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デュアルGPU搭載カードは,定期的に登場するものの,マニア向けの位置を脱しきれないきらいがあるが,果たして今回はどうだろう? 当然のようにデュアルGPU搭載カードのレビュー経験を持つ宮崎真一氏が,最新のデュアルGPUソリューションを斬る。
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SAPPHIRE X1950 PRO DUAL
メーカー:Sapphire Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店)
info@ask-corp.co.jp
価格:未定(2007年4月9日現在) |
「ATI Radeon X1950 Pro」を2チップ搭載し,1枚のカードでCrossFire動作が可能になるグラフィックスカード「SAPPHIRE X1950 PRO DUAL」(以下X1950 PRO DUAL)が,Sapphire Technology(以下Sapphire)から発表された。
同製品は,先ごろ秋葉原の一部ショップで展示されたので,憶えている人もいるだろう。発売されれば,1枚でCrossFire動作を実現するカードとしては日本で初めての製品になる。今回は,Sapphireの代理店であるアスクからサンプルを借用できたので,発売前となるこのタイミングで,詳細や性能をチェックしてみたい。
デュアルGPU搭載カードらしい巨大なカードサイズ
別途PCI Expressスイッチも搭載
X1950 PRO DUALを一見して,最も強烈な印象を受けるのは,やはりその大きさだろう。
カードサイズは295(W)×138(D)mmと,非常に大きい。一般的なマザーボードのATXフォームファクタでは,短いほうの長さは244mm以下になることが多いため,たいていの場合,X1950 PRO DUALをPCI Express x16スロットに差すと,50mm以上“はみ出す”格好になる。そのため,PCケースによっては,3.5インチHDDベイなどがカードと干渉する恐れがある点は気をつけたい。
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リファレンスデザインのATI Radeon X1950 Proを搭載したカードと並べてみると,その巨大さが分かる |
冷却機構は,カード全体を覆う2スロット占有タイプのチップクーラー。GPU(グラフィックスチップ)からの熱をフィンに伝える4本のヒートパイプと,90mm角相当のファンを内蔵するのが特徴だ。騒音計で計測したわけではないため,あくまで筆者の主観だが,動作音はそれほどうるさい印象を受けなかった。
PCI Express用の外部電源コネクタは6ピン×2で,いずれも接続する必要がある。またカードには内部接続用のCrossFireコネクタが用意されているが,これは現時点では機能しない。Sapphireによれば,将来的には2枚差しによるクアッドGPUが可能になるとのことだが,ドライバソフトもないので,今のところは話半分に聞いておくのが正解と思われる。
チップクーラーを外すと,2個のATI Radeon X1950と,256bit接続で用意される計16個のグラフィックスメモリチップが姿を見せる。X1950 PRO DUALのメモリ容量は1GBとされているが,GPUそれぞれに512MBずつ接続されるので,1個のGPUが利用できるのは最大512MBだ。純粋に1GBのメモリ容量をフルに利用できるわけではない。
動作クロックはGPUが580MHz,メモリクロックが1.4GHz相当(実クロック700MHz)で,ATI Radeon X1950 Proのリファレンスどおりとなる。
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PEX8532-BB |
さて,PCI Express x16コネクタの近くに見慣れないチップがある。これはPLX Technology製のPCI Expressスイッチ「PEX8532」で,PCI Express x16の16レーンを,8レーン×2に振り分ける機能を持っている。
余談だが,このPEX8532には動作温度範囲が0〜70℃の「PEX8532-AA」と,−40〜85℃の「PEX8532-BA」「PEX8532-BB」という2モデル3製品が用意されているが,X1950 PRO DUALでは,動作温度範囲が広いPEX8532BBを採用している。
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搭載するGPUとグラフィックスメモリ。試用した個体では,1.4ns品のSamsung Electronics製メモリチップを採用していた |
2枚差し構成などと比較
微妙に特殊なテスト環境に要注意
今回も,テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション3.0に準ずる。しかし,2007年3月26日のレビュー記事でも指摘されているとおり,「Half-Life 2: Episode One」は,Steamのアップデートにより,従来のリプレイデータが利用できなくなった。また「Lineage II」も,大規模アップデートにより,やはりリプレイデータが利用できなくなっており,今回は以上2タイトルのテストをカットしている点を,あらかじめご了承いただきたい。
また,テスト環境は
表のとおりで,最近の4GamerリファレンスマザーボードであるIntel P965 Express搭載製品,「P5B Deluxe」ではなく,Intel 975X Express搭載の「D975XBX2」を利用している。これは,ATI Radeon X1950 ProカードのCrossFire構成と比較するためだ。なお,Intel 975X ExpressのメモリサポートはDDR2-667(PC2-5300)までだが,D975XBX2はマザーボードとしてDDR2-800(PC2-6400)をサポートしているので,メモリ設定はとくにオーバークロックというわけではない。
比較対象となる2枚のATI Radeon X1950カードは,Tul製品「PowerColor X1950PRO XTREME 256MB」がクロックアップモデルとなるが,組み合わされるASUSTeK製品「EAX1950PRO CrossFire/HTDP/256M/A」はコアクロックが580MHz。CrossFireの仕様上,動作クロックは580MHzに揃うはずなので,とくに問題はない。ただし,シングルカードのテストは,機材調達タイミングの都合上,PowerColor X1950PRO XTREME 256MBで行っているため,リファレンスクロックよりは若干高い値になる可能性がある。
最後になるが,以下,比較対象となる製品は,とくに断りのない限りGPU名で表記する。また,グラフ中は「ATI Radeon」「GeForce」の表記を省略する。
良くも悪くもCrossFire
ベンチマークスコアはゲームよって大きく変わる
というわけで,パフォーマンスの評価に移ろう。まずグラフ1,2は「3DMark06 Version 1.1.0」(以下3DMark06)の結果。X1950 PRO DUALは,ATI Radeon X1950 Pro搭載のシングルカード構成と比べて,大きくパフォーマンスを伸ばしている。また,ATI Radeon X1950 Pro搭載カード×2の,標準的なCrossFire構成よりもスコアが高いが,これは,GPU当たりのグラフィックスメモリ容量が倍になっている効果だろう。
しかし,さすがに「GeForce 8800 GTX」には大きく差を付けられる形となってしまっており,GPUを2個搭載していても,最新世代のウルトラハイエンドには歯が立たない。
続いてグラフ3,4は「3DMark05 Version 1.3.0」(以下3DMark05)の結果である。3DMark05も3DMark06と同様の傾向で,とくに高解像度や高負荷設定時に顕著だ。
しかし,3DMark06とは違い,X1950 PRO DUALのスコアはATI Radeon X1950 ProのCrossFire構成とほとんど同じ値で揃っている。これは3DMark05が3DMark06と比べて相対的に描画負荷が低く,データ量が少ないためだろう。
さらに,実際のゲームタイトルにおける性能を見てみようということで,「Quake 4」(Version 1.2)での平均フレームレートをまとめたものが,グラフ5,6だ。Quake 4では,X1950 PRO DUALのスコアがATI Radeon X1950 ProのCrossFire構成よりも常に数fps低いレベルで推移しているのが気になる。PCI Expressによるスイッチングがうまく行っていないのか,グラフィックスメモリ容量がX1950 PRO DUALの半分になるCrossFireに差を付けられているのは残念である。
グラフ7,8は「F.E.A.R.」(Version 1.08)のテスト結果。F.E.A.R.ではX1950 PRO DUALとATI Radeon X1950 ProのCrossFire構成で,スコアは並んでいると言っていい。3DMark05と似た傾向,とも言えよう。
「Company of Heroes」のテスト結果をまとめたのがグラフ9,10だ。レギュレーション3.0で採用したタイトルのうち,最も描画負荷の高いCompany of Heroesで,X1950 PRO DUALがATI Radeon X1950 ProのCrossFire構成に大差をつけている点は素直に評価したい。グラフィックスメモリ容量の優位性はもちろんだが,高負荷設定でGeForce 8800 GTXに迫るスコアを見せているあたり,PCI Expressスイッチによるレーンの振り分けがうまく行っていると見るのが妥当ではなかろうか。
最後にグラフ11,12は「GTR 2 - FIA GT Racing Game」(以下GTR2)の結果だが,X1950 PRO DUALでは,明らかにスケーリングがうまくいっていない。ATI Radeon X1950 ProのCrossFire構成では(スコアの伸びが非常に小さいことはさておき)スケーリングは動作しているので,X1950 PRO DUAL固有の問題と見るべきだ。
サイズにふさわしい消費電力!?
冷却能力は優秀
いつものように,ここからは消費電力の検証を行ってみたい。
OSの起動後30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark06を30分間リピート実行し,その間最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,それぞれの時点におけるシステム全体の消費電力をワットチェッカーで計測した。その結果をスコアとしてまとめたのがグラフ13である。
これを見ると,X1950 PRO DUALの消費電力は,ATI Radeon X1950 ProのCrossFire構成よりも高いが,PCI Expressスイッチの消費電力が8.4Wなので,その増加分と考えれば合点がいくレベルだ。それにしても,カード2枚分が1枚に入っているとはいえ,グラフィックスカードの高負荷時に,GeForce 8800 GTXを超えてしまうのには少々閉口させられる。
グラフ13の時点におけるGPU温度を,ATI Radeon向け多機能ユーティリティ「ATITool 0.26」から(ATI RadeonだけでなくGeForce 8800 GTXも)測定した結果をスコアとしてまとめたのがグラフ14である。ここで示している温度は,システムをPCケースに組み込まないバラックの状態で計測したものだが,消費電力の割に,X1950 PRO DUALのGPU温度は低いレベルで保たれている。巨大なチップクーラーは,かなり優秀といっていい。それと比べると,GeForce 8800 GTXのGPU温度の高さはかなり目についてしまう。
技術的には面白いが,登場時期が……
次世代デュアルGPUカードに向けた試験的製品か
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製品ボックス |
X1950 PRO DUALは,描画負荷が高い状況において,期待されるパフォーマンスを確実に発揮する。カード1枚でCrossFireを実現できるため,物理的にCrossFireをサポートしてないマザーボードでも,デュアルGPUによるスケーリングを享受できるのは,確かに魅力だ。今回はCrossFire対応マザーボードでのテストとなったが,とくにCrossFire対応が謳われていないマザーボードでも,ほとんどの場合動作するとされているのも心強い。
Sapphireによれば,問題らしい問題は,「BIOSからいわゆる『Express Boot』が可能なマザーボードの一部において,同設定時にPCI Expressブリッジが“発見”されないことがある」程度,とのことだ。
しかし,筆者が個人的に使っている,ASUSTeK Computer製の「nForce4 SLI」搭載マザーボード「A8N32-SLI Deluxe」だと,Express Boot周りには問題がなかったものの,最終的にX1950 PRO DUALはうまく動作しなかった。このあたりは,製品版では改善されるとは思われるが,物理的にCrossFireをサポートしていないマザーボードの“すべて”で動作すると言い切れないのは,見過ごせない注意点である。
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付属品一覧 |
また,
2007年3月19日の記事でお伝えしているように,ATIブランドの次世代GPU「R600」(開発コードネーム)とそのファミリーは,発表が目前に迫っている。それを考えると,登場が遅すぎたと言わざるを得ず,タイミング的に,魅力に欠けるのも確かだ。
技術的にはおもしろい製品だが,実用性が伴っているかは少々疑問が残る。
2007年3月20日の記事でお伝えしているように,次世代GPU搭載のデュアルGPUカードに向けた,実験的なカードとしての色彩がより強いと見るのが,妥当ではないだろうか。