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PlayStationというブランドの持つ意味を“ハードウェア”から“体験”に変えていきたい――SCEの新社長アンドリュー・ハウス氏が語るPlayStationビジネスの未来
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印刷2011/12/17 00:00

インタビュー

PlayStationというブランドの持つ意味を“ハードウェア”から“体験”に変えていきたい――SCEの新社長アンドリュー・ハウス氏が語るPlayStationビジネスの未来

 2011年12月15日(木),9月付けでSCEの代表取締役社長兼グループCEOに就任したアンドリュー・ハウス氏を中心としたラウンドテーブルが開催された。集められたのは,国内メディア各紙の取材陣。ラウンドテーブルは,ソニー本社の会議室にて行われ,ハウス氏の簡単な自己紹介から始まって,PlayStationプラットフォームについてのプレゼンテーション,そして最後に記者からの質疑応答という形で行われた。

 先にハウス氏の経歴を紹介しておくと,氏は1990年にソニーに入社し,1995年からはSCEに移籍。主にマーケティング方面での実績を積みながら,PlayStationビジネスの拡大に従事してきた人物である。2011年9月に,平井一夫氏の後任として,SCEの新たな代表取締役社長兼グループCEOに就任し,PlayStationプラットフォーム全般を統括する立場になっている。
 北米,欧州,そして日本と,世界の各地域でゲームビジネスに携わってきたハウス氏は,現状のゲーム市場をどう捉え,PlayStationプラットフォームをどこに導こうとしているのだろうか。本稿では,ラウンドテーブル後半で行われた質疑応答を中心に,PlayStation Vitaの今後,ひいてはPlayStationビジネスのあり方についてが語られた,ハウス氏の発言をまとめていきたい。

画像集#003のサムネイル/PlayStationというブランドの持つ意味を“ハードウェア”から“体験”に変えていきたい――SCEの新社長アンドリュー・ハウス氏が語るPlayStationビジネスの未来

 ラウンドテーブルは,まずハウス氏の簡単な自己紹介から始まって,PlayStationプラットフォームの現状についてのプレゼンが行われた。そこでは,現時点でのハードウェア累計売上台数は,PlayStation 3が5550万台以上,PlayStation Portableが7310万台以上にものぼっていることが報告され,とくにPlayStation 3がプラットフォームとして収穫期を迎えており,さらに盛り上げていく意思があることが強調された。
 また昨今,ネットワークインフラの整備が進み,人々のライフスタイルが変化したことによって,モバイル機器を使ったより品質の高いゲーム体験へのニーズが高まってきたとして,その期待に応えるデバイスがPlayStation Vitaである続ける。

 一通りのプレゼンが終わると,時を置かずに質疑応答が行われた。ここで大きなトピックスとなったのは,やはり日本市場と海外市場の違いや,昨今大きなムーブメントとなっているスマートフォン/ソーシャルゲームをどう捉えているのかという点だ。ハウス氏の発言をピックアップしながら,その真意を探っていこう。

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海外戦略を意識しての人事ではない?


――前任の平井氏から,ハウス氏へと変わった意味はなんですか

 ご存じのように,平井は今年(2011年)の4月から,より大きな責任を負う立場となりました。一方で,SCEという組織にフォーカスして管理する役割が別途必要ではないかという話になりまして。光栄にも私が「やってくれないか」というお話を頂くことになりました。

――海外市場を意識しての人事,というわけではないのでしょうか

画像集#012のサムネイル/PlayStationというブランドの持つ意味を“ハードウェア”から“体験”に変えていきたい――SCEの新社長アンドリュー・ハウス氏が語るPlayStationビジネスの未来
 そういうわけではないと思います。ただ,私は幸いにも,北米,ヨーロッパ,そして日本と三つの市場において,PlayStationビジネスの立ち上げと拡大に従事してきましたし,その意味でも,なんらかの貢献をしていければと考えております。
 また,ソニーグループの中のSCEの役割として,よりコンバージョン(転移,横軸連携)していく戦略が求められていくと思っています。以前,私はソニー本社でCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を務めた事もあり,ソニー内部での人脈もあります。親会社との連携を強化しながら,SCEという会社が,よりソニーグループに貢献できるように頑張っていきたいと考えています。

――社長に就任したことを受けて,SCEをどう変えていきたいと考えていますか

 ソニーグループ全体として見れば,SCEはソニーの中でのスタートアップ的なポジションだったと思います。それが複数の地域にまたがるグローバルなビジネスに成長して,今があります。これはSCEの体制の話になるのですが,これまでマーケティングやデベロップなど,各地域での戦略はその地域毎に任せるという形を取っていました。私としては,そこをもう少し組織的に,当社(SCE)がグローバルな視点で各地域をコーディネートしていくような形にしていきたいと考えています。
 また,当初は小さい規模だったSCEも,今や大きな規模の会社になっていますし,昔は自然に出来ていた共通認識であったり意思疎通が困難になってきているという課題があります。PlayStationの意味,あるいはその定義をもう一度整理し,その価値を再確認していきたいですね。

――たびたび噂になっているPlayStation 4の開発については実際どうなっているのですか

 ご想像のとおり,現時点で私が言えることは何もありません(笑)。ただ,現行のPlayStation 3は発売からもうすぐ6年が経ちますが,つい先日「Call of Duty: Modern Warfare 3」が15日間で10億ドルを売り上げたという話もあったように,PlayStation 3は今がまさに収穫期であり,一番素晴らしいゲームが登場する,パブリッシャーさんにとっても利益を稼げる段階だと考えております。ですので,今は次の製品の話をする段階ではないと思っております。

――PS3が発売から5〜6年経って,収穫期に入ったという発言がありましたが,PS3の寿命はどの程度だと考えているのですか

 私の口からの明言はここでは避けさせて頂きたいのですが,経験則からいって,PlayStation 2を越えるようなライフサイクルを期待したいですね。


対スマートフォン,対ソーシャルゲームについて


 近年,ゲーム市場を語るうえで,もはや無視できないのがソーシャルゲーム市場についてだ。日本ではGREEやDeNA,北米ではZyngaなどが急成長を遂げ,今や一大産業と呼べるほどにまでなった昨今だが,一方で,トラディショナルなゲーム産業の雄たるソニーは,そのことをどう受け止めているのだろう。
 結論から先に述べれば,ハウス氏は「ソーシャルゲームは脅威ではない」と考えているようだ。もちろん,ポジショントークである,と言ってしまえばそれまでなのだが,氏の語る説明に一定の説得力があったことも確かで,PlayStationプラットフォームの今後を占う意味でも,とても興味深い。

画像集#006のサムネイル/PlayStationというブランドの持つ意味を“ハードウェア”から“体験”に変えていきたい――SCEの新社長アンドリュー・ハウス氏が語るPlayStationビジネスの未来


――昨今は,スマートフォン用のゲームやソーシャルゲームなどが人気を博していますが,そういった競合に対して,今後どのような戦略を取るのでしょうか?

 カジュアルなゲームを中心としたユーザーベースに対しては,我々が推進しているPlayStation Suite(※)が戦略的に大きな意味をもっていくと考えています。とくに昨今は,ユーザーごとにゲームに対する受け止め方や接し方が異なってきていますし,カジュアルにゲームを遊ぶ方が増えてきたのも事実です。
 しかし,カジュアルなゲームを遊ぶユーザーさんがたくさんいる一方で,より質の高いゲーム体験を望むユーザーも少なくないと思います。そうしたニーズに対して,すでに持っているデバイス(スマートフォンやタブレット)で一段高いゲーム体験を提供するのが,PlayStation Suiteという取り組みです。
 もちろん,コアゲーマーにとってはPS Vitaが一番良い選択になると思いますが,カジュアルなゲームでまずはPlayStationプラットフォームの良さを理解してもらって,段階的にゲーム専用機に移行してもらうという構想です。

※Android OS搭載端末やPlayStation Vita上で動作するプラットフォーム。将来的にはPlayStation 3にも対応予定で,複数のデバイスにまたがった横断的なゲームプラットフォームが志向されている

―――国内であればMobageやGREEが,海外ではFacebook上で動くソーシャルゲームが急成長していますが,そういった勢力は脅威とはならないのでしょうか

画像集#005のサムネイル/PlayStationというブランドの持つ意味を“ハードウェア”から“体験”に変えていきたい――SCEの新社長アンドリュー・ハウス氏が語るPlayStationビジネスの未来
 それらはもともと我々がリーチできていないユーザーを獲得しているサービスだと考えています。ですから,競合性がそうあるわけではなく,共存できるのではないでしょうか。先ほども申しあげた通り,カジュアルなゲームから入って,より高度なゲームへという流れを考えると,相互補完とさえ言えます。
 加えて,ゲーム専用機には十分な市場(ニーズ)があると思います。PlayStation Portableは今でも売れていますし,他社の事例でとても恐縮なのですが,つい先日の米国のブラックフライデーでは,ニンテンドー3DSがかなりの勢いで売れていました。これは,ゲーム専用の携帯デバイスにニーズがある,という一つの証明になっているのではないでしょうか。
 近年は,ネットワークのインフラが普及した結果,ネットワーク機能やソーシャル性を備えた,より優れたゲーム機が求められるようになりました。そして,そうしたニーズに応えるデバイスがPS Vitaというわけです。
 ゲーム専用機,携帯ゲーム機のポジショニングについての議論は尽きませんが,誰も体験したことのないような,素晴らしいゲーム体験を得られる製品でさえあれば,ゲーム専用機は売れる商品だと思っています。

―――つまり,ソーシャルゲームは脅威ではないということですか?

 そうですね。それに私は,ソーシャルゲームについて注意すべき点は,むしろビジネスモデルの方にあると考えています。我々も,Sony Online Entertainmentという会社でさまざまなオンラインゲームを運営してきましたが,PCオンラインゲーム市場の多くは,フリーミアムモデルへと移行し,それで大きな成功を収めています。パッケージ売りがいいのか,アイテム課金がいいのか,あるいは広告収入型モデルなのか。これからの時代,ビジネスモデルはコンテンツの形に応じて変えていくべきでしょう。


日本と欧米のゲーム市場の違いについて


 もう一つ,記者達からの質問が集中したのが,日本と欧米における市場環境の違いだ。ゲームの人気ジャンルが国内と海外で大きく異なることは,4Gamer読者ならばすでにご存じのことと思うが,それが結果として,国内のゲームメーカーを悩ませる大問題になっている。
 つまり,国内向けにゲームを作ると海外で売れず,海外向けに作ると今度は国内で売れなくなる。そうしたジレンマに,国内ゲームメーカー各社は頭を悩ませているのだ。さらに言えば,海外向けの作品作りは,数十億規模の開発費を投じたリスクの高い投資となる一方で,国内需要は年々低下。要するに,どう転んでも厳しい戦いを強いられるところに,今の日本のゲーム業界の厳しさがあるわけだ。

――日本では携帯ゲーム機が人気です。一方,欧米では据え置きゲーム機が主流ですよね。その違いについてはどう考えていますか

 これは私個人の見解ではありますが,とくに日本の市場は,欧米に比べてかなりコンテンツドリブンだという印象があります。ヒット作があると,その勢いでハードの売れ行きが左右されますし,そういうところは欧米とちょっと違いますよね。欧米に関していえば,ネットワーク対戦のゲーム(FPSなど)が人気で,その流れで据え置きが主流になっているというのはあると思います。
 あとは,やはりライフスタイルの違いは大きな要素ではないでしょうか。ご存じの通り,とく北米では電車で通勤している人が非常に少ないですし,ゲームをプレイする時間帯そのものも,「家に帰ってから」というところに集中していたりします。

――その意味で言うと,欧米におけるPS Vitaの遊ばれ方は,どのようなものを想定していますか。日本での遊ばれ方は,我々も想像しやすいのですが……

 ああ,そういうお話でいうと,携帯ゲーム機であっても,家で遊ぶというシチュエーションは多いと考えています。とくに最近は,テレビだけではなくて,スマートフォンやタブレットなど,マルチモニタの環境が当たり前になっていますし,マルチタスク/マルチスクリーンな生活スタイルが流行っているじゃないですか。ですから,リビングの団らんの中でテレビを付けながらゲームを遊ぶとか,他の何かをやりながらゲームを遊ぶ。というスタイルは増えていくと考えています。

―――日本と欧米では,人気のゲームの種類も異なっていることについてはどう考えていますか

 欧米では,PlayStation 2あたりの時代から,リアルな映像表現を駆使したゲームが主流になっていますね。そのトレンドは今も健在で,最近で言うなら,「Battlefield」「Call of Duty」など,リアルな戦争ゲームが絶大な人気を集めています。これは全世界的なトレンドなのですが,なぜか日本はこのトレンドに乗っかりませんでした。これはとても興味深いことです。私も正確なところまでは申せませんが,日本では作り手側が携帯ゲーム機に力を入れていることで,それが市場にも影響を与えていることは確かだと思います。「鶏が先か,卵が先か」ではないですが。

―――ハリウッド映画などは日本でも人気なのに,なぜゲームはそうならないのでしょう

 その点については,日本のあるクリエイターが「最近,少しずつ変化している」という話をしていました。確かに,いわゆる洋ゲーもそれなりの規模で売れるようになってきましたし,おかげさまで「アンチャーテッド」は日本でも好調です。ただ,なぜそういう変化が起きているのかについては,まだ私の方で正確な分析はできていません。ですから,これ以上の発言は控えたいと思います。

―――据置ゲーム機と携帯ゲーム機の関係をどう考えていますか

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 私が申し上げたいのは,より「コンテンツが第一」という流れになっていくということです。とくに最近,いろいろなクリエイターさんから話を聞いていると,自分達の作り上げた素晴らしいフランチャイズを,どのようにしてより多くの人に体験してもらうか。如何にしていろいろな角度から体験してもらうか,という考え方が主流になっています。 
 ですから,据置機ありき,携帯機ありきではなくて,今後は“コンテンツありき”で考えていくように業界全体が変化していくものと考えます。ユーザーにどういう体験を提供したいかによって,プラットフォームが選ばれるようになる。フランチャイズへのコンタクトポイントをどう作るか,それがこれからのトレンドになるでしょう。
 また,その点で我々がアピールしたいのは,PS VitaとPS3は連携が可能だということです。据置機と携帯機を密接に連携させることで,ユーザーへのコンタクトポイントを増やし,よりリッチな体験を提供できるものと考えます。

―――これまでの話を踏まえて,最後に。PlayStationプラットフォームはこれからどうなっていくのでしょう

 これまでのPlayStationというブランドの意味合いは,ハードウェアと密接に絡んだ,ほぼ一体化したものだったと思います。しかし,ゲームという分野の裾野が広がり,またさまざまな地域,そして複数のデバイスへと跨がるビッグビジネスへと成長している今,私はPlayStationというブランドの持つ意味を変えていかなければならないと感じています。
 つまり,PlayStationというブランドの定義を,ハードウェアそのものだけではなくて,“体験”すなわち遊び方や楽しみ方そのものへと置き換えていきたいと考えているのです。もちろん,それがとても大きなチャレンジになるということは理解しています。しかし,これからのゲーム市場で戦っていくには,そのように考え方を変えていかなければならないでしょう。
 これはハードウェアの開発を止める,という意味ではありません。もちろん,これからもハードウェアの品質にはこだわっていきますし,最先端の技術を盛り込んだデバイスを自社で提供していくつもりです。ただ,今後はハードウェアとサービスの両輪の戦略がより重要なファクターになるということです。

画像集#008のサムネイル/PlayStationというブランドの持つ意味を“ハードウェア”から“体験”に変えていきたい――SCEの新社長アンドリュー・ハウス氏が語るPlayStationビジネスの未来


 さて,今回は質疑応答のなかのハウス氏の発言を,ポイントを絞ってまとめてみたわけだが,そこから見えてくるのは,ソニーなりのゲームビジネスの捉え方であろうか。
 ハウス氏も言っていたように,これまでのゲーム産業では,プラットフォーマーがゲーム機(ハードウェア)を軸にしたプラットフォームを築きあげ,そのなかでビジネスを展開していくというやり方が主流だった。しかし,昨今はソーシャルゲームのような,デバイスに依存しないサービスが台頭し,急成長している。GREEやDeNA,Facebook,そしてGoogleなどは,ハードウェアを跨ぐ形で,新たなゲームのプラットフォームを築き上げようとしているのだ。
 そうした市場環境の変化のなかで,任天堂があくまで従来のやり方を守り抜いているのに対し,ソニーの方は,PlayStation Suiteのプロジェクト推進などを通して見えるように,よりオープンな視点でサービスに切り込もうとしているようだ。
 「PlayStationというブランドの定義をハードウェアから体験へ」というハウス氏の言は,ソニーが持つ自社の強みを活かしながらも,新たなゲームビジネスのあり方を目指している,ということを端的に表している。

 Appleがハードウェアとサービスの両輪で巨大な市場を築き上げたように,あるいはAmazonがKindleを使って新たなプラットフォームを築き上げようと試みているように。ソニーもまた,デバイスとサービスの両輪の戦略で,PlayStationというプラットフォームを次世代の形へと作り替えていこうとしているのだろうか。ハウス氏と,氏が率いるSCEのこれからの戦いに注目してみたい。

「PlayStation」公式サイト

 
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