特集:Vista買うのはまだ早い!(3)ゲームサウンド編

Vista買うのはまだ早い!(3)ゲームサウンド編

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ゲームの3Dサウンドは先が読めない混沌状態移行の前に二つのポイントを冷静に見極めたい

 

HD Audio準拠のサウンドデバイスを搭載したPCで,サウンドのプロパティをチェックしたところ。(この例では)ヘッドフォンではなくスピーカーが接続されていること,デバイスがデジタルサウンド出力をサポートしていることが一目で分かる

 というわけで,UAAはユーザーにとっていいことずくめに思えるのだが,冒頭で述べたようにWindows Vistaでは,UAAとは別に,ゲーマーにとって思わぬ変更が同時に加えられてしまった。DirectSound HALとDirectSound 3Dの廃止である。

 

 といってもDirectSound自体が使えなくなったわけではなく,2chサウンド(=ステレオサウンド)に関してはソフトウェアエミュレーションでこれまでと互換性が維持されている。問題は,DirectSound 3Dに関して互換性が失われ,サポートされなくなっている点だ。Windows Vistaで3Dゲームをプレイしようとした読者なら,すでに体験して,違和感を憶えているかもしれない。

 

 なぜDirectSound HALが消えたのだろうか。また,DirectSound 3Dのサポートが打ち切られた理由は何だろうか?

 

 素直に考えれば,UAAをベースとしてWindowsのサウンド周りが一新され,その影響でDirectSound 3Dの実装が出来なくなったように思える。だが,真相はやや異なるようだ。
 今回はサウンドデバイスの大手であり,本稿でもすでに何度かその名を挙げたCreativeの技術担当者にメールインタビューを行う機会を得た。“本題”についてのインタビュー内容は後日お届けするとして,このインタビューから,DirectSound 3Dが廃止された理由に関連したところを拾ってみたいと思う。

 

 さて,Creativeは「Sound Blaster」で,PC用サウンドデバイスにおける,事実上の標準を作り上げたメーカーだ。PCサウンドへの影響力は現在でも決して小さくはなく,Windows Vistaのサウンド設計に関わっているはずである。
 実際,Creativeの担当者によると,「過去2〜3年間,マイクロソフトと密に共同作業を行ってきた」とのこと。そのなかで「『Windows Vistaではハードウェアアクセラレーションのサポートを行わない』という決定がなされた」のだそうだ。「なぜMicrosoftがハードウェアアクセラレーションを止めたのか」までは,残念ながら分からない(同社の日本法人であるマイクロソフトにも問い合わせたが,日本には回答できるスタッフがいないとのことだった)が,いずれにせよMicrosoftはハードウェアアクセラレーションのサポートを打ち切った。先述のとおり,DSPによるハードウェアアクセラレーションを実現するのがDirectSound HALなので,ハードウェアアクセラレーションの廃止が,そのままイコールでDirectSound HALの廃止と結びついたという流れが,ことの真相のようである。

 

前ページの最後に示した図で,DirectSound HALが消えていたのに気づいただろうか? DirectSound HALが廃止されたため,ゲームアプリケーションからはハードウェアアクセラレーションを利用できなくなってしまった

 

 では,ハードウェアアクセラレーションが廃止されたのはWindows VistaにおけるUAAの推奨が原因なのだろうか? これについてCreativeは,「DirectSound HALが廃止されたこととUAAとはまったく別の話」と断じる。
 Creativeによると,UAAは「グラフィックスカードの“VGAモード”のようなもの」なのだそうだ。グラフィックスカードは,ドライバをインストールしなくても,最低限の「ディスプレイに画面を出力する」機能は持っているが,これをCreativeはVGAモードと位置づけたうえで,「UAAはVGAモードのようなもの」と言っているわけである。
 そのうえで,「ハードウェアアクセラレーションや先進的な機能をサポートするには、OpenALやASIOといったサードパーティのAPIが必要」とCreativeは指摘する。グラフィックスカードの性能を引き出すに当たって,AMDやNVIDIAなどから提供されたグラフィックスドライバを利用するように,3Dサウンドにおいても,Microsoft(のDirectSound HAL)に頼り切るのではなく,「サードパーティのソリューション」を利用することになるというのが,Creativeの見解だ。

 

 では,具体的な「サードパーティのソリューション」とは何だろうか。
 ぱっと思いつくのは,「Dolby Digital」や「DTS」である。DVD-Videoのように,コンテンツレベルでサポートしたり,あるいはDirectSound 3Dのマルチチャネル出力を,リアルタイムでストリームデータへエンコードする「Dolby Digital Live」や「DTS Interactive」も考えられる。実際,後者に関しては,HD Audioに準拠したCODECのうち,いくつかが(Dolby Digital Liveについてのみ)サポートしており,Dolby DigitalやDTSが,今後の主流になるとMicrosoftやIntelは見ている節がある。
 だが,この点について,Creativeは次のように反論する。

 

 「DirectSound 3Dに代わるソリューションとしては,Dolby DigitalやDTSといった,デジタルストリームデータへのリアルタイムエンコーディングが候補になり得るが,この場合,ユーザーはこれらをデータを受けてデコードする機器を,PCとは別に所有していなければならない。対して,OpenALであれば,そういった機器は必要ない。
 我々は,『OpenAL』がより多くのゲーム開発者のサポートを得られることを期待している」

 

 確かに,Dolby DigitalやDTSは,ゲームにおけるマルチチャネルサラウンド技術として,必ずしも最適な手段とはいえない。Creativeが指摘するように,Dolby DigitalやDTSの恩恵を受けるには,ユーザー側でデコードが可能な機器を用意する必要があるからだ。また,もともと映画などのために開発されたものであるため,ゲーム用のプログラムインタフェースが整備されていないことも,ゲームで採用しづらい大きな理由となる。

 

 対して,OpenALはどうか。
 OpenALは3Dサウンドを実現するAPIで,DirectSound 3Dと同じようなものと考えて構わない。名称の通りオープンなAPI仕様になっており「サウンドにおけるOpenGL」とでもいえる性格を持ち,Windows Vistaからも標準でサポートされる。OpenGLに近い手順で3Dサウンドを操れるため,3Dオブジェクトに合わせて音を動かす必要のあるゲームプログラミングと相性がいいのも特徴である。確かに,DirectSound 3Dに代わる有力なゲーム用サウンドAPIになり得るだろう。

 

Windows Vista時代における,マルチチャネル出力のシナリオ×2。Dolby Digital Live/DTS Interactiveの場合,リアルタイムエンコードにはライセンス料がかかるので,対応サウンドデバイスの価格やゲームの価格が上がる可能性アリ。一方OpenALの場合,サウンドデバイス側がOpenALアクセラレーションをサポートしていなければ,UAAによる2chソフトウェア処理になる制限や,WDMドライバをカーネルモードで動作させるため,UAAと比べると危険度が高いという課題がある

 

 乱暴にまとめると,「MicrosoftはWinodws Vistaでゲーム用3DサウンドAPIを廃止してしまい,その後放置している」のが現状だ。MicrosoftがDirectSound 3Dに代わる選択肢を提供しない以上,ゲームにおいては,OpenALをはじめとするサードパーティのAPIが乱立する可能性すらある。
 また,Creativeの話を聞く限り,OpenALが主流になりそうな気配はあるが,すべてのデベロッパがそう考えている保証はない。例えば,Dolby Digital Live(やその派生形)をゲームから利用できるようなAPIが整備され,しかもそれがゲーム機を巻き込んだクロスプラットフォームで展開されたりすると,そちらが主流になるかもしれない。

 

 ちなみに,4Gamerでこれまで何度か簡単に触れているように,Creativeは,廃止されたDirectSound 3DをWindows Vistaから利用可能にする「ALchemy」(アルケミー,錬金術の意)の提供を始めている。本稿はWindows Vista導入記事ではないから詳しくは触れないが,これは,Windows VistaにおけるDirectXの一部を拡張して,アプリケーションからDirectSound 3D(やEAX)に対するアクセスが生じたとき,それを“横取り”してOpenALを呼び出すことで,DirectSound“OpenALの3Dサウンド”として利用するというもの。本稿執筆時点では,「Sound Blaster X-Fi Xtreme Audio」を除くSound Blaster X-Fiシリーズから利用できる。
 現在は英語版のみで,さらに対応タイトルも少ないβ版である――非対応タイトルでも,英語のドキュメントを読んで理解すれば,ユーザー側でも対応できるが――など,ハードルは低くない。とはいえ,DirectSound 3Dの復活があり得ない以上,Windows XP世代までのゲームで3Dサウンドを利用するには,(少なくとも今のところ)ALchemyしか選択肢はないことは憶えておきたい。

 

 ゲーマーとしては,Windows VistaでもプレイしたいWindows XP時代のタイトルがALchemyに対応したか,そして,Windows Vista世代のタイトルにおける主流の3DサウンドAPIが何になりそうかを,冷静に見極める必要があるだろう。マルチチャネルスピーカー出力やバーチャルヘッドフォンなどを愛用している人は,少なくともこの点が明らかになるまで,Windows XPに留まるべきだ。

 

 

まとめ〜ゲーマーにとってのWindows Vista

 

 以上,グラフィックスとゲームの互換性,今回のサウンドと3回にわたって,一般向けエディション発売直後のWindows Vistaを検証してきた。
 全体,とくにテクノロジーに関して説明した第1回と今回から察してもらえると思うが,Windows Vistaは,決してデキの悪いOSではない。それどころか,Windows XPの欠点や弱点を補う改良が随所に施されており,Winodws XPの正常進化版として評価できるOSといえる。

 

 しかし。
 ことゲームをプレイするためのプラットフォームとしてOSを評価するときには,OSそのものの出来不出来とは,また別の視点が必要になる。信頼度,安心感が増し,ゲームプレイにメリットをもたらしそうな注目すべき新機能がもたらされるWindows Vistaではあるが,「ゲームをプレイするための環境は,まだ整備されていない」からだ。グラフィックス周りは2007年3月中旬を迎えても落ち着いたとはいえない状況であるうえ,ゲームの互換性もまだまだ不透明。サウンドに至っては,まだ今後の方向性がどうなるかすら分からない状況なのである。

 

 ここまでお読みいただいた読者ならもうお分かりのことと思うが,本特集の本当の意図は,ゲーマーから見たWindows Vistaの意義を一挙に断じるところにはない。ゲーマーにとっても見えにくい,ゲームプレイを大きく左右する環境の“現状”を報告するところにあるのだ。本特集で挙げたポイントに着目しつつ,マイクロソフトや各デバイスメーカー,ゲームメーカーからのアナウンスをもとに,ユーザーそれぞれの移行タイミングを計ってほしいと思う。

 

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タイトル Windows Vista
開発元 Microsoft 発売元 マイクロソフト
発売日 2007/01/30 価格 エディション,入手方法による
 
動作環境 N/A

(C)2007 Microsoft Corporation.