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日本オンラインゲーム協会が海外市場の動向についてのセミナーを開催。カナダとルクセンブルクにおける事例を紹介
今回は,カナダ大使館 商務部のDuncan Wright(ダンカン・ライト)氏,ルクセンブルク経済通商省 東京貿易投資事務所 エグゼクティブ・ディレクターの松野百合子氏のお2人が登壇。カナダとルクセンブルクのゲーム市場がどのようになっているのかを知る貴重な機会となったので,ぜひ本稿を最後まで読み進めてほしい。
大手パブリッシャがカナダに開発拠点を構える理由とは?
ライト氏は,まずカナダのゲーム市場の大きな特徴として,北米市場との一体化が進んでいる点を挙げた。
カナダのゲーム関連企業は,主にモントリオール,トロント,バンクーバーの3都市に集中している。これらの都市は,いずれもアメリカの主要都市まで飛行機で1.5〜2時間と,アクセスに優れている。また,カナダでは英語が公用語の一つとなっているため,コミュニケーションを取るうえでも非常に“近い”国だと述べた。
一つ目は,「スマートフォンの成長とOSの競争」だ。
北米ではもともと,カナダの携帯電話メーカーResearch In Motion(RIM)のBlackberryがスマートフォン市場で高いシェアを誇っていた。しかし,ここ1年でAndroid端末が急成長し,AppleのiPhoneもじわじわとシェアを拡大しており,現在は,AndroidとiPhoneの2強による激しいシェア争いが行われている状況とのこと。
ライト氏は,「Androidユーザーの3人に1人がiPhoneに変更したいと考えているのに対し,iPhoneユーザーの89%は維持したいと考えている」という調査結果を例に挙げ,今後はiPhoneがシェアでトップに立つのではないかと,自身の見解を述べていた。
続いて挙げられたのは,「ビジネスモデルはますますフリーミアム主体に」という動向だ。フリーミアムとは,基本サービスを無料とし,付加サービスを有料で販売する形式のサービスで,このスタイルを採っているオンラインゲームは,日本でも非常に多く見られる。
北米では,スマートフォンが普及し始めたここ3年ほどで,急激にモバイル向けコンテンツが発達してきたとのこと。ライト氏によれば,北米におけるフリーミアムへの流れは日本以上だという。
3つ目の動向は「ゲーム業界も『ハリウッド』型に」というもの。
これは,ゲーム開発者が社員として企業に勤めるのではなく,ハリウッドの映画制作のように,プロジェクト単位でスタッフを集めて開発する形式が主流となってきていることを指している。
ただライト氏は,この形式のほうがゲームの開発費を安価に抑えられるものの,競争が激しくなることにより,中には損をする人も出てくるだろうと指摘していた。
たとえば,Electronic Artsはカナダにスタジオを構えており,「EA Sports」ブランドをはじめ,「ニード・フォー・スピード」シリーズ,「ザ・シムズ」シリーズなどはカナダで開発されているタイトル群だ。
一例に挙げたElectronic Artsのように,アメリカに本拠とする企業が,どうしてカナダに開発拠点を置くのだろうか? ライト氏によれば,人材が豊かであること。人件費がアメリカよりも安いこと,政府による支援策が豊富に用意されていることの3つが,その理由なのだという。
ここでライト氏は,その顕著な例として,Amazon.com出身の3人がアメリカのシリコンバレーで立ち上げた開発会社「A Thinking Ape」を紹介した。
氏によると,A Thinking Apeではまず,シリコンバレーでは人材の奪い合いが激しいため,バンクーバーに“仮”のスタジオを設置したそうだ。しかし,実際に設置してみると,バンクーバーでは優秀な人材がシリコンバレーよりも低コストで集められることが判明したため,本社ごとバンクーバーに移転したそうである。
ゲームのテスティングを行っているEnzyme Testing Labs(エンザイム研究所)も,カナダに本拠を置く企業である。同社はカナダ,マドリード,日本に拠点を持ち,全世界のゲームのテスティングを行っている。
また,Enzymeではこれまで,コンシューマゲーム機向けタイトルのテスティングを主に行っていたが,現在はモバイル端末向けタイトルのテスティングや,他言語へのローカライゼーションなども手がけているそうだ。
そのため,たとえば日本でヒットしたオンラインゲームを海外へ進出させる場合,Enzymeの各国出身のテスターがプレイすることで,そのタイトルがどの国に向いているのかもテストできるとのこと。
そのほか,5500万人もの会員数を誇るSNSを運営する「airG」も,本拠を置いているのはバンクーバーだ。ソーシャルゲームのプラットフォームとしても非常に大規模であり,スマートフォンへの対応も前向きに進めているそうだ。
・多くの発明を生み出す環境
・アメリカ市場との一体化+絶好のアクセス
・多文化・多言語:グローバルビジネスの開発に最適
・多岐にわたる政府の支援
・低コスト(人件費,研究開発費,税制優遇など)
ちなみに,カプコンやコーエーテクモゲームスのように,日本の大手ゲーム企業がカナダに進出している例も少なくない。
ライト氏の所属するカナダ大使館では,こうしたメリットを生かすため,カナダ企業と日本企業の両方に,コンサルティングや投資サポートなどさまざまな支援を行う準備があると述べ,講演を締めくくった。
ゲーム企業がルクセンブルクを欧州進出の拠点とする理由とは?
松野氏はまず,欧州市場(※ここではEU加盟国を指す)の動向および同市場におけるルクセンブルクの特徴を,具体的なデータとともに説明した。
欧州のゲーム市場は全世界の34%と非常に大きく,ブロードバンド回線の普及率も高い。全世界のインターネット人口のうち欧州は約4分の1を占めており,ゲーム・画像・映像・音楽などのコンテンツをダウンロードして楽しんでいる人の割合は,欧州の人口の3割(ルクセンブルクでは4〜5割)に及ぶそうだ。
SNSのビジター数比率と滞在時間比率のグラフを見ると,前者はアジアのユーザーが多く,後者は欧州のユーザーが多数を占めているという。
なお,欧州ではiPhoneが登場するまで3G回線のインフラがほとんど整っていなかったそうだ。このため,スマートフォンの爆発的な普及も,欧州の市場に大きな変化を及ぼしているらしい。
欧州のオンラインゲーム人口については,2009年の時点で約7600万人(カジュアル層:約6000万人/コア層:約1600万人)というデータが提示された。ただ,詳細なデータがないため,2009年以降現在まで,どれだけ成長しているかは不明だとのこと。
欧州において,デジタルコンテンツは将来有望な市場とみられており,中でも,オンラインゲームについては毎年約12%ずつの拡大が見込まれているという。
また松野氏は,日本から欧州へ進出する際の留意点として,「現地語化」が絶対に必要だと強調した。
“日本産”タイトルの海外向けローカライズというと,英語にしか翻訳されないことが多いが,欧州における公用語の人口比をみると,ドイツ語・フランス語・イタリア語が全体の43%を占めている。もちろん,母国語ではなくても英語を使える人もいるが,松野氏曰く「我々が思うよりは少ない」そうだ。
参考までに,欧州には「PEGI」(Pan European Game Information)という審査機関が存在するが,各国でレーティングはさまざまだという。また,オンラインゲームの法規制に関しては,まだ完全には整備されていない状況とのことであった。
続いて,ルクセンブルクにおけるオンラインゲーム企業集積についての説明が行われた。
ルクセンブルクは,神奈川県ほどの面積しかない小さな国だが,オンラインビジネスの分野に関しては,欧州内でも突出した国であるという。松野氏によると,かつてのルクセンブルクはITについて「取るに足らない」存在だったそうなのだが,10年前に国が「IT立国」を決定して以来,大きく変化しているとのこと。
その例として,実際にルクセンブルクにスタジオを構えているオンラインゲーム企業,KABAMを紹介する映像が上映された。
同社のマネージング・ディレクターであるMike Hawkins氏によれば,KABAMがアメリカから欧州へ進出するにあたり,ローカライズの拠点としてルクセンブルクにスタジオを構えることに決めたという。
Hawkins氏は,ルクセンブルクでは多くの人がルクセンブルク語,フランス語,ドイツ語,英語といった多言語を使え,コミュニケーションの利便性の高さが魅力であると,その理由を挙げた。
最後に松野氏は,ルクセンブルクは,地理的にヨーロッパの中心に位置している国であること,「IT立国」政策によりインフラが非常に優れており,また税率の低さや政府による支援策が整っていることなどを挙げ,ルクセンブルクはデジタルコンテンツビジネスに適した事業環境にあるとアピールし,講演を締めくくった。
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