらかなり変わっている。画面には地面や岩場などが見えるサイドビューの暗い世界が映し出されているが,Kinectを通してプレイヤーのシルエットが映った場所は,光の当たった明るい世界になる。この裏と表の世界の地形は少し違っているので,プレイヤーは体を動かしてうまく道を作り,画面を歩き回る天使をゴールまで導いてあげるのだ。本人だけでなく,周りで見ている人も一緒に楽しめるゲームになっているとアピールされていたほか,誘導する天使が複数出現するモードや2人同時プレイモード,ステージの作成・投稿機能,クリアタイムランキングなどの実装も考えているとのことだった。
続くエントリーは学校法人・専門学校HAL名古屋のチームflower_shooter。作品は,楽しみながら自然の美しさや大切さを体感できるというアクションゲーム「Enchant Flower」だ。鳥に乗って空を飛ぶ,緑を愛する妖精の女の子が,枯れた島を甦らせるというストーリーで,3Dで描かれた島の上を飛行し,魔法の力で草花を咲かせていくという内容だ。画面全体に草花を表示させるとゲームの動作が遅くなってしまうので,画面に映らない物体は計算しないようにしたり,花や草木のアニメーションもモデルの仕組みを使い分けるなど,技術的な苦労があったとのことだった。
競技部門最後のエントリーは,京都コンピュータ学院のチームProject Nによる,「Knowall Library 5.0」。こちらは汎用ゲームフレームワークライブラリで,シューティングゲームやアクションゲームなど6種類のゲームをプログラマーがいなくても作れるというものだ。マウスの簡単な操作で2Dや3Dのゲームを作れるほか,グラフィックスのシェーディングエフェクトや物理演算エンジンなども搭載する。さらに,マイクロソフトのVisual Studio 2010とXNAのみで動かすことができ,初心者でも比較的扱いやすい環境でゲームを作れるとも謳われている。タイトルの5.0はバージョンを表していて,チームの米山さんが中学生の頃から1人で7年以上もかけて作り上げてきたのだそうだ。現在は6.0も開発中で,こちらはマルチプラットフォームに対応させたいとのこと。
休憩を挟んで,次はWindows 8チャレンジ部門のプレゼンが行われた。こちらは5分間のプレゼンと5分間のQ&Aにて行われ,ビジネス実現性・ユーザシナリオとデザイン・Windows 8の機能,革新性・プレゼンテーションの6項目の審査員による審査のほか,会場の来場者の投票も審査にカウントされるというルールだ。その様子は写真でお伝えしていこう。
すべてのプレゼンが終了し,厳正な審査の結果,両部門の最優秀賞が決定した。Windows 8チャレンジ部門の最優秀賞は,木更津工業高等専門学校のチーム青リンゴの「New War's」。彼らにはMicrosoftの最新タブレットPC,Surfaceが贈られた。
そして競技部門の最優秀賞は,京都コンピュータ学院のチームProject Nの「Knowall Library 5.0」に決定。作品の完成度はもちろん,熱意を持って開発を続けてきて,さらにその先も見据えている点が高く評価され,これまでの世界大会でも類を見なかった新しいツールではないかと,審査員の加治佐氏は語っている。
チーム青リンゴの江澤拓哉さん(写真中央)と佐藤 陸(写真右)さん。左は審査員の矢野りん氏 |
Project Nの米山哲平さん(写真右)と,チェスター・リーさん。今回の作品は米山さんが作り上げたもので,リーさんは米山さんの作品のプレゼンテーションを行う広報役として意気投合し,チームを組んだとのことだ |
表彰式の終了後,最優秀チームと審査員の池尻大作氏にコメントをいただいたので,最後にそちらをお届けしよう。
「今回のエントリーは学校の卒業発表会がきっかけで,この大会とタイミングがうまく重なったので応募しました。これまで作ってきた間に,いくつかのコンテストには出してきたのですが,そのときはエディタではなく,ライブラリだけでしたので,入賞どまりでした。その後,卒業研究として,エディタとして完成させたものを今回出展させていただきました。
学校でさまざまなプロジェクトに参加させていただいたことで,自由な時間がなくなったかわりに,実のあるものを得ることができました。また先生方のサポートや,(相棒のリーさんを指して)彼のような良い友達もできたのがよかったですね。
大会では,10年後の会社の起業を見据えて名前が残るよう,いいところまで行きたいです。賞金の使い道ですか? 相棒と山分けしますが,僕はフィギュアケースを買いたいですね(笑)」(Project Nチームリーダー米山哲平さん)
「若い方が企画したゲームを発表する場に立ち会えたのはすごく嬉しかったです。審査員としてこういう場に呼ばれるのも初めてでしたからね。
:セガやSCEで多くの作品に携わり,昨年フィラメントを設立した池尻氏。未来のクリエイターたちを温かい目で見守った
今回の出展作品については,最優秀賞の「Knowall Library 5.0」が,作品にかけた期間や彼らの情熱などから,完成度という意味では1つ抜きん出ていたんですが,そのほかではKinectを使った「ぬけがみ」が面白かったですね。“動的コリジョン”というすごく分かりやすいテーマで,解き方がいくつかあるというのも,ゲームとして良くできていました。共感できる絵が描けるデザイナーなどを呼んで,これからさらにブラッシュアップしていけば,実際にリリースできるものに仕上がるのではないでしょうか。
たくさんの応募の中から厳選されただけあって,どの作品もクオリティが高く,良くまとまっていました。すべてにおいて,新しくて分かりやすいものを打ち出そうという気持ちが伝わってきましたね。その反面,実際に触ってみたら思うように動かなかったりすると,そのギャップが大きくなってしまうので注意しなければなりませんが,とにかく1本でも作って見てもらうことで,そこに気付けると思うんですよね。我々の業界でもフィードバックはすごく大事で,今回はそれぞれのチームがお互いのゲームを触って意見交換などもしたそうで,それはすごくプラスになったのではないかと思います。参加された皆さんは,誰かに見てもらうという感触が気持ちよくなって,また出たいと思ってくれるといいですね。
作っている自分たちだけで楽しむのでなく,人の目に触れられるものを作ることは本当に大変なことなんですが,人に揉まれてグッとよくなることは多いですから,これからクリエイターを目指そうと考えているみなさんは,この大会に限らず,そして日本に留まらず,いろんなチャンスがあるいい時代ですので,ぜひチャレンジをしてみてほしいですね」(池尻氏)
「Imagine Cup」公式サイト
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