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「一人でもゲームは作れる!」。IGDA日本が主催したインディーズゲームの研究会,「ゲームデザインとメイキング」をレポート
第1回も多くの参加者が集まったこの研究会だが,今回は「コープスパーティ・ブラッドカバー」の制作チームである「チームグリグリ」から小川幸作氏が参加するということもあり,会場はまたも大盛況となった。その様子をレポートしよう。
※4Gamerでは自主制作のゲームを通常「インディーズ」と表記しますが,本稿ではIGDA日本の表記に従って,「インディー」としている部分もあります。
ブレイクスルーか,隣の芝か
研究会の第1部では,IGDA日本の新清士氏による「Sence of Wonder Night 2009」の紹介と,芝浦工業大学の小山友介准教授による「商業ゲームの保守化とインディーゲームへの期待」と題した講演が行われた。
IGDA日本の新清士氏 |
芝浦工業大学の小山友介准教授 |
Sence of Wonder Night(SoWN)は,東京ゲームショウで開催されるインディーズゲームのイベントで,プロ,アマの区別なく,なんでもいいから「スゴイ!」と思わせるゲーム(あるいはゲームのようなもの)をプレゼンテーションする催しのことだ。
これは本来,「変なゲームを紹介する」イベントとして海外で開かれている「Experimental Gameplay Workshop」の日本版であり,実際,2008年のSoWNでは非常に形容し難い作品が次々に紹介されていた(関連記事)。また,これに伴い,もっと参加しやすい形の「ゆるい」イベントとして,「同人・インディーゲームプレゼンジャム(仮)」を2009年10月24日に予定しているとのことだ。
小山氏の発表は,いくつかの資料を踏まえて「商業としてのゲーム産業の世界からは,インディーゲームがおそらくこう見えている」のではないか,という推察である。
小山氏は,発売されたばかりの「ドラゴンクエストIX」を手に,「このような作品には定番としてのデザインが施されていて,一種の“水戸黄門”化が進んでいる。ないとさびしいが,それだけでもやはりさびしい,それが現状ではないだろうか」と訴えた。
商用ゲームのコストはうなぎのぼり。文字どおり「失敗できない事業」になっている |
2007年の「売り上げTOP100」に占めるシリーズものの率は,実に82.9% |
同人活動をしているプロも多ければ,「隠れた制作者」もかなり多い |
小山氏は,WiiやDSへ比重を移すメーカーが多いことや,実験的小型コンテンツのダウンロード販売といった動きは,重厚長大化する開発現場に対するアンチテーゼとして捉えられるとする。しかしそれでもなお「実験ができる場がない」という意識は開発現場において強く,また制作が大規模化することによって作り手が経験できる本数が減少しているという問題も発生している。この一種の閉塞感が漂う状況において,同人/インディーズゲームは一つの突破口に見えてくるのではないだろうか。
もっとも,これはいわゆる「隣の芝は青く見える」状況なのかもしれない,という危惧は残る。商業からは自由で尖ったインディーズゲームがうらやましく見えるが,実際には,それなりの苦労や独自のノウハウがあるはず。そこを調査していく必要がある,と小山氏は発表を締めくくった。
ユーザーとの距離を縮めるために
第2部ではインディーズゲームの制作者側である,muracha氏(Easy Game Station),isao氏(神奈川電子技術研究所),小川幸作氏(チームグリグリ),そしてOMEGA氏(OMEGA)の四名による講演が行われた。
Easy Game Stationのmuracha氏 |
チームグリグリの小川幸作氏 |
神奈川電子技術研究所のisao氏 |
OMEGAのOMEGA氏 |
興味深かったのは,ゲームを作っていくにあたっての手順と方法論に,ある程度まで共通する過程と考え方が存在していることだ。
まず最初に挙げられるのは,「先に完成形を構想,もしくは実際に作ってしまう」という,具体性の重視である。muracha氏は市販のペイントソフトで先に画面やインタフェースを描き,それをもとに制作を開始すると述べていたし,omega氏はまず動くものを作って,それをテストプレイヤーに提供し,そののちレベルデザインなどに取りかかると語っていたのだ。
左が制作開始時に描かれた「完成予想図」で,右が完成版。差がほとんどないのが分かる |
アキラの鉢巻の動きから巫女さんの振るお払い棒が。「パクる」とはあるが,そうつながる人は,ほとんどいないんじゃないかと思う |
isao氏はさらに,参照体系として「キャラクター」「ゲームシステム」「マイナーゲーム」「ゲームの動き」「本物」「理論や学問」,そして「人生経験」などを挙げたが,この最後の「人生経験」にしても決して抽象的ではなく,例えば「小さい頃に見た,ドラえもんで使われていたワイヤーフレームCGに感動した記憶」といったように,非常に具体的なラインに基づいている。
そして,これに通じる考え方として,「開発とユーザーの距離を縮める」という発想もあるように感じた。
小川氏によれば,チームグリグリでは,チーム内での個々の開発があまりうまく連携できていなかったという過去を踏まえ,ミドルウェアの開発に力を注いだ。実のところ,「コープスパーティ・ブラッドカバー」は,よりよいミドルウェアを構築することを主とするプロジェクトであるという(「ここまで大きくなると思いませんでした」というのが偽らざる実感だそうだ)。
このミドルウェアを開発するにあたって,最初に野望としたのは「ゲーム画面をそのままエディットできるような感じ」だそうであり,最終的には特定位置から即座にスクリプトを実行できる形としてまとめられた。これによって,「ゲームを作る」フェーズと,「ゲームを遊ぶ」フェーズが非常に緊密に連携するようになり,「プレイヤーが実際にプレイする状況にできる限り近い環境で開発を進める」ことが可能になったという。
これは,omega氏における「テストプレイ駆動開発」と名づけられた手法になる。omega氏は前述のとおり,まず動くものを作り,それを実際にプレイしている様子を見ながら,改良点や修正点を探っていくと語っているが,この「テストプレイと修正」という作業は,全工程の半分以上を占めるという。
また,テストプレイは「感想をもらう」という,オンラインでも可能なものではなく,圧縮されたプログラムを受け取ったテストプレイヤーが,それを解凍してインストールし,ゲームを実際に遊んでいるところを「斜めうしろから見ている」ことに重要性があると訴えた(これは商業ゲーム開発においても重要視されているプロセスだ)。
ゲームを作るスタッフの一人としてプレイヤーがゲーム全体に関わるというのは,インディーズゲームが色濃く保持するプロセスなのかもしれない。
なお,四名の発表の後で,おにたま氏(オニオンソフトウェア)から「HSPプログラムコンテスト」の紹介が行われた。HSPは往年のBASICのような感覚でプログラムが書ける言語で,最近ではなんと,2Dの物理エンジンまでも使用できるようになっている。その書きやすさからサンデープログラマーの間でHSPの人気は着実に増しており,65歳の人がコンテストに応募者してきたこともあるという。
爆弾発言続出のパネルディスカッション
第3部ではパネルディスカッションが行われた。
ディスカッションは,「一人でもゲーム(らしいものであったとしても)は作れるということを周知する必要がある」といったあたりから穏当に始まったが,進むにつれて赤裸々なトークが次々に炸裂。
「もっと面白いゲームを世に出したいという“白いモチベーション”もありますが,あんなのだったら,オレのほうがずっと上手くやれる! という“黒いモチベーション”も,確かにあります」
「テストプレイヤーを確保するために,会社で(同人ゲーム作家であることを)カミングアウトしてしまいました」
「普段からチマチマとゲームを作りはしますが,締め切り直前にはやっぱり修羅場になります」
「インディーゲーム一本でやっていきたい気持ちはありますが,お金の問題がやはり不安です」
「企業からの下請けをしていても,最近では企画が途中で倒れてしまうことも多いから,同人のほうが収益としては安全かもしれません。同人は確実に出版できますから」
……ええと,ちょっと赤裸々すぎるので発言者のお名前は伏せさせていただこう。
さて,非常に内容の濃い研究会だったが,最後に,IGDAやこの研究会についてやや誤解されている部分があるらしいので,研究会の資料に基づいて簡単な補足をしておきたい。
IGDA日本は学術団体でも,公的な権威がある団体でもない。また,発表内容は「発表者の意見」であって,この会の正式見解ではない。研究会側で「模範解答」を用意することはないし,そもそもインディーとは何かという定義についても会を重ねることで明らかにしていきたい,とのこと。
なお,2009年8月28日にはiPhoneアプリについての研究会が,また9月12日にはノベルゲームを中心とした第3回研究会が開催される予定だ。興味のある人は,IGDA日本の公式サイトで確認してほしい。
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