― 特集 ―

今すぐ始める! ゲーマーに贈るボイスチャット入門講座(1)

Text by 坪山博貴 

 「チャット」(chat)とは「おしゃべりをする」意味なので,ある種の語義矛盾なのだが,それでもチャットと聞くと,ほとんどの人がキーボートを利用した「テキストチャット」を思い浮かべると思う。電話のように音声を使う「ボイスチャット」という方法自体は,かなり古くから存在しているが,これはFPSやRTSのチーム戦を本気でやっているような人達“専用”。移動の手を休めて「左手に回り込んで援護頼む」などと打ち込んでいては,とてもゲームにならない人達だけが利用するものだった。
 その理由は明確で,RPG系のオンラインゲームにおいては,そこまでのスピードが求められなかったからだ。入力の手間を省略するため,「plz」「AFK」などといった特殊な略語が生み出されはしたが,ゲーム中にキーボードで文字を打つだけの余裕は,十分に残されていた。だから,オンラインゲームのヘビープレイヤーを自認する人の中にも,ボイスチャットについては,まったく追いかけてきていないという人は,案外多いのではなかろうか。

 

チーム戦がメインで,チーム内の意思疎通が重要なゲームが増えてきた。画面はその代表例の一つであるギルド ウォーズのもの

 ただ,その流れは変わりつつある。代表例は「ギルド ウォーズ」「ファンタジーアース ザ リング オブ ドミニオン」といったところ。既存のオンラインRPGの流れを受けつつも,アクション要素やチームプレイ要素を,かなり高いレベルで要求するゲームが登場してきているのである。
 こういったアクション要素の多いRPG(とあえて呼ぶ)では,刻一刻と変わる戦況に,チームが一丸となって対応することが求められる。そしてそれを,テキストチャットで行うことはきわめて難しい。同時に二つ以上の指示や依頼がチーム内で飛び交うことになれば,テキストチャットではログウィンドウのサイズという制限から,追い続けるのが難しくなるからだ。それに第一,そんな指示や依頼を毎回テキストで打っていたら,ゲームの進行に対応できなくなってしまう。ならマクロを使えばいいかといえば,マクロで各人向けの細かい指示などを行うのは,かなり難しい。

 

 この問題を解決する手段が,ボイスチャットである。複数の指示や依頼は,耳を使えば十分聞き分けられるし,両手はゲームに集中できるから,流れに置いて行かれる心配もない。オンラインRPGにおいても,ボイスチャットすることに価値を見いだせる時代がやってきているのである。

図1 ボイスチャットの仕組み

 「そうは言っても,自分がプレイしているゲームは,ボイスチャットをサポートしていない」という人もいるだろう。そこでまずは,ボイスチャットとはいったい何モノで,どういう仕組みで動作しているのか,明らかにしておきたいと思う。

 

 定義のようなものを示すと,ボイスチャットとは「複数のPCが相互に通信できる状態を確立し,データ化した音声をPC間でやりとりすること」である。そして「複数のPCが相互に通信できる状態」は,別にゲームアプリケーション(=ゲームクライアント)やゲームサーバーに作ってもらう必要はない。WindowというOSは複数の処理を同時にこなせるように作られているから,ゲームアプリケーションを起動しつつ,別途音声通信のためのネットワーク(=複数のPCが相互に通信できる状態)を構築してやればいい。
 図1はそのイメージだ。もちろん,ゲームの標準機能としてボイスチャットがサポートされていればそれが理想的。しかしその一方で,ゲーム側がボイスチャットをサポートしているかどうかはまったく関係なく,音声通信のためのネットワークを構築できるアプリケーション(≒ソフト)やサービスを用意すれば,ボイスチャットは可能になるのも事実なのだ。

 

オンラインゲームをプレイしながらボイスチャットを行う方法

あるオンラインゲームがボイスチャットをサポートしていないとして,そのゲームにログインした(=ゲームサーバーとつながっている)状態で,ボイスチャットを行うには(1)(2)の方法がある

 

 ネットワークを構築できたら,今度はボイスチャットのためのハードウェアを用意する必要がある。具体的には,スピーカーとマイクだ。スピーカーがなければ相手の声が聞こえないし,マイクがなければ,自分の声は相手に届かない。だが,PC用のマイクを持っている人というのはまれであり,普通は初期投資が必要になる。
 要するに,どうしてもお金がかかるというわけで,ゲームでボイスチャットを始めるにあたって,これがハードルになるのは確かだ。

 

Internet Chat Headset
メーカー:ロジクール
非常に入手しやすい,安価なノイズキャンセル対応ヘッドセット
問い合わせ先:ロジクール カスタマーリレーションセンター
電話:03-5350-6490
直販価格:2604円(税込み)

 とはいえ最近では,十分実用に堪えるレベルのヘッドセットが,1000〜3000円程度で購入できるようになっている。家電量販店で普通に購入できるから,入手のしやすさという意味で,問題はないといっていいだろう。ヘッドセットなら,ヘッドフォン(≒スピーカー)とマイクの両機能を持つので,ここはがんばって購入してみてほしい。
 購入時のヒントを述べておくと,マイクがノイズキャンセル機能を持つものがお勧め。1000〜3000円台のヘッドセットだと,同機能のないものも存在するが,ノイズキャンセル機能がないと,息継ぎなどの音が拾われて,チャット相手に不快な思いをさせてしまうことがある。本特集では,その条件を満たすヘッドセットの中から,ロジクールの「Internet Chat Headset」(型番:A-350)を利用して,話を進めていくことにする。

 

Internet Chat Headsetの特徴を写真でまとめてみた。1000〜3000円台のヘッドセットとして標準的な,ピンクのマイク入力端子と黒のヘッドフォン端子からなるアナログミニピン2端子構成を採用(ヘッドフォン端子が黄緑の製品もある)。ボリュームコントローラが標準で用意されているのと,ヘッドフォン部のカバーがこれまた標準で4色用意されているのはポイントが高い

気軽に少人数で利用するのか
本格的に大人数で運用するのか

 音声通信のネットワークを構築すれば,どんなゲームでもボイスチャットは利用できると分かった。ノイズキャンセル機能付きのヘッドセットを用意すればいいのも分かった。こうなると次は「音声通信のネットワークを構築する手段は?」という話になるわけだが,実は,選択肢は山ほどある。例えば,テキストチャットの業界標準的ソフトである「MSN Messenger」もボイスチャット対応だ。
 なら,これを使えばいいかというと,話はそう単純ではない。ゲームで満足に使うことを考えると,ボイスチャットを可能にするソフトは,導入が容易で,メンテナンスなどで停止することが少なく,会話に遅延がなく,可能なら音質もいいほうが望ましい。高くないとはいえ,ヘッドセット代がかかるわけだから,これ以上の出費を抑えるためにも,無料で利用できたほうがいいに決まっている。

 

最近では回線の太さを利用し,サーバーを介さない1対1の対戦などが可能なゲームも増えてきた

 そして何より,オンラインゲームで利用するときには,「どれくらいの規模のボイスチャットをサポートしているか」が重要な要素になる。最近,数が増え出した気配のある1対1(あるいは2対2)のオンライン対戦や,FPS/RTSを3〜5名程度でプレイしたりするとき,手軽にボイスチャットを使いたいのか。はたまた,数名から10数名のパーティ/ギルドのチャットを,本格的に音声べースへ移行したいのか。それによって,利用できるボイスチャットソフトは変わってくる。どんなに通話品質が高くても,5名までにしか対応しなければ8人パーティでは使えないし,1対1の対戦なのに,わざわざユーザー側でサーバーソフトを動かして,細かくネットワークの設定を行うのは煩雑にすぎるからだ。

 

 こういった事情のため,今回は大きく前後編に分けて,この2パターンに対応していきたいと考えている。前編となる本稿と次回では,小規模といえる5名以下の人数でボイスチャットを行うべく,その手段を説明していく。二桁人数も含めた6名以上のボイスチャットを考えている人は,近日掲載予定の後編を待っていただきたいと思う。

5名以下で手軽にボイスチャットなら
「Skype」がお勧め

 さて,小規模(5名以下)のボイスチャットを行うのであればズバリ「Skype」(スカイプ)が断然お勧めだ。その理由を簡単にまとめると以下のとおりになる。

  • ネットワークの知識があまりなくても簡単に導入できる
  • 入力する必要のある個人情報はメールアドレスだけ
  • サービスが一時的に停止してしまう可能性が極めて低い
  • 通話品質(=音質)が良好
  • ゲームで利用する限り完全に無料

 Skypeはインストールするだけで,すぐボイスチャットが行える。オンラインゲーム周りの設定といえば,「ブロードバンドルーター」(もしくは「ルーター内蔵モデム」)などといったネットワーク機器の設定が必要と思われがちだが,Skypeでは基本的に不要。さらに,ファイアウォールソフト関係の設定までも,自動で行ってくれる。
 ネットワーク機器の設定だけなら,MSN Messengerも同じく不要だが,Skypeは,Windows XP Service Pack 2の標準機能である「Windowsファイアウォール」に対応し,自動的に許可する設定を行う。さらに,ユーザーが市販のファイアウォールソフトなどを導入していて,よりセキュリティ設定が厳しくなっている場合,SkypeはWebサイトを閲覧するときに用いるデータ形式「http」「https」を利用して,接続を試みるようになっている。
 ここまでフォローされていれば,一般家庭からのネットワーク接続時に,ボイスチャットを利用できないというトラブルはまず発生しないはず。そして,実際にこのレベルまでサポートされているのは,筆者の知る限りSkypeだけだ(図2)。

 

図2 ほとんど何もせずにほかのユーザーとつながるSkype

あるユーザーのPCにインストールされているSkypeが,ほかのユーザーのPCとつながって利用できる仕組みを図示してみた。セキュリティが叫ばれる昨今,PCはいろいろな手段で守られているわけだが,オンラインサービスを利用したいユーザーにとって,それが文字どおり「壁」になってしまうことはある。だが,Skypeはあの手この手で壁をクリアするため,つながらない,ということはまずない。もちろん,Skypeを利用することで,PCが危険にさらされるということも,基本的にはない

 

 また,サービスの停止,つまり「ボイスチャット」を利用できない時間がほとんどないのもSkypeの特徴である。
 一般的なチャットソフトを利用している人には,時折「メンテナンス」としてサービスが利用できない時間が生じた経験があると思うが,もしこの時間が重要なトーナメント戦と重なっていたりしたら目も当てられない。これは,ほとんどのサービスが,多くのオンラインRPGと同じように,巨大な中央サーバーによって管理されているからだ。この中央サーバーの定期メンテナンス時には,どうしてもサービス停止時間が発生してしまう。

 

 これに対してSkypeの場合,ユーザー管理のみを中央サーバーが担い,実際に音声通話を補助するための中継サーバーは世界中に分散させている。利用可能なサーバーを自動的に選択して使う仕組みになっており,サービスが完全に中断することはまずない。

 

 さらに,Skypeはボイスチャット/音声通信専用のサービスなので,リアルタイムで回線速度を監視し,音声データの通信に利用する帯域幅を自動的に調整するなどして,会話の遅延を減らし,音質を上げる努力が行われている。
 これは比較してみれば明らかなのだが,双方のインターネット接続回線速度が十分な場合,音質は固定電話と同等か,場合によっては固定電話以上。遅延もほとんどない。また,回線環境は,基本的にいわゆるブロードバンドなら十分だ。

 

 そして,これだけのメリットがありながら,Skypeは無料で利用できる。固定電話に電話をかけられるような,有料のオプションは別途存在するが,ゲームプレイ時のボイスチャットに利用するなら,確実に無料なのである。

Skypeを導入してみよう

 Skypeは,サービスの名称であると同時にアプリケーションの名称でもある。よってここでは便宜上,後者を「Skypeソフト」と呼ぶことにするが,SkypeソフトはSkypeの日本語Webサイトから入手可能だ。

 

 

タイトル ヘッドセット
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/specials/voicechat/001/voicechat_01.shtml